まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや

文字の大きさ
上 下
80 / 209
第七章

第80話 おおもの

しおりを挟む
「ふ~ん、この娘が本当に例の魔法少女なんですかねぇ…? だとしたらあーしらの仕事もソッコー終わってボーナスゲットっスね!」

 新しい壁新聞を見ながら興奮気味に話すまどか。つい先程までは生徒達でごった返していた壁新聞コーナーだが、授業時間中の今は当然ながら誰も居ない。潜入捜査官の武藤とまどかを除いてだが。

 昨日と同様、お気楽なまどかと対称的に武藤は別の心配事があるのか、とても難しい顔をしながら壁新聞を読み込んでいた。

「…恐らくだけどそんな簡単な話じゃないわね。いくら学校と言う狭い界隈でも、昨日の今日でこれじゃ展開が早すぎるもの…」

 武藤の言葉にまどかは首を横にかしげる。

「ん~? つまりどーゆー事スか? この娘の身柄ガラを押さえてお終いじゃないんスか?」

 武藤は考え込む様に口元に手を当て下を向く。そしてまどかにでは無く自分に向けて言い聞かせる様に呟いた。

「これは多分、この娘が新聞部由来の誰かに何らかの恨みを買っていて、事件とは無関係なネガティブキャンペーンを張られているんじゃないかしら…」

「ほぇ~、そうなんですか? さすがムトー先輩っす! 深いッス!」

 まどかの感心も今の武藤にはこそばゆいだけだった。武藤自身、この学校に来てまだ2日目だ。様々な証拠と推理を重ねて出した結論では無く、単に『女の勘』で口にした推論であったからだ。

 もちろん勘も刑事としては重要な資質の1つなのだが、暴力団対策課などという男所帯で働く武藤には、『女の勘』など馬鹿にされて小娘扱いされる一因としか認識出来なかった。
 まぁ、小娘扱いされる最たる要因は彼女の体格にあるのだが、それはともかく。

「…でも身柄を押さえるのは正解かも知れないわ。取り調べと言うよりも保護する意味でね。もしかしたら本当に重要参考人かも知れないし…」

『女の勘』でほぼ正解を引き当てたものの、それをまだ知らない武藤は自嘲気味に鼻で笑って見せた。

 ☆

「つばめちゃん、ちょうど良かった。ちょっといい?」

 1時間目が終わり、休み時間につばめがトイレに行こうとした途中で、C組に向かっていた蘭と鉢合わせしていた。

「あ、蘭ちゃんおはよう。あぁそうだ、昨日の事なんだけど…」

『昨日の事』とはサッカーくんの調査についてだろう。そんな事より蘭の用事の方が俄然緊急性が高いのだが、蘭自身とても気にしていた件なので、一旦会話の主導権をつばめに譲る。

 つばめは沖田への聞き取りの結果、蘭の気になる人物を、沖田を除く『9人』まで絞れた事を報告し、メモしたリストを蘭に手渡した。

 報告リストから沖田を除外したのはつばめの悪意からでは無く、『まさか蘭の好きな人が沖田であるはずは無い』という根拠の無い思い込みと、『いくら友達とは言え他の女に沖田を紹介したくない』という無意識下の独占欲と防衛本能からの行動だった。

「あ、うん… わざわざありがとう…」

 この9人の中に例の『サッカーくん』が居るのだろうか? 確かに部員30名を超えるサッカー部の中からここまででも絞れたのは僥倖であったのかも知れない。
 沖田と話せた事が嬉しくて仕方ない様子のつばめを、口ではねぎらいつつ『でも流石に9人は多すぎるよ…』とツッコまずにはいられない蘭であった。

「っと… それどころじゃないよ! つばめちゃんもあの壁新聞見たでしょ?!」

 話題を正道に戻して緊迫感を取り戻した蘭がつばめに問いかける。つばめも壁新聞を見ているのならば早急に対策を立てる必要があった。

「ううん、まだ見てない」

 あっけらかんとしたつばめのまさかの返答に体中の力が抜け、立ち眩みを起こす蘭。

『大物すぎるでしょ、この娘… 心配通り越して感心しちゃうわ。あたふたしてた自分がバカみたい…』

 そう思いながらも、つばめのそのおおらかさに蘭は仄かな安心感すら覚えていた。

「え、えっとね… たまたま見ちゃったんだけど、私の隣のクラスのE組で『壁新聞のモザイクはC組のつばめちゃんだ』って言いまわっている人がいるのよ。そしてそれを広める様に、ともね」

「…なんで? ひょっとして敵の作戦とか?」

 事態の深刻さを分かっているのかいないのか、つばめはキョトンとした顔で蘭に聞き返す。

『敵の作戦』と聞いて蘭も一瞬表情を硬くする。まさかまた自分の知らない所で、祖父である繁蔵が新たな幹部を引き入れて、余計な事をしようとしているとでも言うのだろうか?

 そこまで考えて蘭は心の中でかぶりを振る。繁蔵の性格から相手を嵌める様な回りくどいやり方を好むとは思えないし、何より繁蔵は研究開発には天才的だが、そこまで奸計に長けた人間ではない。

 悪い意味でだが信頼できる。確認せずとも『今回の新聞騒動はシン悪川興業とは無関係だ』という確信が蘭にはあった。

「それが分かんないからこうやって知らせに来たんだよ。敵なら何をしてくるか(身内だから)大体想像つくけど、一般生徒はそうじゃないからさ。とにかく1人になったら駄目だよ? 私もちょくちょく様子を見に来る様にするから…」

 本気で心配している蘭の横で、つばめはトイレのドアを開けつつ

「蘭ちゃんも心配性だねぇ。わたしは大丈夫だよ。また今日もお昼一緒にしようね」

 新たなフラグを立てていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...