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❪わたし10さい❫
▪王さまとの謁見。
しおりを挟むさあ。とうとうこの日が来ました。申請していた王さまへの謁見の日です。私はドレスに着替え準備万端。すでに隣の部屋には、婚約者であるカインドルと、義父となる王弟さんがスタンバイ中。元来謁見と言うのは、話し合いの様なものではなく、王さまのお顔を拝顔するのがもくてきとのこと。こちらの意見や話を聞いてくれるかは、王の気持ち次第だそう。
冗談じゃありません!
聞かぬなら 聞かせてみせよう 王さまよ 。
その口を 開いてみせよう ぜんぶ吐け。
字余りだけど……私の今の気持ちはこんな感じです。隣国の宰相さまのお話を聞いて、王妃さまは被害者なのでは? 私の心の中では、そんな気持ちがどんどんと膨らんでいるの。
とくに双子の姉姫を毒殺した毒薬を製造した花の花粉。とても手に入りにくく、今回も苦労したと、研究者たちが話しているのを私は聞いている。この花は亡国の公国で栽培されていたもの。現在細々と栽培はされていて、高価で貴重だが入手することは可能。王妃さまはここから入手したのだろう。
しかし……栽培されているものでは、解毒薬しか作製できない。またこの解毒薬はどんな毒にも万能で、とくに作製されても可笑しいものではないとのこと。姉姫を毒殺したあの毒は、絶滅したと言われている、原種の自生種からのみ、作製されるそうだ。ならば王妃さまは原種を入手したの?絶滅すら囁かれているのに?
私は宰相さまより渡された、ルージュさんの押し花の冊子。それからこの事実を突き止めた。
もしかしたら王妃さまは姉姫を毒殺していないの? なら誰が殺したの?そしてなぜ王妃さまは、姉姫と赤子を殺そうとしていたの?
私には解らない……
とにかく元凶は王さまの気がするのよ。もちろん王弟さんもだけどね!だから私はやるよ!王さまを結界内に閉じ込めてでも話を聞くよ。私の正体をばらしても仕方がないとも思っている。しかし宰相さまは邪魔よ。顔を突っ込んで来るのなら、悪いけど見ざる言わざる聞かざるでいて貰いましょう。
背後にカインドルと王弟さんを引き連れさあ出陣だ!
「行くよ! 二人とも! 」
「ああ。頑張れよ! 親父もな」
「……はぁ……私も裁かれる側なのか? 私はなにも……」
「なにもされていないなら、堂々となさっていて下さいな。ですが私は手加減しませんよ。質問にはすべて洗いざらい吐き出して下さい。それが真実を見つける鍵ですから! 」
王弟さんは項垂れてしまった。まあたしかに王弟さんは裁かれるまでは行かないだろう。でも王妃さまを追い詰めた事実に間違いはないの。だから真実を知り、誠意をこめて謝罪をすべきよ。
豪華にそびえ立つような謁見室の扉が開かれる。中央の高い玉座には王さまが鎮座し、左右には宰相と……もう一人は王宮筆頭魔術師だったかしら?が立っている。玉座に向かう両サイドには、近衛兵らしき人々が、帯剣しズラリと並んでいた。
筆頭魔術師まで用意するなんて、こんな小娘になにをしようというのかしら?私を先頭に、玉座の前で王に対して敬礼をする。
「マリアレーヌ伯爵令嬢よ。貴女の華々しい功績が、わが国の発展に貢献しているのは我も知っておる。それには礼を言おう。して……我に謁見とは、いかような話が有ると言うのか? 褒美が欲しいのか? なにか便宜をはかって貰いたいのか? 」
王が玉座から私に声をかけた。私は両サイドの二人を、まずはどうするかと考えていた。
「マリアレーヌ嬢! 王の御前である! 王のお言葉には素早く適切に返事をせよ。王とて暇ではないのだ! 」
宰相は煩いわね。こんなにたくさんの人々の前で話して良いのかしら?
