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第五章
第65話 しょうり
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「次はアンタね…」
尻餅をついたままのウタマロんに狙いを定め、一歩を踏み出す蘭。サソリ怪人への残虐ファイトを特等席で見せつけられたウタマロんには、もはや塵ほどの戦意も残っていなかった。
「マロ~ん!」
慌てて立ち上がり上空を見上げるウタマロん。そのまま両手を上に持ち上げると、ウタマロんの足元から大量の火が吹き出し、またたく間にその体を上空へと打ち上げた。
気絶したウマナミレイ?が使った物と同様の緊急脱出装置だったのだろう。天高く打ち上げられたウタマロんはすぐに見えなくなってしまった。
1人残された蘭は大きく息をつく。サソリ怪人により生みだされた小サソリの死骸も本体の消滅に伴い全て消失しており、その場にはウタマロんによって焼かれた地面以外に事件の痕跡を見出す事は出来なくなっていた。
シン悪川興業の幹部としてはとんでもない裏切り行為をしてしまった蘭。しかし、一個の人間としては『悪』に立ち向かい撃退できた、という誇らしい気分でもあった。
「君、大丈夫だった? 怪我してない?」
サッカーボールを小脇に抱え、蘭に声をかける沖田。魔法衣装による認識阻害があるとはいえ、この格好で顔を見られる事に羞恥を覚えた蘭は、沖田に対して斜に構えた姿勢で答える。
「私は大丈夫です。貴方のおかげで助かりました。お礼を言わせて下さい」
例を言おうと頭を下げた時に蘭と沖田の視線が合った。
『爽やかなサッカー少年、ちょっとカッコいいかも…』
そんな感想を抱く。もちろん蘭は目の前の男子の名前を知らない。
「ところでこれは何の事件なの? 最近近所で変な怪人が出るみたいな話を聞くけど…?」
「えと… ご、ごめんなさい。私には分かりません」
沖田の問に慌てる様に背を向け、蘭はその場から走り去った。
物陰で変態を解いた蘭にマジボラの面々が駆け寄る。
『怒りに任せて大暴れしすぎてしまった… これゴリラパワーを見られてたら正体バレちゃう…』
今更ながら蘭は己の迂闊さに恐縮する。蘭に向けられた彼女らの視線が怖い。顔を上げられずに固まる蘭。
「蘭ちゃんスゴイよぉっ! まさか1人で怪人をやっつけちゃうなんて!!」
しかし、そんな蘭の手を大興奮の久子が手に取り握る。つばめも蘭の健闘を拍手で称える。ちなみに沖田と蘭がニアミスしている事をつばめは知らない。
睦美は蘭へのアクションは特に無く、静かに微笑みを浮かべていた。
「あ… あの… 魔法の相性が良かったみたいで…」
しどろもどろに返答する蘭。だが周囲に群がる小サソリを対処するには蘭の行った範囲氷属性攻撃が最も有効であり、同様の攻撃手段を持つ者は今のマジボラには他にいないのも事実であった。
「お疲れ様、増田さん。遠目でしか見えなかったけど、初めてとは思えないほどスゴくカッコ良かったよ!」
戦友のつばめからも労いの言葉を受け、蘭はようやく戦いが終わった事を実感する。
ウマナミレイ?として戦った過去2戦はいずれも負け試合だった。ここで蘭は初めて勝利の味を知った事になる。
「うん… 芹沢さんもお疲れ様。でもお昼ご飯食べ損なっちゃったね…」
顔を見合わせ、笑い合う2人の少女。
遠くから警察車両のサイレン音が聞こえてきて、学校内に数台の車が入ってきた。
負傷者のほとんどはつばめが治療したが、これだけの事件だ。すぐに学校側と警察とで話がついて、本日はこれにて休校、部活動も中止となり「生徒は全員速やかに帰宅せよ」との通達があった。
これより警察による広範囲な聞き込みと現場検証が行われるのだが、例によって『魔法少女が治療(or戦闘)していた』という情報の集まりに、警察も頭を悩ませる事になる。
過去3度の謎の集団による擾乱及び傷害事件に関して、警察は終始後手に回り、犯罪者集団とそれに敵対する謎の女性団体の情報すらまともに掴めていなかったのである。
日本警察の威信にかけて、この体たらくは許されない。
「我々もやり方を変える必要があるかもな…」
現場の指揮者と思しき、無精髭を生やした30代位の刑事が誰とも無しに呟いた。
「ねぇ増田さん、どこかのお店で食べ損なったランチしていかない…?」
学校を追い出される様に出てきた生徒達。蘭と並んで帰っていたつばめが声をかける。
今日の戦いはつばめと蘭の2人だけで勝ち取った勝利だ。祝勝会とまではいかないが、やり遂げた感満載のつばめは興奮気味に蘭を誘った。
「あ… うん… ごめんなさい。今日は今すぐ帰って家で調べ物をしないといけないの。ホントゴメン…」
蘭としては早急に先程の襲撃の件を繁蔵に問い質さなければならなかった。今すぐにでも走り去りたい気分なのだ。
つばめは蘭の答えに一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた後に精一杯の笑顔を作った。
「そっか… 急ぎの用じゃ仕方ないよね… ね、ねぇ『蘭ちゃん』、そしたら良かったら明日からお昼一緒に食べない…?」
つばめは初めて蘭を名前で呼んだ。これまで名字で呼び合ってたのも理由があっての事では無い。ただ単に名前で呼ぶタイミングが合わなかっただけなのだ。
名前で呼ばれた蘭も一瞬だけ驚いた顔を見せ、その直後に笑顔で
「うん、約束! また明日ね、『つばめちゃん』!」
そう答えて走り出した。
尻餅をついたままのウタマロんに狙いを定め、一歩を踏み出す蘭。サソリ怪人への残虐ファイトを特等席で見せつけられたウタマロんには、もはや塵ほどの戦意も残っていなかった。
「マロ~ん!」
慌てて立ち上がり上空を見上げるウタマロん。そのまま両手を上に持ち上げると、ウタマロんの足元から大量の火が吹き出し、またたく間にその体を上空へと打ち上げた。
気絶したウマナミレイ?が使った物と同様の緊急脱出装置だったのだろう。天高く打ち上げられたウタマロんはすぐに見えなくなってしまった。
1人残された蘭は大きく息をつく。サソリ怪人により生みだされた小サソリの死骸も本体の消滅に伴い全て消失しており、その場にはウタマロんによって焼かれた地面以外に事件の痕跡を見出す事は出来なくなっていた。
シン悪川興業の幹部としてはとんでもない裏切り行為をしてしまった蘭。しかし、一個の人間としては『悪』に立ち向かい撃退できた、という誇らしい気分でもあった。
「君、大丈夫だった? 怪我してない?」
サッカーボールを小脇に抱え、蘭に声をかける沖田。魔法衣装による認識阻害があるとはいえ、この格好で顔を見られる事に羞恥を覚えた蘭は、沖田に対して斜に構えた姿勢で答える。
「私は大丈夫です。貴方のおかげで助かりました。お礼を言わせて下さい」
例を言おうと頭を下げた時に蘭と沖田の視線が合った。
『爽やかなサッカー少年、ちょっとカッコいいかも…』
そんな感想を抱く。もちろん蘭は目の前の男子の名前を知らない。
「ところでこれは何の事件なの? 最近近所で変な怪人が出るみたいな話を聞くけど…?」
「えと… ご、ごめんなさい。私には分かりません」
沖田の問に慌てる様に背を向け、蘭はその場から走り去った。
物陰で変態を解いた蘭にマジボラの面々が駆け寄る。
『怒りに任せて大暴れしすぎてしまった… これゴリラパワーを見られてたら正体バレちゃう…』
今更ながら蘭は己の迂闊さに恐縮する。蘭に向けられた彼女らの視線が怖い。顔を上げられずに固まる蘭。
「蘭ちゃんスゴイよぉっ! まさか1人で怪人をやっつけちゃうなんて!!」
しかし、そんな蘭の手を大興奮の久子が手に取り握る。つばめも蘭の健闘を拍手で称える。ちなみに沖田と蘭がニアミスしている事をつばめは知らない。
睦美は蘭へのアクションは特に無く、静かに微笑みを浮かべていた。
「あ… あの… 魔法の相性が良かったみたいで…」
しどろもどろに返答する蘭。だが周囲に群がる小サソリを対処するには蘭の行った範囲氷属性攻撃が最も有効であり、同様の攻撃手段を持つ者は今のマジボラには他にいないのも事実であった。
「お疲れ様、増田さん。遠目でしか見えなかったけど、初めてとは思えないほどスゴくカッコ良かったよ!」
戦友のつばめからも労いの言葉を受け、蘭はようやく戦いが終わった事を実感する。
ウマナミレイ?として戦った過去2戦はいずれも負け試合だった。ここで蘭は初めて勝利の味を知った事になる。
「うん… 芹沢さんもお疲れ様。でもお昼ご飯食べ損なっちゃったね…」
顔を見合わせ、笑い合う2人の少女。
遠くから警察車両のサイレン音が聞こえてきて、学校内に数台の車が入ってきた。
負傷者のほとんどはつばめが治療したが、これだけの事件だ。すぐに学校側と警察とで話がついて、本日はこれにて休校、部活動も中止となり「生徒は全員速やかに帰宅せよ」との通達があった。
これより警察による広範囲な聞き込みと現場検証が行われるのだが、例によって『魔法少女が治療(or戦闘)していた』という情報の集まりに、警察も頭を悩ませる事になる。
過去3度の謎の集団による擾乱及び傷害事件に関して、警察は終始後手に回り、犯罪者集団とそれに敵対する謎の女性団体の情報すらまともに掴めていなかったのである。
日本警察の威信にかけて、この体たらくは許されない。
「我々もやり方を変える必要があるかもな…」
現場の指揮者と思しき、無精髭を生やした30代位の刑事が誰とも無しに呟いた。
「ねぇ増田さん、どこかのお店で食べ損なったランチしていかない…?」
学校を追い出される様に出てきた生徒達。蘭と並んで帰っていたつばめが声をかける。
今日の戦いはつばめと蘭の2人だけで勝ち取った勝利だ。祝勝会とまではいかないが、やり遂げた感満載のつばめは興奮気味に蘭を誘った。
「あ… うん… ごめんなさい。今日は今すぐ帰って家で調べ物をしないといけないの。ホントゴメン…」
蘭としては早急に先程の襲撃の件を繁蔵に問い質さなければならなかった。今すぐにでも走り去りたい気分なのだ。
つばめは蘭の答えに一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた後に精一杯の笑顔を作った。
「そっか… 急ぎの用じゃ仕方ないよね… ね、ねぇ『蘭ちゃん』、そしたら良かったら明日からお昼一緒に食べない…?」
つばめは初めて蘭を名前で呼んだ。これまで名字で呼び合ってたのも理由があっての事では無い。ただ単に名前で呼ぶタイミングが合わなかっただけなのだ。
名前で呼ばれた蘭も一瞬だけ驚いた顔を見せ、その直後に笑顔で
「うん、約束! また明日ね、『つばめちゃん』!」
そう答えて走り出した。
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