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第十二章
第146話 かいぎ3
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「はぁ? 大豪院がガイラム兄様の生まれ変わりですって?!」
確かに『大豪院を探れ』とアンドレに指令を出したのは睦美であったが、まさかここまで素っ頓狂な返答が返ってくるとは想定していなかった。
「そうとでも考えなければ、とても彼の破天荒さを説明出来ません。現に彼は私の目の前でガイラム殿下の得意な《護気盾》を使ってみせました。逆にそう考えれば色々と腑に落ちる点も多々あるかと…」
アンドレの語る通り、睦美の兄である故ガイラム王子は、大豪院ほどでは無いせよ色々と『出来すぎた』人物であった。
かつてつばめはガイラムをイメージする際に御影をモチーフとして当てていたが、実態はつばめの想像の遥か斜め上に位置していた。
まずは今の大豪院と伍する巨躯、更にその巨体から繰り出される人並み外れたパワー、最後はその潤沢な生命力によって練り出される気の力。
単純な膂力では無く武具にオーラを纏わせ、その攻撃力や防御力を倍加させる技を得意としていた。中でもアンドレの目撃した《護気盾》は、王国最強の剣士らがいくらノウハウをレクチャーされても、結局ガイラム以外に使いこなせる者は現れなかった。
そして大豪院はその故人であるガイラムの技を誰に教わること無く、いとも簡単に使ってみせた。
「以前お二人が大豪院くんを『なつかしく』感じたのも、彼の魂にガイラム殿下の残滓がいくらか残っていたからではないか? と…」
「なるほどぉ。それなら色々説明が付きますね。さすがアンドレ先生!」
睦美とアンドレの内緒話のはずであったが、いつの間にか久子も顔を寄せて話を聞いていたらしい。
「…ふぅん? 大体分かったけど状況証拠だけじゃなんともねぇ。それにあいつがお兄様の生まれ変わりだとして何かが変わる訳でもないしね。それにお兄様はもっと美形でいらっしゃったわ。あんな野獣みたいな奴と一緒にするのは失礼よ」
やや早口にまくし立てる睦美。口ではこう言いながら、心情は穏やかならざる状態なのかも知れない。
いずれにしても『大豪院がガイラムの生まれ変わり』と言うのはまだ仮定の段階であるし、某かの実証方法がある訳でも無い。
ただ何となく、今までの疑問に対する最大公約数的な答えが得られただけでも、今の縺れた糸の様な状況を紐解く一助になれば御の字である。
少なくとも現状よりは一歩進める心理状態には持ってこれるだろう。
☆
睦美達が3人でコソコソし始めたので、手隙になった他のメンバーがおずおずと雑談を始めていた。
まず武藤がまどかに対して状況の説明を要求したが、まどか自身も『駐車場で爆発があり、買い物客の避難誘導をしていたので詳しい事は分からない』としか返せなかった。それ以前にまどかは事件の最中でも御影の顔しか見ていなかったので、余計に状況把握は無理筋であったろう。
「ところで魔界に行く事態になったら誰が行くんだい? お呼ばれしているのはつばめちゃんと大豪院くんな訳だけど、他にも行く人いるのかな? ちなみに私は行ってみたいんだけど?」
重苦しい雰囲気の中、挙手した御影の明るい声が響く。御影に釣られて野々村とまどかが『御影くんが行くなら私も!』と手を挙げようとした所で綿子が口を開く。そしてそれはいつもの綿子のノリの軽い感じでは無かった。
「あたしはパス。魔界なんてアニメやゲームでも碌な所じゃないじゃん… 生きて帰ってこれるかどうかも分からないのにホイホイ従いては行けないよ… 御影も軽く考えすぎじゃね?」
そこで言葉を切る綿子だったが、まだ何か言い足りないらしい。
「それに沖田くんが大変なのは理解してるけど、『女子レスリング同好会』の明日の試合、久子先輩に来てもらわないと困る…」
敢えて悪役の立場を取った綿子の言葉に、御影は困り顔で返し、野々村とまどかのボルテージは明らかに下がった。つばめは下を向いたまま沈黙、蘭はずっと他人の顔色を覗《うかが》っている様子、鍬形は未だに頭上に?マークを出しており、大豪院は黙して語らずだ。
「心配しなくても試合は出るよ綿子ちゃん。どのみち座標の特定に数日はかかるはずだからね。心配しなくても約束は守るよ」
王国勢での話が終わったのか、久子が綿子に声をかける。まだ少し不安げながらも小さな笑顔で返す綿子。
☆
「おい大豪院、お前はどうするんだよ? 魔界なんて訳の分からない所に行くのか?」
鍬形が目を閉じたままの大豪院に問いかける。鍬形としては、彼にとって朝から常識の範囲外の出来事ばかり起きており、理解能力の限界を突破してしまっていた。
端的に言えば『野々村の動向は気にはなるが、正直こんな危険な所から離れて早く家に帰りたい』が鍬形の本音である。
「あの、大豪院くん… お願いです。私と一緒に魔界に行ってください。『命を狙われている』とか言っても大豪院くん強いから平気だよね…? 沖田くんはさ、貴方ほど強くないから… 助けに行かないと駄目だから…」
鍬形の問い掛けにも彫刻の様に動きを止めたままだった大豪院が、つばめの言葉に反応しゆっくりと目を開く。
つばめの言葉は極めて一方的だ。沖田を助ける為に大豪院に死ねと言っているに等しい。
つばめ自身が本気なだけに、このやり取りはえらく滑稽にも見えた。
「お願い、大豪院くん… 沖田くんを助けられるのなら、わたし何でもするから… だから、お願い…」