「では素早く適切にお話しします。私は王のみとお話をしたいのです。部外者とはお話をしたくは有りません」
「貴様……己の身分を考えたまえ! たかが成り上がりの伯爵令嬢が! 」
そうなのよ。私がなぜが宰相さまが嫌いだったわけ。とくに話をしたわけでもないし、顔だって遠目に見て知っていただけ。だけどそう。この人を下に見る目よ。王が絶対君主であり、己より身分が低いものを馬鹿にする。優しげな顔を見せながら、時おり見え隠れする、この瞳が私は嫌いだったのよ!ヘタレだけど、王弟さんとは真逆なんだもの。
宰相さんが腕を動かすと、筆頭魔術師がなにかの詠唱を始めた。私はすかさず己たちの周囲に結界をはり、反射の魔法を唱えた。
魔術師はイバラの蔓の様なものにグルグル巻きにされ、天井からぶら下がった。
「なんだ! なぜ魔術師が! 」
続けて喚く宰相が天井からぶら下がる。
「私を拘束しようとしましたね。私は術をお返ししただけ。反射の魔法を纏ったのです」
近衛兵が一斉に、私に剣先を向けた。私は慌てて近衛兵たちの前に、見えぬ透明な結界をはった。これであちらから私たちが見えても、声も聞こえないし近よりも出来ない。
「皆のものやめい。マリアレーヌ嬢。貴女はわが国に仇成すものではない。そう信じてよろしいのか? 」
王さま……止めてくれたのにごめんなさい。皆さんには聞こえていません。気付いた方々からあたふたしてます。
「信じて欲しいですわ。私は女神さまの聖女たる、地の神龍姫候補の双子の妹です。さらには先日女神さまより、成長が遅いというハンデを取り除いて戴きました。王子さま方からお聞きでは有りませんか? 」
王は額に手のひらをあて考え込んでいる。最近出番が無くなったけど、私の死体の回収班の班長は、あの録音は王妃さまで止まっていると言った。つまり王さまはまだなにも知らないのだろう。ならばしばし考える時間をあげます。
その間に……
筆頭魔術師さんと宰相さんには、お休みなさいをして貰います。スリープで明日の朝までグッスリよ。班長カモーン!
「おい……たしかに暇だが! 俺らは便利屋じゃないんだぞ。まあ良い。逢い引き部屋に転がして置くわ」
……起きたらビックリね。班長ありがとう。
「今のは……王妃の小飼か……ならお前は王妃の……」
「違います! 私は王妃さまに命を狙われはすれ、王妃さまの小飼や味方ではありません。ここまで説明しても、私を信じられませんか? 王は王弟さんも信じてあげられないのですか?この場に私たちが揃っている。それがなにを意味しているのか? 考えてみてください」
わたしが女神さまより、お誕生日のプレゼントを貰っている。神龍の巫女さまたちと、同日の誕生日。たとえ聖なる魔力が無くとも、なぜもしもの可能性に気付けないの?
聖なる魔力がないなら、神龍姫さまではない。
この偏見が根づよいの?たしかに聖なる魔力で候補を絞るわけだから、解らなくはないんだけど……今回は非常事態よ。身体から魂が離れている。聖なる魔力も離れてしまった。そう考えはつかないのかしら?
「王よ……いや……兄上……この娘を信じて話を聞いて下さい。我々兄弟は王妃に対して過ちを犯したのです。そのために王妃は罪に手を染めてしまった。その罪は誰のものなのでしょう。王妃だけのものではないでしょう……」
王弟さん……
「解った。煩い宰相がいないならば、人払いをして話をしよう。王妃は呼ばなくとも良いのか? 」
「王妃さまについてはまだ、お二人の証言を噛み合わせないと解らない事柄が有るのです」
「しかし王妃はなにを……」
「賓客としてわが国へ亡命していた、身籠った亡国の双子の姉姫を毒殺した容疑。さらにはそのお腹の子、地の神龍姫たる赤子までを殺害しようとした容疑です……」
私の言葉を聞き王は絶句した。
「では貴女は地の神龍姫さま……」
「この身体はそうです。ですが中身は別人ですよ。あなた方はどこを捜索していたのですか? この身体に聖なる魔力がない。それだけで対象から外した。おかげで中身の私は、かなりスプラッタな目にあいました。それでも死ななかったのは、女神さまの加護の賜物です」
私は王さまに、私がこの身体に入った経緯を話す。そして女神さまとの約束も……
「私は王妃さまを信じたいのです。だからあなた方に真実を話してもらいたい……」
私たちは仕切り直し、午後から話し合いをすることにしました。
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