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⑦・オマケ・ある日のある二人の会話。
しおりを挟む【王と王妃の実兄の会話】
ある日王と王妃の祖国である隣国から、王妃の実兄がお忍びで王に面会を求めて来た。
「これはお義兄さん。ご無沙汰しております。本日は王妃に会いにいらしたのですか? 」
「まさか! それならキチンと先触れを出すよ。今日は内緒の相談なんだ。我が国の王の許可は戴いている。しかし王としてではなく、妹の夫として協力して欲しいんだよ」
「それは構いませんよ。もしかして例の子爵家のお話ですか? 」
「さすがに情報が早いね。なら話は早いかな? 自分たちが虐げていた彼女が、親善大使である伯爵と婚姻したのが気に入らないらしいんだ。馬鹿な妹をこの国に送り込んで、伯爵に色仕掛けしようとしている」
「二人を離婚させ、伯爵には妹を宛がう。離婚し傷もの扱いをされる姉は、屋敷に監禁し兄が手込めにする。こんな感じか? まったく下衆な家族だな」
「そうなんだよ。伯爵は並みならぬ努力で今の地位を得たんだ。私が便宜を図ったからだと陰口を叩かれているけど、私が彼を贔屓して便宜を図る必要がある? 妹のことで憎みはしても、贔屓する謂れはない。つまり彼の実力と運で得た地位なんだ。奥さんも苦労して今の幸せを掴んだ。そんな二人の邪魔をする羽虫は潰さなきゃ駄目だよね? 」
「まったくだな。それでどうしたいんだ? 」
「来月こちらの国で開催される、両国の親善パーティーに出席したいと、子爵家からの打診が王家にあったんだ。子爵家の出席理由は、娘が親善大使である伯爵と婚姻している。娘に会いに行きたいとのことだよ。しかも大使の館に滞在させて欲しいそうだ。家族だから喜んで迎えてくれるだろうって。招待状も届いていないのにね」
「馬鹿じゃないのか? 」
「馬鹿なんだよ。幸せな頭だよね。しかもまだ王家から返事も来ていないのに、出席する気満々で、社交界で大騒ぎしているよ」
「それで? 」
「うん。だからダミーの屋敷を用意して欲しいんだ。奴等は奥さんに暴漢に襲わせる計画を立てている。それを兄妹が助け、騒ぎ立て離婚に持ち込む。悲しむ伯爵を妹が励まし後釜に収まる。奥さんはそのまま国へ連れ帰り監禁予定。計画を盗み聞きした侍女の証言だけど、奥さんを屋敷から逃亡させた人物だから間違いはない。自分の親に紹介状を書いて貰い持たせ、城の侍女としての働き口も用意したんだ」
「へえ。使用人も嫌がらせに加担していたそうだが、まともなのもいたんだな」
「ええ。彼女は前妻が嫁ぐ際に同行した侍女とのことです。その娘が虐げられているのを、見てはいられなかったのでしょう。彼女が辞めなかったのは、虐待の確たる証拠を固めたかった様です」
「証拠は揃ったんだな? 」
「バッチリです。しかし虐待だけでは、重くても爵位返上でしょう。子爵家には救いは必要ありません。父親も屑です。後妻の言いなりで、娘の幸せを考えてもいない。彼女と義兄を婚姻させ、子爵家の後継を産ませるつもりです」
「結婚し子供までいるのに、わざわざ離婚をさせてまでか? 」
「子爵は妹に婿を取る予定だった様です。しかし美人ではありますが、性格が最悪です。それが社交界では広まっていて、婿に入りたいという強者はいません」
「それですでに結婚している娘を連れ戻すのか……ならば妹を嫁にだし、孫の一人を養子にすればよいだろう? 」
「後妻が義兄を後継にしたいんですよ。しかし子爵との血の繋がりがない。ならば子爵と血の繋がる娘と婚姻させれば良い。それに父親も同意した。しかも義兄はかなり執着しています。寸前で逃げられたので悔しい様ですね」
「…………」
「もちろん王が、そんな婚姻を承認するわけがありません。王家は子爵家を見捨てました。膿は絞り出せとのこと。侍女の証拠の中には、無理な増税の証拠もあります。しかしやはり処刑までは届きません。なので偽の招待状で誘きだし、偽の屋敷での処分を決行する。それを黙認して欲しいのです。さすがに自国内での処分は危険すぎるため、移動の際の事故死にみせかけよとのこと。手を下す影も派遣されます」
