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❪わたし10さい❫
▪私は美人な看板娘。
しおりを挟む私……十歳になりました。当日には何故か王妃さまの主催で、私のお誕生会が盛大に開催されました。伯爵令嬢としての身の丈に合わないような、本当に盛大なパーティーだったのです。ズラリと居並ぶ来賓の顔ぶれにビクビク。義理の両親たちなんて、すっかり萎縮してしまっていました。
しかし! 頼りになるのが我が婚約者さまです。さらには王弟さま!カインドルは私をしっかりエスコートしてくれますし、義父となる王弟さまも、良からぬ人物から守ってくれます。
『私は大丈夫よ。死なないのは解っているじゃない』
『だが! 誘拐を目論む不届きものも多い。カインドルをしっかりと貼り付けとけ。コバエ避けと盾くらいにはなるだろう』
『親父……酷いな……』
王弟さまには総てをお話しました。それにより、私にも欠けていたピースがかなりはまったのです。王さまと王弟さま。そして王妃さま。三人の絡まった赤い糸は、当事者たちで解決しなければなりません。
王弟さまはすでに覚悟を決めた様です。現在私は王さまに謁見のための申請を出しています。王さまにある程度の事実を伝え、王妃さまの誤解を取り除きたいのです。
そして……
約五年後の大事に備えて欲しい。王妃さまはなぜ、地の神龍姫さまの母親を毒殺したの?しかもお腹の子まで一緒に……
王さまの浮気による嫉妬では無いようです。毒殺されたというこの身体の母親は、側室ではなく賓客扱いになっていました。なぜそれを側室扱いにしたのかは知っていたけど、毒殺した理由までは知らないからね。
この世界の神である地の神龍さまにとって、番を害されたことは許せない事柄だろう。だけど地上での理に、神である地の神龍さまが手を出せないのも事実。現に地の神龍さまは、数度にわたり番さまと出会えていない。
真実を知ったときの地の神龍さまの怒りはいかほどなのだろう。きっとどんな理由があれ、王妃さま一人で贖える事柄ではない。
違うわ……
例え手を下したのが王妃さまであったとしても、それをさせてしまった周囲にも多大な責任があるわ。だからこそ!私は王さまにも話す決断をしたの。王妃さまをそこまで追い詰めた責任は、周囲のものたちで取らなければならない。
王妃さまは沈黙を守っている。私に刺客を送ることも無くなった。以前に私の回収班の班長が伝えた、録音したものが効いたらしいの。
実は王妃さまは精神感応力が強いのよ。だから私の精神体をなんとなく感じてしまうの。新薬が完成した後に、なぜかビクビクして私を避けていたことがある。あれはやはり女神さまの、長目のご褒美の際の悪戯に気付いたみたい。
実は五歳のお誕生日に神龍姫さまから下賜された焼き菓子。ハズレで夢の中で会えると言われたけれど、夢の中イコール精神体なの。残念ながらなぜか、まだもとの世界には行けていないんだけど。それでも時おり夢の様に体から抜け出せる。どの様なときにぬけだせるのか、まだ仕組みは解らないけれど、城内でなら探偵ごっこも出きる。私はときどき城内をフワフワと浮きながら、色々と調べたりしてるのよ。
でもね? ちょっと不味いかな?一部で幽霊の噂がたってしまったの。幽霊退治を呼ばれないように気を付けなきゃ。
この時代のエクソシストは怖いのよ。魂を捕獲し完全に滅するんですって。生まれ変わりの輪廻にも入れない。完全な消滅よ。私ってば魂だけの状態だから心配だわ。女神さまの加護は大丈夫よね? ドキドキしちゃう。
さて。そろそろカインが迎えに来る時間です。今日は傾国の美女でも、溪谷の美女でも有りません。公爵領の宣伝ショップ。【レーヌ】の看板娘です。さあ制服に着替えて、カインをお迎えしましょう。
ちなみにこの制服も販売しているんです。庶民のみなさんに、毎週かけ変えるフリルエプロンが可愛いと大人気なの。この世界では腰下エプロンしかなかったそうよ。子供用も作ったら、お手伝いが大好きになったと一大ブームになりました。とにかく見て欲しいな。ショップは大盛況。今では公爵領は、一大生産地として成り立ち始めています。
あの第三姫さまのお輿入れのための夜会。もちろんそれまでも、私はテディベアを抱えて、カインと供にお茶会へと参加した。お茶会では可愛らしいと評判になり、販売されたら購入したいと言う方々も多かった。そして夜会では姫様と婚約者さまが大喜びしてくれたのです。今までは、結婚衣装を着た縫いぐるみという観念さえなかったそうで……
