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第十章

第115話 じょうほうこうかん

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「はぁ、はぁ、ふぅ… やっと追いつきましたよ。何かあったんですか…?」

 つばめが走り去って行った睦美ら3人を補足したのは職員室の前であった。
 睦美らはアンドレに用事があって職員室へ訪れたのだが、職員会議中という事で締め出しを食らっていた所だったのだ。

「あら、つばめじゃない? アンタこそ部活サボって何してんのよ?」

 もちろんつばめは意図的にサボった訳では無い。つばめが部室に顔を出した時には既に部室は無人だったのだ。
 その状況をして「学外に出ていった睦美らをヒント無しで探せ」というミッションは、つばめには受け入れ難い物であった感は否めないだろう。

「え? あの… その…」

 つばめとしては上記の様に言い返してやりたいところなのだが、睦美相手に下手に言い訳したら余計に拗らせる事が分かっているので、言葉を選びつつ何とか反論しようと頭を動かしていたのだ。

「睦美さま、私たちが勝手に出て行っちゃったんだからつばめちゃんを責めたら可哀想ですよぉ?」

「そうですね。代わりに芹沢さんには色々と情報提供をお願いしましょう」

 久子と野々村が揃って睦美を諌める。

「…そうね。アンドレはまだ時間が掛かりそうだし、一度部室に戻るわよ」

 つばめを(無理矢理)加えた一行は、再びマジボラ部室へと移動して行った。会議が終わり次第アンドレも合流するだろう。

 ☆


「え? 大豪院くんについてですか? そりゃまた何で…?」

 部室でつばめを囲んで大豪院談義が始まる。女子4人で集まって男子の話をしているのだが、恋バナめいたトキメキや明るさは微塵も見いだせないでいた。

 睦美らは先程の路地裏で見かけた大豪院の立ち回り(?)をつばめに聞かせる。
 つばめもつばめで、登校時に遭遇した話を睦美らに聞かせる。

 睦美らの見てきた話も大概であったが、つばめのそれは睦美らの予想を大きく上回っており、大豪院に対する警戒感をより強くさせた。

「え? じゃああの暴走車ってたまたまじゃなくて今日の転校生をずっと狙ってたって事?」

「はい恐らく… 彼が何者に何故狙われているのか? とか、なぜわたしが関わらないといけないのか? とかはさっぱり分かりませんけど…」

「さっきのチンピラが関係しているかどうかは分かりませんが、大豪院氏が恒常的に何者かに狙われているのは確かみたいですね…」

 野々村の言葉に全員が頭を抱える。冷静に考えれば現段階でマジボラが大豪院にそこまで入れこむ必要は無いのだが、睦美らの感じた違和感とつばめの感じている危機感とが相俟って、半ば義務感の様な感覚をこの場の全員が共有していた。

 そこで睦美が何かを思い出した様に手を打つ。

「あ、そうだ。デカイのは一旦置いといて。つばめ、アンタ今度の土曜日は空けときなさいよ? 例のシン悪川興業が動き出すってネタを仕入れたんだから」

 急な話に驚いたのはつばめである。土曜日は沖田の練習試合があるのだ。既に差し入れる弁当の飾り付けを考えていた状態で、睦美のこの話は死刑宣告に等しい。

「え? 土曜日はちょっと用事が… て言うか何で敵の動きが事前に分かるんですか…?」

 今度は逆に睦美が動揺する。蘭経由の情報である、とつばめに知られるのはいささか都合が悪い。

「え、えーと… それはその、アレよ。前回戦った時にあの丸っこいのに盗聴器を仕掛けたのよ!」

「…? でも前回戦ったのは蘭ちゃんで、先輩たちは後から来ましたよね…?」

 首を傾げるつばめ。ここは果敢に「異議あり!」と攻め込んで睦美の矛盾を崩していくターンであろう。
 今まで睦美によって散々酷い目に遭ってきたのだ。つばめの逆襲の時は今をおいて他には無……。

「♤✮✻✾𓀏」

 睦美の呟きと共につばめの動きが止まる。完全に時間が止まった様に身動き一つ、瞬き一つすらせずに停止している。
 睦美の『固定化』の魔法だ。

「…ヤバイわね。どうしようヒザ子?」

 自らの軽率な失言を悔いて久子に救援を求める睦美。

「うーん… 千代美ちゃんが『何かそういうスパイ装置を作った』的な設定で良いんじゃないですかぁ?」

「そんな雑な設定で良いんですか?! それに私はガジェットを作るようなキャラじゃないですよ…?」

 久子の思いつきにツッコミを入れる野々村。睦美の場当たり主義は昔からなので、久子も要領を得ておりアドリブも効くようになっている。

「雑でも何でも今を誤魔化せれば良いのよ。つばめこの子バカだからどうせ明日には忘れてるわ。とりあえずあと10秒くらいは魔法が保つから、その間にシナリオを考えて…」

 睦美の口は驚愕の表情と共にそこで止まった。

「…流石にわたしだって黙ってませんよ? あと今日はそれとは別に言いたい事があって来たんですからね!」

 睦美の予想を遥かに超えた早い時間で、つばめが『固定』の魔法から復活したのだ。
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