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第1章・婚約破棄は自由の翼。
誰が断罪されるの?
しおりを挟む弟よ情けない。他の男性にしなだれがかり庇われる。そんな女性が良いのか?チョロすぎではないのか?
お前の婚約者は隣国の姫だ。中々会えぬが、お互いに良い関係を育んでいただろう。姫君もお前は優しくて色々な話をしてくれる。良い関係を作れそうだと言っていた。お前もそう言ってたよな?
姫君が妹と作った料理やお菓子を、お前が美味しいと食べてくれた。喜んでくれるからと、姫君は料理を始めたんだ。夜会でとある女性にレシピ本とマーガレットシリーズ一式を注文されて気づいた。最初女性は私に気付かなかったが、私は気付いた。彼女は隣国の姫君付きの侍女だ。流石に姫君が隣国まで買いに来る訳にはいかない。だから侍女が来た。侍女曰く買いに来たが売りきれだった。夜会で私が取り次いでくれると聞き探してくれたそうだ。
注文者は侍女だったが、配送先はやはり王宮。王宮付きの侍女だから変では無い。しかしちょっとかまをかけた。姫様はお元気ですか?以前手作りお菓子を戴いたのですと。
侍女は私が知り合いだと解り話してくれた。姫様が弟の為に料理の勉強をしていると。姫様の身分なら、料理やお菓子作りなんてする事はない。否。必要がない。公爵家の妹でさえ、変人扱いされるのだ。因みに私は料理は全く出来ない。否。しないだけよ?
再度言おう。
弟よ。
チョロすぎるぞ情けない。
これは不味い。下手したら戦争だ。コイツらは事の大きさに気付いているのか?否。気付いていないな。ん?ボンクラ皇太子はいないのか?ついでに転がってくれたら助かったのに。
*****
脳内お花畑の侯爵子息が、後ろ手に女性を庇いながら大声で怒鳴る。
〈私はマリアンヌとの婚約を破棄する!弱き者を虐める様な女と結婚など出来ない!貴様はか弱きローズマリーを、嫉妬と身分を嵩にかけ虐めたそうだな!私はこのローズマリーと結婚する!私は真実の愛を見付けたのだ!〉
騎士団長予定の脳筋野郎が続く。
「お前は恥ずかしくないのか?身分にどんな価値が有るんだ。貴様には身分しか価値が無いから、虐めなどの卑怯な事が出来るのだ!次期騎士団長の私が、卑怯な貴様を成敗してくれるわ!」
あくまでも予定だよ?騎士団長は世襲じゃないのよ?
「貴女は本当に卑怯な女性ですね。自身の手を汚さず、取り巻きに手を下させる。証拠はあがってるのです。潔く自らローズマリーに頭を下げなさい。出来ぬなら次期魔術師団長たる私が、魔法にて地面を舐めさせて差し上げましょう。」
貴方もあくまでも予定だよね?魔術師団長も世襲じゃないんだからね?しかし根性悪いな。地面を舐めるのはお前だよ。
「マリエンヌ。僕は妹がこんな恥知らずな事をするとは思わなかったよ。まさか暴漢にローズマリーを襲わせるなんて。彼女は運良く無事に助け出された。捕らえられた犯人達は、姉さんに頼まれたと自白しています。本当に情けない。それでも次期宰相たる私の妹なのですか?恥を知りなさい。」
・・・・・。
何も言えんわ。このボンクラが!これは両親に、再度頑張って貰わねばならないかもしれない。更生できるか?
「マリアンヌ!言い訳は無いのか?ならば肯定と見なす。こいつを国外追放にしろ!衛兵!牢に入れとけ!」
はあ?たかが侯爵の息子に、人を裁く権利が有るとでも?刑を決定するのは国王様だけだよ?それも知らないの?
