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第八章
第96話 せいめい
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「え? 何これ…?」
保健室名物の男子行列を初めて見た蘭は驚きの余り絶句していた。保健室に用事があっても、まともにこの行列の後ろに付いていたら不二子に会えるのは夜になってしまう。
「あぁ、大丈夫大丈夫。女子は並ばなくても良いんだってさ」
慣れた調子で「失礼しまぁす」と中に入っていくつばめ。それに追従する蘭と野々村。
「あら芹沢さん、いらっしゃい。早速来てくれて嬉しいわ。後ろの子達もマジボラの…?」
不二子の視線を受けて蘭と野々村が自己紹介する。
長い話を予見した不二子は、いつぞやの様に男子生徒らを締め出して扉に施錠する。
「貴女が増田さんなのね、会いたかったのよ? 野々村さんもどういう心境の変化でマジボラに入ったのかとても興味あるわ。それにしてもいつの間にかマジボラも賑やかになったのねぇ…」
好奇心の対象が一気に増えてご機嫌になる不二子。3人の為に紅茶と茶菓子を出してくる。
「ここに来たって言う事は睦美センパイから避難してきたのか、或いは私からの話を聞いてきてくれた、って事なのかしら?」
「いえ? 何にも聞いてませんけど…? ねぇ?」
蘭らにも確認するつばめのあっけらかんとした返答に、全身の力が抜けて倒れそうになる不二子。
「あんのババァ… 言伝くらいちゃんとやれっての…」
睦美への怒りを新たにする。
「…まぁいいわ。直接会えたなら今言えば済む話だしね」
睦美らに伝言として伝えた『良い気になって羽目を外すな(意訳)』という警告を改めて本人達の前でする不二子。
新人の蘭や野々村もいつかは通る道だろうから早目に伝えておくに超したことはない。さすがに警察云々の情報までは伝えなかったが。
「でも私のメッセージからじゃなくて自分達の意思で保健室に来たのなら、何か別の用事があったんでしょ? 何かしら…?」
「あ、えっと、こちらの2人(蘭&野々村)は先生に顔見せの挨拶です。わたしだけちょっと別件で話したい事が…」
つばめが神妙な面持ちで口を開く。
「私達は外した方が良いかな…?」
気を回した蘭が心配そうにつばめに問う。野々村も同様の顔をしていた。
「…え? あー、いや別に変な話や怖い話じゃ無い… と思うから居てくれても別に… あ、でも怖い話になるかも知れないから、蘭ちゃんには居て欲しいかも…」
野々村の存在はどうでもいいらしい。
「実はですね…」
つばめは昨日、己の身に起きた不思議な体験を不二子らに語って聞かせた。
「…新しい呪文と新しい技、ねぇ…」
つばめの話を聞き終えた不二子は、しばらく口元に手を当てて考え込む。
「…ごめんなさい。どちらのパターンも前例が無いから分からないわね… 今まで呪文が長くなってバージョンアップする事はあっても、『全く別の呪文が閃く』というのは聞いた事が無いの」
「そうですか…」
落胆するつばめ。『不二子なら』と思って保健室へとやって来たが、どうやら無駄骨に終わりそうだった。
「考えられるとしたら、新たに別の特性を身に着けたとか…? でもそんな事って有り得るのかしら…? 確か芹沢さんの特性って『回復』だったわよね?」
「…あれ? 『回復』なのかな? 最初『生命』って聞いた気がしますけど、まぁ似た様な物ですねぇ」
『…?』
つばめの言葉に違和感を抱く不二子。
つばめの特性は『回復』では無く『生命』。
王国屈指の天才である睦美でも不可能なのに、純日本人のつばめが複数の特性を持つとは考えがたい。
特性を増やさずに今までと別の系統の魔法を得た…?
『生命』を司りつつも、回復とは別の魔法……。
まさか…?
「それって『死』の魔法じゃないんですか…?」
野々村が無表情に言い放つ。それは不二子の導き出した答えと一致していた。
生命を回復させる魔法があるのならば、同様に生命を損なう魔法があっても不思議では無い。それが相手に『怪我』をさせる物なのか、あるいは一気に『死』を見舞う魔法なのかまでは計り知れないが……。
野々村の言葉に不安を覚えたつばめと蘭は、揃って不二子を注視する。
「…可能性は高いと思うわ。検証してみないと何とも言えないけど、少なくとも人間相手に気軽に試せる魔法じゃないわねぇ…」
つばめも顔を青ざめさせていた。彼女には心当たりがあったのだ。
「そう言えば、昨日あの魔法を使おうとした時に物凄い嫌な予感がしたんです。もし蘭ちゃん達が助けに来てくれるのがもう少し遅かったら、わたし人を殺していたかも知れないんですね…」
「…そうね。でも実際には何も無かったのだからあまり気に病んじゃダメよ…?」
「はい…」
大きな悲劇を回避できた事に安心すると共に、恐ろしい力を手に入れたつばめはすっかり元気を無くしてしょげこんでいた。
そんなつばめの手を取り『大丈夫だよ』と無言のまま目で励ます蘭。そして2人の様子を微笑ましく見守る不二子。
「とにかく詳細が分かるまではその新呪文は使用禁止です。良いわね? …いつか虫か何かで実験出来たら良いんだけど…」
「はい…」
「それで… もう1つは変な必殺技だったかしら…? それも呪文で発動じゃないのよね…? うーん… 全然イメージが湧かないわ。もし危険じゃ無いのならここでやって見せて貰える?」
保健室名物の男子行列を初めて見た蘭は驚きの余り絶句していた。保健室に用事があっても、まともにこの行列の後ろに付いていたら不二子に会えるのは夜になってしまう。
「あぁ、大丈夫大丈夫。女子は並ばなくても良いんだってさ」
慣れた調子で「失礼しまぁす」と中に入っていくつばめ。それに追従する蘭と野々村。
「あら芹沢さん、いらっしゃい。早速来てくれて嬉しいわ。後ろの子達もマジボラの…?」
不二子の視線を受けて蘭と野々村が自己紹介する。
長い話を予見した不二子は、いつぞやの様に男子生徒らを締め出して扉に施錠する。
「貴女が増田さんなのね、会いたかったのよ? 野々村さんもどういう心境の変化でマジボラに入ったのかとても興味あるわ。それにしてもいつの間にかマジボラも賑やかになったのねぇ…」
好奇心の対象が一気に増えてご機嫌になる不二子。3人の為に紅茶と茶菓子を出してくる。
「ここに来たって言う事は睦美センパイから避難してきたのか、或いは私からの話を聞いてきてくれた、って事なのかしら?」
「いえ? 何にも聞いてませんけど…? ねぇ?」
蘭らにも確認するつばめのあっけらかんとした返答に、全身の力が抜けて倒れそうになる不二子。
「あんのババァ… 言伝くらいちゃんとやれっての…」
睦美への怒りを新たにする。
「…まぁいいわ。直接会えたなら今言えば済む話だしね」
睦美らに伝言として伝えた『良い気になって羽目を外すな(意訳)』という警告を改めて本人達の前でする不二子。
新人の蘭や野々村もいつかは通る道だろうから早目に伝えておくに超したことはない。さすがに警察云々の情報までは伝えなかったが。
「でも私のメッセージからじゃなくて自分達の意思で保健室に来たのなら、何か別の用事があったんでしょ? 何かしら…?」
「あ、えっと、こちらの2人(蘭&野々村)は先生に顔見せの挨拶です。わたしだけちょっと別件で話したい事が…」
つばめが神妙な面持ちで口を開く。
「私達は外した方が良いかな…?」
気を回した蘭が心配そうにつばめに問う。野々村も同様の顔をしていた。
「…え? あー、いや別に変な話や怖い話じゃ無い… と思うから居てくれても別に… あ、でも怖い話になるかも知れないから、蘭ちゃんには居て欲しいかも…」
野々村の存在はどうでもいいらしい。
「実はですね…」
つばめは昨日、己の身に起きた不思議な体験を不二子らに語って聞かせた。
「…新しい呪文と新しい技、ねぇ…」
つばめの話を聞き終えた不二子は、しばらく口元に手を当てて考え込む。
「…ごめんなさい。どちらのパターンも前例が無いから分からないわね… 今まで呪文が長くなってバージョンアップする事はあっても、『全く別の呪文が閃く』というのは聞いた事が無いの」
「そうですか…」
落胆するつばめ。『不二子なら』と思って保健室へとやって来たが、どうやら無駄骨に終わりそうだった。
「考えられるとしたら、新たに別の特性を身に着けたとか…? でもそんな事って有り得るのかしら…? 確か芹沢さんの特性って『回復』だったわよね?」
「…あれ? 『回復』なのかな? 最初『生命』って聞いた気がしますけど、まぁ似た様な物ですねぇ」
『…?』
つばめの言葉に違和感を抱く不二子。
つばめの特性は『回復』では無く『生命』。
王国屈指の天才である睦美でも不可能なのに、純日本人のつばめが複数の特性を持つとは考えがたい。
特性を増やさずに今までと別の系統の魔法を得た…?
『生命』を司りつつも、回復とは別の魔法……。
まさか…?
「それって『死』の魔法じゃないんですか…?」
野々村が無表情に言い放つ。それは不二子の導き出した答えと一致していた。
生命を回復させる魔法があるのならば、同様に生命を損なう魔法があっても不思議では無い。それが相手に『怪我』をさせる物なのか、あるいは一気に『死』を見舞う魔法なのかまでは計り知れないが……。
野々村の言葉に不安を覚えたつばめと蘭は、揃って不二子を注視する。
「…可能性は高いと思うわ。検証してみないと何とも言えないけど、少なくとも人間相手に気軽に試せる魔法じゃないわねぇ…」
つばめも顔を青ざめさせていた。彼女には心当たりがあったのだ。
「そう言えば、昨日あの魔法を使おうとした時に物凄い嫌な予感がしたんです。もし蘭ちゃん達が助けに来てくれるのがもう少し遅かったら、わたし人を殺していたかも知れないんですね…」
「…そうね。でも実際には何も無かったのだからあまり気に病んじゃダメよ…?」
「はい…」
大きな悲劇を回避できた事に安心すると共に、恐ろしい力を手に入れたつばめはすっかり元気を無くしてしょげこんでいた。
そんなつばめの手を取り『大丈夫だよ』と無言のまま目で励ます蘭。そして2人の様子を微笑ましく見守る不二子。
「とにかく詳細が分かるまではその新呪文は使用禁止です。良いわね? …いつか虫か何かで実験出来たら良いんだけど…」
「はい…」
「それで… もう1つは変な必殺技だったかしら…? それも呪文で発動じゃないのよね…? うーん… 全然イメージが湧かないわ。もし危険じゃ無いのならここでやって見せて貰える?」
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