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第十三章(最終章)
第170話 しゅちょう
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「ちょっと説明してよお爺ちゃん! 話が違うんですけど?!」
増田凛は脳震盪を起こして意識を失い、戦線から離脱した。
綿子の魔法が決定打になったものの、そこに至る段階で女レスの能力者達の炎や水を用いた攻撃がウタマロんにダメージを与えていたのは事実である。
ウタマロんには油小路より貸与された『邪魔具』という魔力に対する妨害装置が備えられており、魔法による損害の一切をカットする事が出来る。
加えてウタマロんには高熱や冷気、衝撃等のありとあらゆる干渉から身を護る機能も充実しており、それを操る凛は祖父の繁蔵より「絶対安全」を保証されていたからこそ、危険な外の仕事にも助力していたのだ。
「そんな事を言われてもお爺ちゃんにもチンプンカンプンなんですけど?!」
タネを明かすと女レスの面々の能力は、主に血統から顕れる個人の特殊能力であり、魔法や魔力とは無縁な力なのである。従って邪魔具によるジャミングは元から効果が無いという結論になるのだ。
「とにかく、私はもう降りるからね! このままキズモノにされたら高橋先輩のお嫁さんになれなくなっちゃうもん!」
そう告げる凛の右腕には、ウタマロんが誘爆を起こした際に負った火傷の治療痕が痛々しく残っていた。
更に前々回の出撃ではウタマロんの堅牢な装甲を素手で撃ち抜いた大豪院によって乙女の柔肌を掴まれた事もあった。
今凛が口にした『高橋先輩』が女性である事から、凛はレズビアンである事に加えて大豪院のせいで男嫌いも発症してしまっている。
「まぁ無理強いは出来んな。わかった、そういう事なら後はワシ1人でやるから頑張って勉強してくれ。かなり偏差値の高い高校なんじゃろ?」
「う、うん…」
凛が繁蔵に協力していたのはお小遣い目的もあるが、繁蔵の改造手術によって脳の容量を増やし学力を飛躍的に高めて、憧れの先輩の通う(凛の学力的に無理筋な)高校へ進学するためだった。
これからの勉強ノルマを考えて『早まったかなぁ?』と思わずにはいられない凛であった。
☆
「全く、どこを見ても辛気臭い森ばっかりで嫌になるわね」
「繁華街もあるけど、どうせそっちに行ったら行ったで『眩しい』とか『騒々しい』とか文句言うんでしょ?」
睦美のボヤきをアグエラが拾って返す。この2人、結構良いコンビかも知れない。その証拠にいつも睦美の不満の受け皿となっている久子が仕事を奪われて手持ち無沙汰になってしまっていた。
「チッ… んで? 魔王ってのはどこに居んのよ?」
アグエラの言葉に反論らしい反論を思いつかずに舌打ちして話題を変えようとする睦美。
実は睦美は生まれてこの方、王国でも日本でもずっと甘やかされて生きてきたので、不二子以外に反対意見を受けることがほとんど無かった。従って議論を戦わせる行為はあまり得意ではないのだ。
王族としては不快な状況ではあるが、睦美はつばめが加入して以降の増員されたマジボラで、みんながボケたりツッコんだりしている今の環境が決して嫌いではない。
今のアグエラにしても、本来滅すべき魔族と肩を並べて共に進んでいる不正規な状況を睦美は楽しめる心境の変化を見せていた。
それは何も言わずとも長年睦美に仕えてきた久子やアンドレにも伝わってくる。そして2人ともそんな睦美の変化を喜ばしく思っていた。
「睦美さま明るくなりましたよねぇ。つばめちゃんのおかげですかねぇ?」
久子が隣を歩くアンドレに向けて言った言葉であったが、それを聞きつけた睦美とつばめは同時に久子に「はぁ?」と振り向いたのだった。
☆
景色の変わらない森の中を、アグエラの案内に従って歩いていた一行であったが、睦美が急に胸を押さえて立ち止まった。
「…待って! 宝玉に蘭の反応があるわ。あの子、1人で魔界に来ていたの…? でもどうやって…?」
「何か心当たりがある風な雰囲気で部室を飛び出して行きましたから、私達の知らない何かを掴んでいたんでしょうか…?」
睦美と久子は目配せで瞬時に考えをやり取りする。もし蘭にそんな事が出来るのならば、それは蘭の所属するもう1つの組織『シン悪川興業』が絡んでいるに違いない。
マジボラとシン悪川興業は敵対関係にあり、蘭はそこでダブルスパイの任務を受けている。
ただその事はつばめには秘密にする約束があるので、下手に声を出す訳にもいかなかったのだ。
蘭が魔界にいるとして、現在魔界でどの様な立ち位置で動いているのか睦美達には皆目見当もつかない。
蘭が沖田の救出の為に動いていたのは周知の事であったので、もしかしたら近くに沖田が居るのかも知れないし、沖田の情報を求めて魔族サイドとしてウマナミ某の姿で潜入活動をしている可能性もある。更には潜入が発覚して魔族に拘束されている可能性も否めない。
いずれにせよ蘭がこちらの世界で孤軍奮闘している事だけは確かだ。
さて、マジボラとしてはどうするべきか? 蘭が何かの情報を掴んでいる、或いは敵に捕まっている前提で接触を図るか? 潜入活動を邪魔しない為に敢えてスルーするか?
「蘭ちゃんが居るならきっと1人で困っているに決まっています。こんな敵だらけの場所に1人なんて可哀想です。助けに行きましょう!」
まぁそうなるよね。といったタイミングでつばめが大きく主張した。
増田凛は脳震盪を起こして意識を失い、戦線から離脱した。
綿子の魔法が決定打になったものの、そこに至る段階で女レスの能力者達の炎や水を用いた攻撃がウタマロんにダメージを与えていたのは事実である。
ウタマロんには油小路より貸与された『邪魔具』という魔力に対する妨害装置が備えられており、魔法による損害の一切をカットする事が出来る。
加えてウタマロんには高熱や冷気、衝撃等のありとあらゆる干渉から身を護る機能も充実しており、それを操る凛は祖父の繁蔵より「絶対安全」を保証されていたからこそ、危険な外の仕事にも助力していたのだ。
「そんな事を言われてもお爺ちゃんにもチンプンカンプンなんですけど?!」
タネを明かすと女レスの面々の能力は、主に血統から顕れる個人の特殊能力であり、魔法や魔力とは無縁な力なのである。従って邪魔具によるジャミングは元から効果が無いという結論になるのだ。
「とにかく、私はもう降りるからね! このままキズモノにされたら高橋先輩のお嫁さんになれなくなっちゃうもん!」
そう告げる凛の右腕には、ウタマロんが誘爆を起こした際に負った火傷の治療痕が痛々しく残っていた。
更に前々回の出撃ではウタマロんの堅牢な装甲を素手で撃ち抜いた大豪院によって乙女の柔肌を掴まれた事もあった。
今凛が口にした『高橋先輩』が女性である事から、凛はレズビアンである事に加えて大豪院のせいで男嫌いも発症してしまっている。
「まぁ無理強いは出来んな。わかった、そういう事なら後はワシ1人でやるから頑張って勉強してくれ。かなり偏差値の高い高校なんじゃろ?」
「う、うん…」
凛が繁蔵に協力していたのはお小遣い目的もあるが、繁蔵の改造手術によって脳の容量を増やし学力を飛躍的に高めて、憧れの先輩の通う(凛の学力的に無理筋な)高校へ進学するためだった。
これからの勉強ノルマを考えて『早まったかなぁ?』と思わずにはいられない凛であった。
☆
「全く、どこを見ても辛気臭い森ばっかりで嫌になるわね」
「繁華街もあるけど、どうせそっちに行ったら行ったで『眩しい』とか『騒々しい』とか文句言うんでしょ?」
睦美のボヤきをアグエラが拾って返す。この2人、結構良いコンビかも知れない。その証拠にいつも睦美の不満の受け皿となっている久子が仕事を奪われて手持ち無沙汰になってしまっていた。
「チッ… んで? 魔王ってのはどこに居んのよ?」
アグエラの言葉に反論らしい反論を思いつかずに舌打ちして話題を変えようとする睦美。
実は睦美は生まれてこの方、王国でも日本でもずっと甘やかされて生きてきたので、不二子以外に反対意見を受けることがほとんど無かった。従って議論を戦わせる行為はあまり得意ではないのだ。
王族としては不快な状況ではあるが、睦美はつばめが加入して以降の増員されたマジボラで、みんながボケたりツッコんだりしている今の環境が決して嫌いではない。
今のアグエラにしても、本来滅すべき魔族と肩を並べて共に進んでいる不正規な状況を睦美は楽しめる心境の変化を見せていた。
それは何も言わずとも長年睦美に仕えてきた久子やアンドレにも伝わってくる。そして2人ともそんな睦美の変化を喜ばしく思っていた。
「睦美さま明るくなりましたよねぇ。つばめちゃんのおかげですかねぇ?」
久子が隣を歩くアンドレに向けて言った言葉であったが、それを聞きつけた睦美とつばめは同時に久子に「はぁ?」と振り向いたのだった。
☆
景色の変わらない森の中を、アグエラの案内に従って歩いていた一行であったが、睦美が急に胸を押さえて立ち止まった。
「…待って! 宝玉に蘭の反応があるわ。あの子、1人で魔界に来ていたの…? でもどうやって…?」
「何か心当たりがある風な雰囲気で部室を飛び出して行きましたから、私達の知らない何かを掴んでいたんでしょうか…?」
睦美と久子は目配せで瞬時に考えをやり取りする。もし蘭にそんな事が出来るのならば、それは蘭の所属するもう1つの組織『シン悪川興業』が絡んでいるに違いない。
マジボラとシン悪川興業は敵対関係にあり、蘭はそこでダブルスパイの任務を受けている。
ただその事はつばめには秘密にする約束があるので、下手に声を出す訳にもいかなかったのだ。
蘭が魔界にいるとして、現在魔界でどの様な立ち位置で動いているのか睦美達には皆目見当もつかない。
蘭が沖田の救出の為に動いていたのは周知の事であったので、もしかしたら近くに沖田が居るのかも知れないし、沖田の情報を求めて魔族サイドとしてウマナミ某の姿で潜入活動をしている可能性もある。更には潜入が発覚して魔族に拘束されている可能性も否めない。
いずれにせよ蘭がこちらの世界で孤軍奮闘している事だけは確かだ。
さて、マジボラとしてはどうするべきか? 蘭が何かの情報を掴んでいる、或いは敵に捕まっている前提で接触を図るか? 潜入活動を邪魔しない為に敢えてスルーするか?
「蘭ちゃんが居るならきっと1人で困っているに決まっています。こんな敵だらけの場所に1人なんて可哀想です。助けに行きましょう!」
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