78 / 209
第六章
第78話 はんせい
しおりを挟む
放課後、蘭はひとり教室で黄昏れていた。クラスの全員が部活、委員会、帰宅し蘭の他にはもう残っている生徒は居ない。
その環境を利用して、蘭は本日の様々な出来事に対しての一人反省会を行っていた。
つばめと談笑していたはずなのに、その直後に睦美に捕まり、本来はスパイする対象であるマジボラの為にシン悪川興業の情報を流す約束をさせられてしまった。
「はぁ… これって厄年とか天中殺とか大殺界とかなのかしら…? もう呪われているとしか思えない展開よね…」
誰に言うと無く独り呟く蘭。持ち出す例えが結構古いが、蘭は正真正銘ピチピチ本物、15歳の女子高生である。
「でも、もしこれでお爺ちゃんや凛を改心させられるのならば、マジボラに賭けてみるのも悪い話では無いかも知れない。あの避妊具みたいな名前の先輩はどう煮ても焼いても食えないだろうけど、つばめちゃんや土方先輩とは良い関係が築けそうな気がするし…」
意図せずつばめの名前を出した事で蘭は顔を赤くする。
「…なんで私、あの時急に恋バナなんてしちゃったんだろう? つばめちゃんに『サッカーくん』の事を聞いて欲しかったのかな?」
サソリ怪人からピンチを救ってくれた名も知らぬ少年(沖田)に、蘭は密かに『サッカーくん』と名前を付けていた。
センスもへったくれも無いネーミングではあるが、他の誰に聞かせる訳でも無いのだし、蘭の心にとどめて置くだけなら何の問題もあるまい。
「つばめちゃんもノリノリで食い付いてきたなぁ。やっぱり女の子はああいう話が好きなんだなぁ…」
オッサンの様な感想を漏らす蘭。思えば蘭は今まで女子友達相手でも、あまりその手の話をしてこなかった。
もちろん蘭とて木の股から生まれた訳では無い。素敵な彼氏は欲しいと思うし、中1の頃に部活の先輩に密かな恋心を抱いた事もある。
単に蘭のタイミングが合わなくて、その時に好きな男子が居なかったり、家庭の事情でそれどころでは無かったりしただけで、蘭自身も恋に恋する純情可憐な乙女である事に変わりは無い。
「はぅぅ… なんか今になってめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた… つばめちゃん、あんなこと言ってたけど大丈夫かな? …でもせめてサッカーくんの名前とか分かれば嬉しいなぁ…」
蘭のこの淡い願望は明朝早速打ち砕かれる事になるのだが、今はまだこの薄幸の少女に束の間の夢を見させておきたい。
「それにもし、つばめちゃんに私の体を治す力が有るのならば、もうキモい怪人を連れて『恐怖のエナジー』集めなんてしなくても済むかも知れないし、そうしたら堂々とつばめちゃんと轡を並べて戦えるわ…」
ここまで独り言を続けていた蘭は、ふと繁蔵がマジボラを盗聴する為のマイクをオフにしていた事に気づく。
元々は蘭とつばめの恋バナを聞かれない為のプライバシー保護措置だったのだが、後に控える睦美との会話全般を繁蔵に聞かれずに済んだ事は大きな幸運だったと言えるだろう。
マジボラでの会話が繁蔵に知られていたら、全ての計画が水の泡となってしまっていたのは間違い無い。
「そう言えば近藤先輩は私が『邪魔具』を持っているって言ってた。でも私には心当たりが無い。どういう事かしら…? …まさかまた私の知らない所で改造されている、とかなのかな…? だったら最悪…」
考えられるとしたら、久子との頭突き勝負の後に繁蔵は蘭の額に「鉄板を仕込んだ」と言っていた。恐らくそれだ。この辺も問い詰める必要があるだろう。
そこまで考えて蘭は大きく息をついた。とりあえずは帰って繁蔵と話さなければならない事がいくつかある。
「よし、帰るか!」
続く戦いに備えて、蘭は気合を入れて立ち上がった。
☆
「ただいまぁ…」
「お姉、お帰り~」
「帰ったか、蘭」
増田家のリビングルームでは繁蔵と凛が対戦格闘ゲームで遊んでいた。
志望校への偏差値が足りないと嘆いて、必死に勉強していた凛が堂々とゲームで遊んでいるあたり、繁蔵の改造手術に頼る気マンマンなのだろう。
そして繁蔵も何かと反抗的で、躊躇なく老人に暴力を奮う野蛮な蘭よりも、たとえ打算であれ懐いてくれる凛を可愛く思っていた。
「ねぇ、お爺ちゃん…」
「なんじゃ蘭? 今忙しいんじゃが?」
TV画面から目を離さないまま、文字通りコントローラーと格闘しながら繁蔵が答える。
「ごめんなさい。私、間違ってた… もっと真面目に『シン悪川興業』の事を考えたいの…」
蘭の言葉に繁蔵は驚いた様に振り返る。繁蔵の隣に座る凛も何故か嬉しそうに蘭を見つめる。
「おぉ、蘭よ… 分かってくれたか…」
「お姉、ヤル気出たの?」
「うん、まぁ、そんな感じ… それでね、お爺ちゃんは研究と開発に忙しいし、凛は受験生だしで、それぞれの職務に集中してもらう為に、私が雑事を担当しようかな? って思ったのよ… 例えば窓口業務とか…」
その環境を利用して、蘭は本日の様々な出来事に対しての一人反省会を行っていた。
つばめと談笑していたはずなのに、その直後に睦美に捕まり、本来はスパイする対象であるマジボラの為にシン悪川興業の情報を流す約束をさせられてしまった。
「はぁ… これって厄年とか天中殺とか大殺界とかなのかしら…? もう呪われているとしか思えない展開よね…」
誰に言うと無く独り呟く蘭。持ち出す例えが結構古いが、蘭は正真正銘ピチピチ本物、15歳の女子高生である。
「でも、もしこれでお爺ちゃんや凛を改心させられるのならば、マジボラに賭けてみるのも悪い話では無いかも知れない。あの避妊具みたいな名前の先輩はどう煮ても焼いても食えないだろうけど、つばめちゃんや土方先輩とは良い関係が築けそうな気がするし…」
意図せずつばめの名前を出した事で蘭は顔を赤くする。
「…なんで私、あの時急に恋バナなんてしちゃったんだろう? つばめちゃんに『サッカーくん』の事を聞いて欲しかったのかな?」
サソリ怪人からピンチを救ってくれた名も知らぬ少年(沖田)に、蘭は密かに『サッカーくん』と名前を付けていた。
センスもへったくれも無いネーミングではあるが、他の誰に聞かせる訳でも無いのだし、蘭の心にとどめて置くだけなら何の問題もあるまい。
「つばめちゃんもノリノリで食い付いてきたなぁ。やっぱり女の子はああいう話が好きなんだなぁ…」
オッサンの様な感想を漏らす蘭。思えば蘭は今まで女子友達相手でも、あまりその手の話をしてこなかった。
もちろん蘭とて木の股から生まれた訳では無い。素敵な彼氏は欲しいと思うし、中1の頃に部活の先輩に密かな恋心を抱いた事もある。
単に蘭のタイミングが合わなくて、その時に好きな男子が居なかったり、家庭の事情でそれどころでは無かったりしただけで、蘭自身も恋に恋する純情可憐な乙女である事に変わりは無い。
「はぅぅ… なんか今になってめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた… つばめちゃん、あんなこと言ってたけど大丈夫かな? …でもせめてサッカーくんの名前とか分かれば嬉しいなぁ…」
蘭のこの淡い願望は明朝早速打ち砕かれる事になるのだが、今はまだこの薄幸の少女に束の間の夢を見させておきたい。
「それにもし、つばめちゃんに私の体を治す力が有るのならば、もうキモい怪人を連れて『恐怖のエナジー』集めなんてしなくても済むかも知れないし、そうしたら堂々とつばめちゃんと轡を並べて戦えるわ…」
ここまで独り言を続けていた蘭は、ふと繁蔵がマジボラを盗聴する為のマイクをオフにしていた事に気づく。
元々は蘭とつばめの恋バナを聞かれない為のプライバシー保護措置だったのだが、後に控える睦美との会話全般を繁蔵に聞かれずに済んだ事は大きな幸運だったと言えるだろう。
マジボラでの会話が繁蔵に知られていたら、全ての計画が水の泡となってしまっていたのは間違い無い。
「そう言えば近藤先輩は私が『邪魔具』を持っているって言ってた。でも私には心当たりが無い。どういう事かしら…? …まさかまた私の知らない所で改造されている、とかなのかな…? だったら最悪…」
考えられるとしたら、久子との頭突き勝負の後に繁蔵は蘭の額に「鉄板を仕込んだ」と言っていた。恐らくそれだ。この辺も問い詰める必要があるだろう。
そこまで考えて蘭は大きく息をついた。とりあえずは帰って繁蔵と話さなければならない事がいくつかある。
「よし、帰るか!」
続く戦いに備えて、蘭は気合を入れて立ち上がった。
☆
「ただいまぁ…」
「お姉、お帰り~」
「帰ったか、蘭」
増田家のリビングルームでは繁蔵と凛が対戦格闘ゲームで遊んでいた。
志望校への偏差値が足りないと嘆いて、必死に勉強していた凛が堂々とゲームで遊んでいるあたり、繁蔵の改造手術に頼る気マンマンなのだろう。
そして繁蔵も何かと反抗的で、躊躇なく老人に暴力を奮う野蛮な蘭よりも、たとえ打算であれ懐いてくれる凛を可愛く思っていた。
「ねぇ、お爺ちゃん…」
「なんじゃ蘭? 今忙しいんじゃが?」
TV画面から目を離さないまま、文字通りコントローラーと格闘しながら繁蔵が答える。
「ごめんなさい。私、間違ってた… もっと真面目に『シン悪川興業』の事を考えたいの…」
蘭の言葉に繁蔵は驚いた様に振り返る。繁蔵の隣に座る凛も何故か嬉しそうに蘭を見つめる。
「おぉ、蘭よ… 分かってくれたか…」
「お姉、ヤル気出たの?」
「うん、まぁ、そんな感じ… それでね、お爺ちゃんは研究と開発に忙しいし、凛は受験生だしで、それぞれの職務に集中してもらう為に、私が雑事を担当しようかな? って思ったのよ… 例えば窓口業務とか…」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・


魔法少女に就職希望!
浅上秀
ファンタジー
就職活動中の主人公アミ。彼女の幼いころの夢は魔法少女になることだった。ある日、アミの前に現れたチャンス。アミは魔法怪人団オンナノテキと闘い世界を守ることを誓った。
そんなアミは現れるライバルたちと時にぶつかり、時に協力しあいながら日々成長していく。
コンセプトは20代でも魔法少女になりたい!
完結しました
…
ファンタジー
※なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる