36 / 209
第三章
第36話 いのうばとる
しおりを挟む
智子の露出が増えると同時に、智子から噴出される気とでも言える『圧力』が飛躍的に増加した。
状況が飲み込めずに眉をひそめつつ様子を窺う久子。
『あ~あ、やっちゃったよ』という体で頭を抱えるいのり。
そして 漲る力に恍惚とした表情を見せる智子。
「あ~、久し振り… この解放感と力が体を巡る感覚、最っ高…」
智子の元から赤い髪が更に赤みを増し、智子から沸き立つ闘気になびくように揺れる。加えて何故かは分からないが、智子の肘と踵から火が吹き出している様にも見える。
『…よく分かんないけど、これ絶対人外レベルに強い奴だ… 昨日の悪川興業とかいう連中の仲間なのかな? どうしよう? 睦美さまは居ないし、私がつばめちゃんを守らないと…」
そう考えた久子は一つの決断をする。背に腹は替えられない。
「変態!!」
首のリボンが全身を覆い、そこから変態した久子が現れる。これで魔力のロスを防ぎつつ戦えるだろう。様子見として10倍の強化を自身にかける久子。
今度は智子らが驚く番だった。
「え? 何そのフリフリの格好? それ聖服じゃないの? うちらと同じ『能力者』じゃないっぽいね…?」
智子の問いに久子が答えたのはただ一言、「問答無用だよ」だった。
魔法で戦う久子と、『聖服』という謎のワードが関係していると思われる智子らの第2ラウンドの開始である。
一気に距離を詰めた智子が久子を殴ろうと拳を大きく振りかぶる。プロレスにおいてパンチは反則なのだが、お構いなしに智子は一撃を放つ。
しかしパンチを打つ時に大きく振りかぶるのは悪手である。「これからパンチしますよ」とアピールするテレフォンパンチは容易に回避する事が出来る。
久子もそのつもりでパンチを掻い潜り、先程と同様に組み付いて投げに移行しようと考えていた。
しかし智子の拳は久子の予想を超えて、久子の直前で大きくスピードを増したのだ。
智子の速く重い拳が久子の顔面を捉える。予想外の速度と痛みに一瞬気を取られる久子。
『…強化度合いを上げておいて良かった。もし5倍のままだったら一発で昇天してたかも…』
久子は智子の攻撃の仕組みを解明するべく両腕でガード姿勢を取る。盾となる腕は注入する魔力を増量し20倍まで固める。
「そらそらどしたぁっ!」
嬉々とした表情で久子のガードをパンチ連打で破ろうとする智子。肘に灯った炎は飾りではなく、インパクトの瞬間に火を吹きブーストの役目を果たしていた。すると踵の炎は…?
「おらぁっ!」
踵から炎を吹き上げた智子のハイキックが遂に久子のガードを打ち破った。無防備になった久子に智子のトドメのブーストパンチが打ち込まれようとしていた……。
一方、睦美の魔法の効果が切れ、鈍い痛みと共に意識を取り戻したつばめ。リング脇のマットに寝かされて1人放置されていた事を理解する。当然睦美が不二子を呼びに行った事など知る由もない。
やがて記憶が徐々に鮮明になり、試合中に視界が半回転して脳天に強い衝撃を受けた所までは思い出した。
『超頭痛い… 気持ち悪い… 凄い吐きそう… 助けて…』
ここまで思ってつばめは1つの疑問を抱く。
『わたしの魔法って自分にかけたらどうなるんだろう…?』
期待通りの結果にはならないかも知れない。余計に悪い結果になるかも知れない。しかしつばめの口は考えるよりも先に動いていた。自らの額に右手を当て呪文を唱える。
「東京特許許可局許可局長…!」
何よりも痛みを取りたいので、迷う事なくヴァージョンBだ。
するとみるみる痛みが引いていき、意識が鮮明になってきた。
自分にも回復魔法は有効な様だ。尤も頭のダメージは健在なのだから、しばらくは安静にしておく必要があるだろう。
意識が周りを認識出来る様になった辺りでつばめに近づく人影があった。対戦相手の土岐いのりだ。
