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❪エピローグ❫

▪大神殿での結婚式。【END】

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 私がこの世界に戻ってきてから、約一ヶ月が過ぎた。今日はとうとうカインと私の結婚式だ。私は朝から全身エステを行われ、コルセットでウエストをギュウギュウと締められ、真っ白なウェディングドレスに着替えさせられられていた。しかし苦しい……

 「こんなにキツいコルセットを締める必要はあるの? 」

 「花嫁さまは皆さん締められるのです! しかし王妃さまには、純白が良くお似合いですね。黒髪黒目が良く映えます。本当にお美しいですよ」

 そんなに誉められても……

 「ですから! ここをもう少し締めますね。するとさらに美しくなりますよ。さあ! 息をしっかり吐いてくださいませ」

 ……誉めて下げるのね……

 「ほらバッチリ! 寄せて上げればこの通り。常にこの状態を保てば、理想のボディになれますよ」

 ……たしかに胸がある……しかもはみ出しそうなくらいにある……

 脇肉を寄せたの?凄いテクだわ。でも常にコルセットは無理よー。

 この世界の貴族のウェディングドレスは、くらいが高いほどトレーンを長くし豪華にする。私のドレスもまるで、円を描くように広がり引きずる形だ。これって歩くとき踏まないかしら?

 着付けを終えアクセサリーを装着し、これまた豪華な総レースのベールを頭に乗せられ、顔を隠された。

 「さあこれで出来上がりです。あら? 待ちきれなくて花婿さまが扉の外でお待ちの様ですね。どうぞお入りくださいな」

 ガチャリと扉の開く音がして、正装をしたカインが入ってくる。私を見てる? 似合わないのかしら?

 「マリア……凄く綺麗だ……本当に結婚出きるんだな。私のもとに来てくれて感謝する。マリアがもとの世界で諦めたことを、忘れられるくらいに愛するよ……」

 「ありがとう。でも私はもとの世界でも、名にも諦めてはいないよ。だってリリアもレオンも幸せだもの。互いに忘れないから大丈夫。私もカインが大好き。私をカインのお嫁さんにしてくれてありがとう」

 「マリアー! 」

 「花婿さまストーップ! せっかくの着付けをぐちゃぐちゃになさるおつもりですか? 頬にキスも駄目です! お化粧が崩れます。イチャイチャは式が終了するまでお待ちくださいませ。国民一同、可愛いお子さまの誕生を楽しみにしておりますよ」

 もう! カインのバカ! 

 カインに腕をとられ、エスコートされながら礼拝堂へ向かう。豪華絢爛な列席者の中、二人でバージンロードを進む。大神官さまの采配で、挙式は滞りなく行われた。

 ラストにカインが私のベールをあげ、唇に軽く誓いのキスを落とす。すると突如私の右手が淡く光だした。

 「女神さまから貰った指輪が光ってる? 」

 指輪から光の帯が延びてゆく。祭壇上の白い女神像の横に、ニつの影が揺らめきだした。

 「まさかリリア? レオン? 」

 二つの影が段々とリリアとレオンの姿を形どってゆく。うっすらと透けてはいるけど、あれは間違いなく二人だ!二人は何事かと周囲を見渡している。最初にリリアと目があった。

 「お姉ちゃん? その姿ってもしかして結婚式なの? まだ戻って十日くらいしか……あ……三倍なんだっけ。結婚おめでとう。たぶん女神さまが見せてくれたんだと思うよ」

 リリア……まさかリリアに見て貰えるなんて……思わず涙が溢れそうになる。

 「マリア。結婚おめでとう。幸せそうで俺も嬉しいよ。今日は新居に併設した教会に来ていたんだ。祈っていたらいきなりクロスが光だして焦ったよ。女神さまも粋な計らいをしてくれたな」

 レオン……だからその姿なのね。牧師姿も似合っているわよ。

 「マリア……私を紹介してくれないのか? 」

 あ……カイン……

 「二人に見て貰えて嬉しい。ペアリングもありがとう。でも無理したんじゃないの? 気を遣わせてごめんね。それでね? こちらが花婿さまなの。カイン……カインドルです。公爵になる予定だったのに、戻って来たら王さまになってたの。信じられないけど私が王妃なのよ。でも頑張る! この世界と人々のためにもね」

 「お姉ちゃんが王妃さま……頑張ってとしか言えないね。でも大丈夫だよ。お姉ちゃんはしっかりものだもの。カインドルさん。私の大事なお姉ちゃんを、末長くよろしくお願いいたします」

 「マリアが王妃……まあ大丈夫だろ。大好きな人の側にいれば百人力だしな。悪者だって倒せちゃうんだよな。マリアはもう、俺に守られなきゃならないほど弱くはない。少々無鉄砲な奴ですが、カインドルさん、マリアをよろしくお願いいたします」
 
 駄目だ……涙腺が崩壊しちゃったよ。涙が止まらないよ……溢れる涙を拭いつつ、私は二人にカインを紹介する。

 「カイン。妹のリリアと旦那さまのレオンよ。女神さまの計らいみたい。直接は会えないけどよろしくね」

 「ああ。リリアさんにレオンさん。マリアをこちらの世界に送り出してくれてありがとう。私は突如王になった。私には至らぬ部分を支えてくれる、王妃としてのマリアが必要だ。もちろん個人としてもマリアを愛している。必ず幸せにする。だから心配しないで欲しい。それから素晴らしいペアリングをありがとう。こちらからなにも返せないのが残念だ……」 

