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第十一章
第128話 まおうぐん
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「ユニテソリ様、大豪院がいます! …えっと、何やら特殊な状況になっている様ですが…」
油小路の部下が声を上げる。
駅前ショッピングモールの野外広場、恐怖のエナジーを集めるシン悪川興業の仕事ぶりを視察に来た油小路らであったが、前日に繁蔵から指定された場所と時間に来てみれば案内役の凛はまだ来ておらず、『どうしたものか?』と途方に暮れていた所で偶然部下の1人が大豪院を発見した、という次第である。
「ほぉ、彼の様な朴念仁にも好意を示す女性が複数いるのですね。なかなか興味深い…」
その大豪院のモテモテぶりを楽しそうに観察する油小路。ちなみに吹き抜けになっているこの真上のフロアにはアンドレ達が居るのだが、互いの視界からは外れている。
尤もアンドレと油小路は面識がある訳では無いので、会ったからと言って何がある訳でもない。
「ユニテソリ様、今なら動きの止まった奴ごと吹き飛ばせば…」
「全く… 『派手にするな』と何回言えば分かるのですか? 今回は最後まで『見』を貫きますよ… うん…?」
ふと上を見上げた油小路は1人の女性に目を留める。その顔は徐々に険しさを増していき、油小路は件の女性を見上げ憎々しげにきつく拳を握った。
「予定変更です。私はやる事が出来ました。あなた達は引き続き大豪院の監視を続けなさい。くれぐれも騒ぎを起こさない様に…」
部下たちにそれだけ告げると油小路は独り上階への階段へ歩を進めた。
「もぉ、バカだバカだと思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ…」
大豪院と彼に群がる5人の少女達を見ながら魔王軍幹部アグエラは力なく溜め息を吐く。
自らの部下である淫魔部隊が、とにかく数で攻めようと我も我もと大豪院に纏わり付き科を作っている場面は、上司からしてみれば『情けない』事この上ないだろう。
だが淫魔部隊としても5人の知恵を振り絞っての現状なのだ。『如何に堅物の大豪院とて、部隊5人による飽和魅了攻撃ならば陥落するはず』という理念の基、彼女らは彼女らで必死であり決して遊んでいる訳では無い。
「しかし淫魔部隊はバカだけど実力は折り紙付きのはず。それなのにあれだけの攻撃を受けてなぜ大豪院は平然としていられるの? 隣にいるちょっとトッポイ坊や(鍬形)なんて、目をハートにしたまま動く事も出来ないのに…」
大豪院と淫魔部隊に意識を集中しすぎて後方への警戒が疎かになっていたアグエラの背後に油小路が現れた。
「アグエラさん、魔王デムス様の部下である貴女がここで何をされているのかな? しかも私の標的のすぐ近くで…?」
油小路の出現をまるで予期していなかったアグエラは驚きと同時に振り返る。
「ユニテソリ… あんたこそ何でこんな所に…? あ、あたしはバカンスがてらちょっと羽根を伸ばしに来ただけで、作戦とは何の関係も…」
アグエラの抗弁に対して興味無さそうに階下を見下ろした油小路、その視線の先には大豪院とその周りに群れる少女達が居た。
「なるほど、あの少女達は魔族ですか。道理で珍しい状況になっていると思いましたよ。それに今、貴女の主人であるデムス様は『ユリの女勇者』による攻勢を受けていて、部下を遊ばせておく余裕なんて無いと思いましたが…?」
痛い所を突かれて顔を歪めるアグエラ。一方油小路は勝ち誇った表情でアグエラを追い詰める。
「大方、あの娘達は大豪院を自軍に引き入れようと彼を魅了するべく放たれた刺客、と言った所でしょうか? これは重大なルール違反になりますね。早速…」
油小路が会話の途中で携帯電話を取り出して何かを操作する。
その動きを見てアグエラが「待って! 話を聞いて…!」と止める仕草をするが、油小路の残忍そうな表情を見るに既に遅かったようだ。
「そちらの約定違反に伴い、すでに我が『ギル軍』からの援軍は撤収させました。今後はデムス軍単独で事に当たられるとよろしい」
油小路の言葉にこれまでと表情を一変させ、怒りの鬼神と化したアグエラが一歩踏み込む。
「ユニテソリぃ… あんた、何て事してくれてんのよ?!」
「こちらの台詞ですよアグエラさん。『他の魔王の担当地区には一切不可侵とする』という魔王連盟の約定を忘れたとは言わせません。今この時より魔王デムス様は除名となり、魔王ギルドラバキゴツデムスは魔王ギルドラバキゴツとなります。まぁ近いうちに幾人かの魔王候補が昇格して末席に名を連ねるでしょうが、もはや貴女達には関係ない事ですねぇ…」
楽しそうに語る油小路を、夜叉の如き顔で睨みつけるアグエラ。不意に右手を上げて指鉄砲の形で油小路に突きつける。
「お願い見逃して。まだ何もしてないのよ。今援軍を絶たれると本気でマズいの。だからさっきの通信を取り消して…」
涙を浮かべて油小路に懇願するアグエラ。彼女の軽慮浅謀が原因で、主人である魔王そのものが勇者に討たれようとしている。その様な事を認める訳には行かない。アグエラとしては実力を行使しても油小路に翻意を促さねばならなかったのだ。
対して油小路も残忍そうな薄笑いを崩さずに口を開く。
「アグエラさん、いやアグエラぁ… 他人の仕事に手ぇ出しといてそりゃあムシが良すぎるってモンじゃないん…」
