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異世界
22. 別れの時(テロークの街)
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マヴェーラ大陸のほぼ中央に位置するチェントレの街は、大陸の中でも1・2を誇る大都市である。
そしてここには、『治癒師の神殿』と呼ばれる場所がある。
神殿には特に治癒系魔法の得意な人間が集まり、やって来る人々に治癒を施していた。そこでは、怪我や病気、精神的なもの、心理的なもの。あらゆる症状に対しての治療が施される。
そんな治療のひとつに、“魔力調整“と呼ばれるものがある。
通常、正しく交合が行われていれば自然と簡易的に魔力調整がなされるのだが、様々な理由から魔力循環を拗らせる者が出て来ることがある。そんな患者に対して、体内の魔力機関を魔力の目で目視出来、なおかつ交合によってきちんと調整するのが“魔力調整“である。
ただ、この“体内の魔力機関を魔力の目で目視“出来る能力と言うのが、特殊スキルなのである。
かなりの魔力保有量があり、魔力の扱いに長けていて、なおかつ適性があること。それが“魔力調整師“になるための、絶対条件だった。
この“適正“は、例外はあるものの、主に遺伝で受け継がれる。
そのせいもあるのか、この遺伝子を色濃く受け継ぐものは、自分と同等かそれ以上の魔力を持つ者を交合の相手として本能的に求める。しかしそれほどの魔力保有量を持つ者は、そうそう居らず。結果、いつの間にか近親交配が続き、種として弱くなっていき・・・。
今や“魔力調整師“は絶滅危惧種であった。
最近は魔力保有量の多いオーク族もチェントレまでやって来るようになった為、少しずつ調整師人口は増加してきているが、大陸全体で見れば到底充分とは言い難い数。
時々大陸中のギルドにも声をかけて、魔力保有量の多い人間を神殿に“奉仕活動“の為に回してもらっている。
“奉仕活動“とは、魔力調整師の男女との間に子を生してもらう活動のことを指す。
イルザに呼ばれて、オウガやジエロと共に彼女の屋敷に顔を出すと、奥のダイニングルームに通された。
そこには初めて見る種族の男性が、ふたり居た。
造形は人間だけど、肉球にあたる指先や手のひら、唇以外はほとんど毛に覆われている。服はハーフパンツを履いているだけで、他には何も着ていない。
全身真っ白の毛で覆われて人はなんだかとろんとした目で眠そうにしている。
黒と銀色の混じった毛の人は、白い人より背は低いけど、吊り目がちでちょっと目つきが鋭い。
・・・なんて観察していると、鼻を僅かにひくつかせながら黒銀の人が手を差し出して来た。
「初めまして。俺は獣人族のケイン。で、こっちはガット」
「あ、初めまして」
慌てて手を差し出して握手をすると、ケインは少し気まずそうな顔をしながら手を離した。
オウガとジエロは知り合いみたいで、握手はせずに何やらアイコンタクトを交わしている。
「まぁ、あなたたちもその辺に座りなさいな」
相変わらずロッカの膝に抱かれているイルザが、彼女の近くのソファを指さした。
「まずはリサ、うちの子猿が手間をかけて申し訳なかったわね。なのにちゃんと調整してくれて、感謝してるわ」
「あ、いえ。オウガの協力があって初めて出来たことですし」
イルザの“子猿“発言が自分のことだと気がついたジエロが不貞腐れた顔をしたけど、誰も相手にしない。
獣人族のふたりも、そわそわしながらも黙って聞いている。
「で、ジエロはオウガが神殿に連れて行くことにしたのよね?」
「あぁ。転移陣は使わずに、歩いて行く。その時々で、必要な魔法を教え込んでいこうかと思ってる」
「リサはどうするの? 連れて行くの?」
当然一緒に行くものだと思っていた私は、イルザのその言葉に思わず「えっ?」と声を上げてしまった。
「私は一緒に行くつもりですけど・・・、何かマズいことがあるんですか?」
「リサは魔力調整が出来るけど、ちゃんとした手解きを受けて、手順に則った調整ではないのよね。言わば、モグリね。神殿に行ったら、多分一から手解きを受けることになると思うわよ」
「なら、オウガからきちんと学びます」
