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❪わたし3さい❫

▪また死にました。ちーん。

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 只今私……とても素敵な男性にマジマジと見詰められています。いやん。さすがの発育の悪い三歳児にも、イケメンオーラは感じられます。

 「お兄さん? あんまりジッと見ないで。恥ずかしくなっちゃうから……」

 変だなぁ。この人は十五歳くらいだよね? 今日は王弟さまが家庭教師として来てくれるハズだったんだけど?この世界の人って、体格が良すぎていまいち年齢が読めないのよ。うーん。この人は誰なの?

 「あなたは誰なにょ? 王弟さまじゃないにょ!  」
 
 「凄いな……これもそれも……すべての意味を理解しているのか?」

 ……ちょっと!私の大事な絵本や本をグチャグチャにしないで!それは痛くて苦しい治療の被験体をしたときのご褒美なの!この世界では印刷技術があまり進展していないみたいで、活字の本がめちゃ高価なのよ!

 家族にお願いして、やっと買って貰ってるの!最近は私が文字を書けるようになっからって、これ幸いと私に絵本の写本をさせるのよ。印刷のキチンとした絵本ではなくて、色付きの版画で作った絵本モドキの、セリフや文章の部分だけを書き込むの。これらは絵本より安価な娯楽本として、庶民にもかなり出回っている。

 しかし……さすがにまだ五歳にもならない幼児が字を書き込んでいるとは思わないだろう。でもこの分はお小遣いとして貰っているからね。ノートや文房具を購入して貰うんだけど……これもまたばか高いのよ。真面目に内政チートとか出来ないかしら?なんて、ちょっと考えてしまったわよ。でも鉛筆や消ゴムの材料とか、ましてや作り方なんて私が知るわけもない。内省的チートは無理ね!なーんて考えていたのだけど、この世界には魔法があるのよ!しかも錬金術も!私はかなりの魔力持ちの上、全属性の魔法を使えるというチート付き。それに錬金術を合わせたらチートどころじゃないわ!そこで思い付いたの!鑑定魔法よ!またもとの世界に行けたとき、欲しいものを鑑定してくるわけ。試してみたらデータ化が出来たのよ! さらには研究者に頼もうとしていた再現も、錬金術で自分で出来ちゃった。私は義父母の研究室はフリーだし、先生がたくさんいたの。みな私のことを気味悪がってはいるけど、やはり見た目には敵わない。見た目三歳児以下のヒョロガリむすめを、邪険に扱いたいわけがないのよ!

 てなわけで現在私は、やりたい放題している。

 写本代金をどのくらいピンはねされているかは解らないけど!自分の錬金釜が欲しいと頼んだら、物凄く量を増やされたけど……

 連勤釜での第一号は鉛筆を作ったよ。他にサインペンに消ゴムね。私の仕事も楽になったの。でもまだ外には出していない。じつは王弟さま次第では、彼の手柄にしたいと思っているから。王弟さまは公爵位をもち、領地は山間部の鉱山に囲まれた土地のみ。通常は代官に任せ、己は王城で働いている。今は領地は息子さんが祖父母に助けられ統治しているそう。

 あれ?王弟さんの息子と現王子や姫はいとこだよね?てことは、この体も血が繋がっているんだね。 まさか領地の祖父母ってのは、退位した王と王妃さまなの?

 ……違うや。たしか前の王さまは、凄い女好きなんだって聞いたよ。だから王位継承で揉めぬようにと、忘れ去られていた様な法を掘り出してきたって。継承権は正妃腹のみってやつ。さらには後宮の女人を常に入れ換えるために、子を産むと臣下へ下賜してしまう。つまり王弟さまの母は、出産後臣下に下賜され再婚した。今の王さまとは腹違いなのね。あれ?つまりは祖父と王弟には血の繋がりはないの?

 ……無いな……

 現公爵家当主は王弟。この公爵家は、王弟が臣籍降下するために新規に作られた。領地にある侯爵家が代官をしていて、その当主と母が再婚している。当主には前妻に息子がいて、すでに後継者と指名されている。ふーん。なるほど……侯爵家は王家と血が近いんだね。王弟が成人するまでは、侯爵が後見人として支えていた。今はその息子を後見人として支えている。

 でもこれってどうなの?キチンとしているようだけど、私にはドロドロメロドラにしか思えないよ。前の王さまを考えたら、現王はましなのかしら?

 この体の母を捨て置いたけど……

 でも現在王妃さま以外の、お手つきの女性はいないらしい。前王ももとはそんなに酷い浮気性ではなく、女性が好きならばどうぞと勧められ、政治的なことで増えてしまった。そのため後宮で捨て置かれるよりはと、女性から願い出れば、再婚相手を見繕ってくれたそう。

 どっちもバカじゃん。裁ききれないから断わりなさい! 

