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第12話 ひさこせんぱい
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「ティーバッグの紅茶ですみません…」
つばめの実家、芹沢家のリビングルームのテーブル上に紅茶の注がれた白いティーカップが置かれる。テーブル中央の編み籠の中に、お茶受けの為の個別包装されたチョコレートやビスケットといった洋菓子類が積まれていた。
「すぐ帰るから気にしないでいいよぉ」
久子の口調は変わらない。他人の家であってもマイペースは揺るがないらしい。
2人は既に変態を解き、高校の制服姿のまま向かい合って座っていた。
つばめの膝には老女から引き継いだ擦り傷が残っていた為に、現在は消毒して絆創膏を貼っている。
「では手短に。あの近藤先輩って人は一体何者なんですか? なんでひじ… 久子先輩は刀で切られてもニコニコしていられるんですか? 何か脅されているとか人質を取られているとかなんですか?!」
いきなりのつばめの剣幕に気圧され、目を大きく見開く久子。しかし、すぐに慈愛を込めた眼差しに変わり、静かに微笑みを返す。
「…睦美さまはねぇ、わたしのご主人様でヒーローなの。まだ小さかった私を守って戦ってくれて、誰も頼れないままその途中でたくさんの物を失って… それでも気丈に頑張り続けている凄い人なの!」
久子の睦美への熱い思いに晒されて、今度はつばめが気圧される。つばめとしては愚痴の一つでも聞き出して、睦美の被害者同盟的な名目で久子と仲良くなろうとの目論見だったのだが、見事に当てが外れてしまった。
久子の睦美への思いは『崇拝』と言って差支え無いだろう。正直そこまでとはつばめも予想していなかった。
だがしかし、久子の語る睦美像とつばめの抱く睦美像とでは違いがあり過ぎる。
久子の言では『ストイックなヒーロー』の様な渋いキャラクターだが、つばめの印象は『傍若無人で冷酷で悪辣なオバサン』でしか無い。
つばめは次の作戦に打って出た。
「近藤先輩や久子先輩は、わたしとは違う日本語じゃない呪文で魔法を使ってましたよね? あれは何語ですか? そもそもなんで魔法なんて物がすんなり使えちゃってるんですか?」
再びのつばめの剣幕。久子は笑顔を崩さない。
「つばめちゃんて意外とグイグイ来る子なんだねぇ。えーと、私もねぇ、あんまり頭良くなくて理屈で覚えている訳じゃないんで、ちゃんと説明出来るほど詳しくないんだよ。ごめんねぇ」
久子の言葉には文言を選ぶ様な口の重さはあるものの、嘘は無いように思えた。しかし、それとは別に『何か隠している事がある』くらいはつばめにも感じ取れた。
ただそれをツッコんで良いものかどうかの判断がつかない。
まだ深い部分を聞き出せるほど仲良くなっている訳でも無いし、睦美に口止めされていて、下手にバラしたら久子が折檻される可能性もある。
「睦美さまと私はちょっと特別なの。今言えるのはこれだけかなぁ?」
睦美も似たような事を言っていた。この2人には何があるのだろう?
「…じゃあ、あの『魔法奉仕同好会』なんてのが学校に認可されているのは、どういう事なんです? 学校の先生達も魔法の存在を知っているんですか?」
久子は目線を上に上げて何やら考える振りをする。
「あー、うん、そうだねぇ。何人かの先生は知ってるよ。顧問のアンドレ先生とか保健の不二子ちゃんとか…」
久子の言葉に『そういえば顧問なんてのも居るんだよね』と思いを巡らせるつばめ。
アンドレ先生というのは初耳だが、名前からして多分外国人で、外国語の教師と思われる。
ひょっとして日本語が不自由な為に、訳の分からないまま睦美らに協力させられているのかも知れない。
同好会の顧問との事だから、近日中に出会う事になるだろう。
更に保健室でつばめの目の前で沖田を誘惑した、あの淫乱女教師もどういう経緯か魔法を知っているらしい。いずれあの痴女は倒す必要があると軽く決意するつばめ。
「でもつばめちゃんが力になってくれて、本当に心強いよ。睦美さまってあの通り内気で素直じゃないから、仲良くして上げて欲しいなぁ」
内気? 討ち気の聞き間違いでは無いのかと眉をひそめるつばめ。
それはまぁ、先輩でもあるし先方が『仲良くなりたい』と言う事であれば、仲良くする事はやぶさかでは無い。
とは言うものの、そもそも久子がそう言っているだけで、睦美本人が仲良くしたいと思っているのかどうかも定かではない。
仲良くなりたいと思っている女の子の首を切り落とそうとする、などと言う病んだ友情はつばめとしては全力で遠慮したいところだ。
顔を引きつらせて答えに窮するつばめを見て、久子も何かを察した様に立ち上がる。
「どうもご馳走さまでした。今日は色々あって疲れたでしょ? ゆっくり休んでまた明日から頑張ろうね!」
「あ、はい。お曾祖様でした…」
まだ久子に聞きたい事はあるのだが、始めから時間制限のある訪問だ。
無理に引き留める事も出来ないし、まぁ必死になってまで今聞き出す必要もあるまい。
「早く帰って晩御飯作らなきゃ。睦美さま、お腹空かせて待ってると思うし」
「あの、それなんですけど、お二人は一緒に暮らしているんですか?」
「うん、もう何年も一緒だよぉ。そうだ、つばめちゃんも今度遊びに来てよ。睦美さまも絶対喜ぶと思うよ!」
そう言い残して久子は家へと帰って行った。
『遊びに来て』って、お呼ばれした先で斬首されたら、完全犯罪のまま社会から抹消されそうだなぁ……。
そう思わずにはいられないつばめだった。
つばめの実家、芹沢家のリビングルームのテーブル上に紅茶の注がれた白いティーカップが置かれる。テーブル中央の編み籠の中に、お茶受けの為の個別包装されたチョコレートやビスケットといった洋菓子類が積まれていた。
「すぐ帰るから気にしないでいいよぉ」
久子の口調は変わらない。他人の家であってもマイペースは揺るがないらしい。
2人は既に変態を解き、高校の制服姿のまま向かい合って座っていた。
つばめの膝には老女から引き継いだ擦り傷が残っていた為に、現在は消毒して絆創膏を貼っている。
「では手短に。あの近藤先輩って人は一体何者なんですか? なんでひじ… 久子先輩は刀で切られてもニコニコしていられるんですか? 何か脅されているとか人質を取られているとかなんですか?!」
いきなりのつばめの剣幕に気圧され、目を大きく見開く久子。しかし、すぐに慈愛を込めた眼差しに変わり、静かに微笑みを返す。
「…睦美さまはねぇ、わたしのご主人様でヒーローなの。まだ小さかった私を守って戦ってくれて、誰も頼れないままその途中でたくさんの物を失って… それでも気丈に頑張り続けている凄い人なの!」
久子の睦美への熱い思いに晒されて、今度はつばめが気圧される。つばめとしては愚痴の一つでも聞き出して、睦美の被害者同盟的な名目で久子と仲良くなろうとの目論見だったのだが、見事に当てが外れてしまった。
久子の睦美への思いは『崇拝』と言って差支え無いだろう。正直そこまでとはつばめも予想していなかった。
だがしかし、久子の語る睦美像とつばめの抱く睦美像とでは違いがあり過ぎる。
久子の言では『ストイックなヒーロー』の様な渋いキャラクターだが、つばめの印象は『傍若無人で冷酷で悪辣なオバサン』でしか無い。
つばめは次の作戦に打って出た。
「近藤先輩や久子先輩は、わたしとは違う日本語じゃない呪文で魔法を使ってましたよね? あれは何語ですか? そもそもなんで魔法なんて物がすんなり使えちゃってるんですか?」
再びのつばめの剣幕。久子は笑顔を崩さない。
「つばめちゃんて意外とグイグイ来る子なんだねぇ。えーと、私もねぇ、あんまり頭良くなくて理屈で覚えている訳じゃないんで、ちゃんと説明出来るほど詳しくないんだよ。ごめんねぇ」
久子の言葉には文言を選ぶ様な口の重さはあるものの、嘘は無いように思えた。しかし、それとは別に『何か隠している事がある』くらいはつばめにも感じ取れた。
ただそれをツッコんで良いものかどうかの判断がつかない。
まだ深い部分を聞き出せるほど仲良くなっている訳でも無いし、睦美に口止めされていて、下手にバラしたら久子が折檻される可能性もある。
「睦美さまと私はちょっと特別なの。今言えるのはこれだけかなぁ?」
睦美も似たような事を言っていた。この2人には何があるのだろう?
「…じゃあ、あの『魔法奉仕同好会』なんてのが学校に認可されているのは、どういう事なんです? 学校の先生達も魔法の存在を知っているんですか?」
久子は目線を上に上げて何やら考える振りをする。
「あー、うん、そうだねぇ。何人かの先生は知ってるよ。顧問のアンドレ先生とか保健の不二子ちゃんとか…」
久子の言葉に『そういえば顧問なんてのも居るんだよね』と思いを巡らせるつばめ。
アンドレ先生というのは初耳だが、名前からして多分外国人で、外国語の教師と思われる。
ひょっとして日本語が不自由な為に、訳の分からないまま睦美らに協力させられているのかも知れない。
同好会の顧問との事だから、近日中に出会う事になるだろう。
更に保健室でつばめの目の前で沖田を誘惑した、あの淫乱女教師もどういう経緯か魔法を知っているらしい。いずれあの痴女は倒す必要があると軽く決意するつばめ。
「でもつばめちゃんが力になってくれて、本当に心強いよ。睦美さまってあの通り内気で素直じゃないから、仲良くして上げて欲しいなぁ」
内気? 討ち気の聞き間違いでは無いのかと眉をひそめるつばめ。
それはまぁ、先輩でもあるし先方が『仲良くなりたい』と言う事であれば、仲良くする事はやぶさかでは無い。
とは言うものの、そもそも久子がそう言っているだけで、睦美本人が仲良くしたいと思っているのかどうかも定かではない。
仲良くなりたいと思っている女の子の首を切り落とそうとする、などと言う病んだ友情はつばめとしては全力で遠慮したいところだ。
顔を引きつらせて答えに窮するつばめを見て、久子も何かを察した様に立ち上がる。
「どうもご馳走さまでした。今日は色々あって疲れたでしょ? ゆっくり休んでまた明日から頑張ろうね!」
「あ、はい。お曾祖様でした…」
まだ久子に聞きたい事はあるのだが、始めから時間制限のある訪問だ。
無理に引き留める事も出来ないし、まぁ必死になってまで今聞き出す必要もあるまい。
「早く帰って晩御飯作らなきゃ。睦美さま、お腹空かせて待ってると思うし」
「あの、それなんですけど、お二人は一緒に暮らしているんですか?」
「うん、もう何年も一緒だよぉ。そうだ、つばめちゃんも今度遊びに来てよ。睦美さまも絶対喜ぶと思うよ!」
そう言い残して久子は家へと帰って行った。
『遊びに来て』って、お呼ばれした先で斬首されたら、完全犯罪のまま社会から抹消されそうだなぁ……。
そう思わずにはいられないつばめだった。
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