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第1章・婚約破棄は自由の翼。
コメコメ大商会の創始者。
しおりを挟む結局誰が断罪されたのかしら?的で終了した、妹マリエンヌの誕生パーティー。集まって下さった方々へのフォローを済ませ、漸く我が公爵家は通常に戻った。
まあマリエンヌの婚約破棄が整った事は目出度い!チラリと上座のお父様を盗み見る。
・・・・・。
否。通常に戻った様に見えるだけよ…。
モキュ。モキュ。
なるべく音を立てずに朝食を食べる。もー!料理長のお料理は最高なんだけど、こんな時に限ってコレ。私の大好きなコレ。美味しいんだけど!最高なんだけど!食べにくいのよー!2種をくっつけて挟んでガブリといっちゃいたい。でも殺されるわよね…。ソロリとナイフを入れ、崩れた黄身を纏わせ一口大にしてパクリ。チーズがたれる!慌ててお口に突っ込む。
アチチチチー!しかし声には出せぬ。悶えて我慢よ。しかし熱い。口を閉じたら火傷しそうよ。
「今朝はアボカドとシュリンプ。トマトと燻製ベーコンね。タマゴのトロリ加減も最高。チーズも熱々。我が家のエッグベネテクトは最高よね。」
「あら?エリザベートがお料理を誉めるなんて珍しい事。しかし確かに美味よね。特に女性は甘い朝食を好むけど、私は甘すぎなくて良いわ。」
「お母さま…。私は面倒で朝はついパンケーキばかり。何時も我が儘でごめんなさい…。」
「マリエンヌ。少しでも食べられる物を食べなさいと言ってるのは私達なの。だから気にしないの。今話したのは社交界の方々のお話よ。皆さま朝から、クリームタップリのフレンチトーストに、ジャムてんこ盛りの紅茶ですもの。」
「そうだよ。でもマリアンヌのパンケーキは色々工夫してるそうだよ。僕がたまたまつまみ食いに行ったら、これはマリアンヌ様専用だから駄目だと言われたんだ。野菜を入れたり甘さを控えたりと、色々と栄養を考えてるんだって。」
「「つまみ食い?」」
とたんに小さくなる弟。まあ食べ盛り育ち盛りな年頃だからね。
和やかに話をしながら進む朝食。何時もなら朝食は各自の都合が有る為に別々に取る。父は仕事で登城するし、母は社交で朝から出る事も多い。弟は寮生活の為、長期休暇や週末の家からの呼びだし以外は居ない。妹は朝食のみ、自分の部屋に食事を運んで貰い食べている。後は手作り品の試作の味見ですませてしまう。その試作品がお菓子が多い為、皆が心配しているのだ。因みに私は昼間以外はほぼ自宅で食べてるわよ。
朝食を終えデザートタイム。今朝は家族全員揃っている。しかし父は一言も喋らない。何故無言なのかしら?
デザートはフルーツヨーグルトとアップルティー。朝食だから控え目ね。弟が蜂蜜を頼みスプーンで山盛りかける。お母様が渋いお顔をする。
「ブライアン。蜂蜜かけすぎよ。」
・・・・・。
「そう言われるお母様は、紅茶にジャムを入れすぎでは?今ので3杯目ですよね?」
・・・・・。
「お母様。お兄様。喧嘩はなさらないで。今私はお豆腐を使い、色々なデザートを作ってるの。大商会のお豆腐は、体に良くてヘルシーなの。健康食になりそうよ。お肉擬きも開発中だから、出来たら是非味見して下さいね。」
「まあ!それはコルセットに泣いてる方々に喜ばれそうね!それに大豆は、我が領地の主たる農作物。それから出来る豆腐を使うなんて素晴らしいわね。」
我が公爵領では、主に大豆と水耕米を作っている。我が国の主食はパンで有り、どの領地でも殆どが小麦を作っている。しかしその為か小麦は安い。正直他国から輸入した方が安い。そんな時に旅の商人が、米と言う物を持ち込んだ。その商人の国では主食で有り、腹持ちも良いと言う。しかしどの国でも相手にされない。畑に水を張り作物を作る。この条件を叶えられる地方が少ないからだ。
しかし当時の公爵はこの米を気に入った。我が領地にはグルリと川がある。なら丁度良い。水路を引き水田を作ろう。やがて公爵領では、小麦に変わり米が作られる様になった。更には米と大豆を交互に育てると畑が生きる。そう言われる様になり、交互に栽培を始めた。後にビールや枝豆等も広めた。それらを成功させた商人に、公爵は土地を与え永住させた。
実はこの商人こそ、現在の大商会の祖先にあたる。名前をコメコメ商会と言う。しかし何故かコメコメが省略され、大商会と言われている。実はコメコメの名が気に入らないらしい。
「既に何品かを、大商会のロジャースさんに試食して貰いました。彼はデザートより肉擬きの方が気に入った様です。此方は既に商品化を目指してます。」
「ふーん。それでロジャースは餌付けされちゃったんだ?で結婚するの?大商会の後継だけど、平民だよね?」
ブライアン…。貴様が言えた義理か?ローズマリーの肩を持ち、マリエンヌを断罪したのを忘れたのか?
