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❪わたし15さい❫
▪リアーナ嬢とカインドル。
しおりを挟む私はお茶を飲み一息つくと、地の神龍姫さまの母親が毒殺されたことからのすべてを、一気に話し始めた。皆は真剣に聞いてくれている。しかし私は少し心配だった。まさか今日のこの場に、お義兄さまがいるとは思わなかったから。
お義兄さまは私が黙っていたことをどう思うかしら?騙されたと思われたら悲しい……向こうの世界では両親がほとんど家に居なかったから、私は長女として頑張った。もちろん妹のことが可愛くて仕方がなかったのもある。でも正直、もし私に兄か姉が居たらと思ったこともある。こちらの世界ではお義兄さまとお義姉さまが甘えさせてくれた。
だからお義兄さまの反応が怖い……
私が話し終えると、リアーナさんがお茶を淹れ変えてくれた。
「マリアレーヌさん。この国にとって新参者の私たちを信用してくれ、重大な話を打ちあけてくれて感謝する。そして異世界のマリアさん。あなたのこの世界への献身に、言葉には出来ないほどのありがとうを伝えたい。もとの世界で幸せになって欲しい。我々は君のことを忘れない。王にも秘密は守ると伝えて欲しい。本当にお疲れさま……」
「私も同じ気持ちですわ。マリアレーヌさん。本当にお疲れさま。そしてありがとう」
リアーナさんの父上と母上が私にお礼をくれる。いつもの私ならお礼なんていらないと言うけれど、今回は素直に受け取った。二人はあとは若い者で話しなさいと、先に部屋を退出した。
「マリアさん……では成人の儀のあとには会えなくなってしまうのですね。哀しいけれど、あなたにも大切な家族がいる。それに地の神龍さまも、番たる神龍姫さまを待ち焦がれている。お別れは辛いけど、私は笑顔で見送ります」
リアーナさん……本当に短い間だったけど、あなたと会えてお話が出来て楽しかった。私も会えなくなるのは寂しい……
「マリアレーヌ。いやマリア……君は体と心が違えど、私の可愛い義妹には変わらない。その可愛い義妹が、まさか嫁ぐ前にいなくなるとは……もう二度と戻っては来れないのか?いや、これは未練だな。言ってはいけないことだ。私たちの結婚式に参加して貰えないのは残念だが、私も笑顔で見送るよ……」
お義兄さま……嫌われなくて良かった……
「お義兄さま! 黙っていて本当にごめんなさい。私はお義兄さまに、騙していたと思われるのが一番辛かった……被験体で本当に辛いとき、優しく接してくれたのは、お義兄さまだけだったから……」
いつの間にか頬を涙が伝う。カインがハンカチを差し出してくれた。
「あれは当たり前のことだ。私たちは家族なんだからな。騙していたなんて、微塵も思っていないよ。両親のことも許してくれとは言えない。だが私が一生監視する。二度と悪事に手をそめさせない。だが……一番辛いのが私で良いのか? そこは違うだろう? 」
へ?私の涙が止まった。
「大丈夫です。私は知っていて婚約者になったのです。だから理解していますよ」
カイン?
「そうか? だが……」
「カインさんは己を律しているの! ところ構わずでは無いのよ。私なんて婚約破棄されたばかりなのにいきなりすぎて、皆に陰口叩かれてるんだから! 」
「人の噂もなんとやらだ! 仲が良ければ、そんな噂はすぐに消えるさ。なにせ王家が祝福してくれる結婚だからな! 」
カインが己を律している?婚約破棄?あ!もしかして!
「もしかしてリアーナさんは、私たちが仮の婚約だと知っていたの? だからカインと結婚を? もしかしてお義兄さまがとりもったのかしら? リアーナさんが婚約破棄をしたばかりだから、カインは己を律して我慢しているのね! 」
「おいマリア……」
「マリアレーヌ……」
「マリアさん……」
「こりゃ駄目だな。しかし本当に良いのか? 」
お義兄さま? いったい何が良いの?
「いいんです。私が無理強い出来ることではありません。すべては女神さまの思し召しです」
「それはそうだが……」
カインもお義兄さまもなんなのよ!もー。
「マリア? 結婚するのは私とリアーナだ。既に王家に婚約を認めて貰っている。結婚式は二ヶ月後に予定している。王家が私とリアーナの功績を認め、結婚後私が伯爵家を継ぎ次第、侯爵家に格上げしてくれる予定なんだ。父母は事実上の隠居だな。王妃に脅されていたとは言え、神龍姫さまの身体を害した。死なぬとはいえ、成長が遅延するほどの害を与えたんだからな」
お義兄さまは王家から簡単に話を聞いていたそう。もとから私が義理の妹であることや、被験体として扱われていたことは知っていた。しかしまさか私の身体と心が別もので、身体が地の神龍姫さまのものとは思わなかったという。それはビックリするよね。
お義兄さまとリアーナさんの二人が、婚約期間を置かずに早々に結婚するのは、義父母が責を負うかららしい。王さまと王妃さまも、成人の儀のあとに譲位するそう。王妃さまのしたことを二人で償いたいそうなの。義父母もそれをサポートする。義父母にも今日、王さまと王妃さまから、私の真実を伝えているそうだ。二人は研究で培った知識を使い、国民のために頑張ることとなる。
王さまと王妃さまは元気な内は各地を回り、庶民と交流し意見を聞き、孤児院などで読み書きを教えたいそう。義父母は薬やポーションを届け、農業の効率性などを伝導する。研究で培った知識を使い便利なことや効率性を広める。王族もきたる成人の儀のために、色々と考えているみたい。ってそれよりよ!
「リアーナさん!? カインとじゃないの? お義兄さまとなの? 」
「なんだ? マリアは私ではリアーナに不足だとでも言うのか? まあたしかに私には勿体ない様な素晴らしい女性には変わりないが……」
お義兄さま……
「嫌だわ。マリアさんの前で恥ずかしいことを言わないで下さい。私のお相手はあなたのお義兄さまです。カインドルさんは領地経営の素晴らしい先生です。マリアさんと共に将来もお付き合い出来ると思いましたのに、本当に残念です」
それは少し残念かも。カインのお相手が見つかれば、私も安心できたんだけど。
「お義兄さまもリアーナも、私がいなくなってもカインをよろしくね。私的には寂しくない様に、早めに良い人を見つけて欲しいの。私のせいで長く拘束しちゃったからね。でもカインならすぐに見つかるわよ! 優しいしイケメンだからね」
「うるさい! 私のことは気にするな! お前は向こうの世界の婚約者のことでも考えてろ! 」
「……解消されるのをわかってて言うの? 」
「わからないだろ! お前が大事で守るために婚約したなら、大元が解決して、愛に変わっているかも知れないぞ? 」
それはナイナイ!それにリリアと……
「ね? 仲が良いでしょ? この掛け合いが無くなるのは寂しいわね……」
「いつもこんな感じなのか?マリアが可愛らしく見えるな。恥じらう乙女ってか? 」
リアーナさんとお義兄さまが、二人でニコニコとこちらを観察しながら笑っている。
このまま過ごせればどんなに楽しいか……
でも私にはこの世界にとどまる勇気はない。女神さまに頼んだとしても、聞いてくれるかもわからない。だってこの世界には私の身体が無いのだから……
別れが辛くなる。やはり深く関わりあうべきではなかったのかもしれない……
リリア……お姉ちゃんを許して……
あなたが一番大切なのに、この世界と離れがたくなっている私がいるの……
私とカインはリアーナさんのお屋敷に一週間滞在し、領地の発展と観光資源などを見学した。
一週間後私たちはリアーナさんの家族に見送られ、湖畔の別荘へと移動した。そこは白亜の教会が併設された、可愛らしいお家だった。
「この教会に神父は常在していないそうだが、結婚式は挙げられる。神父が出張してきてくれる。今回泊まるのが、式を挙げた夫婦のための宿泊施設だな。中々可愛いじゃないか。マリア好みだろ? 」
たしかに可愛いけど……なぜにここなの?
「ほら入るぞ。一週間は二人きりだ。最後の思い出作りに付き合えよ。取りあえず飯だメシ! 出来合いをたくさん買って来たから、足の早いものから食べるぞ。まあ途中街に出て、買い物がてら補充もしよう。ほら早くしろよ」
一週間二人きり……
やだ!私ってばなにを考えているのよ。変な意識しちゃ駄目じゃない。カインは純粋に別れを惜しんでくれているだけ。
湖畔での散歩や周辺の見学なんて、友だちとだってするじゃない。二人でお泊まりだって……やっぱりしないわよ!どうしよう。意識しちゃってるのは私だけじやない……
意識なんてしちゃ駄目なの!
だってもうすぐ別れが来る。成人の儀は、帰宅したらすぐに来るのだから……
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