27 / 29
【よん・Ⅳ】
乙女ゲーム・第二王子様が!転生者編⑪
しおりを挟む遺体に向き合い私は宣言する。
「では始めます。皆様絶対に動かないで下さい。それでは……」
私は指輪にキスをし己と遺体を、光のベールで丸く結界を張り巡らせる。死者の動かぬ心臓に己の手のひらをあて心を静め、結界内に魔力を糸のように張り巡らせてゆく。遺体と外界を繋ぐ、僅かに残存する微妙な魔力の先端。糸のように細いものを探し出し、私の魔力と寄り合わせてゆく。やがて寄り合わされた魔力と残滓は塊となり、死者の思念が私の中に集まってくる。私は己に念話をする形で、己の体の中の死者の意思を確認する。
『はじめまして。私はミラクルマスター。貴方の意思を未来へ。そして残される者へ繋げる者です。出来れば私を殺そうとしたことは忘れて、貴方の伝えたいことを教えて欲しいの。姫様の護衛の魔道具使いに、インベントリの中身を任されたわ。公爵子息だった彼は、己の罪と父親の罪を公にした。もちろん貴方に強制は出来ないわ。でも死人に口無しなの。このままではすべての責任が貴方のものになる。姫様は貴方が自殺するはずはないと言ってる。でも真実は既に……なら貴方は本心を伝えなくてよいの? 心残りは? できる限り、私が伝えます」
従者は私をジッと見ていた。なにも言わずにただジッと……すると結界の外で姫様が騒ぎだした。なにかをケンケンと怒鳴っている。私は結界の一部を薄くし、外の声を聞こえるようにした。
「なによ! なんなのよ! どうして死ぬのよ! 私が口が悪いのなんてわかりきったことじゃない! 私が死んじゃえって言ったから死んだの? そんなのいつもの憎まれ口じゃないの! バカ! バカったれ! 私が素敵な王子様と結婚するまで、手助けしてくれると約束したのにー!」
…………姫様は幾つなのかしら?たしか私より歳上だと聞いたような……これはきっと周囲の取り巻きが悪いのね。姫様はたしかに我が儘だけど、それを戒めてくれる人がいなかった。そして周囲の男性は、ご機嫌とりばかり。
私は薄くした一部の結界を修復し、王子たちへ手を振り、姫様をおさえ座らせ黙らせた。
「最初は……姫様を助けて怪我をするつもりなんてなかった。たまたまだったんだ。通りがかっただけ。目の前で人が刺されそうだったから助けただけ。貴族でもない私には、王族の専属護衛などおそれおおい。父がいないから、母と妹の面倒もみている。だからお城には詰められないと断った。なのに! 」
断りに行ったときに、姫様の護衛の公爵子息につかまった。姫様からの贈り物だけでも受け取ってくれと、ブレスレットを装着された。本人も同じものをしていたから、魔道具だとは思わなかったのね。
「それからは常に頭にモヤがかかっているようで……姫様の命令には逆らえなかった。しかし公爵子息と話しているときはモヤが薄くなる。それに彼は私に、命令する立場でありながらしなかった。さらに真実を伝えてくれ、私をなんとか解放してくれようとしていたんだ。だから私は信用し、母と妹のことを頼んだ」
魔道具使いだから、なんとか従者への命令を打ち消そうとしていた。しかしモヤを薄めるまでしか出来なかった。しかも己のブレスレットには、父親からの命令には絶対に服従でならないと刻まれている。その命令のために、互いのブレスレットを外すことも出来ない。ならばせめてできることだけでもと……
