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❪わたし3さい❫

▪私泣いてないよ?あなたこそ……

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 あーあ身体中が痛いな。今回は爆弾かな?このタイプの痛みははじめてだなぁ。何て言うんだろう?身体がスライムみたいになって、お餅みたいに噛み砕かれたり、みよーんと伸ばされたり、さらには圧縮されて潰され捏ね回されるまたいな……とにかく身体も痛いけど、神経も途切れまくってキツい。気持ちも悪いし……王妃さまからの刺客はたいてい毒か刺殺系だし、他国は誘拐がメインだし。痛くてもこんなにひどいことはなかった。

 まさか爆弾が飛んでくるとは……

 しかし治療班も手を抜いてない?どうせ死なないからって、治療の手を抜いていませんか?確かにほっといても直るけど、治療があれば痛さも減るし完治も早いの! しかし今回は痛いな……よほどスプラッタになったの?

 隣室の控え室から声がする。声からして義父母はいないけど、いつもの回収班の班長はいるみたい。あんなに遠慮なく人をゾンビだの言うヤツはアイツだけ!

 『しかしゾンビ姫はすげえな! あのぐにゃりのグチャベチョを、バケツで拾った俺に感謝して欲しいわ。しかしありゃもう神の領域だな。女神さまの加護付きなんじゃねえの? あんまり無下に扱うと天罰が下りそうだ。王妃はその点考えもしないのかね? まあ、俺は殺す側で無くて良かったわ』

 『ですよねー。死なないのに殺せなかったのかと、間者たちは首ハネられるんですよ。私もさすがに今回のスプラッタ見たら、再生は不可能だと思いましたが……今日の奴らも短い命でしたね……』

 『だが今回は王妃さまではないんだろ? 他国なら殺したら益がない。まさか王弟の息子を狙ったのか? 残念だが昼行灯のボウフラの息子は、大物にはなれん。出る釘は打たれる。だが特に活躍もしていない……』


 やっぱり彼は王弟さまの息子さんだったんだね。しかし暇なんだろうけど、男の癖にペラペラ喋るな。ゾンビ姫ってなによ!しかしビックリ。グチャグチャになりかけたから、ある程度くっつくまで培養液の中にいたの?一週間で見た目は人間になったと……女神さま……加護の強め方を間違えています。グチャグチャになっても再生して死なないのではなく、グチャグチャにならず死なないようにして欲しかったです。

 贅沢を言ってはダメですね。トホホ。

 しかし酷い言い方よね。私は人間ですよ?

 でもこれは……不味い!もう声は出るよね?

 「おーい! お隣の方たちー! ゾンビ姫ふっかつーう! バッチリ起きましたよー。 お願いだから私と一緒にいた王弟さんの息子さんを消さないで! せっかく助けたんだから! 殺したらこの世界ぶち壊す! バケモノ! 人外結構! だから殺すなー!消したら王妃を呪うからね! 王も同罪よ! 王妃は心当たり有りまくりのはず。私には構うな!それが唯一の保身だぞ! 」

 私は隣の部屋に控えている、回収班の班長や、研究所の職員に向けて大声を出す。ついでとばかりに、風に声をのせ拡散する。王妃が後宮にいれば、私の声が風に乗り聞こえたはず。部屋の周囲がドタバタと慌ただしくなる。さーて。そろそろ私も大御所にお目通りしたい。

 しかし王妃は頑なに出てこない。何故なの?頭の上に回収班の班長の大きな手の平が乗った。

 「王妃はゾンビ姫が怖いそうだ」

 「うるさい! まあ王妃はこれ以上罪を増やさなければ、今は構わないけど……」

 「王妃は己の罪に気付いている。そして悔いている。だが遅すぎた。それを認めたくない。だからお前ともあいたくはない。本能的にお前の正体を、怖がっているんだろうな。正直我々だって怖い。不死なんて信じられん。だがお前は神龍姫候補と双子だ。さらには三歳児とは思えぬ頭脳に魔力。普通なら女神の眷族だと思うのが……これは俺だけの考えだ。忘れてくれ」

 「異能をもつものは、本人次第では、神にも悪魔にもなれるってことね。私はどちらかしら? 取りあえず、王弟さまの息子さんはどこ? まさか殺してなんていないわよね?

 「三歳児が恐ろしいことを言うな! 別の部屋に鎮静剤などを投与して寝かせている。かなり吹き飛ばされたから、打ち身と打撲が凄かった。しかしほぼ完治しとる。問題は精神的なものだ。目の前でお前が木っ端微塵だからな。さすがに今回は見慣れた俺でも……うぇっぷ……」

そうだよね。ごめんなさい。

 「私は死んだと伝えたの?」

 「いや。起きると暴れて死のうとするんだ。だからベッドに繋ぎつけ、安静第一にしている。何も聞く耳を持たないんだ。だから何も話していない。お前がこのまま起きなかったら、たぶん地下牢行きだった」

 なんで!なんで牢屋に入るのよ!

 「私たちは被害者よ! 爆弾は王弟さんの息子さんの背後から飛んできた。私からは丸見えだったの! もしかしたら私ではなくて、彼をねらったのかもしれない。なのになんで牢なのよ! 」

 「お前が王妃にとって最重要人物だからだ。殺されるよりましだろうが」

 な……なんで?どうして?

 「言葉のまんまだ。お前は王妃の命を握っている。王妃はお前が怖い。だから懲りずに刺客を送るがお前は死なない。まあ俺ならここで諦める。だが王妃は諦められない。何故か?簡単だよな?不死たるお前の正体を知ってるんだろ?だから恐れている。王弟の息子も殺さず牢に入れろとの指示だ。お前が起きたらどうなるか?殺したいけど殺せないほど怖いんだよ」

 「だったらさっさと罪を告白したらどう? 私は約束の日までのんびり過ごせるわ。王妃の命は保証できないけど。さすがに現状で罪を告白したなら、地の神龍さまに瞬殺されるでしょう」

 「やはり……そちらの関係者か……」

 「別に隠してないから。すべて話して大神殿で成人の儀まで待つのも良しと言われてる。でも私だって女神さまに願いを叶えて貰うの。だからなにもしないでいられないじゃない。だから王妃さまに言って」

 「私は成人の儀まで貴女の罪を問いません。だから己なりに反省してください。私が怖いのは、私が王妃さまの罪を知っているから。でも私は貴女を断罪しません。私には人を裁く権利はない。だから成人の儀までに、女神さまにキチンと懺悔できるように、心を整理して欲しいの。貴女の心の凝りは、私が少しでも崩してあげる。王さまも王弟さまも、キチンと反省させなくちゃね。王妃さまは正しかった。でもお人形じゃない。本音をぶつければ良かった。でもこの世界の女性にはまだまだ難しいんだよね。自由がない。まあ私にもいけすかない婚約者がいるけど、いざとなりゃ逃走するし! それにこの世界ではミニスカートとかはいたら、皆卒倒しそう。ドレスが普段着ってウザいのよ」

 班長がなにかを操作しながら、私の話を聞いていた。ついつい成り行きで重要なことまで話してしまったけど……この人は大丈夫。なぜかそう感じられる。それにいい加減、王妃からの刺客がウザいのよ。どうせムリなのが解っているなら、私が王妃の精神安定のための刺客送りに付き合う義理もない。私が死なない身体なのがバレて、首ちょんぱされる刺客たちも増えずにすむ。成人の日まで互いに不干渉でいましょう。

 「了解。これに録音させて貰った。必ず王妃さまに届けよう。これは王に聞かせても良いのか? 」

 へー。録音機なんてあるんだね。ふんふん。錬金術で作るの?錬金術って奥が深いなぁ。

「私は構わないよ。でも王妃さまに今はその勇気がないと思う。王妃さまに任せる。成人の儀まで待った方が無難だと思うよ」

 なっなによ!いきなりジロジロ見るな!

 「しかしなぜ女神さまはこんなチビの身体に……」

 「あ!もしかして私が女神さまの使徒とか遣いだと思ってるの? それ違うから! 私はたまたま頼まれただけの普通の人間だから。大切なのはこのチビな身体なの。だから王妃さまにも、木っ端微塵はやめて欲しいと伝えて。あ!そうだこれに書くわ。オマケね 」

 私はサラサラと紙に言葉を書き鶴を折る。

 「録音機と一緒に渡して。これは折り鶴っていうの。たくさんの人たちでたくさん折って、千羽繋げて願いをかけるの。今回は一羽だけど、私の願いをこめました。広げると中にアドバイスが書いてあるから。よろしくね 」

 【愛する女性の身体が木っ端微塵になるのは、さすがに中身が違っても辛いと思う。痛みは私が代理で受けられるけど、害した事実は変わらない。神龍さまがしったら怒りも増えるしきっと悲しむよ。貴女も大事な人が傷付いたら辛いよね? だからこの身体を狙うのはもう止めて欲しいです。愛称ゾンビ姫より】

 さてと!では王弟さんの息子さんに会いにいきますか!取り押さえ要員には……ちょうど班長がいるじゃない。ふふふ……

 「班長。王弟さんの息子さんの所へ……「このクソチビガキが! 大人を庇うな!うわーマジで信じられん!あのグチャグチャが……」……ってなぜここに! 」

 部屋のドアに手をかけた私の背後から、なぜか王弟さんの息子さんの声が被さる。

 「ゾンビ姫ー!! 本当に死なないんだな! 生きてたんだな! あんなにグチャグチャになったのにーー! 」

 ちょっと!痛いってば!ギュウギュウ抱き締めないで! ついでにあなたまでゾンビ姫呼びはやめい!しかもお前はいつからここに!

 「この部屋は二つ繋がった個室だ。ブラス我々がいた待機室つき。ここのドアで行き来する。コヤツは隣の部屋にいた。お前の声はデカい。たぶん最初から聞いていたんだろう。しかし実物がピンピンしていてたまげたという感じだな」

 「……ベッドに固定していたんじゃないの? 」

 「しているぞ……」

 確かに……足が鎖でベッドに……あーおトイレに行くための余裕ね。私はてっきり動けないように大の字に固定かと……

 でもこの人が死ななくて良かった……

 私的にはこの人が一番の被害者な気がしていたから。でも本当に元気そうで良かったよ……

 死ななくてよかったよー。

 「ゾンビ姫ー! なんだ? どうした? 気分が悪いのか?ん?まさか泣いてるのか? 可愛くない事ばかり話すくせに、意外に可愛いとこも有るんだな。俺のために泣いてくれるのか……」

 「貴方が助かって良かったよ……でも私は泣いてなんていないよ」

 ギュウギュウと抱き締められる腕の中で、つむじに何かを感じて彼の顔を見上げる。

 あ……私ってば泣いてるよ。みあげたら涙が頬を伝わり落ちてくる。でも私だけじゃないね。

 「……貴方も泣いてるじゃん。お揃いだね」

 「おう! 子供が死にかけたんだ! ガキは遠慮なく泣け。男だって泣きたきゃ泣け! おっさんは後ろ向いててやるわ。ほら泣け! ほら! お前も遠慮するな!十代なんてまだまだ子供だからな。ほら泣け! 泣きわめけー!  」

 もう。班長ってば……

 この日。私は心の底から泣いた。たとえ死ななくとも、バラバラになり再生した。その精神的苦痛には耐えられなかったみたい。

 王弟さんの息子さんも、男泣きしていた。理由は教えて貰えなかった。

 *****
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