「あとこのことは、妹にも親善大使夫妻にも内密にお願いします。親善大使夫妻とその妹夫婦は外交繋がり。さらには実妹とも、かなり仲良く交流しているそうです。子爵家はたしかに屑ではありますが、国に処分されたとなれば、皆の心の傷になるでしょう。とくに実妹は人が良すぎます。気にやむといけません。そのためにも王としてではなく、妹の夫として協力して欲しいのです」
「それはもちろんだ。彼女に心労を与えたくはない。しかし家族だけを処分か……まあ屑なのは家族のみ。親族はまともらしいからな。わかった。黙認しよう。偽の招待状は予備を渡そう。屋敷は来賓用の迎賓館を使おう。しかしひとおもいに殺すのか? 苦しんだ彼女の辛さを味あわせたいな……」
「たしかに……死ぬのは一瞬です。穢れた魂には報いが必要ですよね……ならばあそこへ……」
二人は目を合わせてニヤリと笑う。この後喜び勇んで来国した子爵家の人々は……
***
「なんで!? どうして? なぜ私たちはこんなところにいるの? あの豪華なお屋敷はどうしたのよ! それになぜ服を着ていないの? ハッ、ハックション! 」
「あなた! 回りはすべて海よ! なぜこんなことになっているの? この首輪はなんなの? ビクともしないじゃない! それに私のドレスとお飾りはどこ?しかもなぜ下着姿なのよ! さっ寒い……」
「おい! アイツはどうした? 夜には戻ると言っていたよな? しかしここはどこなんだ? しかも雇った暴漢まで転がっているぞ? 」
「私はなんてことをしてしまったんだ……娘を蔑ろにした天罰が当たったんだ……ここは孤島の牢獄だ……このまま死ぬのを待つしかない……」
「「「…………」」」
護衛に変装させ同行させたゴロツキとともに、寝ている内に偽の屋敷から、孤島の牢獄に運ばれた四人。背後から髭もじゃな男が現れ声を発した。
「これはまた活きの良いのが来たな。ようこそ孤島の牢獄へ。君たちは三年だ。三年でこの首の仲間入りをする。しかしその前に死ぬことは許さない。その首輪は自害防止の魔道具だ。毎日ではないが、私がしっかりとしつけてやろう。まあそちらのゴロツキたちはトバっちりだ。首輪もないから好きにして良いぞ。貴様らには手を出さん」
「クソッタレが! 俺たちはトバっちりだとよ! どうせ死ぬんだ! なら死ぬまで楽しませて貰おうか! 」
子爵家の家族に襲いかかるゴロツキたち。その場は狂乱の渦にのまれた。ニヤリと薄笑いを浮かべる牢獄の番人。
「いやー。若いっていいね! あ! 私は遠慮するよ。ごうつくババアとケツの青い性悪娘には興味ないから! おい止めろ! 興味が無いといってるだろうが! 遠慮などしていないわ! ジジイはもちろん、イケメンでも男は論外だ! まあ勝手にやってくれ。私は風呂に入って旨いものでも食ってくるわ」
牢獄の番人は転移の呪文を唱え、一瞬で自宅へと転移した。服を脱ぎ風呂に向かい、手前の洗面台で鏡を覗く。
「しかしこのカツラとつけ髭は面倒だな。まあ私のこの顔を見たら腰を抜かすだろうから仕方がないか……」
覗いた鏡には美丈夫の姿……その顔は隣国の王妃でもあり、この国のもと公爵令嬢の実兄のものだった。
彼は公爵家の後継であり、王宮では宰相補佐という重要なポストに就いていた。しかし時間を作っては罪人を虐め抜きに参上する、孤島の番人という裏の顔があった。
彼は魔術師であることを隠蔽し、宰相補佐として各国を訪問する傍ら、諜報として暗躍している。実は宰相補佐こそが隠れ蓑だった。
孤島の番人が専属の住み込みではなく、不定期での通いだとは、誰にも気付かれることは無いだろう。
そして牢獄の入り口には……
もと侯爵家族の、白骨化した四つの首が並んでいた。
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