  二人の姿が段々と薄れてゆく。女神像が強く発光し、天井からたくさんの花びらが舞い落ちてきた。

 パリンッ。右の指の女神さまから貰った指輪が弾けとんだ。代わりにだろうか?気付くと中指に違うリングがはまっている。カインにも同じリングがはまっていた。カインと私のリングから光の帯が延び、薄れゆくリリアとレオンの右手に向かう。右手を見て驚いた顔をするリリアとレオン。二人が右手を揃えて、こちらに見えるようにかざした。

 「同じリング……」

 「そうだな。なら私たちも……」

 カインと右手を揃えて指輪が見えるようにかざす。四つのリングは世界を隔て、光の帯で繋がった。

 『祈りなさい。さすれば世界を隔てていても、互いの思いは届くでしょう。結婚おめでとう。私とマリアの世界の神々からの気持ちよ……』

 女神さまの声が天から聞こえてくる。やがてなにも聞こえなくなり、リリアとレオンの姿も消えてしまった。

 リリア……レオン……本当にありがとう。女神さまもありがとうございます。涙の止まらない私を気遣ってか、いつの間にか参列者は帰路についていた。私ってばお礼の挨拶もしていないじゃない。

 この世界の結婚式では、披露宴という概念がない。挙式をし正式な夫婦になると、一週間ほどの蜜月が与えられ、二人だけの時間を過ごす。これがハネムーンみたいな感じよね。二人がキチンと結ばれたのちの最初の夜会で、結婚が正式に成されたことが発表される。

 「マリア? そろそろ大丈夫か? 大丈夫なら温泉に飛ぶぞ。私もようやく休めるよ。まあマリアは休めないかもしれないな」

 嫌です!休ませていただきます!

 「涙は引っ込んだよ。でもこのドレスは着替えなくちゃ行けないよね? 」

 「私が脱がせてやろう! 」

 ちょっとやだ! 礼拝堂でいきなりなにをする気なの?いーやー!止めてーって……

 「なにを勘違いしているんだ。まさか私だって礼拝堂では襲わないわ! ほら出来上がりだ」

 トレーンやドレープ部分は取り外しができたのね。さらにはペチコートを外したら、ワンピースに早変わり。生地がドレス用だから豪華なワンピースだけど、新婚だと思えば大丈夫ね。

 「でも……できればコルセットも外したいんだけど……」

 「一刻の時間も惜しいんだ。それにコルセットは一人では外せないだろ? だから温泉で外してやる。そのまま入れるしな。二人きりの温泉宿だ。仕事をがむしゃらにこなして、ようやくもぎ取った十日間だぞ。世継ぎも皆に期待されている。こういうのをハネムーンベビーと言うんだろ? さあすぐに行くぞ! 」

  ……覚悟は決めたけど……なんだかやる気満々なのが嫌だ……

 なんて考えている内に、ヒョイと横抱きにされ温泉宿へ。もちろん温泉にゆっくり浸かることもできずじまい。

 十日間食事以外は、お布団から出して貰えませんでした。カインのバカー! 回復魔法が必要なくらいするな! 私の体力が持ちませんよ……

 
 十日間の蜜月ののち、私たちは王と王妃として奮闘した。私は王妃稼業の他に、錬金術師としても活躍した。魔法などのチートは女神さまの計らいによりそのまま使えたため、私は己の足も使い、できることは進んで行った。王妃がそこまですることはないと、処罰された宰相の様な考えの頭の固い貴族もかなりいた。しかし私はそうは思わない。カインも賛成してくれたので、女性の社会進出のためにもと、己が見本をみせたかった。

 ハネムーンベビーは残念ながら授からなかったけど、翌年には長男を出産。生涯で十人のも子宝に恵まれた。この世界では寿命が長く、体の老いも遅く緩やかだ。我が子と孫が同時に誕生したりと、我ながら痛いと感じてしまったわよ。これもみなカインがしつこいからよ!

 私がいなくてもこの世界は回っていったのだろう。でも私が加わったことにより、少しでもこの世界が良くなったなら嬉しい。

 リリアとレオン夫婦も二男一女に恵まれ、幸せな日々を送っている。女神さまと神々からのリングのおかげで、リリアとレオン夫妻とは、教会で祈ると夢の中で出会うことができる。触れあうことは出来ないけど、お互いに話をすることができるの。子供たちも一緒に祈ると、夢の中に一緒に行けるのよ。本当に不思議よね。

 リリア、リオン、いつまでも幸せでいてね。

 カイン。私を受け入れてくれてありがとう。そして私を受け入れてくれた、この世界にありがとうを伝えたい。

 女神さま。そして神龍さまに神龍姫さま。私はこの世界にこれて良かったです。この世界をいつまでも見守っていてくださいね。私も皆さまのご期待に添えるように、最後まで頑張るつもりです。

 王妃なんて荷が重いけど……

 カインがいてくれる。助けてくれる人たちもたくさんいる。私は皆の期待に答えたい。

 最後まで走り続けるよ。 

 カインの隣で……人生を終えるまで……

 *******
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