智子が制御不能になったので、打つ手無しと判断し、智子を見限ってつばめの介抱にやってきたのだ。
「大丈夫? 動かないでね…」
いのりはそう言うとつばめの額に手を当てて何かを念じ始める。すると何も無かった筈のつばめの額といのりの手の間に粘土の様な物質が突然現れた。
『え? これなに? 土? 粘土…?』
急な事に驚いたつばめだが、その粘土の感触の意外な心地よさに心が落ち着いていくのを感じた。
「ぶつけたダメージは治したと思うけど、とりあえずは安静にしておいてね…」
『治した』、確かにそう言った。つまりこの土岐いのりという少女もつばめ同様に回復能力を持っている、という事なのであろう……。
「あの、女子レスリング同行会って一体…」
つばめが体を起こし、いのりに問いを投げかけようとした瞬間、智子の「おらぁっ!」という声が響いて久子のガードが弾けた様に破られた。
久子の顔に余裕の色は無い。本気のピンチだ。20倍で固めたガードを破った技をもう一度食らえば大ダメージは免れない。最悪、重傷や死亡などと言った結果もありうるだろう。
覚悟を決めた久子の顔面に、今智子の拳が打ち込まれようとする… 直前に智子の全身はスライムを連想させる無色透明のゲル状の物体に包まれていた。
身動きが取れないどころか呼吸すらも封じられて藻掻く智子。暫く暴れていたが、やかて力尽きた様にスライムの中でグッタリとしてしまった。
「…何だか嫌な予感がして来てみれば、何事なの?!」
リングの傍らには長身で長髪、腕を組んで不機嫌さを顕にした上品そうな女生徒が立っていた。
状況が飲み込めずに眉をひそめつつ様子を窺う久子。
『あ~あ、やっちゃったよ』という体で頭を抱えるいのり。
そして 漲る力に恍惚とした表情を見せる智子。
「あ~、久し振り… この解放感と力が体を巡る感覚、最っ高…」
智子の元から赤い髪が更に赤みを増し、智子から沸き立つ闘気になびくように揺れる。加えて何故かは分からないが、智子の肘と踵から火が吹き出している様にも見える。
『…よく分かんないけど、これ絶対人外レベルに強い奴だ… 昨日の悪川興業とかいう連中の仲間なのかな? どうしよう? 睦美さまは居ないし、私がつばめちゃんを守らないと…」
そう考えた久子は一つの決断をする。背に腹は替えられない。
「変態!!」
首のリボンが全身を覆い、そこから変態した久子が現れる。これで魔力のロスを防ぎつつ戦えるだろう。様子見として10倍の強化を自身にかける久子。
今度は智子らが驚く番だった。
「え? 何そのフリフリの格好? それ聖服じゃないの? うちらと同じ『能力者』じゃないっぽいね…?」
智子の問いに久子が答えたのはただ一言、「問答無用だよ」だった。
魔法で戦う久子と、『聖服』という謎のワードが関係していると思われる智子らの第2ラウンドの開始である。
一気に距離を詰めた智子が久子を殴ろうと拳を大きく振りかぶる。プロレスにおいてパンチは反則なのだが、お構いなしに智子は一撃を放つ。
しかしパンチを打つ時に大きく振りかぶるのは悪手である。「これからパンチしますよ」とアピールするテレフォンパンチは容易に回避する事が出来る。
久子もそのつもりでパンチを掻い潜り、先程と同様に組み付いて投げに移行しようと考えていた。
しかし智子の拳は久子の予想を超えて、久子の直前で大きくスピードを増したのだ。
智子の速く重い拳が久子の顔面を捉える。予想外の速度と痛みに一瞬気を取られる久子。
『…強化度合いを上げておいて良かった。もし5倍のままだったら一発で昇天してたかも…』
久子は智子の攻撃の仕組みを解明するべく両腕でガード姿勢を取る。盾となる腕は注入する魔力を増量し20倍まで固める。
「そらそらどしたぁっ!」
嬉々とした表情で久子のガードをパンチ連打で破ろうとする智子。肘に灯った炎は飾りではなく、インパクトの瞬間に火を吹きブーストの役目を果たしていた。すると踵の炎は…?
