上 下
25 / 209
第二章

第25話 きゅうてき

しおりを挟む
「全く… なんだってアタシがあの女に頭を下げないといけないのよ?!」

「まぁまぁ、睦美さまもこの作戦には賛成してくれたじゃないですかぁ」

「だからって、頭で理解は出来ても納得は出来ないわ…」

 部室からずっとプンスコしている睦美をなだめながら、3人が向かった先は保健室であった。

 久子の立てた作戦は「明日行われる生徒の身体測定の際に、女子生徒全員に(つばめにも行った)イチジク判定による魔力検査をドサクサに紛れて敢行する」といった物であった。

 身体測定の総括は保健教諭の山崎不二子であり、当然彼女の承認無しには勝手な事は行えない。
 そこでマジボラの面々は山崎教諭に許可を取るべく保健室までやって来た次第である。

 理由は分からないが、も山崎教諭が嫌いらしい。『敵の敵は味方』理論で、つばめは25話にして初めて睦美に対してシンパシーを抱いていた。

「実はね、不二子ちゃんはマジボラのOGなんだよ」

 久子がつばめに耳打ちする。なるほど、だから魔法の存在を知っていたり、こんな胡散臭い計画への協力を打診する事が出来る、という訳なのか、と妙に納得するつばめだった。


「な、なんですかこれは?!」

 保健室に到着した一行、そしてつばめの驚きの声。保健室の前には男子生徒による長蛇の列が出来ていたのだ。

 未だに外ではクラブ対抗の新1年生の争奪戦が行われていたが、その際にもみ合いになって負傷した、普通に部活で転んで膝を擦りむいた、小説を書いていて腱鞘炎になった、睡眠不足で頭が痛い、山崎先生を思うと胸が苦しい等々、全員山崎教諭の診断や治療を目当てに集まっていた生徒達だ。

 もちろん全員が男子。2、3年生がほとんどだが、美人に目敏い1年生も若干名混じっている。みな一様に行儀よく並んで、愛しの山崎教諭めがみさまへの順番待ちをしていた。

 保健室までの廊下数十mを占拠し、最後尾には『列の最後尾』と書かれた手持ち看板を新しい生徒が並ぶ度に次々とリレー形式で渡してアピールしていた。

「ホント男って… でもこれじゃ1時間以上並ぶんじゃないですかぁ…?」

 ゲッソリとして呟くつばめ。

「大丈夫だよぉ」

 久子がズンズンと廊下を進み、列を無視して保健室の扉を開けた。整列していた男子の中には「おい何だよ?」と不満を漏らす者も居たが、全体的には概ね大人しい。

 どうやら慣例として『女子は並ばなくても良い』という事になっている様だ。

「不二子ちゃん、お邪魔します!」

 保健室に入って明るく挨拶する久子。ちょうど男子生徒の額に湿布を貼っていた山崎、いや不二子も久子を見やる。

「あらひさちゃん、しばらくぶりじゃない。今日は1人?」

 不二子の問いに久子が体を半歩横にずらすと、久子の後ろに控えていた不貞腐れ気味の睦美が姿を現した。

「…な訳ないわよねぇ。更に珍しいお客様がいらっしゃるなんてね、お元気ですか『睦美センパイ』?」

 久子に対する言葉よりも1オクターブ下がった挑発的な不二子の声に対して、睦美は努めて冷静に

「話があるんだけど…?」
 と小さく呟いた。

 睦美の表情に何かを読み取った不二子は目を細めて何かを一考した後、行列の男子連中に向けて手をパンパンと打ち鳴らす。

「はいはい、本日の営業はこれまで! あとは部屋の外の机に湿布と赤チン置いておくから勝手に自分らで処理してちょうだいね!」

 とだけ言うと保健室内の男子を全員締め出して、机と湿布とヨードチンキを廊下に設置して後、保健室の扉に施錠してしまった。

 並んでいた男子生徒達もブーブー文句を言いながらも、間もなく三々五々散って行った。つまり大半が不二子目当てで、元から治療が必要だった者はほとんど居なかったという訳だ。

「…はい、これでヤバい話も大丈夫。それに睦美センパイ、まだ生徒やってたんですかぁ? 毎度毎度お尻を拭かされるアンドレ先生もお気の毒ねぇ」
 薄ら笑いで睦美を嘲るように言い放つ不二子。

