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第十章
第122話 みりょう
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「アナタ、呪われていますね…?」
第4の刺客エト、彼女の言葉は今朝の誰よりも大豪院の心を掴んだ。長い髪で顔を隠して鼻と口しか見えない不思議ちゃん風なエトであるが、そのミステリアスな外見と相俟った突拍子も無い発言が功を奏した模様である。
そもそも論であるが、大豪院が山から都会にやってきた理由は謎の占い師(に扮したアグエラ)により受けたお告げ「自身の歪んだ運命を修正させる女に出会う」を成す事であり、決して物見遊山ではない。
大豪院の境遇が『呪い』に拠るものかどうかは知る由もないが、いきなり体当たりしてくる女や、いきなり荷物持ちをさせようとしてくる女よりは興味深い話であった(イルの事を思い出さない辺り、本当に大豪院の視界に入っていなかったようだ)。
第一、最初に上司であるアグエラが種を蒔いていてくれたのだから、それに従って『私こそが貴方の運命を正す女!』と売り込んでいれば、ここまで連続して玉砕する事も無かっただろう。
その点をアグエラは強調しなかったし、部下の淫魔部隊も敢えて深く聞いていなかった。
また、そんな策を弄せずとも『私達にかかれば男なんてイチコロよん』という猛者の集団である淫魔部隊も、大豪院を『ただの男』と軽視していた面も否めない。
その辺りの報・連・相が出来ていない点は大きな反省点であるが、ようやく4人目にして大豪院の注意を引く事が出来た。
ちなみに5人目のオワであるが、彼女の想定していた作戦は「こんな所で道草くってないでさっさと学校行くわよ!」と大豪院の腕を取り、道すがらに仲良くなるという見た目通りの委員長作戦であった。これまたアミらと同様のベタな作戦であり、エトの物と比べて成功していたかどうかは大いに怪しい物と言えるだろう。
さて、エトの言葉に興味を抱いた大豪院は、「何か、知っているのか…?」と彼にしてはとても珍しく2文節以上の言葉を発した。
エトの能力は『視線の合った相手を魅了する』である。長い髪の毛で目を隠しているのは能力の誤爆を考慮した結果であり、キャラ立ての為の行為では無い。
チャンスとばかりにエトの髪が掻き揚げられ、アーモンド型の猫目が大豪院の細く険しい目を捉える。
本来ならばこの時点でエトの勝利は確実であった。魅了された相手は全力でエトに尽くそうとし、自死以外の事柄ならば大抵の頼みは呑んでくれるのだ。
後はエトの口から大豪院に「私の下僕になりなさい」と伝えれば任務は完了だ。遠くから眺めていた淫魔部隊の他の4人も、揃って悔しそうな顔でエトと大豪院を見つめている。
しかし、エトに勝利の感触は無い。相手を魅了した際の『精神が繋がった感じ』が最後までしなかったからだ。
普通に考えてこの段階で失敗する事はありえないのだ。原因の分からない不調ほど怖いものは無い。初めてのトラブルにエトは少なからず動揺していた。
「何か知っているのなら、教えてくれ!」
自分から話を振っておいて動きを止めてしまったエトに業を煮やし、大豪院は今までよりも大きめの声を出し、エトの両肩を掴む。
「痛っ」
心の準備のつかないまま掴まれたエトも思わず声を上げてしまう。
一方エトの術が失敗して、逆上した大豪院に襲われたと勘違いした淫魔部隊の面々が、各々戦闘態勢をとってエトを援護するべく接近する。
「すまない、つい…」
大豪院もエトの声に反応して手を離す。彼がここまで感情を見せるのは極めて稀であり、彼を知る人間が間近に居たら「10年に1度あるか無いかの奇跡」と呼んだであろう。
それだけ大豪院も必死で己の境遇を変えたいと願っていたのだ。昨日に街で当て所なく街を散策していたのも『いずれ必然的に巡り合う運命の女』を探しての事であり、意味も無く徘徊していた訳ではない。
エトとしても大豪院が食いついてきたのは、計算外であれ幸運な事だった。魅了の魔法が効かなかったのは、たまたま運が悪かったか調子が悪かったのだろう。今はとにかく話術で大豪院を引き留めて……。
『ヤバっ! いつも魅了がスタートだったから、それ以前の話術なんて全然鍛えてねぇわ。えっと、えっと…』
「あ、明日、この時間にまたここで話をしましょう。わ、私も学校があるので、ではっ!!」
テンパったエトは言葉と同時に手を上げて脱兎のごとく大豪院から逃げ出した。
呆気にとられた大豪院はエトを追う事なく、しばし考え込んだ後に通学路に戻り、やがて鍬形と合流する事になる。
⭐
「何やってんのよエト?」
部隊を代表してアミが帰還したエトを問い詰める。
「だってアイツに魅了が効かなかったんだもん、しょうがないじゃん! 誰でもテンパるよあれは…」
「私の媚薬も効かなかったわ。あの男、只者じゃないのよやっぱり…」
反論するエトに縦ロールのウネが援護に入る。
「只者じゃないのは分かってるけどさぁ…」
アミが再び夢見る様にとろんとした目つきになる。
「それでどうするの? 明日何とか出来る作戦はあるの?」
オワの問いにエトは自信なさげに首を振った。
「じゃあ明日は皆で一斉に攻め掛かるか?!」
イルのやけっぱちとも思える脳筋な提案に、有効な対案を持たないその場の全員は不承不承頷くしか無かった。
明日の土曜日が作戦決行の日である。
第4の刺客エト、彼女の言葉は今朝の誰よりも大豪院の心を掴んだ。長い髪で顔を隠して鼻と口しか見えない不思議ちゃん風なエトであるが、そのミステリアスな外見と相俟った突拍子も無い発言が功を奏した模様である。
そもそも論であるが、大豪院が山から都会にやってきた理由は謎の占い師(に扮したアグエラ)により受けたお告げ「自身の歪んだ運命を修正させる女に出会う」を成す事であり、決して物見遊山ではない。
大豪院の境遇が『呪い』に拠るものかどうかは知る由もないが、いきなり体当たりしてくる女や、いきなり荷物持ちをさせようとしてくる女よりは興味深い話であった(イルの事を思い出さない辺り、本当に大豪院の視界に入っていなかったようだ)。
第一、最初に上司であるアグエラが種を蒔いていてくれたのだから、それに従って『私こそが貴方の運命を正す女!』と売り込んでいれば、ここまで連続して玉砕する事も無かっただろう。
その点をアグエラは強調しなかったし、部下の淫魔部隊も敢えて深く聞いていなかった。
また、そんな策を弄せずとも『私達にかかれば男なんてイチコロよん』という猛者の集団である淫魔部隊も、大豪院を『ただの男』と軽視していた面も否めない。
その辺りの報・連・相が出来ていない点は大きな反省点であるが、ようやく4人目にして大豪院の注意を引く事が出来た。
ちなみに5人目のオワであるが、彼女の想定していた作戦は「こんな所で道草くってないでさっさと学校行くわよ!」と大豪院の腕を取り、道すがらに仲良くなるという見た目通りの委員長作戦であった。これまたアミらと同様のベタな作戦であり、エトの物と比べて成功していたかどうかは大いに怪しい物と言えるだろう。
さて、エトの言葉に興味を抱いた大豪院は、「何か、知っているのか…?」と彼にしてはとても珍しく2文節以上の言葉を発した。
エトの能力は『視線の合った相手を魅了する』である。長い髪の毛で目を隠しているのは能力の誤爆を考慮した結果であり、キャラ立ての為の行為では無い。
チャンスとばかりにエトの髪が掻き揚げられ、アーモンド型の猫目が大豪院の細く険しい目を捉える。
本来ならばこの時点でエトの勝利は確実であった。魅了された相手は全力でエトに尽くそうとし、自死以外の事柄ならば大抵の頼みは呑んでくれるのだ。
後はエトの口から大豪院に「私の下僕になりなさい」と伝えれば任務は完了だ。遠くから眺めていた淫魔部隊の他の4人も、揃って悔しそうな顔でエトと大豪院を見つめている。
しかし、エトに勝利の感触は無い。相手を魅了した際の『精神が繋がった感じ』が最後までしなかったからだ。
普通に考えてこの段階で失敗する事はありえないのだ。原因の分からない不調ほど怖いものは無い。初めてのトラブルにエトは少なからず動揺していた。
「何か知っているのなら、教えてくれ!」
自分から話を振っておいて動きを止めてしまったエトに業を煮やし、大豪院は今までよりも大きめの声を出し、エトの両肩を掴む。
「痛っ」
心の準備のつかないまま掴まれたエトも思わず声を上げてしまう。
一方エトの術が失敗して、逆上した大豪院に襲われたと勘違いした淫魔部隊の面々が、各々戦闘態勢をとってエトを援護するべく接近する。
「すまない、つい…」
大豪院もエトの声に反応して手を離す。彼がここまで感情を見せるのは極めて稀であり、彼を知る人間が間近に居たら「10年に1度あるか無いかの奇跡」と呼んだであろう。
それだけ大豪院も必死で己の境遇を変えたいと願っていたのだ。昨日に街で当て所なく街を散策していたのも『いずれ必然的に巡り合う運命の女』を探しての事であり、意味も無く徘徊していた訳ではない。
エトとしても大豪院が食いついてきたのは、計算外であれ幸運な事だった。魅了の魔法が効かなかったのは、たまたま運が悪かったか調子が悪かったのだろう。今はとにかく話術で大豪院を引き留めて……。
『ヤバっ! いつも魅了がスタートだったから、それ以前の話術なんて全然鍛えてねぇわ。えっと、えっと…』
「あ、明日、この時間にまたここで話をしましょう。わ、私も学校があるので、ではっ!!」
テンパったエトは言葉と同時に手を上げて脱兎のごとく大豪院から逃げ出した。
呆気にとられた大豪院はエトを追う事なく、しばし考え込んだ後に通学路に戻り、やがて鍬形と合流する事になる。
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「何やってんのよエト?」
部隊を代表してアミが帰還したエトを問い詰める。
「だってアイツに魅了が効かなかったんだもん、しょうがないじゃん! 誰でもテンパるよあれは…」
「私の媚薬も効かなかったわ。あの男、只者じゃないのよやっぱり…」
反論するエトに縦ロールのウネが援護に入る。
「只者じゃないのは分かってるけどさぁ…」
アミが再び夢見る様にとろんとした目つきになる。
「それでどうするの? 明日何とか出来る作戦はあるの?」
オワの問いにエトは自信なさげに首を振った。
「じゃあ明日は皆で一斉に攻め掛かるか?!」
イルのやけっぱちとも思える脳筋な提案に、有効な対案を持たないその場の全員は不承不承頷くしか無かった。
明日の土曜日が作戦決行の日である。
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