花嫁と花婿のどちらの縫いぐるみにも、衣装だけでなく、本物のパールと宝石をアクセに使いドレスアップ。花嫁にはミニブーケ。花婿にはミニ宝石箱。それらを手に持ちケースに鎮座している。宝石箱の中には結婚祝いのメッセージと、子どものクマかウサギさんの予約券。
【第一子が誕生しましたら、性別に合わせてお作りします】
皆さま素敵だと絶賛してくれ、ご本人たちも大喜びしてくれました。ご成婚後……第一子はクマさんでした。続いてつい先日第二子に姫さまのが誕生したそうで、是非この子のウサギさんもとご注文をいただいたばかりです。
おかげで公爵領の人々にも自信がついて、皆でバリバリ頑張ってくれてるよ。
川沿いの温泉も整備され、魔物避けと転移門もバッチリ配置。温泉の効能を鑑定したら、湯治に最適らしいから、施設を幾つか分けて作ったの。まずは湯治のためにのんびり出きる宿泊施設と、日帰り入浴出きる施設ね。日帰りは山に採取に来た人々に人気よ。魔物避けをしっかり配置したから、山から海までの道を整備して、一般の冒険者にも解放したの。時おり暴れグマも出るし、海には魔物化した魚類がいる。海や山の奥には己に自信のある冒険者しか挑戦出来ないけれど、溪谷内ならば大丈夫。レシピを購入した冒険者が、渋柿を採取に来たりもしてるわ。公爵領が定期的に間引き卸している暴れグマと角ウサギの素材もあるから、冒険者ギルドが無料で溪谷入り口に出張所を作ってくれた。冒険者として溪谷へ入るには、このギルドで入場料が必要。但しギルドに貼り出されている依頼書を、一枚でも受ける場合は無料となる。
でないと取り尽くされてしまうからね。
それから高級宿も作りました。これはお貴族さま用に、少し離れた静かな所に作ったの。セキュリティなんかの都合もあるから、長期滞在は無し。会議やお忍びなどで数泊限定。ほとんどのお客さまが海鮮目当てだから、ご飯食べて温泉入って寝てお買い物して帰る感じ。
内緒だけど、大臣様方の会議や慰労にも使われてるの。会議で出す日替わり海鮮弁当に、頭の拾うには暴れグマ饅頭。体の疲労を温泉で癒し、明日からまた頑張るぞー!なんですって。
そんな感じで公爵領はかなり栄えています。城下町に出稼ぎに来ていた男衆も、公爵領て新たな仕事を見つけて喜んでいる。毎年仕事にあぶれている方々も多かったみたい。
「おーい。マリアー! まだかー? 」
やだ! 待たせちゃったかな?
「ごめん! 今行くー! 」
今日はこのクマちゃんね!私はズラリと並ぶ小さめのクマちゃんを、腰の両サイドにあるポケットに入れる。入り口にある大きめなクマちゃんを、小脇に抱えて走り出す。
「お嬢様! 廊下を走らないでください! また転びますよ! 」
やっばーい。執事さんってば居たのね!
「はーい。行って来まーす」
「行ってらっしゃいませ」
「カインお待たせー」
「クマだらけだな……」
「宣伝ですから……なんならカインはウサギだらけに……」
「やっ止めろ……それだけは止めてくれ! 私だって協力はしているだろう……」
たしかに協力はしていますね。カフスやピンはクマさんです。しかしウサギさんが有りません!良しならこれを!
「ちょっと屈んでくれる? 」
カインが屈んでくれる。私は鞄から小さなケースを取り出し、中身をカインの両耳に止めた。
「なんだこれ? 」
「最新作のサンプルでーす。誕生石を配した、暴れグマと角ウサギのピアスなの。恋人同士で片方ずつ交換し、互いに付けあったら素敵よね。サンプルだから私とカインので作って見たの。クマがカインの石で、ウサギが私のよ」
「…………」
「お揃いでネックレスや指輪なんかも作るから、たくさん宣伝してね」
「……ウサギの方は、マリアの誕生石なのか? 」
「当たり前じゃない」
「どちらのだ? 」
え?どちらのって……
「この体のお誕生日の誕生石よ。異世界の私のでは、宣伝にならないじゃない」
「そうだよな。私もなにを思ったのか解らん……」
「カインも忙しくて疲れてるんじゃないの。明日はお店は定休日だし、久々に温泉でのんびりする? 海鮮食べてゆっくりしましょう」
「そうだな! 良し! ほら行くぞ! 美人な看板娘の登場を、皆がまだかとお待ちかねだ! 」
この五年の間に公爵領の宣伝ショップは、城下町一の商店にのしあがり、現在は国一番の商店となっています。私は商品開発に売り子にと大忙し。カインや王弟さんと奮闘しています。
まだまだ頑張るぞー!
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