言い終わる前に油小路の頭が爆ぜた。アグエラの指先から放たれた無数の針が油小路の頭を粉砕したのだった。
油小路の部下が声を上げる。
駅前ショッピングモールの野外広場、恐怖のエナジーを集めるシン悪川興業の仕事ぶりを視察に来た油小路らであったが、前日に繁蔵から指定された場所と時間に来てみれば案内役の凛はまだ来ておらず、『どうしたものか?』と途方に暮れていた所で偶然部下の1人が大豪院を発見した、という次第である。
「ほぉ、彼の様な朴念仁にも好意を示す女性が複数いるのですね。なかなか興味深い…」
その大豪院のモテモテぶりを楽しそうに観察する油小路。ちなみに吹き抜けになっているこの真上のフロアにはアンドレ達が居るのだが、互いの視界からは外れている。
尤もアンドレと油小路は面識がある訳では無いので、会ったからと言って何がある訳でもない。
「ユニテソリ様、今なら動きの止まった奴ごと吹き飛ばせば…」
「全く… 『派手にするな』と何回言えば分かるのですか? 今回は最後まで『見』を貫きますよ… うん…?」
ふと上を見上げた油小路は1人の女性に目を留める。その顔は徐々に険しさを増していき、油小路は件の女性を見上げ憎々しげにきつく拳を握った。
「予定変更です。私はやる事が出来ました。あなた達は引き続き大豪院の監視を続けなさい。くれぐれも騒ぎを起こさない様に…」
部下たちにそれだけ告げると油小路は独り上階への階段へ歩を進めた。
「もぉ、バカだバカだと思ってたけど、ここまでとは思わなかったわ…」
大豪院と彼に群がる5人の少女達を見ながら魔王軍幹部アグエラは力なく溜め息を吐く。
自らの部下である淫魔部隊が、とにかく数で攻めようと我も我もと大豪院に纏わり付き科を作っている場面は、上司からしてみれば『情けない』事この上ないだろう。
だが淫魔部隊としても5人の知恵を振り絞っての現状なのだ。『如何に堅物の大豪院とて、部隊5人による飽和魅了攻撃ならば陥落するはず』という理念の基、彼女らは彼女らで必死であり決して遊んでいる訳では無い。
「しかし淫魔部隊はバカだけど実力は折り紙付きのはず。それなのにあれだけの攻撃を受けてなぜ大豪院は平然としていられるの? 隣にいるちょっとトッポイ坊や(鍬形)なんて、目をハートにしたまま動く事も出来ないのに…」
大豪院と淫魔部隊に意識を集中しすぎて後方への警戒が疎かになっていたアグエラの背後に油小路が現れた。
「アグエラさん、魔王デムス様の部下である貴女がここで何をされているのかな? しかも私の標的のすぐ近くで…?」
油小路の出現をまるで予期していなかったアグエラは驚きと同時に振り返る。
「ユニテソリ… あんたこそ何でこんな所に…? あ、あたしはバカンスがてらちょっと羽根を伸ばしに来ただけで、作戦とは何の関係も…」
アグエラの抗弁に対して興味無さそうに階下を見下ろした油小路、その視線の先には大豪院とその周りに群れる少女達が居た。
「なるほど、あの少女達は魔族ですか。道理で珍しい状況になっていると思いましたよ。それに今、貴女の主人であるデムス様は『ユリの女勇者』による攻勢を受けていて、部下を遊ばせておく余裕なんて無いと思いましたが…?」
痛い所を突かれて顔を歪めるアグエラ。一方油小路は勝ち誇った表情でアグエラを追い詰める。
「大方、あの娘達は大豪院を自軍に引き入れようと彼を魅了するべく放たれた刺客、と言った所でしょうか? これは重大なルール違反になりますね。早速…」
油小路が会話の途中で携帯電話を取り出して何かを操作する。
その動きを見てアグエラが「待って! 話を聞いて…!」と止める仕草をするが、油小路の残忍そうな表情を見るに既に遅かったようだ。
「そちらの約定違反に伴い、すでに我が『ギル軍』からの援軍は撤収させました。今後はデムス軍単独で事に当たられるとよろしい」
油小路の言葉にこれまでと表情を一変させ、怒りの鬼神と化したアグエラが一歩踏み込む。
「ユニテソリぃ… あんた、何て事してくれてんのよ?!」
「こちらの台詞ですよアグエラさん。『他の魔王の担当地区には一切不可侵とする』という魔王連盟の約定を忘れたとは言わせません。今この時より魔王デムス様は除名となり、魔王ギルドラバキゴツデムスは魔王ギルドラバキゴツとなります。まぁ近いうちに幾人かの魔王候補が昇格して末席に名を連ねるでしょうが、もはや貴女達には関係ない事ですねぇ…」
楽しそうに語る油小路を、夜叉の如き顔で睨みつけるアグエラ。不意に右手を上げて指鉄砲の形で油小路に突きつける。
「お願い見逃して。まだ何もしてないのよ。今援軍を絶たれると本気でマズいの。だからさっきの通信を取り消して…」
涙を浮かべて油小路に懇願するアグエラ。彼女の軽慮浅謀が原因で、主人である魔王そのものが勇者に討たれようとしている。その様な事を認める訳には行かない。アグエラとしては実力を行使しても油小路に翻意を促さねばならなかったのだ。
対して油小路も残忍そうな薄笑いを崩さずに口を開く。
「アグエラさん、いやアグエラぁ… 他人の仕事に手ぇ出しといてそりゃあムシが良すぎるってモンじゃないん…」
言い終わる前に油小路の頭が爆ぜた。アグエラの指先から放たれた無数の針が油小路の頭を粉砕したのだった。
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