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第10話 じっせん
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「✭✲❃✹❋」
睦美は日本語とは言い難い不思議な言葉を発して指をパチンと鳴らす。
少なくとも何らかの早口言葉では無かった様につばめには思えた。
すると何もない所で件の老女は足をもつれさせて前方に転倒したのだ。
間髪入れずに久子が「お婆さん、大丈夫ですかぁ?」と老女の介抱に向かう。流れる様なコンビネーションだ。
「つばめ、魔法スタンバイ」
視線を老女に見据えたままで睦美はつばめに指示を出す。
久子に続いてつばめと睦美も老女の元に駆け寄る。どうやら転倒したせいで老女は膝を擦りむく負傷をしていた。
睦美と久子の視線がつばめに集まる。「さぁ、やってみせろ」とばかりに期待に満ちた視線だ。
『うー、やっぱり恥ずかしいけど沖田くんとの愛の生活が掛かっているからね』
同好会の趣旨すらも自分に都合よく捻じ曲げたつばめは大きく息を吸った。
「と、東京特許許可局許可局長、ヴァージョンA!」
ミスは無い。つばめが老女の傷を手で覆う様に翳すと、あっという間に老女の膝の傷が消え、今度はつばめの膝に真新しい擦り傷が刻まれる。
怪我をした部分がいきなり消えるのも不自然なので、本人が怪我に気づく前に手で覆って隠したのだ。
ちなみに今回ヴァージョンAにしたのは、使うとどうなるのか確認する必要を認めた事と、怪我をした張本人の前で痛がると余計な気を遣わせてしまうと、つばめが判断したからだ。
確かに注意書きの通り膝に擦り傷は現れたが、痛みは全く無い。怪我をしたという感触すら無かった。
ただ、今回の様に軽い擦り傷程度ならまだしも、骨折や命に関わる負傷の傷や、その痛みを引き受けた際に何が起こるのかまでは分からない。出来れば想像すらしたくない。
『重傷の人相手だったら痛い思いさせられる前に何としてでも逃げなくちゃ…』
1人静かに決意するつばめ。
「あぁ、どうもありがとうね、可愛らしいお嬢さん達。お陰でぶつけたと思った膝もあまり痛くないわぁ」
つばめ達に笑顔を向けて会釈した後、歩み去る老女。
睦美の胸の中央に装備されている水色の宝石が、つばめを助けた時と同様にテラテラと光る。
「うーん、思ったほど感謝されてないわねぇ。ヒザ子の助けに入るタイミングが少し早かったわ。次はもう3秒遅らせなさい」
「はい、すみません睦美さま…」
「つばめの魔法はなかなか良かったわよ。この調子で頑張って」
褒められたつばめだが、一点だけ大きな疑問があった。
「あの、近藤先輩が最初に何か魔法を使っていたみたいですけど、あれって一体…? あと呪文も何か聞き覚えの無い言葉でしたけど…」
「うん? あのお婆さんの履物に魔法を掛けて『固定』したのよ。見事に足をもつれさせてを転んでくれたわね」
……なんだって?
つまり今の寸劇は最初から自作自演だったと言う事?!
わざとあのお婆さんを転ばせて、それを助けて感謝される計画だったのだ。
ひょっとして今朝の自動車事故未遂も罠に嵌められた可能性もあるのだろうか?
『え? もしかしてずっとこのパターンでやるのかしら…?』
今後の活動内容に不信と不安を隠せないつばめ。
「あとアタシとヒザ子は特別なの。細かい説明は省くけど早口言葉なんて下等な呪文に頼らなくても魔法を使えるのよ」
なにそのチート? というか、先程睦美が口にしていたのは明らかに日本語では無かった。
とにかくこの先輩2人は頭から足まで謎が多い。
まず何はなくとも当たり前の様に『魔法』なる存在を使いこなし、あまつさえ科学の社会に生きてきたつばめに、いとも簡単に能力を授けてみせた。
まず『魔法』とは何なのだ? この説明からして不足しているのだ。更になし崩し的とは言え、今の時点でつばめ自身が当事者として組み込まれている。
魔法少女が瓢箪岳高校の近くで奉仕活動していたという事なら、近所に住むつばめやその家族にも何らかの噂が耳に届いていてもいいはずだ。だがつばめはそういった存在の噂すら聞いた事が無い。
「不思議そうな顔をしているわね。実はこの衣装には認識を阻害する魔力が掛かっていて、長期記憶には残らない仕組みになっているのよ」
「はぁ、それで噂にならずに細々と活動してきたって事ですか…?」
「ええ、あまり顔を売りすぎると『助けてもらって当たり前』って考えが蔓延しやすくてね。そんな奴からは大した感謝も貰えないから、毎回新鮮な驚きと感謝の元を提供しているのよ。納得した?」
『感謝の元』とやらがマッチポンプ仕様なのがどうにも釈然としないが、とにかく大まかな活動内容は理解した。
「あ、聞かれる前に言っておくけど、今朝アンタを助けたのは偶然だからね。アタシの仕込みじゃないからね? アンタを助ける為に今日の分の魔力の大半を使ったんだからね?」
睦美の顔には少しの照れが見て取れた。これは要するに今朝の出来事は、後半はともかく少なくとも最初の段階では、打算ではなく善意でつばめの命を救った、という意味である。
