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第四章
第47話 ゆくえ
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「何でその事故にあった生徒の入院先が分からないのよ?!」
「本当に分からないんだから仕方ないでしょう? 大体搬送先の病院すら普通は個人情報なんだから、おいそれと部外者には教えてもらえませんよ」
マジボラ部室、睦美がアンドレに詰め寄っていた。
入院したとされる増田 蘭の行方を探ろうとしたのだが、アンドレや保健教諭の不二子ですら増田の足跡を追い切る事が出来なかった。
救急隊から学校へ入ってきた連絡によると、増田は当初近くの市民病院に搬送されたそうだ。その直後にF組の担任が病院に連絡を取ったところ、増田は親族を名乗る者に引き取られ、別の病院へと転院したとの事だったのだ。
そこから先の情報がまるっきり途絶えてしまっており、学校としても新たな問題の発生を危惧して慎重な対応を取らざるを得なくなっていた。
「これは事件の臭いがするわね…」
「まさかまた誘拐事件ですかね…?」
睦美と久子が不安げに視線を交わす。被害者が全員無傷で済んだ「血のクリスマス事件」と違い、増田は骨折した重傷患者で自力で逃げられる状況に無いであろうと言う事だ。
もしも増田が何かの事件に巻き込まれたのだとしたら、予想される結末はあまり気持ちの良いものではない。
「なんとか探し出して安否確認だけでもしたいですねぇ…」
つばめの呟きに睦美と久子も同意の表情で応えた。
一方その頃……。
「ちょっと何してくれてんのよクソジジイ! これじゃもうお嫁に行けないじゃない!!」
どこかの手術室の様な場所で、白衣を着た、見た目貧相な老人に対して怒鳴り散らしている患者着の若い女性がいた。
彼女こそが増田蘭、先刻つばめらが安否を気遣っていた、現在行方不明とされる瓢箪岳高校の女生徒である。
「そうは言うが、ワシが手を下したからこそ重傷だったお前をここまで元気に出来たのだぞ?」
蘭に抗弁している老人は増田 繁蔵、蘭の祖父であり天才的な頭脳を持つ生体工学の狂気の科学者。そして秘密結社『シン悪川興業』の総裁『プロフェッサー悪川』でもある。
「だからって怪我した片足だけじゃなくて、両手両足とも強化改造するとか何考えてるのよ?!」
「だって怪人を仕切る幹部がいつまでも生身じゃ、部下に対して示しがつかないじゃん。遅かれ早かれこうなる運命だったんじゃよ」
そう、この増田蘭こそが、悪の秘密結社であるシン悪川興業の女幹部ウマナミレイ?の正体であった。
「あのねぇ! わたしは! お爺ちゃんが! 『どうしても頼む』って! 頭を! 下げてきたから! 仕方なく! そりゃもう仕方なーく! 手伝ってあげてただけなの! 改造なんてして欲しくなかったの!!」
文節で区切って分かりやすく自己主張する蘭。そんな孫娘の心の主張を笑顔で受け止める祖父、繁蔵。
「うんうん、心配せずとも大丈夫。お前にはマウンテンゴリラの能力を移植してあるから、いつでも『怪人ゴリラ女』として暴れ回る事が可能…」
「話を聞けぇぇぇっ!!」
怒りを乗せて祖父に対して拳を突き出す蘭。握力だけでも500kgと言われるゴリラのパワーを持った蘭の全力パンチを受けて、繁蔵の体は反対側の壁に叩きつけられ爆発四散した。
もちろん生身の人間が爆発する訳は無いので、今この場に居たのは繁蔵の姿を模した機械人形である。
「ホッホッホ、お前の行動くらい読めんでお爺ちゃんやっとれんわ」
壁のスピーカーから響く繁蔵の声。そこから感じる『お見通しだぜ』感が蘭の神経を余計に逆撫でする。
「一万歩譲っても『ゴリラ女』は無いわクソジジイ! どうせならもっと可愛い動物にしてくれればまだ慰めもあろうと言うのに…」
「なんじゃ? 今からでもウサギやネコの能力でも授けてやろうか?」
単なる蘭のボヤキであったが、可愛いイメージの動物の名を出されてほんの少しだけ心が揺れる。
「魔王ギル様から授かった魔導生体科学術のおかげで、どんな怪人も思いのままじゃからな。ゴリラネコでもゴリラウサギでも好きな方にバージョンアップ出来るぞ?」
「いや、まずゴリラを外せ!」
「え? 無理… 最悪貯めてた恐怖エナジーを使い切るくらいお前に注げば治せるかも知れんけど…」
「ならそれやってよ! もぉ、マジでゴリラとか勘弁してよぉ…」
「無理無理、上納分に手を付けたらワシがどんな目に遭うかわからんもん」
孫娘の苦悩の1%も祖父に伝わっていない事に怒りを通り越して絶望する蘭。
「私もノリで『様』付けて呼んじゃってるけど、そもそもその魔王ギルって何者なのよ…?」
欄の問いに壁のスピーカーから「フフン」と得意げな声が聞こえた。
「知らん。ワシも会ったこと無いし」
「無いんかーいっ!!」
関東生まれ関東育ちで関西には立ち入った事の無い蘭だったが、完璧なイントネーションの大阪弁でツッコミを入れる。
「いやでも凄い人なのは確かだよ? どこで聞いたのかワシの研究の手伝いがしたいとか言ってきて、魔導生体科学とかお前の使ってる変装グッズとか色々都合してくれたんだぞ? 一定量の恐怖エナジーさえ納めておけば生活や研究に困らない資金も提供してくれる。乗るしか無いじゃろ、このビッグウェーブに!」
確かにウマナミレイ?として変装用に装着していた羽根や尻尾は本物同様に自在に動かせたし、空すら飛んでみせた。もしあの時に飛べ無かったら、今頃蘭の命は謎の魔法熟女に奪われていたかも知れない。
「そんな事より新しい怪人がロールアウトしたぞ。ほれ、早速恐怖エナジーを集めてこい。余剰分まで集まればお前の手術に回してやれるぞ?」
思案する蘭に繁蔵が声をかける。
「…今日はもう帰って寝る。色々ありすぎて、今から何かしたくない」
憔悴した蘭の声は、とても悲哀に満ちていた。
「本当に分からないんだから仕方ないでしょう? 大体搬送先の病院すら普通は個人情報なんだから、おいそれと部外者には教えてもらえませんよ」
マジボラ部室、睦美がアンドレに詰め寄っていた。
入院したとされる増田 蘭の行方を探ろうとしたのだが、アンドレや保健教諭の不二子ですら増田の足跡を追い切る事が出来なかった。
救急隊から学校へ入ってきた連絡によると、増田は当初近くの市民病院に搬送されたそうだ。その直後にF組の担任が病院に連絡を取ったところ、増田は親族を名乗る者に引き取られ、別の病院へと転院したとの事だったのだ。
そこから先の情報がまるっきり途絶えてしまっており、学校としても新たな問題の発生を危惧して慎重な対応を取らざるを得なくなっていた。
「これは事件の臭いがするわね…」
「まさかまた誘拐事件ですかね…?」
睦美と久子が不安げに視線を交わす。被害者が全員無傷で済んだ「血のクリスマス事件」と違い、増田は骨折した重傷患者で自力で逃げられる状況に無いであろうと言う事だ。
もしも増田が何かの事件に巻き込まれたのだとしたら、予想される結末はあまり気持ちの良いものではない。
「なんとか探し出して安否確認だけでもしたいですねぇ…」
つばめの呟きに睦美と久子も同意の表情で応えた。
一方その頃……。
「ちょっと何してくれてんのよクソジジイ! これじゃもうお嫁に行けないじゃない!!」
どこかの手術室の様な場所で、白衣を着た、見た目貧相な老人に対して怒鳴り散らしている患者着の若い女性がいた。
彼女こそが増田蘭、先刻つばめらが安否を気遣っていた、現在行方不明とされる瓢箪岳高校の女生徒である。
「そうは言うが、ワシが手を下したからこそ重傷だったお前をここまで元気に出来たのだぞ?」
蘭に抗弁している老人は増田 繁蔵、蘭の祖父であり天才的な頭脳を持つ生体工学の狂気の科学者。そして秘密結社『シン悪川興業』の総裁『プロフェッサー悪川』でもある。
「だからって怪我した片足だけじゃなくて、両手両足とも強化改造するとか何考えてるのよ?!」
「だって怪人を仕切る幹部がいつまでも生身じゃ、部下に対して示しがつかないじゃん。遅かれ早かれこうなる運命だったんじゃよ」
そう、この増田蘭こそが、悪の秘密結社であるシン悪川興業の女幹部ウマナミレイ?の正体であった。
「あのねぇ! わたしは! お爺ちゃんが! 『どうしても頼む』って! 頭を! 下げてきたから! 仕方なく! そりゃもう仕方なーく! 手伝ってあげてただけなの! 改造なんてして欲しくなかったの!!」
文節で区切って分かりやすく自己主張する蘭。そんな孫娘の心の主張を笑顔で受け止める祖父、繁蔵。
「うんうん、心配せずとも大丈夫。お前にはマウンテンゴリラの能力を移植してあるから、いつでも『怪人ゴリラ女』として暴れ回る事が可能…」
「話を聞けぇぇぇっ!!」
怒りを乗せて祖父に対して拳を突き出す蘭。握力だけでも500kgと言われるゴリラのパワーを持った蘭の全力パンチを受けて、繁蔵の体は反対側の壁に叩きつけられ爆発四散した。
もちろん生身の人間が爆発する訳は無いので、今この場に居たのは繁蔵の姿を模した機械人形である。
「ホッホッホ、お前の行動くらい読めんでお爺ちゃんやっとれんわ」
壁のスピーカーから響く繁蔵の声。そこから感じる『お見通しだぜ』感が蘭の神経を余計に逆撫でする。
「一万歩譲っても『ゴリラ女』は無いわクソジジイ! どうせならもっと可愛い動物にしてくれればまだ慰めもあろうと言うのに…」
「なんじゃ? 今からでもウサギやネコの能力でも授けてやろうか?」
単なる蘭のボヤキであったが、可愛いイメージの動物の名を出されてほんの少しだけ心が揺れる。
「魔王ギル様から授かった魔導生体科学術のおかげで、どんな怪人も思いのままじゃからな。ゴリラネコでもゴリラウサギでも好きな方にバージョンアップ出来るぞ?」
「いや、まずゴリラを外せ!」
「え? 無理… 最悪貯めてた恐怖エナジーを使い切るくらいお前に注げば治せるかも知れんけど…」
「ならそれやってよ! もぉ、マジでゴリラとか勘弁してよぉ…」
「無理無理、上納分に手を付けたらワシがどんな目に遭うかわからんもん」
孫娘の苦悩の1%も祖父に伝わっていない事に怒りを通り越して絶望する蘭。
「私もノリで『様』付けて呼んじゃってるけど、そもそもその魔王ギルって何者なのよ…?」
欄の問いに壁のスピーカーから「フフン」と得意げな声が聞こえた。
「知らん。ワシも会ったこと無いし」
「無いんかーいっ!!」
関東生まれ関東育ちで関西には立ち入った事の無い蘭だったが、完璧なイントネーションの大阪弁でツッコミを入れる。
「いやでも凄い人なのは確かだよ? どこで聞いたのかワシの研究の手伝いがしたいとか言ってきて、魔導生体科学とかお前の使ってる変装グッズとか色々都合してくれたんだぞ? 一定量の恐怖エナジーさえ納めておけば生活や研究に困らない資金も提供してくれる。乗るしか無いじゃろ、このビッグウェーブに!」
確かにウマナミレイ?として変装用に装着していた羽根や尻尾は本物同様に自在に動かせたし、空すら飛んでみせた。もしあの時に飛べ無かったら、今頃蘭の命は謎の魔法熟女に奪われていたかも知れない。
「そんな事より新しい怪人がロールアウトしたぞ。ほれ、早速恐怖エナジーを集めてこい。余剰分まで集まればお前の手術に回してやれるぞ?」
思案する蘭に繁蔵が声をかける。
「…今日はもう帰って寝る。色々ありすぎて、今から何かしたくない」
憔悴した蘭の声は、とても悲哀に満ちていた。
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