「マリエンヌ。お前はロジャースをどう思っているのだ?実は彼方からお前へ婚約の打診が来ている。かの商会は我が領地にとっても重要な立ち位置に有る。平民だろうがお前が望むなら嫁がせよう。王も今回の件で申し訳無く感じたので有ろう。流石にもうお前に政略結婚は振らぬそうだ。勿論、嫌なら断っても構わない。ニヤリ。」
お父様?王様に何かしましたね?
「私は…。」
「嫌いでは無いのだろう?引きこもりのお前がロジャースとなら話すのだ。なら1度キチンと話をしてみなさい。この後に呼んである。テラスでお茶で良いな。」
「はい。」
あの腹黒ナイス!グッドタイミングの婚約打診じゃ無い。私も爵位が心配だったのよ。でもお父様も王家も、大商会を意外に上に見てたのね。一安心したわ。
「お前ら!安心するのはまだ早いぞ!先ずはブライアンだ!お前は情なさすぎる!ローズマリーの本性を知っとるのか?2つ名は、誰彼構わず身を任せる毒婦だぞ?侯爵の所は親子丼だ。あんなガキに手玉に取られやがって。しかも更にお目出度い頭してたな?ローズマリーがマーガレットブランドの代表の訳が無かろう。エリザベートどうだ?」
・・・・・。
「はい。バレてましたか?」
「当たり前だろうが!髪型だけで親を騙せるか!せめてカツラか化粧を変えろ!まあそれは良い。己の本分を忘れなければ、好きにして良い約束だ。しかし法には触れるな。キチンと税金等は支払えよ。」
私は物心つく前には、皇太子の婚約者となっていた。私は父に言った。皇太子妃にはなりたくないと。しかし父は頷いてはくれなかった。
父は真剣な顔でまだ5才の私に言った。この婚約は王家からの命令だ。断れば一族郎党公開処刑。領民は国の直轄地となり、キツい税に喘ぐ様になる。お前はそれでも良いのか?と…。
そう言われたら何も言えなかった。俯く私に父は言った。お前が皇太子妃となり国を変えれば良い。それが無理でも結婚は18才以降だ。それまでは自由にするが良い。我が儘三昧豪遊しても良いぞ。もしかしたら、皇太子から婚約破棄してくれるかもしれん。それとも隠れて財を成すか?隠れた才能を伸ばすか?私はお前の邪魔はしない。しかし18才になったら観念しろ。嫌ならそれまでに己で道を開け。
お父様有難う。私は10才で決心した。死ぬ気で運命に抗おうと。お城でのキツい王妃教育。学園での勉強も平行していたので、そちらは詰め込めるだけ詰め込んだ。さっさと終了させ、己の時間を作りたかった。約2年で学園の授業卒業証書を得て、プラス数か月で王妃教育も終了させた。その後は宰相で有る父に付き、内務関係に外交関係を学んだ。近隣諸国を回り情報を集めた。
そして今私の1番の関心事は魔法だ。私にはかなりの魔力が有るらしい。魔法大国の隣国へ行きたい。しかし流石に留学するには年を取りすぎた。
私には時間が足りない。
「解っているなら良い。そう考えすぎるな。無理なら親を頼れ。国外逃亡以外なら手伝おう。ブライアンは反省をした様だし、今回は許そう。但しマーガレットブランドの新商品を己の小遣いで購入し、隣国の婚約者の姫君に己で届けろ。貴様の為に料理を習ってるそうだ。少しは頭を冷やせ!」
ご愁傷さま。マーガレットブランドの新商品はお高いわよ。今回はプレミアムレシピ集だもの。今までの総纏めの豪華装丁本が3冊。マーガレットブランドオリジナル、レシピ本専用付録付き。エプロン、ミトンに、三角巾。キッチングッズにペア食器セットが、オリジナルバッグに入ってくるのよ。
