まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや

文字の大きさ
上 下
114 / 209
第十章

第114話 さっかーぶ

しおりを挟む
 瓢箪岳高校のサッカー部は県内でも強豪の部類に入る。平均して3年に一度は全国大会への切符を手に入れているので、大半の部員は高校生活に一度は全国大会に参加できている計算になる。
 これは高校サッカーの後に夢破れた者達も『俺の在籍時に全国行ってたんだ』と他者に自慢できる人生を提供する事にも繋がっていた。

 そして女子にモテる。
 例えば沖田には4人(野々村が抜けたせいで今は3人)のファンクラブと言うか親衛隊がいるが、それがあまり問題にならないのは他のサッカー部レギュラーには更に多くのファンが付いているからである。
 従ってサッカー部の練習の際には、練習場の周囲をファンの女子生徒で囲んでしまう事もままあった。

 だがそれが故にサッカー部は人気のクラブであり、入部希望者も多い上に、その後のレギュラー争いも熾烈なものとなる。

 当然つばめの思いびとである沖田彰馬もレギュラー獲得を目指して、谷を始めとする他の部員らと切磋琢磨していた。

 男子だけでは無い。女子もサッカー部のマネージャーになるに当たって、これまた激しい選抜が行われる。
 サッカー知識はもちろん、掃除や洗濯の技能、さらにはその容姿すらも選考対象となり、男子部員の人気投票なども加わって『女の戦い』の主戦場ともなっていた。

 以前のつばめはそんな事情など全く知らずに、呑気に『マジボラ辞めてサッカー部のマネージャーやろっかな?』などと考えていたのだが、仮につばめがサッカー部マネージャーになったとして3軍のマネージャーですら就けたかどうか疑問であったろう。

 サッカー部を取り巻く事情はそれなりに複雑なものではあるが、我らが芹沢つばめにとっては当面無関係な事であり、彼女は極めてお気楽にサッカー部の練習を見物し、沖田への声援を送っていた。
 グラウンドの対面トイメンには沖田親衛隊が確認できたが、こちらから近寄らなければ厄介事にはなるまい、とつばめは距離を取る事にする。

 今日は試合形式ではなく、1年生も上級生と同様にドリブルからシュートに繋ぐ練習をしていた。
 ゴールキーパーとディフェンス役の部員が1人おり、それらを切り抜けてゴールすれば勝ちで、持ち時間は1分、シュートチャンスは一度だけ。ディフェンスにボールを奪われたら即終了というシビアなルールだ。

 ちなみに結果がどうあれオフェンス役の部員は、ディフェンスに入って次の部員の邪魔をする役に回り、そしてディフェンス役だった部員はオフェンスの列の後ろに並ぶという仕組みだ。

 ちょうど沖田の順番が回ってきたようだ。つばめと親衛隊、グラウンドの両方から「沖田くん頑張れー!」という声が上がる。つばめと親衛隊は反目し合う間柄ではあるが、今だけは『沖田の応援』で心が1つになっていた。

 ボールを持って駆け出した沖田は、寄せてきたディフェンスに対して体を回転させるように躱し、そのまま背面から踵でボールをチョイと蹴り上げた。
 強烈なシュートを警戒して前に出て来たキーパーの頭上を山なりに飛び越えたボールは、そのまま緊張感の無い勢いのままゴール内へと転がり込む。

 予想外の展開に一瞬静まり返るグラウンド。数秒後、それを見ていた全てのサッカー部員と観衆が拍手と歓声で湧き上がる。とても只の練習風景で見る光景では無い。

 沖田のサッカーセンスと冷静な観察眼と茶目っ気が同時に発揮された場面だった。

 思いびとが活躍して嬉しい反面、つばめは『これで更に沖田くんのファンが増えちゃったらどうしよう? 更に激化した戦場に踏み込まなければならないのかしら…?』などとも考える。
 沖田には活躍して欲しい。しかし他の女に注目されるのは困る。複雑な乙女心であった。

 更に沖田はつばめの方を見てガッツポーズを決める。それを受けてつばめのキュンゲージはまたしても爆上がりを見せた。
 いや、実際に彼が見ていたのがつばめかどうかは判然としないのだが、つばめにとってはそれは大した問題ではない。

 親衛隊の反対側である『こちら』を向いてアクションをした、という事が重要であり、既につばめの中では『沖田くんがわたしに向けてガッツポーズをしてくれた』に変換されていた。
 恐らく明日にはつばめの妄想は『私の為にゴールを決めてくれた』にまで昇華すると思われるが、ここではこれ以上は語るまい。

 その後沖田はディフェンスに回るも、友人である谷の豪快なドリブルに力負けして押し倒されていた。
 怪我には至らなかったが、沖田は高いセンスと機動力を持つ反面、パワー不足から来る当たりの弱さが露見した結果となった。

 倒れた沖田に手を伸ばし助け起こす谷を見て、つばめは新たに『押し倒す男の友情もいい!』という価値観もインプットしていた。それ以上に拗らせない事を願うばかりだ。

「でも今日はマジボラが休み(?)で、沖田くんがたくさん見られたから良かったなぁ…」

 1人幸せムードで盛り上がるつばめ。そして彼女は唐突にある重要な約束を思い出す。

「マジボラと言えば『わたしと沖田くんの仲を取り持つ』事が入部の条件だったのに、もしかして今まで何もされてなくない…? むしろ邪魔ばかりされていた気が…」

 沖田絡みでマジボラから受けた恩恵は、身体測定の時の沖田の身体データだけだ。あんな(とても尊い物ではあるが)紙切れ1枚では今までの働きに対して、とてもではないが釣り合わないであろう。

「これはちょっと一言申し上げないとだよね!」

 自分で今まですっかり忘れていたにも関わらず、急に怒りを思い出したつばめが何処ともなく視線を巡らせると、ちょうど校門の外から中へと睦美らが走り入っていく所であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...