「そのオウガには、他にやらなければならないことがあるでしょ?」
「? 神殿に着いたら、ジエロの教育は神殿に委ねられるんですよね? ならその後にでも・・・」
「オレも、それで良いと思う」
「オウガ」
イルザが、オウガにキッと目を向ける。
「オウガ。何か忘れてない?」
「ん?」
「神殿の調整師のエイリーって名前に覚えは?」
「・・・あ」
「え? 何??」
オウガ目を見つめるも、オウガは渋い顔をしたまま目線を合わせてくれない。
「エイリーって言うのはね、神殿で暮らしている調整師のひとりなんだけど、2年ぐらい前に、後継者を産む為のその娘のパートナーとしてオウガが指名されたの。
でも魔力量が合わないせいで1回目は身篭ることが出来なくて、エイリーが魔力量を増やしてから次の彼女の発情期にもう一度オウガが相手を務めることになってたんだけど、神殿からの“奉仕活動“要請を無視して、それ以来一度もオウガは神殿に行ってないのよ」
「後継者を、産む為?・・・身籠る・・・?」
「だってあの後にリー・・・、リサに出会って、看病とかしてたからそれどころじゃなくて・・・。忘れてた」
「あなたに合わせて魔力量を増やしてしまったせいで、エイリーはそれから誰と組んでも身篭れなくなってしまったらしいわよ? 肝心のオウガはいくらメッセージを送っても読んでいる形跡すら無い、って困り果てて、彼女、私の方に連絡を寄越したんだからね?」
「・・・神殿からのメッセージは、面倒だからひとつも開封してない」
「一応あなたも調整師なんだし、調整師としての師匠も神殿の人なんだから、挨拶がてらエイリーとの約束を果たして来なさい」
イルザに一喝されて、オウガがため息をつく。
一時停止していた私の思考が、ゆっくりと動き始めた。
え、待って。それって、つまりオウガがエイリーを孕ませてくる、ってこと・・・?
こちらのフリーセックスな感覚には随分慣れたつもりでいたのに、またひとつ、新たな苦難が目の前に聳え立った気がした。
「・・・ツガイが居ても、他の女性を孕ませるのですか? ツガイの私だって、まだ妊娠してもいないのに?」
呆然として尋ねる私を、オウガは困った顔で見つめる。言葉を探しているけど、見つからないような感じで。
そんなオウガの代わりに、イルザが答えてくれる。
「正直、孕ませる相手がツガイだけ、とは限らないわね。
子供が欲しいと思えた時に、この人との子供が欲しいと思える相手に発情期のパートナーになってもらって、膣内浄化をせずにセックスする。上手くいけば、妊娠する。魔力量とか相性の良い相手ほど、妊娠率が高くなるようね。
そう言う意味では、ツガイ同士だと妊娠しやすいんだけど・・・、リサはまだ、オウガの魔力量に見合う量じゃないから妊娠出来ないのよねぇ」
「・・・私、相当魔力保有量を増やせたと思うんですけど」
「うん。平均から見たら、あり得ないほど多いわね。・・・でも、まだ限界には達していない。オウガの魔力保有量がかなり多いから、それに見合うほどまで増やすには、もうちょっと楽しまないとねぇ・・・。
それにリサ。あなたそろそろ発情期でしょ?」
「え?」
「ケインとガットがそわそわしてる、ってコトは、発情期のフェロモンがそろそろ出始めてるってコト、でしょ?」
そう言ってイルザが目を向けると、ケインとガットがビクゥッ!と姿勢を正した。その態度が、答えだった。
「発情期に入ってしまったら、オウガにはついて行けない。エイリーもまた発情期が迫ってるから、これ以上約束を先延ばしにすることも出来ない。・・・だからリサ、あなたはここでお留守番よ」
「え? なら 僕がリサの発情期の相手をするっ!」
そう叫んで椅子から立ち上がったジエロを、隣に座っていたイルザが腕を引いて座らせる。
「落ち着きなさい。ジエロこそ神殿に行かなきゃ、でしょ?」
「発情期のパートナーとしての閨指導もこれからだから、丁度良いのに」
「それも神殿でやってもらいなさい」
ジエロが再度、不貞腐れた。
「そう言うことだからオウガ、今回は転移陣で一気に神殿まで行きなさい。リサの相手は、ケインかガットに頼むから」
「えっ」
そう言う理由で、このふたりがここに居たと・・・、そう言うワケなの?
視線を向けると、獣人族のふたりはさっきのソワソワから一転、今はキラキラした目をしてこちらを見ている。
私は思わず俯いて、押し黙ってしまった。
「ふたりで話し合ってくる」
と言って退出したオウガに連れられて、私はイルザの屋敷の客室のひとつに連れて行かれた。
そしてそこで、オウガに抱かれた。
「激しくしたら、発情期を誘発してしまうから」と言う理由で、それは優しくてあっさりとしたセックスだった。
私はずっと静かに泣いていた。
ずっとずっと一緒に居たのに、この先しばらくオウガと離れ離れになってしまう。
そのことが、寂しくて、不安で、悲しかった。無理矢理引きちぎられるような痛みを、胸に感じた。
オウガは“魔力の目“で何かを視ているようで、焦点の合わない目で何処かを見つめている。見つめながら、優しく私の身体を撫でていた。
「私・・・、私が、オウガの子供を産みたかった。私だけ、が無理でも、出来れば一番に産みたかった・・・」
「ごめん、リサ・・・。でも多分オレの子って、もう何人か居るかも。オレが認識してないだけで」
お得意のオウガのトンデモ発言に、脱力してしまう。
「・・・そんなに?」
「まだそれほど魔力量が多くなかった頃に、“発情期のパートナー“を頼まれた相手から『産みたいから避妊しないで』って言われたコトが何回かあったから」
「そう、なんだ。ははは・・・」
乾いた笑いが出てしまう。
「でも、リサの準備が整ったら、その時には絶対にオレの子を身籠ってほしい。・・・ちょっと先になりそうだけど」
「? もしかして、何か視えてるの?」
「視えている、と言っても、何事も物事は不確定だから。でも、何があっても、オレはリサのツガイだから。
困ったことがあったり、助けて欲しい時にはオレを呼んで。例えエイリーの発情期中でも、出来るだけ、応えるようにするから」
そう言ってオウガは、私の左薬指の指輪にキスした。
そしてここには、『治癒師の神殿』と呼ばれる場所がある。
神殿には特に治癒系魔法の得意な人間が集まり、やって来る人々に治癒を施していた。そこでは、怪我や病気、精神的なもの、心理的なもの。あらゆる症状に対しての治療が施される。
そんな治療のひとつに、“魔力調整“と呼ばれるものがある。
通常、正しく交合が行われていれば自然と簡易的に魔力調整がなされるのだが、様々な理由から魔力循環を拗らせる者が出て来ることがある。そんな患者に対して、体内の魔力機関を魔力の目で目視出来、なおかつ交合によってきちんと調整するのが“魔力調整“である。
ただ、この“体内の魔力機関を魔力の目で目視“出来る能力と言うのが、特殊スキルなのである。
かなりの魔力保有量があり、魔力の扱いに長けていて、なおかつ適性があること。それが“魔力調整師“になるための、絶対条件だった。
この“適正“は、例外はあるものの、主に遺伝で受け継がれる。
そのせいもあるのか、この遺伝子を色濃く受け継ぐものは、自分と同等かそれ以上の魔力を持つ者を交合の相手として本能的に求める。しかしそれほどの魔力保有量を持つ者は、そうそう居らず。結果、いつの間にか近親交配が続き、種として弱くなっていき・・・。
今や“魔力調整師“は絶滅危惧種であった。
最近は魔力保有量の多いオーク族もチェントレまでやって来るようになった為、少しずつ調整師人口は増加してきているが、大陸全体で見れば到底充分とは言い難い数。
時々大陸中のギルドにも声をかけて、魔力保有量の多い人間を神殿に“奉仕活動“の為に回してもらっている。
“奉仕活動“とは、魔力調整師の男女との間に子を生してもらう活動のことを指す。
イルザに呼ばれて、オウガやジエロと共に彼女の屋敷に顔を出すと、奥のダイニングルームに通された。
そこには初めて見る種族の男性が、ふたり居た。
造形は人間だけど、肉球にあたる指先や手のひら、唇以外はほとんど毛に覆われている。服はハーフパンツを履いているだけで、他には何も着ていない。
全身真っ白の毛で覆われて人はなんだかとろんとした目で眠そうにしている。
黒と銀色の混じった毛の人は、白い人より背は低いけど、吊り目がちでちょっと目つきが鋭い。
・・・なんて観察していると、鼻を僅かにひくつかせながら黒銀の人が手を差し出して来た。
「初めまして。俺は獣人族のケイン。で、こっちはガット」
「あ、初めまして」
慌てて手を差し出して握手をすると、ケインは少し気まずそうな顔をしながら手を離した。
オウガとジエロは知り合いみたいで、握手はせずに何やらアイコンタクトを交わしている。
「まぁ、あなたたちもその辺に座りなさいな」
相変わらずロッカの膝に抱かれているイルザが、彼女の近くのソファを指さした。
「まずはリサ、うちの子猿が手間をかけて申し訳なかったわね。なのにちゃんと調整してくれて、感謝してるわ」
「あ、いえ。オウガの協力があって初めて出来たことですし」
イルザの“子猿“発言が自分のことだと気がついたジエロが不貞腐れた顔をしたけど、誰も相手にしない。
獣人族のふたりも、そわそわしながらも黙って聞いている。
「で、ジエロはオウガが神殿に連れて行くことにしたのよね?」
「あぁ。転移陣は使わずに、歩いて行く。その時々で、必要な魔法を教え込んでいこうかと思ってる」
「リサはどうするの? 連れて行くの?」
当然一緒に行くものだと思っていた私は、イルザのその言葉に思わず「えっ?」と声を上げてしまった。
「私は一緒に行くつもりですけど・・・、何かマズいことがあるんですか?」
「リサは魔力調整が出来るけど、ちゃんとした手解きを受けて、手順に則った調整ではないのよね。言わば、モグリね。神殿に行ったら、多分一から手解きを受けることになると思うわよ」
「なら、オウガからきちんと学びます」
「そのオウガには、他にやらなければならないことがあるでしょ?」
「? 神殿に着いたら、ジエロの教育は神殿に委ねられるんですよね? ならその後にでも・・・」
「オレも、それで良いと思う」
「オウガ」
イルザが、オウガにキッと目を向ける。
「オウガ。何か忘れてない?」
「ん?」
「神殿の調整師のエイリーって名前に覚えは?」
「・・・あ」
「え? 何??」
オウガ目を見つめるも、オウガは渋い顔をしたまま目線を合わせてくれない。
「エイリーって言うのはね、神殿で暮らしている調整師のひとりなんだけど、2年ぐらい前に、後継者を産む為のその娘のパートナーとしてオウガが指名されたの。
でも魔力量が合わないせいで1回目は身篭ることが出来なくて、エイリーが魔力量を増やしてから次の彼女の発情期にもう一度オウガが相手を務めることになってたんだけど、神殿からの“奉仕活動“要請を無視して、それ以来一度もオウガは神殿に行ってないのよ」
「後継者を、産む為?・・・身籠る・・・?」
「だってあの後にリー・・・、リサに出会って、看病とかしてたからそれどころじゃなくて・・・。忘れてた」
「あなたに合わせて魔力量を増やしてしまったせいで、エイリーはそれから誰と組んでも身篭れなくなってしまったらしいわよ? 肝心のオウガはいくらメッセージを送っても読んでいる形跡すら無い、って困り果てて、彼女、私の方に連絡を寄越したんだからね?」
「・・・神殿からのメッセージは、面倒だからひとつも開封してない」
「一応あなたも調整師なんだし、調整師としての師匠も神殿の人なんだから、挨拶がてらエイリーとの約束を果たして来なさい」
イルザに一喝されて、オウガがため息をつく。
一時停止していた私の思考が、ゆっくりと動き始めた。
え、待って。それって、つまりオウガがエイリーを孕ませてくる、ってこと・・・?
こちらのフリーセックスな感覚には随分慣れたつもりでいたのに、またひとつ、新たな苦難が目の前に聳え立った気がした。
「・・・ツガイが居ても、他の女性を孕ませるのですか? ツガイの私だって、まだ妊娠してもいないのに?」
呆然として尋ねる私を、オウガは困った顔で見つめる。言葉を探しているけど、見つからないような感じで。
そんなオウガの代わりに、イルザが答えてくれる。
「正直、孕ませる相手がツガイだけ、とは限らないわね。
子供が欲しいと思えた時に、この人との子供が欲しいと思える相手に発情期のパートナーになってもらって、膣内浄化をせずにセックスする。上手くいけば、妊娠する。魔力量とか相性の良い相手ほど、妊娠率が高くなるようね。
そう言う意味では、ツガイ同士だと妊娠しやすいんだけど・・・、リサはまだ、オウガの魔力量に見合う量じゃないから妊娠出来ないのよねぇ」
「・・・私、相当魔力保有量を増やせたと思うんですけど」
「うん。平均から見たら、あり得ないほど多いわね。・・・でも、まだ限界には達していない。オウガの魔力保有量がかなり多いから、それに見合うほどまで増やすには、もうちょっと楽しまないとねぇ・・・。
それにリサ。あなたそろそろ発情期でしょ?」
「え?」
「ケインとガットがそわそわしてる、ってコトは、発情期のフェロモンがそろそろ出始めてるってコト、でしょ?」
そう言ってイルザが目を向けると、ケインとガットがビクゥッ!と姿勢を正した。その態度が、答えだった。
「発情期に入ってしまったら、オウガにはついて行けない。エイリーもまた発情期が迫ってるから、これ以上約束を先延ばしにすることも出来ない。・・・だからリサ、あなたはここでお留守番よ」
「え? なら 僕がリサの発情期の相手をするっ!」
そう叫んで椅子から立ち上がったジエロを、隣に座っていたイルザが腕を引いて座らせる。
「落ち着きなさい。ジエロこそ神殿に行かなきゃ、でしょ?」
「発情期のパートナーとしての閨指導もこれからだから、丁度良いのに」
「それも神殿でやってもらいなさい」
ジエロが再度、不貞腐れた。
「そう言うことだからオウガ、今回は転移陣で一気に神殿まで行きなさい。リサの相手は、ケインかガットに頼むから」
「えっ」
そう言う理由で、このふたりがここに居たと・・・、そう言うワケなの?
視線を向けると、獣人族のふたりはさっきのソワソワから一転、今はキラキラした目をしてこちらを見ている。
私は思わず俯いて、押し黙ってしまった。
「ふたりで話し合ってくる」
と言って退出したオウガに連れられて、私はイルザの屋敷の客室のひとつに連れて行かれた。
そしてそこで、オウガに抱かれた。
「激しくしたら、発情期を誘発してしまうから」と言う理由で、それは優しくてあっさりとしたセックスだった。
私はずっと静かに泣いていた。
ずっとずっと一緒に居たのに、この先しばらくオウガと離れ離れになってしまう。
そのことが、寂しくて、不安で、悲しかった。無理矢理引きちぎられるような痛みを、胸に感じた。
オウガは“魔力の目“で何かを視ているようで、焦点の合わない目で何処かを見つめている。見つめながら、優しく私の身体を撫でていた。
「私・・・、私が、オウガの子供を産みたかった。私だけ、が無理でも、出来れば一番に産みたかった・・・」
「ごめん、リサ・・・。でも多分オレの子って、もう何人か居るかも。オレが認識してないだけで」
お得意のオウガのトンデモ発言に、脱力してしまう。
「・・・そんなに?」
「まだそれほど魔力量が多くなかった頃に、“発情期のパートナー“を頼まれた相手から『産みたいから避妊しないで』って言われたコトが何回かあったから」
「そう、なんだ。ははは・・・」
乾いた笑いが出てしまう。
「でも、リサの準備が整ったら、その時には絶対にオレの子を身籠ってほしい。・・・ちょっと先になりそうだけど」
「? もしかして、何か視えてるの?」
「視えている、と言っても、何事も物事は不確定だから。でも、何があっても、オレはリサのツガイだから。
困ったことがあったり、助けて欲しい時にはオレを呼んで。例えエイリーの発情期中でも、出来るだけ、応えるようにするから」
そう言ってオウガは、私の左薬指の指輪にキスした。
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