案の定、衛兵は全く動かない。
「おい騎士団!こいつを牢に連れてけ!」
自称次期騎士団長も怒鳴ってるけど、皆は完璧にスルーだ。笑っちゃうね。
さてでは役立たずのバカ弟の代わりに私が出ますか。両親の方を見ると、何してもオーケーのお墨付きサインが出た。あーあコイツらアホだね。公爵家に不法侵入だよ。これだけで牢屋行きだからね。しかも身内だけのパーティーよ。消されても知らないわよ。そう言えば侯爵夫妻は来て居ないの?姿が無いわね?まあ良いや。
グフフ。めちゃ楽しみ。
「妹の誕生パーティーでのご乱行。侯爵家も随分不作法になりましたのね?私共は金魚のふんまではもて成しません。しかも不法侵入です。さっさとお帰りになられるべきでは?」
「煩い!私はマリアンヌに話してるのだ!貴様ではない!」
「まあ。マリアンヌとは何方かしら?」
「何だと!エリザベス!貴様の妹だろうが!ブライトン!貴様の姉を排除しろ!ローズマリーの為にも何とかしろ!」
・・・・・。
ブライアンと目が合う。情けなさそうに視線が泳ぐ。こりゃダメだ。
「次期侯爵様?貴方の頭はいかれてるのですか?我が家には、マリアンヌとやらも、ブライトンとやらも存在しません。ましてやエリザベス何て方もね。どうやら訪問先をお間違えの様です。今お帰りなら、まだ穏便に済ませられますよ。」
何だと!バカにしとるのか!と、大騒ぎを始める次期侯爵様。うーん。次期侯爵様って長いわね。もしかしたら廃嫡されるかもしれないし、もうバカ呼びで良い?勿論心の声だけね。
「では私からバカな叫びに訂正を入れさせて戴きますわ。先ずは嫉妬は有り得ませんね。妹は貴方を全く好きではございません。婚約の顔合わせ以降に本人と会いましたか?妹は貴方の顔も覚えてませんよ。妹は引きこもりなのです。どうしても出なければならぬ王家主催のパーティー以外には出席しません。その際にエスコートすらしない。そんか婚約者の貴方が知らぬのも、仕方が無いのでしょうね。」
沈黙が長いわね。何か言い訳しなさいよ。会いにも来ない婚約者に惚れる訳無いじゃない。つまりは妹も会いに行かない。それで己に嫉妬するとか、自惚れるのもいい加減にしろ!
「私も沈黙は肯定と見なします。では身分をかさにと言いますが、我が国は身分制度の有る国です。しかし先程も言いましたが、妹は引きこもりです。しかもその理由が、公爵令嬢なのに菓子など作るのは変人だ!と、とある方に言われたのです。それも目前で菓子を投げ捨てられ踏み潰されました。これも身分差別では無いのですか?」
「それは話が違うだろう。見下しての差別とは違う。身分にあわせての振る舞いをしろと言うのではないのか?」
「次期騎士団長でしたか?妹は今でも堂々と好きな料理やお菓子を作っています。その代償が引きこもりです。つまり貴方の言い方ならば、妹は身分に合う振る舞いを止めたと言う事。貴方は妹に、身分しか取り柄が無いから虐めたと言いましたね。なら変では無いのですか?」
流石の脳筋。意味が理解できて無いみたいね。仕方無い。
「妹は身分より趣味を選択したのです。貴方には公爵令嬢が引きこもるという勇気を出す。その意味が理解できますか?貴族女性としての地位を捨てるのと同然です。社交を止める。即ち良い縁談が無くなる訳ですからね。」
「婚約者が居たから安心していたのではないのか?」
「それは有りません。婚約については引きこもりを始めすぐ、両親の方から侯爵家へ破棄の打診をしていました。それを引き伸ばしていたのは侯爵家です。書類も侯爵家の印とサイン待ちとの事です。この件は、勿論妹も納得済みですよ。」
侯爵家はかなり以前から資金繰りに喘いでるからね。公爵家からの支度金と持参金が惜しいのよ。息子は会いにも来ないのに嫁入りの為の準備が必要だと、父親は支度金だけはせびりにくるからね。政略結婚の意味を理解出来ない息子を、放置した侯爵も悪いわね。
「ではお次は取り巻きでしたか?虐めたと言うのはどちらでの事でしょうか?私はローズマリーさんとやらを見た事も有りませんが?」
「何と言う事を言われるのでしょう。こんなに健気なローズマリーを知らぬ振りをするなんて。それこそ失礼では有りませんか。勿論貴族学園での話ですよ。」
ほう?どちらが失礼だよ。
「私と妹は貴族学園に通って居ません。それをご存じの上でのお話しでしょうか?」
弟以外の3バカの顔色が悪くなる。やがて弟に問いかけた。
「「「通って居ないのか?」」」
「はい。姉と妹は貴族学園には通っておりません。姉は王妃教育で城に通い、一般教養も学園の教師が城に通っております。妹は引きこもりの為、特別に学園の教師に家庭教師をして戴いていました。どちらも既に貴族学園での教育課程は終了してます。卒業認定試験を合格し、飛び級認定で卒業証書も出ています。因みに昨年は妹が主席卒業です。姉は5年ほど前の主席卒業でした。学園に通ってるのは私だけです。」
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「ではローズマリーさんは、何方に虐められていたのでしょう?証拠も有るそうですが、それを見せて戴けますか?」
「ローズマリー自身が証拠ですよ。私達は虐めの痕跡を何度も目撃しています。彼女は涙を流しながら、マリエンヌの取り巻きにに虐められたと訴えて来ました。しかし健気にも、私が悪いのだから我慢すると…。」
けっ。アホか?