「既に予約注文殺到中よ。急がないと間に合わないかもしれないわよ。」
「姉さん!弟の為にそれ位は都合してよ!ついでに少しはおまけして!」
「さて?考えとくわ。」
「姉さんの悪魔ー!」
悪魔はどちらじゃ。
*****
ふぅ。やはりマリエンヌの作ってくれたお菓子は美味しいわね。これが大豆を砕き、ドライフルーツやナッツとあわせて焼いた大豆バーね。
それでこちらがきな粉。更に細かく更々に砕いた物。ミルクに混ぜて飲んだり、砂糖を混ぜて団子にかける。団子?あ、この丸いのが団子ね。ご飯を粗く潰して丸めた物なのね。
でこれが商品化予定の肉擬き。豆腐を凍らせ解凍し絞る。ちぎり調味料に浸し、粉をまぶして唐揚げにする。細かくしてハンバーグなどに混ぜても良い。
どれ、では先ずはこの肉擬きとやらを戴きまーす。
!?!?!?
「うーん。めちゃジューシー。もろ唐揚げじゃない。どう見てもお肉よお肉!美味しすぎるわ!マリエンヌったら天才よ!もう!」
「あー!姉さんってば!自分ばかり食べて!僕も居るんだから呼んでよ!」
「嫌よ。減るじゃない。自分でマリエンヌに頼みなさいな。」
「このケチンボ!そんなに食べたらブタにはるからね!」
「大丈夫でーす。これらは太りにくい食品なのでーす。」
「沢山食べたらおんなじだよ!」
「もう煩いな。ほらお茶淹れてあげるから食べなさいな。」
何て私達がまったり中に、マリエンヌとロジャースのお見合いは始まっていた。
*****
「ごめんなさい…。」
「マリエンヌ嬢。私がお嫌いですか?どうしても駄目なのでしょうか?私は貴女しか欲しく無い。ずっと貴女だけをお慕いして来ました。」
「ごめんなさい…。」
「マリエンヌ…。」
「ごめんなさい…。だって私は逃げたんだもの。幸せに何てなれないわ。」
「逃げた?それはどうゆう意味ですか?」
・・・・・。
「話したって誰も信じてくれないわよ…。皇太子様が実はもの凄い変態で、ストーカーにヤンデレ拗らせてるとか!誰が信じてくれるのよ!」
・・・・・。
「それは…。」
「侯爵子息はサドなの!女性を痛めつけるのが趣味なのよ!私は小さい頃から生意気だからと、ずっと虐待される筈だったの。特に学園では酷かった。最期まではされなかったけど、それに近い事までされてた。キズものだと言いふらすと脅されてた。それが嫌で引きこもったのよ。外に出なければ接触しないし、学園に行かなければ脅されないから。でも…。」
「でも?」
「私は上手く婚約破棄されたけど、お姉さまのルートは継続してしまった。本来なら皇太子様も、ローズマリーに陥落してたのよ。それでお姉さまとの婚約も破棄になる筈だった。なのに何故?もしかしたら私が虐待から逃げたから?でも逃げなければ殺されてた。私は死にたくない!バッドエンドの悪役令嬢に何てなりたくないの…。」
・・・・・。
「お願い。お姉さまを助けて。私だけ助かるなんて出来ない。お願いよ。」
涙を見せまいと下を向き、己で震える肩を抱き締める。頭にポンと乗る掌。やがて両手で肩を叩かれた。
「ストーカーにヤンデレの意味は良く解りませんが、皇太子様が実は変態だと言うのは信じますよ。侯爵子息のサド説もね。だから落ち着いて全てを話して下さい。貴女の悩みは私のご先祖様が晴らしてくれるかもしれません。何も心配しないで下さい。」
「ロジャースさま…。」
マリエンヌの涙は中々止まらず、寒さゆえお茶会は室内へと持ち越された。
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