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勘違いと服選び

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「ちょっと待て、いきなりなんの話だ?俺はいきなりクズと言われるようなことはしてないぞ?」

「黙りなさい!シロナちゃんを可愛がる振りしてこんな酷いことをするなんて、クズよクズ!!」
 
  俺がシロナに何かをした記憶は全くないんだが、多分シロナの虐待痕や服を見て俺がやったと思ったんだろう。クズと呼ばれたのには少し納得いかないがシロナのために怒ってくれているなら別にいいか。誤解をとけばいいだけだしな。
  そう思っていたらシロナが予想外の行動をとった

「お父さんを、いじめちゃ、だめっ!」

  俺の前で一生懸命に両手を伸ばして俺を守ろうとしてくれた。シロナの行動が嬉しくて頭を撫でて抱き抱える。

「ありがとうシロナ、でもカーナは少し勘違いしただけで、シロナのために怒ってくれてるんだよ。だからお父さんは大丈夫だ」

  そう言って落ち着かせるが、シロナは完全にカーナを敵だと認識してしまっていた。

「カーナ、落ち着きなさい。わざわざあなたに依頼を出してまで娘の服を買いに来る人で、それに、シロナちゃんがこんなに守ろうとする人がそんなことをするなんて、本当に思ってるの?なにか理由があるはずよ」

  店主さんの方は落ち着いていてくれている。わかってくれてありがたい。

「シロナは俺の娘と言っても血は繋がってないんだ。あまり面白い話ではないんだが、実は…」

  シロナを拾った経緯を伝えると誤解が解けたのかバツが悪そうに縮こまって謝罪をしてきた。

「気にしないさ、むしろ、シロナのために本気で怒ってくれて嬉しいよ。シロナもカーナを許してあげるだろ?」

「もう、お父さん、いじめない?」

「勘違いでお父さんにひどいこと言ってごめんね、許してくれる?シロナちゃん」

  俺をいじめないと聞いて満足したのかコクリと頷くシロナを降ろして服選びの続きをさせに行かせる。

「可愛い服を選んでもらえよ?」

  少しぎこちなく服を選ぶ2人を眺めていると、店主が話しかけてきた。

「ごめんなさいね、あの子は悪気がないんだけどすぐに感情的になってしまう癖があって。一度落ち着いて考えてから行動するように昔から言ってるんだけど、なかなか成長しないみたいで」

「いいんですよ、この国で娘のために行動してくれる人は有難い存在ですから。むしろ嬉しかったくらいだ」

  俺以外にも自分に優しい人間がいるということをシロナに知ってもらえたし、シロナの過去を思うと純粋に嬉しいと思う俺がいる。しかし、思った以上に時間が掛かってるな、これは一泊しないとダメだな。

「なあ、この辺でベッサ以外出身の宿屋とかないか?」

「この街にはないねぇ、いや、あるのかもしれないけどあたしの知ってる範囲ではわからないねぇ」

「そうか、シロナをゆっくりさせてやりたかったんだが、隠れてもらうしかないか…」

  出来ればシロナに自由にくつろいで欲しかったんだが、次の街までは無理そうだな。

「宿屋じゃないけど、うちに泊まったらどうだい?2人で一泊銀貨2枚。夜朝ご飯付き。悪くないと思うよ?」

「いいのか?」

「シロナちゃんの可愛さに免じてね」

  そう言っていたずらっぽく笑う店主。ありがたい限りだ。
  店主と話していると、シロナが袖を引っ張って来た。

「どうした?」

「あのね、その、えっと、ね…!」

  何か言いにくいことなのだろうか?もしかして凄まじく高い服でもオネダリされるのかと身構えてしまう。似合うなら買うけどな。後ろでカーナが頑張れシロナちゃん!とか応援してるし、ほんとになんなんだ?

「大丈夫だ、怒ったりしないからなんでも言ってごらん?」

「お父さんに、ね!服を、ね、選んで、ね、欲しいの…!」

  勇気を振り絞ったように言うシロナに、なんだ、そんなことかと思うがシロナにとってはとても言いにくいことだったんだろうと思い直す。

「俺が選んでいいのか?どんなのが可愛いかなんてわからないぞ?」

「お父さんが、いい!」

  可愛い娘にここまで言われたらやるっきゃないな。唸れ俺のセンス!

  しばらくシロナと手を繋いで服を見て回るがイマイチこれだ!と思うものが見当たらない。可愛いい、可愛いか…難しいもんだな…。

  いや、可愛いだけならもうカーナが選んでくれてるのか。なら俺は俺らしく、実用性の高くて女の子らしい服を選べばいいか。
  ふと、目に止まった服があった。白いフード付きのコートで首元を締める紐が赤いリボンになっている。触って生地を確かめてみると、肌触りが良く暖かそうだった。これなら女の子らしくていいんじゃないか?それにコートなら元々大きいからシロナが成長してもしばらくは使えるだろうしな。

「シロナ、このコートはどうだ?」

  シロナに見せて試着させてみると気に入ったのかくるくるとその場を回りながらコートを見ていた。

「気に入ったか?」

  そう聞いてみるがコートに夢中で聞こえてないようだった。気に入ったみたいでよかった。結構値段はしそうだがいくらなのか店主に聞こうとすると、カーナと店主は言いにくそうな顔をしていた。結構高いなこれ。

「このコートはいくらなんだ?」

「言いにくいんだけど、金貨5枚だよ」

  おっと、予想以上に高いな。銀貨10枚で金貨一枚分の価値なので予算オーバーもいいところだ。ちらりとシロナの顔を見ると焦ったような顔でコートを脱ごうとしていた。

「シロナ、着てていいんだぞ?それは今日からお前のだ。店主全部で金貨6枚でいいか?」

「あんた、本当に買うのかい?」

「娘の笑顔が金貨5枚で見れるなら安いもんだ、それなりに貯蓄はあるしな」

  強がりなどではなく本当に独り身な上に旅の資金として10年かけて貯めた貯金がある。あるんだが、この2年旅をしてきてまだ手をつけたことがない。装備はもう揃ってるし依頼をやりながら旅を続けているため使わなくても余裕だったのだ。なのでこれくらいの出費は実際なんともない。

「でも、このコートなんでこんなに高いんだ?」

「それは簡易的な防御魔法と、着る人に合わせてサイズが変わる自動調節とかっていう付与魔法がついてるからだよ」

  自動調節ってすごいな、馬鹿高いと思ったがずっと着ていられるって考えるとむしろ安いな。

「じゃあ、全部で金貨6枚だよ、少しオーバーしてる部分は沢山買ってくれたからサービスするよ」

「お、ありがとう。じゃあこれで」

「ちょ、大金貨ってあんた、お釣りあったかしら…」

  なんとなく何があってもいいようにと持ち歩いている大金貨で払おうとすると苦い顔をされた。金貨4枚、まあ普通店に置いてないよな。これは俺のミスだ。

「よかった、金庫にあったわ。これお釣りね、こんな庶民の店で大金貨なんて使うんじゃないよまったく!」

「すまん、デカイ買い物だったからついな」

「Bランク冒険者って、儲かるんですね…」

「それなりにな。なに、凡人の俺でもここまで来れたんだ、カーナなら俺より早くBランクになれるさ。俺は5年かかったからな」

  なんとなく遠い目をしているカーナを励ましてやると、コートを脱ごうとして固まっていたシロナが我に返っていた。

「ほ、ほんとに、こんな、高いの、着ていい…の?」

「ああ、もちろんだ。それはもうシロナの物だからな」

  よほど気に入っていたのかコートを着たまま俺に抱きつくとありがとうと言ってくれた。
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