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第七章
第80話 おおもの
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「ふ~ん、この娘が本当に例の魔法少女なんですかねぇ…? だとしたら私らの仕事もソッコー終わってボーナスゲットっスね!」
新しい壁新聞を見ながら興奮気味に話すまどか。つい先程までは生徒達でごった返していた壁新聞コーナーだが、授業時間中の今は当然ながら誰も居ない。潜入捜査官の武藤とまどかを除いてだが。
昨日と同様、お気楽なまどかと対称的に武藤は別の心配事があるのか、とても難しい顔をしながら壁新聞を読み込んでいた。
「…恐らくだけどそんな簡単な話じゃないわね。いくら学校と言う狭い界隈でも、昨日の今日でこれじゃ展開が早すぎるもの…」
武藤の言葉にまどかは首を横に傾げる。
「ん~? つまりどーゆー事スか? この娘の身柄を押さえてお終いじゃないんスか?」
武藤は考え込む様に口元に手を当て下を向く。そしてまどかにでは無く自分に向けて言い聞かせる様に呟いた。
「これは多分、この娘が新聞部由来の誰かに何らかの恨みを買っていて、事件とは無関係なネガティブキャンペーンを張られているんじゃないかしら…」
「ほぇ~、そうなんですか? さすがムトー先輩っす! 深いッス!」
まどかの感心も今の武藤にはこそばゆいだけだった。武藤自身、この学校に来てまだ2日目だ。様々な証拠と推理を重ねて出した結論では無く、単に『女の勘』で口にした推論であったからだ。
もちろん勘も刑事としては重要な資質の1つなのだが、暴力団対策課などという男所帯で働く武藤には、『女の勘』など馬鹿にされて小娘扱いされる一因としか認識出来なかった。
まぁ、小娘扱いされる最たる要因は彼女の体格にあるのだが、それはともかく。
「…でも身柄を押さえるのは正解かも知れないわ。取り調べと言うよりも保護する意味でね。もしかしたら本当に重要参考人かも知れないし…」
『女の勘』でほぼ正解を引き当てたものの、それをまだ知らない武藤は自嘲気味に鼻で笑って見せた。
☆
「つばめちゃん、ちょうど良かった。ちょっといい?」
1時間目が終わり、休み時間につばめがトイレに行こうとした途中で、C組に向かっていた蘭と鉢合わせしていた。
「あ、蘭ちゃんおはよう。あぁそうだ、昨日の事なんだけど…」
『昨日の事』とはサッカーくんの調査についてだろう。そんな事より蘭の用事の方が俄然緊急性が高いのだが、蘭自身とても気にしていた件なので、一旦会話の主導権をつばめに譲る。
つばめは沖田への聞き取りの結果、蘭の気になる人物を、沖田を除く『9人』まで絞れた事を報告し、メモしたリストを蘭に手渡した。
報告リストから沖田を除外したのはつばめの悪意からでは無く、『まさか蘭の好きな人が沖田であるはずは無い』という根拠の無い思い込みと、『いくら友達とは言え他の女に沖田を紹介したくない』という無意識下の独占欲と防衛本能からの行動だった。
「あ、うん… わざわざありがとう…」
この9人の中に例の『サッカーくん』が居るのだろうか? 確かに部員30名を超えるサッカー部の中からここまででも絞れたのは僥倖であったのかも知れない。
沖田と話せた事が嬉しくて仕方ない様子のつばめを、口では労いつつ『でも流石に9人は多すぎるよ…』とツッコまずにはいられない蘭であった。
「っと… それどころじゃないよ! つばめちゃんもあの壁新聞見たでしょ?!」
話題を正道に戻して緊迫感を取り戻した蘭がつばめに問いかける。つばめも壁新聞を見ているのならば早急に対策を立てる必要があった。
「ううん、まだ見てない」
あっけらかんとしたつばめのまさかの返答に体中の力が抜け、立ち眩みを起こす蘭。
『大物すぎるでしょ、この娘… 心配通り越して感心しちゃうわ。あたふたしてた自分がバカみたい…』
そう思いながらも、つばめのそのおおらかさに蘭は仄かな安心感すら覚えていた。
「え、えっとね… たまたま見ちゃったんだけど、私の隣のクラスのE組で『壁新聞のモザイクはC組のつばめちゃんだ』って言いまわっている人がいるのよ。そしてそれを広める様に、ともね」
「…なんで? ひょっとして敵の作戦とか?」
事態の深刻さを分かっているのかいないのか、つばめはキョトンとした顔で蘭に聞き返す。
『敵の作戦』と聞いて蘭も一瞬表情を硬くする。まさかまた自分の知らない所で、祖父である繁蔵が新たな幹部を引き入れて、余計な事をしようとしているとでも言うのだろうか?
そこまで考えて蘭は心の中で頭を振る。繁蔵の性格から相手を嵌める様な回りくどいやり方を好むとは思えないし、何より繁蔵は研究開発には天才的だが、そこまで奸計に長けた人間ではない。
悪い意味でだが信頼できる。確認せずとも『今回の新聞騒動はシン悪川興業とは無関係だ』という確信が蘭にはあった。
「それが分かんないからこうやって知らせに来たんだよ。敵なら何をしてくるか(身内だから)大体想像つくけど、一般生徒はそうじゃないからさ。とにかく1人になったら駄目だよ? 私もちょくちょく様子を見に来る様にするから…」
本気で心配している蘭の横で、つばめはトイレのドアを開けつつ
「蘭ちゃんも心配性だねぇ。わたしは大丈夫だよ。また今日もお昼一緒にしようね」
新たなフラグを立てていた。
新しい壁新聞を見ながら興奮気味に話すまどか。つい先程までは生徒達でごった返していた壁新聞コーナーだが、授業時間中の今は当然ながら誰も居ない。潜入捜査官の武藤とまどかを除いてだが。
昨日と同様、お気楽なまどかと対称的に武藤は別の心配事があるのか、とても難しい顔をしながら壁新聞を読み込んでいた。
「…恐らくだけどそんな簡単な話じゃないわね。いくら学校と言う狭い界隈でも、昨日の今日でこれじゃ展開が早すぎるもの…」
武藤の言葉にまどかは首を横に傾げる。
「ん~? つまりどーゆー事スか? この娘の身柄を押さえてお終いじゃないんスか?」
武藤は考え込む様に口元に手を当て下を向く。そしてまどかにでは無く自分に向けて言い聞かせる様に呟いた。
「これは多分、この娘が新聞部由来の誰かに何らかの恨みを買っていて、事件とは無関係なネガティブキャンペーンを張られているんじゃないかしら…」
「ほぇ~、そうなんですか? さすがムトー先輩っす! 深いッス!」
まどかの感心も今の武藤にはこそばゆいだけだった。武藤自身、この学校に来てまだ2日目だ。様々な証拠と推理を重ねて出した結論では無く、単に『女の勘』で口にした推論であったからだ。
もちろん勘も刑事としては重要な資質の1つなのだが、暴力団対策課などという男所帯で働く武藤には、『女の勘』など馬鹿にされて小娘扱いされる一因としか認識出来なかった。
まぁ、小娘扱いされる最たる要因は彼女の体格にあるのだが、それはともかく。
「…でも身柄を押さえるのは正解かも知れないわ。取り調べと言うよりも保護する意味でね。もしかしたら本当に重要参考人かも知れないし…」
『女の勘』でほぼ正解を引き当てたものの、それをまだ知らない武藤は自嘲気味に鼻で笑って見せた。
☆
「つばめちゃん、ちょうど良かった。ちょっといい?」
1時間目が終わり、休み時間につばめがトイレに行こうとした途中で、C組に向かっていた蘭と鉢合わせしていた。
「あ、蘭ちゃんおはよう。あぁそうだ、昨日の事なんだけど…」
『昨日の事』とはサッカーくんの調査についてだろう。そんな事より蘭の用事の方が俄然緊急性が高いのだが、蘭自身とても気にしていた件なので、一旦会話の主導権をつばめに譲る。
つばめは沖田への聞き取りの結果、蘭の気になる人物を、沖田を除く『9人』まで絞れた事を報告し、メモしたリストを蘭に手渡した。
報告リストから沖田を除外したのはつばめの悪意からでは無く、『まさか蘭の好きな人が沖田であるはずは無い』という根拠の無い思い込みと、『いくら友達とは言え他の女に沖田を紹介したくない』という無意識下の独占欲と防衛本能からの行動だった。
「あ、うん… わざわざありがとう…」
この9人の中に例の『サッカーくん』が居るのだろうか? 確かに部員30名を超えるサッカー部の中からここまででも絞れたのは僥倖であったのかも知れない。
沖田と話せた事が嬉しくて仕方ない様子のつばめを、口では労いつつ『でも流石に9人は多すぎるよ…』とツッコまずにはいられない蘭であった。
「っと… それどころじゃないよ! つばめちゃんもあの壁新聞見たでしょ?!」
話題を正道に戻して緊迫感を取り戻した蘭がつばめに問いかける。つばめも壁新聞を見ているのならば早急に対策を立てる必要があった。
「ううん、まだ見てない」
あっけらかんとしたつばめのまさかの返答に体中の力が抜け、立ち眩みを起こす蘭。
『大物すぎるでしょ、この娘… 心配通り越して感心しちゃうわ。あたふたしてた自分がバカみたい…』
そう思いながらも、つばめのそのおおらかさに蘭は仄かな安心感すら覚えていた。
「え、えっとね… たまたま見ちゃったんだけど、私の隣のクラスのE組で『壁新聞のモザイクはC組のつばめちゃんだ』って言いまわっている人がいるのよ。そしてそれを広める様に、ともね」
「…なんで? ひょっとして敵の作戦とか?」
事態の深刻さを分かっているのかいないのか、つばめはキョトンとした顔で蘭に聞き返す。
『敵の作戦』と聞いて蘭も一瞬表情を硬くする。まさかまた自分の知らない所で、祖父である繁蔵が新たな幹部を引き入れて、余計な事をしようとしているとでも言うのだろうか?
そこまで考えて蘭は心の中で頭を振る。繁蔵の性格から相手を嵌める様な回りくどいやり方を好むとは思えないし、何より繁蔵は研究開発には天才的だが、そこまで奸計に長けた人間ではない。
悪い意味でだが信頼できる。確認せずとも『今回の新聞騒動はシン悪川興業とは無関係だ』という確信が蘭にはあった。
「それが分かんないからこうやって知らせに来たんだよ。敵なら何をしてくるか(身内だから)大体想像つくけど、一般生徒はそうじゃないからさ。とにかく1人になったら駄目だよ? 私もちょくちょく様子を見に来る様にするから…」
本気で心配している蘭の横で、つばめはトイレのドアを開けつつ
「蘭ちゃんも心配性だねぇ。わたしは大丈夫だよ。また今日もお昼一緒にしようね」
新たなフラグを立てていた。
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