「おらぁっ!」
踵から炎を吹き上げた智子のハイキックが遂に久子のガードを打ち破った。無防備になった久子に智子のトドメのブーストパンチが打ち込まれようとしていた……。
一方、睦美の魔法の効果が切れ、鈍い痛みと共に意識を取り戻したつばめ。リング脇のマットに寝かされて1人放置されていた事を理解する。当然睦美が不二子を呼びに行った事など知る由もない。
やがて記憶が徐々に鮮明になり、試合中に視界が半回転して脳天に強い衝撃を受けた所までは思い出した。
『超頭痛い… 気持ち悪い… 凄い吐きそう… 助けて…』
ここまで思ってつばめは1つの疑問を抱く。
『わたしの魔法って自分にかけたらどうなるんだろう…?』
期待通りの結果にはならないかも知れない。余計に悪い結果になるかも知れない。しかしつばめの口は考えるよりも先に動いていた。自らの額に右手を当て呪文を唱える。
「東京特許許可局許可局長…!」
何よりも痛みを取りたいので、迷う事なくヴァージョンBだ。
するとみるみる痛みが引いていき、意識が鮮明になってきた。
自分にも回復魔法は有効な様だ。尤も頭のダメージは健在なのだから、しばらくは安静にしておく必要があるだろう。
意識が周りを認識出来る様になった辺りでつばめに近づく人影があった。対戦相手の土岐いのりだ。
智子が制御不能になったので、打つ手無しと判断し、智子を見限ってつばめの介抱にやってきたのだ。
「大丈夫? 動かないでね…」
いのりはそう言うとつばめの額に手を当てて何かを念じ始める。すると何も無かった筈のつばめの額といのりの手の間に粘土の様な物質が突然現れた。
『え? これなに? 土? 粘土…?』
急な事に驚いたつばめだが、その粘土の感触の意外な心地よさに心が落ち着いていくのを感じた。
「ぶつけたダメージは治したと思うけど、とりあえずは安静にしておいてね…」
『治した』、確かにそう言った。つまりこの土岐いのりという少女もつばめ同様に回復能力を持っている、という事なのであろう……。
「あの、女子レスリング同行会って一体…」
つばめが体を起こし、いのりに問いを投げかけようとした瞬間、智子の「おらぁっ!」という声が響いて久子のガードが弾けた様に破られた。
久子の顔に余裕の色は無い。本気のピンチだ。20倍で固めたガードを破った技をもう一度食らえば大ダメージは免れない。最悪、重傷や死亡などと言った結果もありうるだろう。
覚悟を決めた久子の顔面に、今智子の拳が打ち込まれようとする… 直前に智子の全身はスライムを連想させる無色透明のゲル状の物体に包まれていた。
身動きが取れないどころか呼吸すらも封じられて藻掻く智子。暫く暴れていたが、やかて力尽きた様にスライムの中でグッタリとしてしまった。
「…何だか嫌な予感がして来てみれば、何事なの?!」
リングの傍らには長身で長髪、腕を組んで不機嫌さを顕にした上品そうな女生徒が立っていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・


魔法少女に就職希望!
浅上秀
ファンタジー
就職活動中の主人公アミ。彼女の幼いころの夢は魔法少女になることだった。ある日、アミの前に現れたチャンス。アミは魔法怪人団オンナノテキと闘い世界を守ることを誓った。
そんなアミは現れるライバルたちと時にぶつかり、時に協力しあいながら日々成長していく。
コンセプトは20代でも魔法少女になりたい!
完結しました
…
ファンタジー
※なお作者には専門知識等はございません。全てフィクションです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる