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第四章
第48話 およばれ
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増田蘭の行方を心配しつつも有効な捜索手段を持たないマジボラ。とりあえず情報収集をアンドレに任せ、その日は解散となった。
つばめとしては(心の)復帰記念に善行の一つでも積んでおこうかとも思っていた。しかし、エナジー集めは睦美らが午前中に済ませており、御影のスカウトや増田の事故の調査とか、本日も何かと密度の濃い日であった事で、睦美と久子にも疲労の色が見て取れた為だ。
「そうだ、睦美さま。せっかくだから明日つばめちゃんの復活パーティーとかしませんか? 明日は土曜でお休みだし、お財布役のアンドレ先生もいる事だし」
久子がさも『名案だ』とばかりに皆に告げる。今日の夜では準備が間に合わないし、つばめはつばめで家族の夕飯作りの仕事があるので色々と無理がある。
しかし、明日ならば互いに都合をつけ易かろうとの考えからである。
急に何の前振りもなくスポンサー役を押し付けられたアンドレは少々青くなっていた。
「アンタがそんなこと言うなんて久し振りね。どういう風の吹き回し?」
睦美の質問に久子は嬉しそうに睦美に笑顔を向ける。
「だって不二子ちゃんからこっち、今までの魔法少女たちって一度心が折れたら帰ってきてくれた人は居なかったじゃないですか。でもつばめちゃんは明るい顔で戻ってきてくれた。今までの子達よりも辛く厳しい代償を知って背負って、それでもここに居てくれる。それがとっても嬉しくて!」
久子のキラキラした瞳に射抜かれて『うぐっ』と怯むつばめ。
つばめは決して仁心に目覚めた訳では無く、『単に便利そうだ』と多分に私利私欲でマジボラ継続を決意した為に、面映ゆい気持ちに包まれる。
「そういう事ならたまには良いかも知れないわね…」
言いながら睦美の口元も少し緩んでいた。
「睦美様こそ、いつもなら『そんな事してる暇ないわ、弛んでる!』とか言いそうな物ですけど、どうしたんです?」
アンドレが睦美を茶化すように口を挟み、睦美に睨まれる。
「つばめちゃんが来てくれて睦美さまも嬉しいんですよ、私には分かります。睦美さま、不二子ちゃんがいた頃みたいに明るい顔してますから!」
「な?! ちょっとヒザ子、バカな事言わないで!」
即座に否定する睦美だが、その顔はリンゴの様に紅潮している。それを見てマジボラ部室に新たな笑いが巻き起こった。
☆
翌日。睦美らの住むアパート『霞荘』において、ささやかな新人歓迎パーティーが開催された。
つばめの朝寝坊欲求を満たす為に開始時間は正午から。普段は睦美と久子の2人だけのワンルームだが、今日はアンドレとつばめも含めた総勢4名と多少、いやかなり手狭な雰囲気は否めない。
「今日は唐揚げパーティーだよ。つばめちゃん、たくさん食べていってね!」
久子の言葉通り、テーブルの上には大皿に鶏の唐揚げが大量に積まれていた。
『なぜチョイスが唐揚げなのか?』という疑問には意味が無い。全世界で鶏唐揚げが嫌いな人間など居ないのだから、唐揚げは世界共通語であると言っても過言ではあるまい。
メインは唐揚げであるが、脇にもポテトサラダや中華前菜、枝豆等が置かれていた。
それはともかく、つばめも唐揚げは好物ではあるが、揚げ物は料理としては難易度が高く、前準備や後片付けが非常に面倒くさい。従って芹沢家の夕食に揚げ物は基本出ないのだが、つばめとて己の矜持を賭けて『いつかは揚げ物を極めたい』、という欲求は持っていた。
目の前に積まれた唐揚げは胸肉ともも肉の両方が白と黒、2色に分けられて盛り付けられていた。久子によると白は塩麹、黒はニンニク醤油で共に一晩漬けた物らしい。
味見と称してつまみ食いをしてみると、どちらも素材の味を引き立てる漬け具合と揚げ具合で、つばめをして『これ普通に店に出せるんじゃね?』と唸らせる出来栄えであった。
「お肉はグラム75円の安いやつだからお口に合うかは分からないけど、量だけは揃えたから!」
「いや、とても美味しいです。平気で1kgくらいぺろっと食べられそうですよ! 後で作り方教えて欲しいくらいです」
「本当に?! 喜んで貰えたなら私も嬉しいよ! 飲み物も色々買ってあるから好きなの飲んでね!」
楽しそうに談笑するつばめと久子を眺めながら、目を細めて口元を歪ませる睦美と、それをまた興味深そうな表情で見つめるアンドレ。
「久子くんの言う通り、楽しそうですね睦美様。主君の笑顔を眺めるのも臣下の幸せでありますな」
アンドレの言葉にやや『油断した』という顔をしつつも微笑みを崩さない睦美。
「確かにつばめが来てから急に賑やかになったわね。あの子が特に何かをしたという訳でも無いんだけど、あの子を切っ掛けに世界が動き出した感じがするわ…」
睦美は立ち上がり台所へと飲み物を取りに向かう。戻ってきた時には睦美とアンドレ、2人分の缶ビールが睦美の手に収まっていた。
「まぁ、アンタの今週のデート代をつぎ込ませたんだし、つばめにも楽しんでもらいましょう。こんなんでもアンコクミナゴロシ王宮主催のパーティーですからね」
つばめとしては(心の)復帰記念に善行の一つでも積んでおこうかとも思っていた。しかし、エナジー集めは睦美らが午前中に済ませており、御影のスカウトや増田の事故の調査とか、本日も何かと密度の濃い日であった事で、睦美と久子にも疲労の色が見て取れた為だ。
「そうだ、睦美さま。せっかくだから明日つばめちゃんの復活パーティーとかしませんか? 明日は土曜でお休みだし、お財布役のアンドレ先生もいる事だし」
久子がさも『名案だ』とばかりに皆に告げる。今日の夜では準備が間に合わないし、つばめはつばめで家族の夕飯作りの仕事があるので色々と無理がある。
しかし、明日ならば互いに都合をつけ易かろうとの考えからである。
急に何の前振りもなくスポンサー役を押し付けられたアンドレは少々青くなっていた。
「アンタがそんなこと言うなんて久し振りね。どういう風の吹き回し?」
睦美の質問に久子は嬉しそうに睦美に笑顔を向ける。
「だって不二子ちゃんからこっち、今までの魔法少女たちって一度心が折れたら帰ってきてくれた人は居なかったじゃないですか。でもつばめちゃんは明るい顔で戻ってきてくれた。今までの子達よりも辛く厳しい代償を知って背負って、それでもここに居てくれる。それがとっても嬉しくて!」
久子のキラキラした瞳に射抜かれて『うぐっ』と怯むつばめ。
つばめは決して仁心に目覚めた訳では無く、『単に便利そうだ』と多分に私利私欲でマジボラ継続を決意した為に、面映ゆい気持ちに包まれる。
「そういう事ならたまには良いかも知れないわね…」
言いながら睦美の口元も少し緩んでいた。
「睦美様こそ、いつもなら『そんな事してる暇ないわ、弛んでる!』とか言いそうな物ですけど、どうしたんです?」
アンドレが睦美を茶化すように口を挟み、睦美に睨まれる。
「つばめちゃんが来てくれて睦美さまも嬉しいんですよ、私には分かります。睦美さま、不二子ちゃんがいた頃みたいに明るい顔してますから!」
「な?! ちょっとヒザ子、バカな事言わないで!」
即座に否定する睦美だが、その顔はリンゴの様に紅潮している。それを見てマジボラ部室に新たな笑いが巻き起こった。
☆
翌日。睦美らの住むアパート『霞荘』において、ささやかな新人歓迎パーティーが開催された。
つばめの朝寝坊欲求を満たす為に開始時間は正午から。普段は睦美と久子の2人だけのワンルームだが、今日はアンドレとつばめも含めた総勢4名と多少、いやかなり手狭な雰囲気は否めない。
「今日は唐揚げパーティーだよ。つばめちゃん、たくさん食べていってね!」
久子の言葉通り、テーブルの上には大皿に鶏の唐揚げが大量に積まれていた。
『なぜチョイスが唐揚げなのか?』という疑問には意味が無い。全世界で鶏唐揚げが嫌いな人間など居ないのだから、唐揚げは世界共通語であると言っても過言ではあるまい。
メインは唐揚げであるが、脇にもポテトサラダや中華前菜、枝豆等が置かれていた。
それはともかく、つばめも唐揚げは好物ではあるが、揚げ物は料理としては難易度が高く、前準備や後片付けが非常に面倒くさい。従って芹沢家の夕食に揚げ物は基本出ないのだが、つばめとて己の矜持を賭けて『いつかは揚げ物を極めたい』、という欲求は持っていた。
目の前に積まれた唐揚げは胸肉ともも肉の両方が白と黒、2色に分けられて盛り付けられていた。久子によると白は塩麹、黒はニンニク醤油で共に一晩漬けた物らしい。
味見と称してつまみ食いをしてみると、どちらも素材の味を引き立てる漬け具合と揚げ具合で、つばめをして『これ普通に店に出せるんじゃね?』と唸らせる出来栄えであった。
「お肉はグラム75円の安いやつだからお口に合うかは分からないけど、量だけは揃えたから!」
「いや、とても美味しいです。平気で1kgくらいぺろっと食べられそうですよ! 後で作り方教えて欲しいくらいです」
「本当に?! 喜んで貰えたなら私も嬉しいよ! 飲み物も色々買ってあるから好きなの飲んでね!」
楽しそうに談笑するつばめと久子を眺めながら、目を細めて口元を歪ませる睦美と、それをまた興味深そうな表情で見つめるアンドレ。
「久子くんの言う通り、楽しそうですね睦美様。主君の笑顔を眺めるのも臣下の幸せでありますな」
アンドレの言葉にやや『油断した』という顔をしつつも微笑みを崩さない睦美。
「確かにつばめが来てから急に賑やかになったわね。あの子が特に何かをしたという訳でも無いんだけど、あの子を切っ掛けに世界が動き出した感じがするわ…」
睦美は立ち上がり台所へと飲み物を取りに向かう。戻ってきた時には睦美とアンドレ、2人分の缶ビールが睦美の手に収まっていた。
「まぁ、アンタの今週のデート代をつぎ込ませたんだし、つばめにも楽しんでもらいましょう。こんなんでもアンコクミナゴロシ王宮主催のパーティーですからね」
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