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❪わたし15さい❫

▪心置きなくチートをかます!

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 あれから約一週間後、第二王子の体から薬が抜けたとの報告が来た。後は精神の安定をはかるため、二日後に登城して欲しいとの連絡つきだった。

 この一週間、私とカインは王妃さまのお手伝いをしていた。王妃さまが以前城下町に運営予定だった、孤児院の開発を再度始めたのだ。敷地はもと騎士団の合同宿舎であり、宿舎が移転したため無人の建物となっていた。そこをリホームして使用する手はずで、王妃さまは人材確保に奔走していたという。

 「建物は古いけどもとが宿舎だから、部屋数もあるし集団生活には適した構造なのね」

 「そうなのだ。建物を壊すにも莫大な資金がかかる。ならばスラムにいる子供たちを、少しでも救えないかと考えたのだ。出来ればスラムごと移動させ、大人にも仕事を与えられたら良いのだが……」

 城下町にはスラム街がある。隣国との戦争の傷痕だ。そのため戦争で親を亡くした者が多く、比較的若い世代と子供が多いと言う。

 「大人は徴兵されたのでしょうが、お年寄りはいないのですか? 」

 私はつい疑問を口にしてしまう。もしお年寄りも多いならば、先に病院を手配した方が良いだろう。

 「年寄りはいない……皆……小さい子に食べさせるために、己らは食べずに死んでいったらしい。子供たちが泣きながら話してくれた。だから自分たちは、泥水をすすってでも生きるんだとな……」

 王妃さまは庶民に紛れ、スラムの視察をしたという。そこで目にした現実。それに対応しきれない、貴族政治の在り方に憤慨した。

 だが王家もなにもかも勝手に行うことは出来ない。だから王妃さまは王さまの許可を得て、ご自分の財産から孤児院予定の場所を購入した。運営については、貴族からの寄付を募るつもりだったと言われる。王妃さまは働く女性や、それを認める男性たち。とくに若い貴族に人気が高い。働き盛りの彼らは、王妃さまの考えに賛同し、計画は着々と進んでいた。

 しかしそこに宰相の横やりが入った。

 「孤児院など焼け石に水だ。王妃の道楽だ。そんな勝手なことは許されないと、貴族議会の長老たちに訴えたのだ。あやつらは頭が古くて固いからな。宰相の舌先三寸にコロリと転がったわ。リホーム業者から人材まで、すべてに邪魔をされてしまい、計画は頓挫してしまった……」

 王妃さま! 今回は大丈夫!

 「大丈夫です。今回は頑張りましょう! スラム街の世帯調査から、人口比率まで調査されていたんですね。ならこの建物さえリホームしてしまえば、スラム丸ごと移動出来ちゃいます。子供たちの働き口ならば、公爵領から内職も出せます。成人されているなら、移住して働くことも可能です。孤児院の中での人材は、孤児の中から育てましょう。女性の雇用も良いですね。敷地内に小さな礼拝堂を作り、引退した神父さんを招き、子供たちに読み書きを教えて貰いましょう公爵領の孤児院は、とても上手く稼働していますよ」

 王妃さまは一度は破棄された計画が再出発し、本当に喜んでいた。その笑顔が嬉しくて、私もついつい張り切ってしまいました!広大な敷地の合同宿舎のリホームを、魔法で挑戦してみたのです。もちろん水回りや増築や補強などは、専門家の方々にお任せです。私は要らないものの処分や掃除、さらには使わないであろう訓練所に大穴を開けました。

 「……お前の魔法はデタラメだな……普通はクリーンで新品になったりはしないし、風の竜巻で大穴を開けたりはしないわ! しかも二つもだ! 」

 出来ちゃうんだから良いじゃない。お陰で家具も新品になり、新しく買う資金が浮いたわよ。それぞれの家具がかなり傷んでいたから、今から買い換えの予算を計上すると、来年になると言われていたんだから!

 あと大穴はね!温泉なのよ。正確には鉱泉ね。公爵領の様に自然に湧き出たものではなく、私が魔法で掘削したの。もとの世界で温泉は、ほとんどの場所で、数千mも掘れば出ると聞いた覚えがあるの。この国は公爵領もだけど、周囲は山々に囲まれている。なんとなく予感がしたの。だからね。風のドリルを地面に向けてぶっぱなしたのよ。熱くはなかったけど、湧き出してくれて助かったわ。

 「その大穴から湧き出した水は、温めれば温泉と同じような成分なのよ。だから魔道具で温めているわ。あの二つの穴を整備して巨大な風呂桶にして、男女別の共同浴場にしたら良いじゃない。入湯料を貰えば孤児院の収入にもなるし、休憩所での湯あみ着製作や掃除なども仕事になる。売店や食事処を置けば、そこでも人が雇えるわよ」

 この世界では毎日湯浴みを出きるのは、まだまだ貴族のみだ。とくに庶民は自宅で体を拭いたり、魔法の使えるものは、クリーンですませるのみだという。

 なので男女別のお風呂は、体を清潔に保つためにも良いと思ったの。洗い場も広くとり、液体石鹸などの備品も、料金に込みとした。温泉から脱衣所に戻る際には、ドライの魔法を噴射する魔道具で、髪から体まで乾かしてくれる。

 温泉には身一つで入りにくればよい。もちろん、孤児院の子供たちは、営業時間外なら無料だ。個人部屋のある建物の一階にも、共同浴場と個室のシャワーは整備されていた。ここにも湧き出た温泉を通したから、子供たちはこちらでも入ることが出きる。

 「しかし大盤振る舞いだな。マリアが魔道具もかなり作ってるよな? すべて王妃さまの手柄にして良いのか?」

 「構わないよ。もとは王妃さまの計画だよ。この孤児院が軌道に乗り、女性がもっと住みやすい世界になれば良いと思う。私はそれを確認できないから、いなくなる前に出きることはやりきっていくよ」

 「そうか……」

 その後スラムの住人は、丸ごとこの孤児院に引っ越しをした。やがて孤児院の経営は軌道に乗り、スラムの跡地は緑化され、戦争で亡くなった方々を悼む公園となったという。

 あとは孤児院へ入る方々が引っ越しをするのみ。たった一週間でここまで出来てしまいました。これも王妃さまの事前の下調べがあったからのこと。王妃さまが築いていた若い人脈からも、たくさんの人々が協力してくれた。戦争は多くの人々の心に暗いかげを残していた。しかし皆、己が生きることに精一杯。スラムの子供たちのことを考える余裕も無かった。

 そこに王妃さまが介入して頑張ってくれた。庶民は王と王妃に感謝をしたという。皆、本当はなんとかしてあげたかったのだろう。

 「この話し合いが終わったら、少しは休まないか? 成人の義までもあと一月だ。我が婚約者さまとの別れも惜しいからな。少しは私にも付き合ってくれよ」

 カインともあと一月……

 「そうね。まったりと言ったら温泉しか浮かばないけど、どこか良いところは有るの? 」

 「ああ。リアーナ嬢の領地に招待されているんだ。お前もいなくなる前に、リアーナ嬢には真実を伝えた方が良いんじゃないか? 」

 それは……そうよね。この身体は地の神龍姫さまにお返しする。神龍姫さまたちは常に神龍さまと共におり、単独でも地上に姿を見せることは滅多にない。しかしもし私がいなくなり、リアーナ嬢が地の神龍姫さまの姿を見たら驚くだろう。それに私もキチンとお別れが言いたい。

 「行くわ。リアーナ嬢に、キチンとお別れをしなくちゃね」

 少ししんみりしていると、呼ばれている会議室に到着していた。

 「ほら。ボーッとしているな。入るぞ」

 カインが扉をノックすると、中から入れと返事が返ってきた。今回は扉の前にも兵士や護衛が居ないのね。カインが扉を開き中に入る。私もそれに続き中に入った。カチャリと扉の閉まる音がした。それと同時に、室内が強固な結界に覆われた。どうやら王様が魔道具を作動させたようだ。私とカインが頭を下げると、いつもの様に手で制され席に促された。

 「二人ともご苦労。貴重な時間を割いて貰い感謝する」

 私は部屋をグルリと見渡す。王さまに王妃さま。その隣には項垂れた第二王子。そして王弟さん。さらにその隣には、隣国でお会いした宰相さま。あとはお年を召した男性が一人。威厳と貫禄があり、只者では無い感じがする。皆が揃っているので、私たちが遅れたのかと謝罪をする。すると先に簡単に話を通すために、私たちより早く集めたと否定された。

 「二人の紹介もすべて済んでいる。こちらで知らぬのは……隣国の宰相殿とは会っているな。ちなみにこの部屋にはった結界は、この宰相殿の持ち物だ。マリアレーヌ嬢作成の魔道具だそうだな。見事な結界だな」

魔道具は持ち出して来てくれたのね。やはり隣国の王家に使われるのは嫌だわ。
 
 「では次はこのご老体だが、こちらは先王で私の父だ。隣国との戦争に交戦した本人だ。まあ侵略戦争だから、こちらも防戦するしか無かった。だが停戦にもちこみ、停戦条約を結んだのち、私に王位を譲り隠居した」

 「おい! ご老体とはなんだ! わしはまだまだ若いぞ! 貴様らには負けん。まったく王家の男どもは皆情けない奴等ばかりだ……」

 「……父上もその情けない王家の男ですが? 」

 「わしをお前らと一緒にするな! 」

 なんだか痴話喧嘩が始まっています。しかし確かに元気そうな方です。ですがそろそろお話を始めませんか?第二王子の頭がかなり辛そうになってますよ? 

 同情はしませんけど!

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