頭を下げて懇願するつばめを見遣り、大豪院はポツリと、しかしはっきりと呟いた。
「ならば俺の嫁になってもらうぞ?」
確かに『大豪院を探れ』とアンドレに指令を出したのは睦美であったが、まさかここまで素っ頓狂な返答が返ってくるとは想定していなかった。
「そうとでも考えなければ、とても彼の破天荒さを説明出来ません。現に彼は私の目の前でガイラム殿下の得意な《護気盾》を使ってみせました。逆にそう考えれば色々と腑に落ちる点も多々あるかと…」
アンドレの語る通り、睦美の兄である故ガイラム王子は、大豪院ほどでは無いせよ色々と『出来すぎた』人物であった。
かつてつばめはガイラムをイメージする際に御影をモチーフとして当てていたが、実態はつばめの想像の遥か斜め上に位置していた。
まずは今の大豪院と伍する巨躯、更にその巨体から繰り出される人並み外れたパワー、最後はその潤沢な生命力によって練り出される気の力。
単純な膂力では無く武具にオーラを纏わせ、その攻撃力や防御力を倍加させる技を得意としていた。中でもアンドレの目撃した《護気盾》は、王国最強の剣士らがいくらノウハウをレクチャーされても、結局ガイラム以外に使いこなせる者は現れなかった。
そして大豪院はその故人であるガイラムの技を誰に教わること無く、いとも簡単に使ってみせた。
「以前お二人が大豪院くんを『なつかしく』感じたのも、彼の魂にガイラム殿下の残滓がいくらか残っていたからではないか? と…」
「なるほどぉ。それなら色々説明が付きますね。さすがアンドレ先生!」
睦美とアンドレの内緒話のはずであったが、いつの間にか久子も顔を寄せて話を聞いていたらしい。
「…ふぅん? 大体分かったけど状況証拠だけじゃなんともねぇ。それにあいつがお兄様の生まれ変わりだとして何かが変わる訳でもないしね。それにお兄様はもっと美形でいらっしゃったわ。あんな野獣みたいな奴と一緒にするのは失礼よ」
やや早口にまくし立てる睦美。口ではこう言いながら、心情は穏やかならざる状態なのかも知れない。
いずれにしても『大豪院がガイラムの生まれ変わり』と言うのはまだ仮定の段階であるし、某かの実証方法がある訳でも無い。
ただ何となく、今までの疑問に対する最大公約数的な答えが得られただけでも、今の縺れた糸の様な状況を紐解く一助になれば御の字である。
少なくとも現状よりは一歩進める心理状態には持ってこれるだろう。
☆
睦美達が3人でコソコソし始めたので、手隙になった他のメンバーがおずおずと雑談を始めていた。
まず武藤がまどかに対して状況の説明を要求したが、まどか自身も『駐車場で爆発があり、買い物客の避難誘導をしていたので詳しい事は分からない』としか返せなかった。それ以前にまどかは事件の最中でも御影の顔しか見ていなかったので、余計に状況把握は無理筋であったろう。
「ところで魔界に行く事態になったら誰が行くんだい? お呼ばれしているのはつばめちゃんと大豪院くんな訳だけど、他にも行く人いるのかな? ちなみに私は行ってみたいんだけど?」
重苦しい雰囲気の中、挙手した御影の明るい声が響く。御影に釣られて野々村とまどかが『御影くんが行くなら私も!』と手を挙げようとした所で綿子が口を開く。そしてそれはいつもの綿子のノリの軽い感じでは無かった。
「あたしはパス。魔界なんてアニメやゲームでも碌な所じゃないじゃん… 生きて帰ってこれるかどうかも分からないのにホイホイ従いては行けないよ… 御影も軽く考えすぎじゃね?」
そこで言葉を切る綿子だったが、まだ何か言い足りないらしい。
「それに沖田くんが大変なのは理解してるけど、『女子レスリング同好会』の明日の試合、久子先輩に来てもらわないと困る…」
敢えて悪役の立場を取った綿子の言葉に、御影は困り顔で返し、野々村とまどかのボルテージは明らかに下がった。つばめは下を向いたまま沈黙、蘭はずっと他人の顔色を覗《うかが》っている様子、鍬形は未だに頭上に?マークを出しており、大豪院は黙して語らずだ。
「心配しなくても試合は出るよ綿子ちゃん。どのみち座標の特定に数日はかかるはずだからね。心配しなくても約束は守るよ」
王国勢での話が終わったのか、久子が綿子に声をかける。まだ少し不安げながらも小さな笑顔で返す綿子。
☆
「おい大豪院、お前はどうするんだよ? 魔界なんて訳の分からない所に行くのか?」
鍬形が目を閉じたままの大豪院に問いかける。鍬形としては、彼にとって朝から常識の範囲外の出来事ばかり起きており、理解能力の限界を突破してしまっていた。
端的に言えば『野々村の動向は気にはなるが、正直こんな危険な所から離れて早く家に帰りたい』が鍬形の本音である。
「あの、大豪院くん… お願いです。私と一緒に魔界に行ってください。『命を狙われている』とか言っても大豪院くん強いから平気だよね…? 沖田くんはさ、貴方ほど強くないから… 助けに行かないと駄目だから…」
鍬形の問い掛けにも彫刻の様に動きを止めたままだった大豪院が、つばめの言葉に反応しゆっくりと目を開く。
つばめの言葉は極めて一方的だ。沖田を助ける為に大豪院に死ねと言っているに等しい。
つばめ自身が本気なだけに、このやり取りはえらく滑稽にも見えた。
「お願い、大豪院くん… 沖田くんを助けられるのなら、わたし何でもするから… だから、お願い…」
頭を下げて懇願するつばめを見遣り、大豪院はポツリと、しかしはっきりと呟いた。
「ならば俺の嫁になってもらうぞ?」
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