公爵子息は従者のお給料を、キチンと母親の元へ届くように手配していた。さらには時々代理だといい、従者のかわりに菓子折りなどを持ち、様子を見にいっていたという。きっと己の母と妹の姿を重ねていたのだろう。
「貴方は誰かを恨んでいるの? 仕返しをしたい? インベントリの中身はどうしたいのかしら? 私は貴方の意思に従います」
「公爵子息は……」
「貴方のインベントリに、二人で掴んだ証拠があると言い残し、彼は奥歯に仕込んだ毒で死んだわ」
「彼は自殺なんてしない。それは多分……」
そのとき扉が開く気配がした。私は振り返り思わず絶句する。死んだとばかり思っていた公爵子息を、キングが車イスに乗せて連れてきていた。
「……彼は即死ではなかったから、第二王子様の石が間に合ったのね。でも良かった……」
「彼が生きているなら良いよ。彼も私と一緒だったから。しかも黒幕が実の父親だ。私より辛く葛藤もあっただろう。それでも私の意思を尊重してくれた。平民の私のね。姫様は私を引き立ててはくれたけど、扱いはペット同然だったから。私の家族への気持ちなんて考えもしない」
姫様は子供過ぎたのね。一国の姫様や高位貴族のお嬢様たちは、政略結婚のときのために、かなり厳しく教育されるという。しかしこのは姫様はお姉様がたくさんいる上、魅縛のスキルで周囲を虜にしていたから、厳しい教育が抜けてしまったのでしょう。本人だけが悪いのではないのだけど……
「ちなみに私にはなぜか、精神異常系統のスキルや魔法が完全には効かないんだ。だから姫様の魅縛にも完全にはかかっていない」
「つまり魅縛に精神を完全には惑わされていないから、己の根底の意思は残っていて、状況を理解している。しかし命令には強制的に従わされてしまう。体が勝手に動いてしまう。だからあのとき哀しげな目を……」
姫様はやはり、自称ヒロインと同じく魅縛のスキル持ちなの……そして従者はたぶん、精神異常(魅了や幻惑など)耐性の下位版のスキル持ち……
「ミラクルマスター。君を殺そうとしてすまなかった。私は死んだ。だからもう恨み辛みは忘れよう。第二王子様には……出来れは私の命で許して貰えないだろうか? 黒幕たちも姫様も、因果応報に報いを受けるはず。死刑は簡単だ。しかし生きるのは辛い。だからこそ、生きて償い世のために尽くして欲しい。腐った我が国とは違い、この国の上層部は素晴らしい。王子様方によろしく頼んでください」
従者からの念話が止まる。
『了解しました。ではインベントリへの道を開きましょう』
私の掌に光が集う。残留思念は完全に私との同調をといた。そして道を開いてくれる。
「ラストオープン。我はミラクルマスター。ロストマスターより最期の権限を譲渡された。インベントリよ。今ここに己のマスターとともにすべてを具現せよ!」
結界を突き抜け大きな魔方陣が上空に展開する。私の魔力がグングンと吸いとられて行く。グルグルと回転する魔方陣。その中心に影が徐々に現れる。私は立ちあがりもとの結界を外す。具現化した人物を確認する。
姫様が従者の姿を認めて駆け寄ってくる。しかし彼は既に死亡している。今見えている姿は思念を具現化したもの。触れることも、喋ることも出来ない。周囲をグルグルと回り、相変わらずの憎まれ口を吐いている。具現化した従者は呆れたような、困ったような顔をしてした。彼には妹がいるという。きっと姫様のことを、我が儘な妹くらいに感じていたのだろう。公爵子息の苦悩や苦労も、理解し許している。立派な人だった。でなければ……己れが死ぬ原因となった人物を、そんなに簡単に許せるものだろうか?
