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第六章
第75話 もくげき
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時間は少し巻き戻る。
「2人でつるんでてもしょうがないから、分かれて調べましょう。昼休みが終わったくらいで一度合流するわよ」
相棒の武藤にそう言われて、まどかは今、人気の無い体育館の裏手で独り佇んでいた。
サボっている訳では無い。むしろパリピ系限定とは言え、誰とでも仲良く接する事の出来るまどかの方が、高校生相手に気後れして上手くコミュニケーションの取れない武藤よりも、遥かに多く魔法少女に関する情報を入手していた。
曰く「事件を解決したのは黒とピンクの2人組の魔法少女」「ピンクの子は目まで赤かった」「黒の子は人並外れたパワーで片手で人を投げ飛ばした」「ピンクの子は早口言葉を言っていた」「1年生の中に似た子を見た気がする」「写真や動画を撮ったはずなのに映っていなかった」「百合に挟まる男が居た」「目からビームを出して怪人を倒した」「空を飛んで去っていった」等々である。
問題はそれらの情報がまどかの頭の中で一つの事件として結びつかなかった事である。頭の整理と気分転換を兼ねて、静かな所で風に当たろうとしていたのだ。
考えれば考える程に超常現象ばかりで、まどかの頭のキャパシティを超えた情報群はもはや理屈で説明できる状態では無くなっていた。
もちろんまどかとて頭の出来が良い訳では無い。むしろ悪い方だ。だからと言って「わぁい、魔法少女だぁ~」と手放しで喜べるほど子供でも無い。こう見えて社会人なのだから。
色々と思案を巡らせた挙句にまどかの出した結論は
『魔法ってマジであるんじゃね? そんでもってやり方を教えて貰えれば私も魔法使える様になるんじゃね…?』
であった。
事件の捜査から脇に外れて、魔法の事で頭の大半を占めようとしていたまどかは、何者かの話し声でハッと我に帰る。
時間は既に昼休みを終え、午後の授業時間中である。潜入中かつ生徒の格好をしたまどかが教員関係に見咎められたら面倒な事になる。
話し声の主とは反対側の壁の影に隠れるまどか。既に武藤との合流時間ではあるが、近づいてきた人物に異様な気配を感じたまどかは、そのまま来訪者の様子を窺う事にした。
人物は2人、1人は髪の長い淡麗な女生徒、もう1人は武藤と分かれる前に見かけた、1970~80年代の女番長の様な妙な出で立ちの、ちょっと老けて見える女生徒であった。
隠れているまどかとは少し距離があるので、彼女らの会話は断片的にしか聞き取れない。
「…どうするつもりですか…?」
「…洗いざらい喋ってもらうよ…」
「…パズルのピースは揃ったわ!」
「…人殺しなんて何とも思ってないんだからね?」
「…その代理人と接触してます…」
断片的にしか聞き取れないが、まともな女子高生の会話では無いのは明らかだ。
終いにはスケバンは手にしていた棒で一般女生徒に殴りかかった。いや、いつの間に持ち替えたのかスケバンは一般女生徒に剣で斬り掛かっていた。しかし一般女生徒も襲撃に備えて手甲でも用意していたのか、その剣を腕で受け止め金属の衝突音が重く響く。
明らかに大事件だ。しかも何か大きな闇の背景がある事件の物らしい。
まどかは警察官だ。目の前の銃刀法違反並びに傷害(未遂?)事件に対して、その解決を目指して立ち向かう義務がある。
『イヤイヤ無理無理! まだ死にたくないし、拳銃も無しに刀持った相手にケンカ売れる訳ないっしょ。それに斬られた女の子もケガしてないみたいだから、演劇部の練習とかかも知れないし、何でも無いのに警官って名乗って潜入捜査がバレたら武藤さんにシバかれる!』
そこからまどかの決断は早かった。再度2人のやり取りを覗き込み、一般女生徒とスケ… 蘭と睦美の顔を覚えて速やかにその場を退散した。
「遅いわよまどか。仕事しないで昼寝してたんじゃないでしょうね?」
約束の時間を10分以上も遅れて現れたまどかにお冠な様子の武藤。しかしまどかの方もかなり興奮していた。
「ちげーっすよ武藤先輩! あーし、超ヤバイ現場を見ちゃったっす! スケバンが刀でパズルのピースで代理人を人殺しっす!」
「……は?」
まどかは武藤に最初からの流れを説明する。もちろん武藤にはまどかの「バァーってなって、グォーっときて」的な擬音だらけの説明がさっぱり理解できない。
「まどか、悪いけどアンタの悪ふざけに付き合ってるヒマは…」
「ホントっすよ! この学校、絶対何か大事件が起きてますって! ねぇもぉ帰りましょうよ。帰って応援頼みましょう! 機動隊で囲みましょう! あーしら2人だけじゃ絶対手に負えないって!」
未だに状況を呑み込めていない武藤を必死に説得するまどか。
「…なんにせよ具体的な成果も無く初日で逃げ帰ったら、それこそ長谷川警部にどんな嫌味を言われるか分からないわ。そいつらの人相風体をもう一度詳しく教えて」
まどかの拙い説明の中で武藤の辿り着いた答えは「なるほど、壁新聞の所で会った『あいつ』か…」
であった。
「2人でつるんでてもしょうがないから、分かれて調べましょう。昼休みが終わったくらいで一度合流するわよ」
相棒の武藤にそう言われて、まどかは今、人気の無い体育館の裏手で独り佇んでいた。
サボっている訳では無い。むしろパリピ系限定とは言え、誰とでも仲良く接する事の出来るまどかの方が、高校生相手に気後れして上手くコミュニケーションの取れない武藤よりも、遥かに多く魔法少女に関する情報を入手していた。
曰く「事件を解決したのは黒とピンクの2人組の魔法少女」「ピンクの子は目まで赤かった」「黒の子は人並外れたパワーで片手で人を投げ飛ばした」「ピンクの子は早口言葉を言っていた」「1年生の中に似た子を見た気がする」「写真や動画を撮ったはずなのに映っていなかった」「百合に挟まる男が居た」「目からビームを出して怪人を倒した」「空を飛んで去っていった」等々である。
問題はそれらの情報がまどかの頭の中で一つの事件として結びつかなかった事である。頭の整理と気分転換を兼ねて、静かな所で風に当たろうとしていたのだ。
考えれば考える程に超常現象ばかりで、まどかの頭のキャパシティを超えた情報群はもはや理屈で説明できる状態では無くなっていた。
もちろんまどかとて頭の出来が良い訳では無い。むしろ悪い方だ。だからと言って「わぁい、魔法少女だぁ~」と手放しで喜べるほど子供でも無い。こう見えて社会人なのだから。
色々と思案を巡らせた挙句にまどかの出した結論は
『魔法ってマジであるんじゃね? そんでもってやり方を教えて貰えれば私も魔法使える様になるんじゃね…?』
であった。
事件の捜査から脇に外れて、魔法の事で頭の大半を占めようとしていたまどかは、何者かの話し声でハッと我に帰る。
時間は既に昼休みを終え、午後の授業時間中である。潜入中かつ生徒の格好をしたまどかが教員関係に見咎められたら面倒な事になる。
話し声の主とは反対側の壁の影に隠れるまどか。既に武藤との合流時間ではあるが、近づいてきた人物に異様な気配を感じたまどかは、そのまま来訪者の様子を窺う事にした。
人物は2人、1人は髪の長い淡麗な女生徒、もう1人は武藤と分かれる前に見かけた、1970~80年代の女番長の様な妙な出で立ちの、ちょっと老けて見える女生徒であった。
隠れているまどかとは少し距離があるので、彼女らの会話は断片的にしか聞き取れない。
「…どうするつもりですか…?」
「…洗いざらい喋ってもらうよ…」
「…パズルのピースは揃ったわ!」
「…人殺しなんて何とも思ってないんだからね?」
「…その代理人と接触してます…」
断片的にしか聞き取れないが、まともな女子高生の会話では無いのは明らかだ。
終いにはスケバンは手にしていた棒で一般女生徒に殴りかかった。いや、いつの間に持ち替えたのかスケバンは一般女生徒に剣で斬り掛かっていた。しかし一般女生徒も襲撃に備えて手甲でも用意していたのか、その剣を腕で受け止め金属の衝突音が重く響く。
明らかに大事件だ。しかも何か大きな闇の背景がある事件の物らしい。
まどかは警察官だ。目の前の銃刀法違反並びに傷害(未遂?)事件に対して、その解決を目指して立ち向かう義務がある。
『イヤイヤ無理無理! まだ死にたくないし、拳銃も無しに刀持った相手にケンカ売れる訳ないっしょ。それに斬られた女の子もケガしてないみたいだから、演劇部の練習とかかも知れないし、何でも無いのに警官って名乗って潜入捜査がバレたら武藤さんにシバかれる!』
そこからまどかの決断は早かった。再度2人のやり取りを覗き込み、一般女生徒とスケ… 蘭と睦美の顔を覚えて速やかにその場を退散した。
「遅いわよまどか。仕事しないで昼寝してたんじゃないでしょうね?」
約束の時間を10分以上も遅れて現れたまどかにお冠な様子の武藤。しかしまどかの方もかなり興奮していた。
「ちげーっすよ武藤先輩! あーし、超ヤバイ現場を見ちゃったっす! スケバンが刀でパズルのピースで代理人を人殺しっす!」
「……は?」
まどかは武藤に最初からの流れを説明する。もちろん武藤にはまどかの「バァーってなって、グォーっときて」的な擬音だらけの説明がさっぱり理解できない。
「まどか、悪いけどアンタの悪ふざけに付き合ってるヒマは…」
「ホントっすよ! この学校、絶対何か大事件が起きてますって! ねぇもぉ帰りましょうよ。帰って応援頼みましょう! 機動隊で囲みましょう! あーしら2人だけじゃ絶対手に負えないって!」
未だに状況を呑み込めていない武藤を必死に説得するまどか。
「…なんにせよ具体的な成果も無く初日で逃げ帰ったら、それこそ長谷川警部にどんな嫌味を言われるか分からないわ。そいつらの人相風体をもう一度詳しく教えて」
まどかの拙い説明の中で武藤の辿り着いた答えは「なるほど、壁新聞の所で会った『あいつ』か…」
であった。
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