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第十章
第118話 さいえん
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野々村 千代美は才媛である。性格的な事と彼女の所業の顛末は以前にも書いたが、それらを産み支えているのは彼女自身の真面目な性格からであるのは間違い無い。
魔法少女として目覚めた後にも彼女の真面目さは十分に発揮されていた。
毎晩就寝前には必ず魔法の練習を2度、調子が良ければ3度してから床についていたし、彼女の呪文である『高架橋橋脚部』を何度も唱えてイメージトレーニングしてきた。
そのおかげか舌を噛みそうな難解な早口言葉も、3度に2度は噛まずに言える様にレベルアップした。
更にその時の気合の込め具合いで、彼女の放つ光の光量の加減も可能だという事まで学習していたのだった。
だがしかし、野々村の特性は現状直接の攻撃力を持たない。そして野々村自身も格闘技の心得の無い、ごく普通の女子高生に過ぎない。
武田ら3人の悪意ある女子高生に囲まれた際に、野々村は特殊能力を以て事態を解決する手段を持っていなかった。
「あんたが仕掛けて芹沢のブスをハメるんじゃ無かったの? それなのに何で芹沢と仲良くなってんのよ? 意味分かんないんだけど…?」
怒りを隠そうともしない武田の調子に野々村は内心苦笑する。『あぁ、この子らはまだそんな程度の低い事を考えているのか』と。
魔法に触れ、世界の理に触れて開眼した野々村には、途轍もなく瑣末な事なのだが、目の前の3人にはとても重要な事のようである。野々村は自らが至った高次元の思考に武田らも引き上げてやるべく手助けをしようと試みる事にした。
「私はもうその様な小さい事に拘って、アレコレと考える事は止めたんです。貴女達もこんな不毛な争いよりも、もっと大局的な…」
「ふざけんじゃねーよ!!」
野々村の慈愛に満ちた説教は武田の叫びによっては中断された。武田らの意識を変える事で解決を図ろうとした野々村であったが、当の武田らにしてみればそんな物は『余計なお世話』に過ぎず、ただ神経を逆撫でされただけであった。
「裏切り者のクセになに偉そうに説教垂れようとしてんのよ? 自分の立場分かってんの?!」
「そーよ、裏切り者のくせに!」
「謝罪の言葉も無いのかしら?」
激昂した武田に乗っかって木下も和久井も野々村を責める。場所が往来である為に周囲の視線が武田らに集中するが、武田は怯まずに野々村へと攻撃を続ける。
「とにかくアンタのおかげでメンツ丸潰れよ。沖田くんから『1人減ったんだね』って言われて恥ずかしいやら惨めやら… とにかくこの落とし前を付けなさいよ!」
野々村にしてみれば迷惑な言い掛かりに他ならない。武田らとつるんでいたのだって『沖田ファン』という一点で繋がっていただけだあったし、何なら3人の下の名前すら完全には覚えていなかった。
野々村は「やれやれ」という体でため息をつくと、半ばわざとらしく武田らに向けて深く頭を下げてみせた。
「この度はワタクシの至らぬ点で皆様にご迷惑をおかけ致しました事を深くお詫び申し上げます」
頭を上げた野々村は『これでいいでしょ?』とばかりに3人に笑顔を見せる。しかしこれがいけなかった。
「はぁ? なにスッキリした顔してんのよ? 謝るなら土下座しなさいよ土下座!」
「なんか態度にすんげートゲがあったんですけど?!」
「本当に反省してんの?」
どうやら謝罪の仕方を巡って、3人の怒りの炎に油を注いでしまったようである。
野々村としては『頭は下げたのだからもう解放して欲しい』と思う反面、『しつこいから変身して実力で排除してやろうか?』とも考える。
尤も今の野々村に往来で魔法少女になれるほどの度胸は無いし、変身したところで攻撃力は無いのだから脅しにもならない。
かと言ってこんな通行人が大勢いる所で土下座なんて真似は魔法少女以上に恥ずかしいし、矜持が許さない。
『さて、どうしたものか…?』と考える野々村に救世主か現れたのはこの時である。
「おい木下… とその他2人。お前ら3人で1人囲んでイジメとかカッコ悪いぜ? やるならタイマンしろタイマン!」
野々村の後ろから若い男の声が掛かる。その男の顔を見て武田ら3人が更に顔をしかめていた。
「げ、鍬形… ウザいのが出てきた」
3人の中から木下が代表して答える。そう、ここで乱入した者こそ大豪院の腰ぎんちゃくにして不良未満の半端者、そして野々村が密かに探していた鍬形 甲その人であった。
ちなみに鍬形と木下が知り合いなのは、五十音順に並んだクラスの席が前後である、というだけであり特段親しいという訳では無い。
「やるならタイマンだろ? なんなら俺が見届けてやるぜ?」
鍬形としては気を利かせたつもりの発言であったが、武田らも野々村も殴り合いの喧嘩をするつもりは毛頭無く、空気を白けさせただけの結果に終わってしまった。
「ふ、ふん! 興が冷めたわ! もう行きましょ!」
その言葉が真意かどうかは分からないが、武田ら3人は踵を返して去っていった。
ちなみにこの構図は以前つばめが彼女らに絡まれて綿子に助けられたパターンとほぼ同一であるが、これは作者よりも武田らのキャパシティの問題である。
結果的に鍬形の乱入によって野々村は解放された訳である。
「あの、ありがとうございました。おかけで助かりました」
「いやぁ、俺は何もしてないよ? あ、俺は鍬形甲、よろしくな!」
再度頭を下げる野々村に気にするなと手を振る鍬形。野々村の目にはニッと笑ってみせた鍬形の歯が夕陽を受けてキラリと光った様に見えた。
魔法少女として目覚めた後にも彼女の真面目さは十分に発揮されていた。
毎晩就寝前には必ず魔法の練習を2度、調子が良ければ3度してから床についていたし、彼女の呪文である『高架橋橋脚部』を何度も唱えてイメージトレーニングしてきた。
そのおかげか舌を噛みそうな難解な早口言葉も、3度に2度は噛まずに言える様にレベルアップした。
更にその時の気合の込め具合いで、彼女の放つ光の光量の加減も可能だという事まで学習していたのだった。
だがしかし、野々村の特性は現状直接の攻撃力を持たない。そして野々村自身も格闘技の心得の無い、ごく普通の女子高生に過ぎない。
武田ら3人の悪意ある女子高生に囲まれた際に、野々村は特殊能力を以て事態を解決する手段を持っていなかった。
「あんたが仕掛けて芹沢のブスをハメるんじゃ無かったの? それなのに何で芹沢と仲良くなってんのよ? 意味分かんないんだけど…?」
怒りを隠そうともしない武田の調子に野々村は内心苦笑する。『あぁ、この子らはまだそんな程度の低い事を考えているのか』と。
魔法に触れ、世界の理に触れて開眼した野々村には、途轍もなく瑣末な事なのだが、目の前の3人にはとても重要な事のようである。野々村は自らが至った高次元の思考に武田らも引き上げてやるべく手助けをしようと試みる事にした。
「私はもうその様な小さい事に拘って、アレコレと考える事は止めたんです。貴女達もこんな不毛な争いよりも、もっと大局的な…」
「ふざけんじゃねーよ!!」
野々村の慈愛に満ちた説教は武田の叫びによっては中断された。武田らの意識を変える事で解決を図ろうとした野々村であったが、当の武田らにしてみればそんな物は『余計なお世話』に過ぎず、ただ神経を逆撫でされただけであった。
「裏切り者のクセになに偉そうに説教垂れようとしてんのよ? 自分の立場分かってんの?!」
「そーよ、裏切り者のくせに!」
「謝罪の言葉も無いのかしら?」
激昂した武田に乗っかって木下も和久井も野々村を責める。場所が往来である為に周囲の視線が武田らに集中するが、武田は怯まずに野々村へと攻撃を続ける。
「とにかくアンタのおかげでメンツ丸潰れよ。沖田くんから『1人減ったんだね』って言われて恥ずかしいやら惨めやら… とにかくこの落とし前を付けなさいよ!」
野々村にしてみれば迷惑な言い掛かりに他ならない。武田らとつるんでいたのだって『沖田ファン』という一点で繋がっていただけだあったし、何なら3人の下の名前すら完全には覚えていなかった。
野々村は「やれやれ」という体でため息をつくと、半ばわざとらしく武田らに向けて深く頭を下げてみせた。
「この度はワタクシの至らぬ点で皆様にご迷惑をおかけ致しました事を深くお詫び申し上げます」
頭を上げた野々村は『これでいいでしょ?』とばかりに3人に笑顔を見せる。しかしこれがいけなかった。
「はぁ? なにスッキリした顔してんのよ? 謝るなら土下座しなさいよ土下座!」
「なんか態度にすんげートゲがあったんですけど?!」
「本当に反省してんの?」
どうやら謝罪の仕方を巡って、3人の怒りの炎に油を注いでしまったようである。
野々村としては『頭は下げたのだからもう解放して欲しい』と思う反面、『しつこいから変身して実力で排除してやろうか?』とも考える。
尤も今の野々村に往来で魔法少女になれるほどの度胸は無いし、変身したところで攻撃力は無いのだから脅しにもならない。
かと言ってこんな通行人が大勢いる所で土下座なんて真似は魔法少女以上に恥ずかしいし、矜持が許さない。
『さて、どうしたものか…?』と考える野々村に救世主か現れたのはこの時である。
「おい木下… とその他2人。お前ら3人で1人囲んでイジメとかカッコ悪いぜ? やるならタイマンしろタイマン!」
野々村の後ろから若い男の声が掛かる。その男の顔を見て武田ら3人が更に顔をしかめていた。
「げ、鍬形… ウザいのが出てきた」
3人の中から木下が代表して答える。そう、ここで乱入した者こそ大豪院の腰ぎんちゃくにして不良未満の半端者、そして野々村が密かに探していた鍬形 甲その人であった。
ちなみに鍬形と木下が知り合いなのは、五十音順に並んだクラスの席が前後である、というだけであり特段親しいという訳では無い。
「やるならタイマンだろ? なんなら俺が見届けてやるぜ?」
鍬形としては気を利かせたつもりの発言であったが、武田らも野々村も殴り合いの喧嘩をするつもりは毛頭無く、空気を白けさせただけの結果に終わってしまった。
「ふ、ふん! 興が冷めたわ! もう行きましょ!」
その言葉が真意かどうかは分からないが、武田ら3人は踵を返して去っていった。
ちなみにこの構図は以前つばめが彼女らに絡まれて綿子に助けられたパターンとほぼ同一であるが、これは作者よりも武田らのキャパシティの問題である。
結果的に鍬形の乱入によって野々村は解放された訳である。
「あの、ありがとうございました。おかけで助かりました」
「いやぁ、俺は何もしてないよ? あ、俺は鍬形甲、よろしくな!」
再度頭を下げる野々村に気にするなと手を振る鍬形。野々村の目にはニッと笑ってみせた鍬形の歯が夕陽を受けてキラリと光った様に見えた。
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