私が具現化した姿を認めると、相手も視線を返して頷いてくれた。
「では開封します」
私は魔方陣の真ん中めがけ、己の魔力を解き放つ。グングンと吸い込まれて行く魔力……
やがて空中の魔方陣から、大きな箱が数個落下してきた。王子様たちが中身を確認する。確たる証拠ばかり。だれも言い逃れは出来ないでしょう。
「従者の方の魔力がもうそろそろ切れそうです。私の魔力だけでは、これ以上は彼の姿を維持できません。王子様方にお願いです。これらの証拠で、必ず黒幕まで裁いて下さい。そして姫様の魅縛の調査を願います」
王太子様を始め、すべての王子様が頷いてくれる。いつの間にか第二王子様も来ていて、具現化した従者と視線で会話をしていた。
「私が生き証人だ! 間違いなくすべてを裁いて貰う。だから安心してくれ。家族も任せてくれ!運良く生き延びた命だ。残りは世の人のために使うと誓う。たとえ死刑となっても、私は最後まで大事に生きる! 」
公爵子息の奥歯に埋め込まれていた毒薬は、時間が経つと溶けるタイプのカプセルに仕込まれていた。黒幕の父親は最後に自殺と見せかけ、彼を殺しすべての罪を擦り付けようとしていたらしい。しかし彼が生き残り、インベントリから証拠が出れば言い逃れは出来ません。
「私もここに誓おう。従者よ。我が国の恥さらしは、私が必ず根絶やしにしよう。家族のことも心配はいらない。必ずやご遺族の要望に添わせる。どうか安らかに眠って欲しい。情けない我が国を許して欲しい……」
姫様の国の宰相様が頭を下げた。たしかにもう内々では済ませられない状況だよね。第二王子様の派閥は……姫様も……まあこれ以上は私が考えることではないよね。
ふと気付くと……従者の輪郭が徐々に薄くなり……やがて光の粒となり、空に向かい弾け飛んでゆきました。
*****
この後両国は話し合い、我が国は多大な慰謝料をいただきました。姫様の従者だった彼は手厚く葬られ、生活は国に保証されました。インベントリの中の証拠と、それを集めた生き証人の元公爵子息。彼は庶民として市政におり、騎士団での経験をいかし、魔物を倒す辺境の討伐隊に入隊。生涯を魔物退治に捧げました。
第五王子様の【真眼鑑定】で、姫様の魅縛も判明しました。やはり気づかずに垂れ流していたようで、スキルを封印した上、戒律の厳しい極寒の修道院へと送られました。性格が矯正されないならば、真っ白なあの地で死ぬしかありません。姫様には王子様方にたちから、一時の猶予を与えられました、しかしそれを無駄にし、従者の死の真相を公にしてしまった。たとえ自国が姫を庇い、他国へ嫁に出してお茶を濁そうとしても、どこの国でも嫌がるでしょう。なぜなら姫自らが国際問題にまで発展させてしまった。その責任は大きいのです。
黒幕その一の公爵当主と関係者は、私的財産はすべて没収。爵位返上の上での鉱山送り。寝食は保証されますが、死ぬまで鉱山から出ることは叶いません。高位貴族として暮らしてきた人たちには、死ぬより辛い日々でしょう。本来ならば国への反逆罪で一族郎党が処刑となるはずでした。しかし今回血を流したのは、我が国の第二王子様と志望した従者。 従者の最後の言葉により、第二王子様は責任を求めず、関与していない者たちは省いた。
ことの真相は……
姫様の兄の第二王子を王太子へとしたい派閥が、我が儘な姫様で我が国を撹乱し、王子様たちか私を自営に取り込むつもりだった。
私を取り込む方が簡単だと考えていた公爵は、公爵子息から従者に、隙があれば婚約者である第二王子様を殺せと命を出させていた。私を刺そうとしたのは、本当に偶然だったそう。ならば第二王子は担がれただけだったの?
でもねー。なんで私なの?私を正妃にしたら、なぜ立太子に近づくの?
…………ミラクルマスターには我が国の王家の庇護がある。魔力量も遺伝しやすい。それよりもなによりも……
「正妃腹の王太子様への当てつけってなによ! 私が第二王子と結婚したら、彼が悔しがる? ふざけるなー!! 」
のちほど姫様の近況と共に、王太子様からお手紙が届きました。それには姫様が修道院ですっかり大人しくなったこと。側妃と第二王子の処分が決まり、王室追放の上離宮に蟄居になったとのこと。(事実上の幽閉)
そして私への謝罪と……
赤面もののラブレター……
これ……どうしよう。お返事必要だよね?
…………なんだか視線が刺さるんですけど? おいこら! なんでコソコソしてるの?まさか!?
*******
すみません。またまた終わる詐欺になってしまいました。しかしあと二話で必ず終了します。間違いなく予約とうこうしました。深夜零時と明日の早朝六時となります。お読みいただき、ありがとうございます。桜 鴬。
*******
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる