まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや

文字の大きさ
上 下
40 / 209
第三章

第40話 まよい

しおりを挟む
「はぁ~…」

 湯船に口元まで浸かり深く溜め息を吐くつばめ。風呂の熱気で心のモヤモヤを消し飛ばそうと試みるが、思考の谷へと深く深く落ちていくだけでまるで光明が見いだせなかった。


「そんな…」

 不二子による『不妊』発言にショックを受けたつばめは、その場で涙がとめど無く流れ出し、泣き崩れてしまった。すかさず久子がつばめのフォローに入る。

「ち、ちょっと不二子、アンタ言い方ってもんがあるでしょ?!」

 睦美がつばめを気遣い不二子を責めるが、睦美自身十数年以上も知らずにいた衝撃の事実に驚きを隠せない。

 不二子としても早いうちに警告をしたかった案件ではあったのだが、睦美との関係悪化に伴い接触機会そのものが激減していた為に、今まで言うに言えずにいたのだった。

「…そうね。ごめんなさい芹沢さん、貴女は女の子らしく幸せな家庭を築きたいのね。決して悲しませようと思って言った訳じゃないのよ?」

 不二子が跪きつばめの肩に手を置き、諭すように言葉を繋げる。

「私が言ったのはあくまでも可能性の話。まぁ確率は高いと思うけど…」

 涙に濡れた顔で不二子を見上げるつばめ。その目には『助けて』というシグナルと『蜘蛛の糸にでも縋りたい』気持ちが強く込められていた。

「まず安心してほしいのは『子供が作れなくなる』のは今すぐじゃなくて『当分先』だと言う事。目安としては、変態を解いても変態後の特徴が何かしら表に残ってくるくらいからだと思うわ」

 つばめは自分の髪の毛を確認する。髪は黒い、これかピンク色から戻らなくなったら危険信号だと言う事なのだろう。

「まぁ、もし仮に『そう』なっても完全に絶望という訳でも無いわ。例えば魔法王国出身の男性とならば、何の問題もなく妊娠、出産は出来るはずよ。まぁ現状該当者がアンドレ先生しかいないのが問題と言えば問題かも知れないけど…」

『アンドレ先生かぁ、無いわぁ…』

 つい先程まで泣いていたつばめだが、不二子の励ましに少しだけ元気を取り戻したのか、素直でシビアな感想を抱いた。

「ふ、不二子ちゃんもつばめちゃんもアンドレ先生だけはダメだよ! あ… えっと、あの人はプレイボーイで女の人にだらしなくて…」

「アンタもよヒザ子。アンドレはやめときなさいって前から言ってるでしょ?」

「でもでも睦美さま、アンドレ先生は優しい所もたくさんあるんですよぉ?」

 睦美との久子の漫才に場が和む。この場にアンドレが居たらここまでの空気にはならなかっただろう。

「…抜け道はもう1つあるわ。先輩や久ちゃんがやっている様に魔法で『人間に変態』するの。そうする事で普通の人間として生活できるわ… ただ知ってると思うけど、魔法を使う為には『魔法少女』で居続ける必要があるのよ、先輩や久ちゃんがやっている様に…」

 それはつまり『留年し続けろ』と言う意味に他ならない。さすがに『それ』を選択するのは、社会的にも精神的にもダメージが大きくて、色々な意味で許されないだろう。

 睦美と久子も予想以上の事態の深刻さに声を出せないでいた。
 睦美自身は亡国の王女である。王族として国の再興を果たすまでは色恋沙汰になど構っていられない。
 久子自身は睦美の侍女であり、睦美に心酔しその一生を睦美に捧げている。
 恋をしてはいるが、その相手のアンドレの立場も睦美の近衛騎士であり、その責務上、久子と結ばれる可能性は低いだろう。

 アンドレを含めたこの3人は「個人的に幸せになどなれない」と全て覚悟の上でマジボラ活動をしている。
 しかしつばめは魔法王国とはえんゆかりもない、数日前まで魔法とは無縁な生活をしてきた日本人の高校生だ。

 そんな彼女にどこの誰が「お前が子供を産めなくなっても構わないからマジボラ活動を続けろ」などと言えるだろう?

 部室に流れる重い沈黙。やがてつばめが顔を上げる。

「すみません、今日は帰ります。ちょっと考えてきます…」

 一同に会釈して半ば飛び出す様に部室を離れた。

 帰宅し、着替えを済ませ、何もやる気が起きないので手抜きメニューで家族分の夕飯を作る。

 妹のかごめは今自室で勉強中だ。今なら一番風呂に入れるだろう。

 と言う訳で冒頭のシーンに戻る訳だが、つばめの頭はぐるぐると混乱したまま、未だ何一つ決められずにいた。

『どうしたら良いんだろう…? 別に何かの義理や義務がある訳でも無いし、マジボラを辞めちゃえばそれで解決するよね…』

 そう、難しい話では無い。同好会を辞め、魔法など忘れて普通の生活に戻ればいい。
 睦美あたりが怒るかも知れないが、先程の表情を見る限り『お前の人生をマジボラに捧げろ』とまでは言い出す事は無いだろう。

 とても簡単な事なのだ……。

 それでもつばめは決断し切れずに呟いた。

「どうすれば良いんだろう…?」

 息を止め頭の先まで湯船に浸かっても、つばめのモヤモヤは晴れる事は無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

魔法少女に就職希望!

浅上秀
ファンタジー
就職活動中の主人公アミ。彼女の幼いころの夢は魔法少女になることだった。ある日、アミの前に現れたチャンス。アミは魔法怪人団オンナノテキと闘い世界を守ることを誓った。 そんなアミは現れるライバルたちと時にぶつかり、時に協力しあいながら日々成長していく。 コンセプトは20代でも魔法少女になりたい! 完結しました … ファンタジー ※なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...