ちぐはぐ

稀人

文字の大きさ
上 下
24 / 39
一章 私立八意学園

唐突

しおりを挟む
「れんたんれんたん」


「んー?どしたの?」


「れんたんの彼氏様があんなところにー」


「へ?」


「短距離走出るんだねーそういえばもう一つ出るとか言ってたようなー、うわー全然気付かなかったよーびっくりだー」


この親友は気付いていたのに今まで教えてくれなかったらしい。だってびっくりするくらい棒読みだもん。


「気付いてたなら教えてよー!ちょ、ちょっと見やすいところに行かなきゃ!」


「今気付いたんだよーいそがないとー」


白々しい親友を無視して見やすい位置に向かう。みんなして教えてくれたっていいじゃないか!なんとか走る前にたどり着く。


「なんで教えてくれなかったのさー!」


「私は全然気付かなかったけど、足が遅いから見られるのが恥ずかしいとかじゃないかなー」


足が遅いなら別な競技に出るんじゃなかろうか。類君が走ってるところ見たことないからわからないけどさ。


言い返す間も無く競技が始まる。


かなりいいスタートを切って走り始めた類君は想像以上に足が早くて応援する暇もないくらいあっという間に競技が終わる。結果は堂々と一位。なんでなにも部活をやらないんだろうか。


どうやら類君はこちらに気付いていたらしくいたずらっこのような笑顔でVサインを送ってきた。


「ほほー足早いねえ。これは恥ずかしいからじゃなくてサプライズってやつかなー?」


「それでも教えてくれなかったのはひどいよー。あとで騎馬戦を含めてお説教するから」


「まあまあ、騎馬戦の途中はともかく最後はかっこよく決めてたし短距離だって実力なんだから許してあげなよー」


「知ってて教えてくれなかったエリーなんて知らない」


かっこよかったけどさ。


「わーお薮蛇ぃ。許してよー気付いたのさっきなんだからさー」


「さっきっていつさ」


「騎馬戦終わってすぐ」


「エリーのばかっ!」


「許してよー」


「ふーんだ」


無視しているとじゃれついてきたのでさらに無視して類君のところへ向かう。


「あ、蓮さん」


「なんで教えてくれなかったの?」


ちょっと不機嫌気味な声が出てしまった。


「中澤に言うなって言われてまして。あと驚かせたかったのもありますけど」


「気付かなかったら応援もできないじゃないかー!」


「絵里先輩なら気付いてたでしょう」


「そうだけど、私は気付かないみたいな言い方はなんなのかな」

「蓮さんなら忘れてるだろうと思いました」


そうだけどさぁ!忘れてたけどさぁ!


「そう思うなら教えてくれたっていいのに」

「驚かせたかったので。あと、少しはかっこいいところ見せたかったのでサプライズになるかと」

「なったけどさぁ!私が飲み物取りに行ってたらどうするつもりだったのさ?」


「絵里先輩が止めるだろうと思ってました」


「ふーん。絵里先輩絵里先輩ってそんなに絵里に信頼があるなら絵里と付き合えばいいじゃないか」


思わず思ってもないことを言ってしまう。蔑ろとは違うだろうが仲間外れにされてるような気分になる。

「絵里先輩、ちょっと離れてもらっていいですか」

「おっけぃ。お熱いねーひゅうひゅう」


そう言って絵里が離れていき残った類君はため息をついた。


「蓮さん、一度しか言わないのでよく聞いてくださいね」


「なにさ」


「確かにある意味絵里先輩は信頼してます。でも言うまでもないと思うんですが、信頼っていうのと好きっていうのは違いますよね。そういうことです」

「だからって私と付き合ってるのは契約で別に好きだからじゃないじゃん」


最近ずっと思っていたことだった。私は類君のことがどんどん好きになっていっているけど、類君はあくまで契約の延長で、例えば絵里が好きになったらこの関係は終わりだ。

「あー…はぁ」


なんとなくやってしまったというような表情をしながら呆れたようなため息をつくと、深呼吸をしてから話し始めた。


「蓮さん、契約はおしまいです」


そういって唐突に別れを告げられた。まあ、好きでもない相手にこんなことを言われたら当然かもしれないと思う。


「…そっか。うん、わかったよ。そういう話だったしね」


唐突すぎたせいか涙も出ない。
分かっていたことでもある。
けど、一人になりたい気分だった。
後ろを向いて逃げ出そうとすると類君は私の手を掴んだ。


「…な、なにかな?ちょっと、放っておいて欲しいんだけど」


「放っておきませんし、話も終わってません」


「話なら終わったでしょ?つまり、その、終わりってことで」


「そうですね、契約は終わりです」


「じゃあいいじゃないか、放っておいてよ」

「蓮さん、聞いてください」

「だからっ!」

「好きです。好きになりました。俺…いや、僕、早乙女類と正式に付き合ってください。契約なんかじゃなくて、ちゃんと、僕を見てください。これからは彼氏として見て欲しいです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...