『魔法熟女のツンデレ』というどこにニーズがあるのかよく分からない状況の正否を、つばめは魔力の使い過ぎで朦朧とする頭で必死に考えていた。
睦美は日本語とは言い難い不思議な言葉を発して指をパチンと鳴らす。
少なくとも何らかの早口言葉では無かった様につばめには思えた。
すると何もない所で件の老女は足をもつれさせて前方に転倒したのだ。
間髪入れずに久子が「お婆さん、大丈夫ですかぁ?」と老女の介抱に向かう。流れる様なコンビネーションだ。
「つばめ、魔法スタンバイ」
視線を老女に見据えたままで睦美はつばめに指示を出す。
久子に続いてつばめと睦美も老女の元に駆け寄る。どうやら転倒したせいで老女は膝を擦りむく負傷をしていた。
睦美と久子の視線がつばめに集まる。「さぁ、やってみせろ」とばかりに期待に満ちた視線だ。
『うー、やっぱり恥ずかしいけど沖田くんとの愛の生活が掛かっているからね』
同好会の趣旨すらも自分に都合よく捻じ曲げたつばめは大きく息を吸った。
「と、東京特許許可局許可局長、ヴァージョンA!」
ミスは無い。つばめが老女の傷を手で覆う様に翳すと、あっという間に老女の膝の傷が消え、今度はつばめの膝に真新しい擦り傷が刻まれる。
怪我をした部分がいきなり消えるのも不自然なので、本人が怪我に気づく前に手で覆って隠したのだ。
ちなみに今回ヴァージョンAにしたのは、使うとどうなるのか確認する必要を認めた事と、怪我をした張本人の前で痛がると余計な気を遣わせてしまうと、つばめが判断したからだ。
確かに注意書きの通り膝に擦り傷は現れたが、痛みは全く無い。怪我をしたという感触すら無かった。
ただ、今回の様に軽い擦り傷程度ならまだしも、骨折や命に関わる負傷の傷や、その痛みを引き受けた際に何が起こるのかまでは分からない。出来れば想像すらしたくない。
『重傷の人相手だったら痛い思いさせられる前に何としてでも逃げなくちゃ…』
1人静かに決意するつばめ。
「あぁ、どうもありがとうね、可愛らしいお嬢さん達。お陰でぶつけたと思った膝もあまり痛くないわぁ」
つばめ達に笑顔を向けて会釈した後、歩み去る老女。
睦美の胸の中央に装備されている水色の宝石が、つばめを助けた時と同様にテラテラと光る。
「うーん、思ったほど感謝されてないわねぇ。ヒザ子の助けに入るタイミングが少し早かったわ。次はもう3秒遅らせなさい」
「はい、すみません睦美さま…」
「つばめの魔法はなかなか良かったわよ。この調子で頑張って」
褒められたつばめだが、一点だけ大きな疑問があった。
「あの、近藤先輩が最初に何か魔法を使っていたみたいですけど、あれって一体…? あと呪文も何か聞き覚えの無い言葉でしたけど…」
「うん? あのお婆さんの履物に魔法を掛けて『固定』したのよ。見事に足をもつれさせてを転んでくれたわね」
……なんだって?
つまり今の寸劇は最初から自作自演だったと言う事?!
わざとあのお婆さんを転ばせて、それを助けて感謝される計画だったのだ。
ひょっとして今朝の自動車事故未遂も罠に嵌められた可能性もあるのだろうか?
『え? もしかしてずっとこのパターンでやるのかしら…?』
今後の活動内容に不信と不安を隠せないつばめ。
「あとアタシとヒザ子は特別なの。細かい説明は省くけど早口言葉なんて下等な呪文に頼らなくても魔法を使えるのよ」
なにそのチート? というか、先程睦美が口にしていたのは明らかに日本語では無かった。
とにかくこの先輩2人は頭から足まで謎が多い。
まず何はなくとも当たり前の様に『魔法』なる存在を使いこなし、あまつさえ科学の社会に生きてきたつばめに、いとも簡単に能力を授けてみせた。
まず『魔法』とは何なのだ? この説明からして不足しているのだ。更になし崩し的とは言え、今の時点でつばめ自身が当事者として組み込まれている。
魔法少女が瓢箪岳高校の近くで奉仕活動していたという事なら、近所に住むつばめやその家族にも何らかの噂が耳に届いていてもいいはずだ。だがつばめはそういった存在の噂すら聞いた事が無い。
「不思議そうな顔をしているわね。実はこの衣装には認識を阻害する魔力が掛かっていて、長期記憶には残らない仕組みになっているのよ」
「はぁ、それで噂にならずに細々と活動してきたって事ですか…?」
「ええ、あまり顔を売りすぎると『助けてもらって当たり前』って考えが蔓延しやすくてね。そんな奴からは大した感謝も貰えないから、毎回新鮮な驚きと感謝の元を提供しているのよ。納得した?」
『感謝の元』とやらがマッチポンプ仕様なのがどうにも釈然としないが、とにかく大まかな活動内容は理解した。
「あ、聞かれる前に言っておくけど、今朝アンタを助けたのは偶然だからね。アタシの仕込みじゃないからね? アンタを助ける為に今日の分の魔力の大半を使ったんだからね?」
睦美の顔には少しの照れが見て取れた。これは要するに今朝の出来事は、後半はともかく少なくとも最初の段階では、打算ではなく善意でつばめの命を救った、という意味である。
『魔法熟女のツンデレ』というどこにニーズがあるのかよく分からない状況の正否を、つばめは魔力の使い過ぎで朦朧とする頭で必死に考えていた。
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