 んぅ?……うーん?あっ!あーもしかして!

 「王弟さんの息子さん? 私はお父さんに頼んだにょ! 失礼なガキはイヤだにょー!  」

 私は一応。現在は伯爵令嬢としての普通の日常生活を送っている。呼ばれたら義母や家族とお茶会へ。暇なときは刺繍やレースあみを習う。十歳になったら学園にも入れる。約五年間通い、高等科が更に三年。だが貴族の子女は、五年通わず結婚する者がほとんどなんだって。だから毎年、学生が催す卒業パーティみたいな催しがある。ここで王弟さまはやらかしちゃったの。プラス義父もね!

 義父母は相変わらず研究所で働いている。しかし新薬完成で有名になってしまったため、役職も上がり、扱いも良くなったらしい。

 まあ……王妃が元気な限りは大丈夫でしょう。義父母を切り捨てるのは簡単だろうけど、王妃は生き証人たる私がこわいはず。未だに懲りずに刺客を送ってくる。

死んだ振りが上手くなったよ。さすがに不死とは刺客に伝えていないみたい、だから死んだ振りが有効なの。戻って私がピンピンしていて、刺客のみなさん首ちょんぱ。

 死ななくてごめんなさい。でも私は死ぬ訳にはいかない。というより死ねないの。そんな私を殺そうとした己に懺悔し、いつか輪廻の輪に入れますように。

 治験薬のモニタリングはまだまだしてるよ。

 たまに死にそうになるけど……

 月に数回は寝たきりになるけど……

 少しでもこの世界に私の足跡を残したい。義父母は普通に働き生活し、私も研究以外は普通に生活させて貰っている。このままなら……何事もなく、無事にこの身体を、地の神龍姫さまにお返しできそう。でも返して終わりと言うわけにはいかない。

 裁きは女神さまと神龍さまがするのだろう。だけど……罪を犯した人たちの心も知って欲しいから……私はこの世界を去るまで頑張る!

 この身体を借り物なんて思わない。だって今は私のものだから!

「これはマジに天才なのか? それともお前は人では無いのか? 」

 はっ!この人のお話をまったく聞いていなかったよ。やだ。どうしよう。

 「私は天才なにょ? 本がお友だちなの。 傷付けたらダメにょ! 」

 「そのにょは止めろ! 親父も言っていたが、絶対に可愛い子ぶりっこしてるだろ! まったく似合わん! 巨大な猫を下ろして普通に喋ろ!この人外が! 」

 ……ひどい……酷すぎる……三歳児に人外って……

 「ワタチは人間です! しなないけどにゃ! 」

 なんだか顔を真っ赤にして怒っているから、可愛い子ぶりっこ第二段!にゃんこのポーズよ!侍女が今日のお洋服にはこのポーズよ!と教えてくれたの。やはり私はこの世界の人々より、かなり成長が遅れている。だから体を締め付けずにゆったりした服を!たくさん食べてたくさん動いてくださいって!

 「見てみて! この遊び着特注なのー! ほどよく体型にフィットし、たくさんの隠しポケット付き。可愛い尻尾は触っちゃダメ。三角お耳をピョコンと立てたら、秘密の声だって聞こえちゃうんだぞー! 」

 「…………」

 「にゃんにゃん!にゃんこふくー!白、黒、三毛、トラ色々あるんにゃー! 」

 隠しポケットをゴソゴソし、キャンディーを一つ取り出す。

 「お近づきの気持ちにゃ。どうぞ」

 右の手首を掴んで、手のひらにキャンディーを乗せた。……あれ?こっちに向かってなにか光る物が飛んでくる!ナイフ?違う!あれは!

 私の力じゃ間に合わない!私は両手に魔力をため始め、術を整え男性に向けて投げつけた!

 「痛いけど我慢して!なるべく遠くに逃げて! ウィンドサーフ! 風よ! 結界にてこの者の身を包め。風の力よ。木々の合間から遠くに逃がして!」
  
 手のひらから魔力を放出し、私もその場から離れる。やっぱり無詠唱を覚えなくちゃダメだね。というか三歳児の身体に無理があるの!しかし爆弾投げられるのは始めてだよ。お城の警備はどうなってるの?杜撰すぎるわよ!でも今回の刺客は私を狙ったの?

 ならば私の目にはいる位置からなげるなよ……

 いったーい! あーあまりグチョグチョになりませんように……

 第一発見者は王弟の息子さんになると思うけど…… あまり酷いと棺で蘇りーなんてホラーになりかねないからねぇ……

 ん?あ!大丈夫そう。白衣の集団が……彼らは私が危機的な目に合うと参上する隠密モドキなの。死体の回収を宜しくなのー!!

 でもね……やっぱり……い……痛い……苦しい……また……死ぬのね……

 わたしだって! なんども死にたくなんてないわー!

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