「ではローズマリーさんに質問です。貴女は何故己を虐める人々をマリエンヌの取り巻きだと気付いたのですか?しかもマリエンヌは学園に居ないんですよ?」
ローズマリーは私の顔を見た後、何故かジリジリと後退してゆく。両手を胸の辺りでしっかりと結び、涙を流しながら首を振る。貴女はいったい何をしたいの?まさか祈りのポーズなの?私に祈っても容赦はしないわよ?
「わっ私が男爵家だから虐めるの?私は何もしてないのに!虐めるのが悪いのよ。私は怖かったの。酷いわ。」
さもざめと泣き出すローズマリー。大丈夫。可愛そうにと宥めすかす3バカトリオ。弟は抜けたな。これはひと安心だよ。
「ローズマリーさん。私は何故、取り巻きが妹の取り巻きだと気付いたのかを聞いているのです。男爵家だからは関係有りません。関係付けるなら不法侵入と不敬罪で、とっくに牢に入れてます。質問にキチンと答えて下さい。」
酷い。どうして虐めるの?と、ウルウルしながら男性陣を見上げる。慌てて慰める3バカ。あれが手なんだね。
「だって!婚約者のいる男性に話しかけたり、触れたりするのは駄目だと言うのよ!酷い虐めよ!お陰で皆去ってくのよ。婚約者はマリアンヌでしょ!だからよ!」
アホか?そこの2バカにも婚約者はいるでしょ?バカ弟にもいるんたからね?
「はあ。皆様?これで流石におわかりでしょうか?婚約者=妹にはなり得ません。しかも婚約者のいる男性に話しかけたり、触れたりするのは駄目。これは虐めでは有りませんよね。常識です。皆去ってくのですか?流石に婚約者持ちハンターと言われるだけ有ります。皆とはいったい何組の婚約を破棄させたのですか?貴女に貢いで婚約破棄。今の社交界でのブームだとか?」
バカトリオが呆然としている。本当に知らなかったのね。
「では最後に暴漢に襲われたとか?ブライアン?実行犯が自白したそうだけど、何を根拠にマリエンヌを犯人と決めたのかしら?」
「姉さん…。実行犯達は依頼者の女と、しっかり顔を見て話をしてるんだ。依頼者の特長は金髪に青眼。王家特有の色彩だよ。この国で年齢的に合うのは、姉さんと妹だけだ。それでも違うと言うの?」
ちっ。やはり身内びいきだった様ね。ダメダメだわ。金髪青眼何て他国には沢山いるのよ。夜会やパーティーでは、大盤振る舞いじゃ無い。我国にだって王家みたいな金髪は少ないけど、茶色やオレンジにに近い金髪はかなりいる。青眼は色の濃淡は有るけど沢山いるわ。ローズマリーだって青眼じゃ無い。金髪だってカツラで何とでもなる。
「あんたバカなの?何で己の身バレする格好のまま、犯罪の依頼をするのよ。私だったら目立つ金髪何て隠すに決まってるじゃ無い。取り合えず牢屋の実行犯に面通ししましょう。それで一発解決よ!」
私はテキパキと指示を出す。
「そのおバカな仲間達は拘束して。ブライアンとローズマリーもよ。マリエンヌは疲れた様だから、誰かベッドへ。城の地下牢に面通しの許可申請もお願い。」
突然扉が開き、侯爵が飛び込んできた。拘束された己の息子に顔をしかめた。
「我が息子とマリアンヌ嬢の婚約破棄は今朝方整った。此方の都合で遅くなり申し訳無い。息子は知らずに録でもない事をした様だ。お詫びは後程。これ等は私が連れ帰る。」
「それは困ります。彼等は不法侵入に不敬罪。更には妹マリエンヌに対する侮辱罪に偽証罪。罪人を連れ出されては困ります。」
「何だと!我が息子を罪人呼ばわりか!金か?慰謝料か?それなら幾らでも払ってやる!だから失礼する。まさかローズマリーとやらが、マーガレットブランドの代表とわな。こりゃラッキーだ。がはははは。」
?????
ローズマリーが私?しかし流石のバカの親だよね。貴様まで名前間違うなよ…。
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