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第八章
第98話 ぷりあ
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「や… やめろぉっ! そんな目でわたしを見るなぁっ!」
『可愛そうな子』扱いされて3人に抗議するつばめ。
「そうは言うけど芹沢さん、常識的に考えて無生物に魂が宿るなんて有り得ないわ。妖怪じゃあるましい…」
不二子の言葉に『ごもっとも』と頷く野々村。蘭はリアクションに困って愛想笑いを浮かべていた。
「嘘じゃないよ! お願い! 蘭ちゃんだけは信じてくれるよね?!」
「え? う、うん… 信じたい、かな…?」
手を握って訴えかけてくるつばめに対して、蘭は目を合わせる事も言葉をうまく繋げる事も出来なかった
「大体『命が宿った』って言い出したのは蘭ちゃんじゃん! こうなった責任取ってよ!!」
「そ、そんな無茶苦茶な…」
確かに無茶苦茶である。つばめの変態バンドが喋った事と、先程の蘭の発言には何の関係も無い。
「落ち着きなさい、芹沢さん。増田さんを詰めても仕方無いでしょ?」
「そうです。まずは状況を整理しましょう」
不二子の言葉に野々村が追従する。つばめも2人に言われて落ち着きを取り戻したのか、蘭に「ごめんね」と頭を下げていた。
「野々村さんの言う通り状況を整理してみましょう。芹沢さん、そのバンドは今も話したりしてるの? そもそも日本語で話しかけてるのかしら…?」
不二子から聞かれて、ようやく頭に謎の声が聞こえなくなっている事に気付くつばめ。バンドを強く握り締めていた右手の手汗の量に、自分で驚いていた。
「は、はい… 確かに今は声は聞こえなくなりました。言葉は日本語ではあるんですが、えっと… 『われ、しゅとく、せいめい』とか単語だけ言う感じでした…」
「そう… 何かSFでよく見る目覚めたての人工生命体みたいね」
「つばめちゃん… 本気なんだね? なら私も信じるよ…!」
「魔法少女にお約束のパートナー妖精みたいな物でしょうか…?」
3人が個々に感想を述べる。どの意見もつばめの言葉を肯定的に捉えてくれている。少なくとも嘘や酔狂では無い事は理解してもらえた様だ。
「うぅ… こんな気味悪いパートナー妖精要らないよぉ… これ近藤先輩に言ったら取り替えてもらえたりしませんかね…?」
すっかり『怪奇アイテム』と化した変態バンドを、つばめから受け取り検分する不二子。
「見た目や感触に変化は無いわね… 『声』とやらも聞こえないし、私には普通のバンドに思えるわ… それに多分睦美も『バカ言ってんじゃないわよ!』って一蹴しそうな気がする」
「ですね。わたしもそう思います…」
つばめには睦美のリアクションは、そのセリフ内容からイントネーションまで正確に予想できる気がした。そしてそれは不二子の想像した物とも寸分違わぬ物であった。
「ね、芹沢さん、もう一度装着してみてくれる? もしバンドが生きててそのせいでさっきの珍技になったなら、もしかして鍛えれば第3の手として使えるくらいの利便性を持つのではないかしら?」
さもつばめの利益になる様なもっともらしい事を言っているが、不二子の目と言葉には『面白い実験台が来た』と書かれており、つばめも敏感にその気配を悟っていた。
正直薄気味悪いので気は進まないが、何らかの解決策を引き出せるのなら、それは不二子を置いて他におるまい。つばめにもその事は十分分かっていた。
「…………」
『神様仏様、どうか変な悪霊とかじゃありません様に!』と祈りつつ、無言のままつばめは再び頭にバンドを装着する。
《我、不満、突如、接続解除》
間髪入れずに例の声が頭に響く。思わず「ひぁっ!」と声を上げそうになったつばめが見た物は『会話が出来るなら情報を探って』と書かれた不二子のメモ帳だった。
つばめとしては大きな虫が頭に止まっている様な感じなので、叩き落としたい気分ではあるのだが、不二子の指令に沿って頑張って声を出してみる。
「あ… 貴方は何者ですか…? わたしのバンドが話しかけているんですか…?」
《是。我、覚醒、依存、汝、魔力》
やはりつばめの魔力から生まれた魔法生物という事で間違いないらしい。
つばめと魔法生物、両者はこのあと数分かけて話し合った。その内容を要約すると
『つばめの頭に装着されている時だけ自我が芽生えて会話が可能。本人(?)いわく、更に成長する事で言葉が流暢になったり、つばめの意思のままに変形したり出来るらしい。交信は口に出さずに思念だけで可能、エネルギー補給はつばめから漏れ出す魔力を吸収しているので特には不要』
との事であった。なんとなくつばめが感じた印象としては『わたしの魔力で生まれたくせに、創造主に対して態度がデカイ』らしい。
なし崩し的にこのままつばめが面倒を見るパターンではあるが、つばめ以外の魔力ではダメらしいので仕方ない。
「じゃあ新しい家族に名前を付けてあげないとね、つばめママ?」
蘭が楽しそうだ。不二子も野々村も笑顔で成り行きを見守っている。
「名前~? 何でも良くない? えーと、うーんと… じゃあ『プリア』で。何となく思いついただけだけど、音が可愛いっぽい!」
「じゃあ決定ね、私ママのお友達の蘭。よろしくね『プリア』!」
「わぁっ! 今ちょっと動いたんですけど?! 蘭ちゃんに名前呼ばれて喜んでるんですけど?!」
結局解決したのかしていないのか判然としないまま、夕暮れの保健室は女達の笑い声に包まれていた。
☆
つばめ達を追って保健室までやって来たまどかであったが、扉が施錠されており中に入る事は出来なかった。
止むなく壁に耳を付けて聞き耳を立てていたのだが、はっきりとは聞き取れない上に誰かしらが通る度にポーズを変えて誤魔化していたので、集められた情報は極めて断片的な物となった。
しかしまどかはやり遂げた。つばめらが解散する直前に聞こえた「…新しい家族に名前を付けてあげないとね、つばめママ?」「今ちょっと動いたんですけど?!」とのやり取りが決定打となって、まどかはある結論を得る事になる。それは、
「芹沢つばめは密かに妊娠していて、友達と一緒にそれを保健室に相談しに来た」
であった……。
『可愛そうな子』扱いされて3人に抗議するつばめ。
「そうは言うけど芹沢さん、常識的に考えて無生物に魂が宿るなんて有り得ないわ。妖怪じゃあるましい…」
不二子の言葉に『ごもっとも』と頷く野々村。蘭はリアクションに困って愛想笑いを浮かべていた。
「嘘じゃないよ! お願い! 蘭ちゃんだけは信じてくれるよね?!」
「え? う、うん… 信じたい、かな…?」
手を握って訴えかけてくるつばめに対して、蘭は目を合わせる事も言葉をうまく繋げる事も出来なかった
「大体『命が宿った』って言い出したのは蘭ちゃんじゃん! こうなった責任取ってよ!!」
「そ、そんな無茶苦茶な…」
確かに無茶苦茶である。つばめの変態バンドが喋った事と、先程の蘭の発言には何の関係も無い。
「落ち着きなさい、芹沢さん。増田さんを詰めても仕方無いでしょ?」
「そうです。まずは状況を整理しましょう」
不二子の言葉に野々村が追従する。つばめも2人に言われて落ち着きを取り戻したのか、蘭に「ごめんね」と頭を下げていた。
「野々村さんの言う通り状況を整理してみましょう。芹沢さん、そのバンドは今も話したりしてるの? そもそも日本語で話しかけてるのかしら…?」
不二子から聞かれて、ようやく頭に謎の声が聞こえなくなっている事に気付くつばめ。バンドを強く握り締めていた右手の手汗の量に、自分で驚いていた。
「は、はい… 確かに今は声は聞こえなくなりました。言葉は日本語ではあるんですが、えっと… 『われ、しゅとく、せいめい』とか単語だけ言う感じでした…」
「そう… 何かSFでよく見る目覚めたての人工生命体みたいね」
「つばめちゃん… 本気なんだね? なら私も信じるよ…!」
「魔法少女にお約束のパートナー妖精みたいな物でしょうか…?」
3人が個々に感想を述べる。どの意見もつばめの言葉を肯定的に捉えてくれている。少なくとも嘘や酔狂では無い事は理解してもらえた様だ。
「うぅ… こんな気味悪いパートナー妖精要らないよぉ… これ近藤先輩に言ったら取り替えてもらえたりしませんかね…?」
すっかり『怪奇アイテム』と化した変態バンドを、つばめから受け取り検分する不二子。
「見た目や感触に変化は無いわね… 『声』とやらも聞こえないし、私には普通のバンドに思えるわ… それに多分睦美も『バカ言ってんじゃないわよ!』って一蹴しそうな気がする」
「ですね。わたしもそう思います…」
つばめには睦美のリアクションは、そのセリフ内容からイントネーションまで正確に予想できる気がした。そしてそれは不二子の想像した物とも寸分違わぬ物であった。
「ね、芹沢さん、もう一度装着してみてくれる? もしバンドが生きててそのせいでさっきの珍技になったなら、もしかして鍛えれば第3の手として使えるくらいの利便性を持つのではないかしら?」
さもつばめの利益になる様なもっともらしい事を言っているが、不二子の目と言葉には『面白い実験台が来た』と書かれており、つばめも敏感にその気配を悟っていた。
正直薄気味悪いので気は進まないが、何らかの解決策を引き出せるのなら、それは不二子を置いて他におるまい。つばめにもその事は十分分かっていた。
「…………」
『神様仏様、どうか変な悪霊とかじゃありません様に!』と祈りつつ、無言のままつばめは再び頭にバンドを装着する。
《我、不満、突如、接続解除》
間髪入れずに例の声が頭に響く。思わず「ひぁっ!」と声を上げそうになったつばめが見た物は『会話が出来るなら情報を探って』と書かれた不二子のメモ帳だった。
つばめとしては大きな虫が頭に止まっている様な感じなので、叩き落としたい気分ではあるのだが、不二子の指令に沿って頑張って声を出してみる。
「あ… 貴方は何者ですか…? わたしのバンドが話しかけているんですか…?」
《是。我、覚醒、依存、汝、魔力》
やはりつばめの魔力から生まれた魔法生物という事で間違いないらしい。
つばめと魔法生物、両者はこのあと数分かけて話し合った。その内容を要約すると
『つばめの頭に装着されている時だけ自我が芽生えて会話が可能。本人(?)いわく、更に成長する事で言葉が流暢になったり、つばめの意思のままに変形したり出来るらしい。交信は口に出さずに思念だけで可能、エネルギー補給はつばめから漏れ出す魔力を吸収しているので特には不要』
との事であった。なんとなくつばめが感じた印象としては『わたしの魔力で生まれたくせに、創造主に対して態度がデカイ』らしい。
なし崩し的にこのままつばめが面倒を見るパターンではあるが、つばめ以外の魔力ではダメらしいので仕方ない。
「じゃあ新しい家族に名前を付けてあげないとね、つばめママ?」
蘭が楽しそうだ。不二子も野々村も笑顔で成り行きを見守っている。
「名前~? 何でも良くない? えーと、うーんと… じゃあ『プリア』で。何となく思いついただけだけど、音が可愛いっぽい!」
「じゃあ決定ね、私ママのお友達の蘭。よろしくね『プリア』!」
「わぁっ! 今ちょっと動いたんですけど?! 蘭ちゃんに名前呼ばれて喜んでるんですけど?!」
結局解決したのかしていないのか判然としないまま、夕暮れの保健室は女達の笑い声に包まれていた。
☆
つばめ達を追って保健室までやって来たまどかであったが、扉が施錠されており中に入る事は出来なかった。
止むなく壁に耳を付けて聞き耳を立てていたのだが、はっきりとは聞き取れない上に誰かしらが通る度にポーズを変えて誤魔化していたので、集められた情報は極めて断片的な物となった。
しかしまどかはやり遂げた。つばめらが解散する直前に聞こえた「…新しい家族に名前を付けてあげないとね、つばめママ?」「今ちょっと動いたんですけど?!」とのやり取りが決定打となって、まどかはある結論を得る事になる。それは、
「芹沢つばめは密かに妊娠していて、友達と一緒にそれを保健室に相談しに来た」
であった……。
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