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第十三章(最終章)

第191話 しょうそう

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 普段の油小路ユニテソリであればつばめの正体をいち早く見抜き、周りにいる御影やアグエラの正体も難なく看破できたであろう。
 しかし、魔王軍四天王と呼ばれる者達が残る1人じぶんを除いて一気に殲滅されたとなると、さすがの油小路も落ち着いてはいられない。
 結果、御影の幻術が功を奏した事もあり、つばめら3人の正体は露見せずに済んだのである。

『いくらユリの勇者が相手だとしても、ゲルルゲスら3人をまとめて倒せる程の力は無いはずだ。かと言って大豪院覇皇帝かいざあは倒したはずだし、アンコクミナゴロシの連中に四天王が負けるとも思えん…』

 策略家の油小路ではあったが、今現在の状況が不透明すぎて彼を動揺させるに十分であった。もし本当に四天王ですら敵わない相手ならば、魔王ギルか油小路自身か蘭くらいでないと時間稼ぎすら覚束ないだろう。

『とにかく大豪院を魔界の領域内で仕留めた事で、天界の神も大豪院の魂を転生させる術は失った。初期計画は失敗だがまぁ、これだけでも僥倖だろう。ユリの勇者の乱入には驚かされたが、そのおかげですんなりプランBに移行できる…』

 油小路の究極の目的は『魔王ギルの力を取り込んで最強の力を手に入れる事』である。そのために魔王自身に数々の試練を与え、最強と言えるまでに育て上げた。
 後は適度な強敵と争わせて魔王の体力を削ってもらい。弱らせた所に取り憑いて『乗っ取り』完了とすれば大願成就となるのである。

 始めは大豪院に削り役をやらせてそのまま大豪院を殺害し、天界からの刺客を封じると共に魔王ギルの体を頂く算段 (プランA)であったのだが、続出したトラブルの為に軌道修正せざるを得なくなった。
 それでも大豪院を討ち果たした今、新たな『削り役』であるユリが向こうから来てくれた。

 四天王最後の1人となった油小路には事態を収拾する義務が生じてしまっている。四天王を倒すほどの相手ならば、程無く魔王が嬉々として出撃するだろう。
 その時にうまくユリの勇者と魔王とで削り合って貰うためには、睦美らの様な『イレギュラー』な存在は邪魔になる。

 睦美らアンコクミナゴロシ王国残党の処理は、そのまま油小路の責任でもある。
 そして前回の戦いで睦美の近衛騎士であるアンドレはわずかとはいえ油小路に打撃を与えている。
 それは油小路にとって致命傷では無かったが、5度10度と斬撃を受ければ平然ともしていられないだろう。

 そこで油小路は保険として、蘭と共に睦美らに対処するべく蘭を連れに来た、という訳である。

 ☆

 油小路の登場に度肝を抜かれたのはつばめ達だけではない。共にいた蘭も口から心臓が飛び出そうな程に驚愕していた。

『今のつばめちゃんとのやり取りを聞かれた? どこから…? ここで私の裏切りを悟られてしまうと今までの苦労が水の泡に…』

 蘭も焦りを見せるが、これは杞憂である。
 この辺りの事情は油小路にとって重要では無い。油小路は早い段階で蘭が魔法少女と悪の女幹部の二足のわらじを履いていた事を知っているのだから、蘭の裏切りなど始めから想定している。だからこそ沖田を人質に取って蘭を良いように動かしてきたのだ。
 
「あの、油小路さん… えっと…」
 
「話は後です。こんな所で油を売られていては困るので迎えに来ただけです…」

 蘭の言葉にさも煩わしそうに、空間に魔法陣を描き転移の準備をする油小路。
 何度か見たその仕草に、蘭は瞬時に油小路の目的を察した。これ以上この場所には居られないだろう。
 油小路が転移の準備を終えるまでの数秒感、蘭はつばめに最後の想いを告げるために正面からつばめと向き合いウマナミ改のマスクを外した。

「つばめちゃん、この件が終わったら話があるの。真面目で大事な話…」

 対するつばめも表情に戸惑いを残しながらも蘭を正面から見据え、力強く頷いた。

 やがて油小路の魔法陣に有無を言わせず飲み込まれていった蘭の影を、つばめは最後まで無言で見つめていた。

 ☆

「蘭ちゃん、行っちゃったね…」

 つばめ達と牢の中の沖田だけが残された静寂の中、御影の声が静かに響いた。

「あの状況で私達がユニテソリに見つからなかったのは大ラッキーだったわ。あいつがそこまで慌てるくらいにユリ達が上手く陽動してくれたみたいね」

「あはは… 幹部を倒すくらい頑張ってるのは、もう陽動じゃなくてガチ攻めだねぇ。どうする、つばめちゃん? 鍵は蘭ちゃんが持ってるみたいだけど…?」

 アグエラと御影が話をしている間、つばめはじっと沖田の顔を見つめていた。

『沖田くんの瞳が青、ううん藍色に変わってる… これが例の薬の力なのね。沖田くんを魔族にしようとしているのを蘭ちゃんは知ってるのかな…?』

「なぁつばめちゃん、つばめちゃんは俺が閉じ込められている事情を知っているのかい? 何か知っているのなら…」

 沖田の声につばめハッと我に返る。沖田は魔法だの魔族だのには一切の関わりの無い一般人だ。マジボラの事や魔界の事をどれだけ話しても良いものか、つばめは少し考えた。

「…ごめん沖田くん、わたしにもよく分からないんだよ…」

 結果つばめは沖田には事情を伏せる事にした。実際蘭の考えはつばめにも想像しきれていないし、魔族化薬の事など言えるはずもない。
 
「でも沖田くん、わたし達は鍵を持っている蘭ちゃんを探して、またここに戻ってくる、絶対に。だからあと少しだけ我慢して…」

 質問を無視されたと思われた御影らも、つばめ達の会話から答えを得た。アグエラが無事であれば、今度は容易にこの地下牢に直接転移出来るだろう。

「ありがとうつばめちゃん… 俺、男なのに何も出来なくて情けないよ… つばめちゃんは強いよね。何でそこまで頑張れるの…?」

 沖田の質問につばめは一瞬意外そうな顔をする。そして次の瞬間には頬を膨らませ怒りを表明して見せた。

「そんなの… そんなの決まってるじゃん… 沖田くんが心配で、沖田くんが… 沖田くんが好きだからだよ!」

 御影たちの目の前だったがつばめは2度目の告白をした。一度既に思いを伝えていた為か、最初の時ほどの恥ずかしさを感じなかったのは、この短期間につばめの心がそれだけ成長してきたからなのだろう。

 もちろんつばめはこの告白で沖田とどうにかなりたいという気持ちは無い。ただ純粋に大好きな人が心配だから助けたい、それだけである。

 つばめの2度目の告白を受けて、沖田は表情を少しかげらせた。

「…ありがとうつばめちゃん、気持ちは凄く嬉しいよ。でもやっぱりゴメン、つばめちゃんの気持ちには応えてあげられない。俺… 俺、好きなひとが出来たんだ…」 
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