「アンタ新年度の度にそれ言わないと気が済まないの?」
 睦美も憎々しげに答える。一触即発、最低の雰囲気だ。

「…睦美あんた保健室ここに来るなんて珍しいから茶化しただけよ。それで何事? まさか『魔王が現れた』とか言わないでよね?」
 睦美の来訪が冷やかしでは無いと悟り、敢えて一歩引く不二子。

「…その通りよ」
 深刻な表情を崩さずに不二子の目を見て答える睦美。

「…え? まさかウソでしょ? 十何年も前からあんたが『来る来る』言ってて結局来なかった訳でしょ? なんで今更…?」

「何で今更なのかはアタシにも分からないよ。でも来ちまった物はしょうがないだろ? こっちも早急に戦力を揃える必要があるんだよ」

「戦力ったって私の魔法はとっくに…」

「そんなの分かってるよ。アンタに直接動かれて痛い目を見るのはもう沢山だしね」

「古い話を… それにあれはあんたがやれって言ったんじゃない?!」

「アンタの頭が足りなかったから余計に騒ぎを大きくしたんでしょうよ! 何よ『爆裂魔法エクスプロージョン』って? 建物ごと消し飛ばすバカがどこに居るのよ?!」

「私の特性が『爆発』だったんだから仕方ないでしょ?!」

 女2人のキャットファイトにおずおずと久子が介入する。

「あのぅ… お二人とも、話が進まないので思い出話に花を咲かせるのはまた後ほどで…」

 久子の言葉に睦美と不二子、2人同時にそっぽを向いて鼻息をフンと鳴らした。

 さて、この状況で交渉の開始である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何者でもない僕は異世界で冒険者をはじめる

月風レイ
ファンタジー
 あらゆることを人より器用にこなす事ができても、何の長所にもなくただ日々を過ごす自分。  周りの友人は世界を羽ばたくスターになるのにも関わらず、自分はただのサラリーマン。  そんな平凡で退屈な日々に、革命が起こる。  それは突如現れた一枚の手紙だった。  その手紙の内容には、『異世界に行きますか?』と書かれていた。  どうせ、誰かの悪ふざけだろうと思い、適当に異世界にでもいけたら良いもんだよと、考えたところ。  突如、異世界の大草原に召喚される。  元の世界にも戻れ、無限の魔力と絶対不死身な体を手に入れた冒険が今始まる。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

機械仕掛けの最終勇者

土日 月
ファンタジー
アンドロイドっぽい幼女女神に担当され、勇者として異世界転生することになった草場輝久は、説明の付かないチート能力で異世界アルヴァーナを攻略していく。理解不能の無双バトルにツッコむ輝久。だがそれは、六万回以上ループする世界で自身が求め続けた、覇王を倒す究極の力だった。

最弱職テイマーに転生したけど、規格外なのはお約束だよね?

ノデミチ
ファンタジー
ゲームをしていたと思われる者達が数十名変死を遂げ、そのゲームは運営諸共消滅する。 彼等は、そのゲーム世界に召喚或いは転生していた。 ゲームの中でもトップ級の実力を持つ騎団『地上の星』。 勇者マーズ。 盾騎士プルート。 魔法戦士ジュピター。 義賊マーキュリー。 大賢者サターン。 精霊使いガイア。 聖女ビーナス。 何者かに勇者召喚の形で、パーティ毎ベルン王国に転送される筈だった。 だが、何か違和感を感じたジュピターは召喚を拒み転生を選択する。 ゲーム内で最弱となっていたテイマー。 魔物が戦う事もあって自身のステータスは転職後軒並みダウンする不遇の存在。 ジュピターはロディと名乗り敢えてテイマーに転職して転生する。最弱職となったロディが連れていたのは、愛玩用と言っても良い魔物=ピクシー。 冒険者ギルドでも嘲笑され、パーティも組めないロディ。その彼がクエストをこなしていく事をギルドは訝しむ。 ロディには秘密がある。 転生者というだけでは無く…。 テイマー物第2弾。 ファンタジーカップ参加の為の新作。 応募に間に合いませんでしたが…。 今迄の作品と似た様な名前や同じ名前がありますが、根本的に違う世界の物語です。 カクヨムでも公開しました。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

処理中です...