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第5話 ぶかつ
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朝と違って普通に学校の制服を着ていた為に一瞬認識が遅れたが、目の前の女性は紛れもなく朝に出会った魔法熟女、近藤睦美だ。
ちなみにその上半身は学校指定の煉瓦色の制服ブレザーだが、袖を肘まで捲っている。下半身のスカートは大昔の女番長を彷彿とさせる様な、足首に届きそうな長い物だった。
髪型はレイヤーカットの毛先を、サイドを外向きにブロー、バックは内側にゆるくカールさせた、いわゆる『聖子ちゃんカット』と呼ばれるデザイン。
なんと言えば良いのか… 全体的に『古い』印象を与える外見だ。
先程の山崎教諭がセクシー路線であった為に、教諭と同世代と思われる睦美の若作りに失敗した風なファッションには、つばめの目から見ても痛々しさは拭えなかった。
「ちょうど良いところで会ったわね。今から活動するんだけど、貴女も来るわよね?」
口調と声色こそ穏やかだが、睦美の声は有無を言わせない迫力を備えていた。
『このままでは何かヤバい場所に連れて行かれて取り返しのつかない事になる』
そう予感したつばめは必死の抵抗を試みる。
「あ、あの、部活は明日からって… それに近藤先輩たちは退学になるって職員室の…」
そこまで言ったつばめの肩の関節に指を捩じ込んで言葉を中断させる睦美。
「痛っ…! あの、地味に凄く痛いです先輩っ…」
睦美のアイアンクロー攻撃を受けて声を上げるつばめ。
「あんな物はとっくの昔に撤回させたわよ。アタシを退学になんて出来るわけ無いでしょ!」
さも当然の様に勝ち誇って宣言する睦美。更に出た言葉は、
「あと部活は今日からよ。捕まえた理由は『気が変わったから』良いわね?」
だった。横暴この上ないが、つばめには何も言えない。
肩を掴まれたまま絶望感に包まれ連行されるつばめ。逃げられないし、逃げようとしたら腕ごともぎ取られそうな気がする。
つばめが連れられた先は、校舎に並列する形で建てられている体育館の更に隣にある、通称『部活長屋』と呼ばれる様々な部活の部室を集めた2階建てのプレハブ小屋だった。
普段は様々な生徒で溢れる長屋だが、今日は入学式だけなので2、3年生は登校しておらず、付近には他に人影は無い。
その並ぶ部屋の中で、一番奥の陽も当たらない使いづらそうな場所に睦美らの属する部活動、もとい同好会があった。
その扉に架かる看板いわく『魔法奉仕同好会』。
「わぁ、つばめちゃん来てくれたんだね! すっごく嬉しい!」
部屋に入ったつばめをトンボメガネのちんちくりん娘、土方久子が満面の笑顔で迎え入れる。
「はぁ、来たと言うか連行されたと言うか…」
もう今の時点で疲労困憊してグッタリとしているつばめ。そもそもなぜこんな目に遭うのか? 何か自分が悪い事をしたのか? と先程は感謝していたはずの神に呪詛を投げかける。
ようやく睦美から解放されて自由になるつばめ。痛む肩を押さえながら口を開く。
「そもそも『魔法奉仕同好会』って何をするんですか? 普通にボランティア活動でもするのなら『魔法』なんて…」
『非現実的な物を看板に掲げるのは変だ』と言おうとしたつばめの口を、睦美の一本立てられた人差し指が遮る。
「魔法を信じないのかい? アンタは今朝、その目で魔法の奇跡を見たはずだよ?」
睦美の目が細められる。その冷たい光につばめが思い出したのは、交通事故直前のつばめを助けた『時間を止める魔法』… では無く、首に当てられた鋭利な刃物の感触だった。
「そぉだよぉ? 私だって魔法の力で強くなったんだから!」
睦美の横に立つ久子がガッツポーズをしながら、自慢げにつばめに言う。
「アタシ達が魔法を使って他人を助けると、その感謝の度合いに応じてその人から発せられた『感謝エナジー』がアタシの持つペンダントに蓄積されるの。アンタにはそれを手伝って欲しいのさ」
睦美の目がいつもの高圧的な態度から、少し柔らかくなってつばめに懇願する様な雰囲気を放つ。
「は、はぁ… でもそんな物を集めてどうするんですか…?」
やや落ち着きを取り戻したつばめが素朴な疑問を口にした。
睦美は少し冷笑した様な表情を見せて遠い目をする。
「その目的は今はまだちょっと言えないけど、間違いなく言えるのは『世界の為』って事かしら…?」
「そぉです。『世界の為』なんです!」
睦美の言葉に久子が被せてくる。
「…それで、わたしにどうしろって言うんですか? わたし魔法なんて使えませんよ?」
つばめの抗弁。当然である、魔法などと言うものは小説やマンガ、アニメの中だけの存在だ。…少なくともつばめの今までの人生の中では。
ここで言う魔法とは、定期的に女子児童や女子生徒の間で流行る様な「お呪い」とは全く違う、本当に『奇跡』を演出する不可思議な力の事だ。
『自分には神に与えられた特殊な力が眠っていて、何らかの切っ掛けでそれが目覚めて、冒険の人生に旅立つ』なんて考えは中学2年生で捨ててきた。
今のつばめは日々を生きる一般人でしかない。誰に言われずとも、そんな事はつばめ自身が一番良く分かっているのだ。
「それを調べる為に連れてきたんだよ。アタシの勘ではアンタにはトンデモない才能が眠っていると思ったんだ…」
そう言って睦美が取り出したのは掌よりも少し大きめな、少し萎れかけたイチジクによく似た葉っぱであった。
ちなみにその上半身は学校指定の煉瓦色の制服ブレザーだが、袖を肘まで捲っている。下半身のスカートは大昔の女番長を彷彿とさせる様な、足首に届きそうな長い物だった。
髪型はレイヤーカットの毛先を、サイドを外向きにブロー、バックは内側にゆるくカールさせた、いわゆる『聖子ちゃんカット』と呼ばれるデザイン。
なんと言えば良いのか… 全体的に『古い』印象を与える外見だ。
先程の山崎教諭がセクシー路線であった為に、教諭と同世代と思われる睦美の若作りに失敗した風なファッションには、つばめの目から見ても痛々しさは拭えなかった。
「ちょうど良いところで会ったわね。今から活動するんだけど、貴女も来るわよね?」
口調と声色こそ穏やかだが、睦美の声は有無を言わせない迫力を備えていた。
『このままでは何かヤバい場所に連れて行かれて取り返しのつかない事になる』
そう予感したつばめは必死の抵抗を試みる。
「あ、あの、部活は明日からって… それに近藤先輩たちは退学になるって職員室の…」
そこまで言ったつばめの肩の関節に指を捩じ込んで言葉を中断させる睦美。
「痛っ…! あの、地味に凄く痛いです先輩っ…」
睦美のアイアンクロー攻撃を受けて声を上げるつばめ。
「あんな物はとっくの昔に撤回させたわよ。アタシを退学になんて出来るわけ無いでしょ!」
さも当然の様に勝ち誇って宣言する睦美。更に出た言葉は、
「あと部活は今日からよ。捕まえた理由は『気が変わったから』良いわね?」
だった。横暴この上ないが、つばめには何も言えない。
肩を掴まれたまま絶望感に包まれ連行されるつばめ。逃げられないし、逃げようとしたら腕ごともぎ取られそうな気がする。
つばめが連れられた先は、校舎に並列する形で建てられている体育館の更に隣にある、通称『部活長屋』と呼ばれる様々な部活の部室を集めた2階建てのプレハブ小屋だった。
普段は様々な生徒で溢れる長屋だが、今日は入学式だけなので2、3年生は登校しておらず、付近には他に人影は無い。
その並ぶ部屋の中で、一番奥の陽も当たらない使いづらそうな場所に睦美らの属する部活動、もとい同好会があった。
その扉に架かる看板いわく『魔法奉仕同好会』。
「わぁ、つばめちゃん来てくれたんだね! すっごく嬉しい!」
部屋に入ったつばめをトンボメガネのちんちくりん娘、土方久子が満面の笑顔で迎え入れる。
「はぁ、来たと言うか連行されたと言うか…」
もう今の時点で疲労困憊してグッタリとしているつばめ。そもそもなぜこんな目に遭うのか? 何か自分が悪い事をしたのか? と先程は感謝していたはずの神に呪詛を投げかける。
ようやく睦美から解放されて自由になるつばめ。痛む肩を押さえながら口を開く。
「そもそも『魔法奉仕同好会』って何をするんですか? 普通にボランティア活動でもするのなら『魔法』なんて…」
『非現実的な物を看板に掲げるのは変だ』と言おうとしたつばめの口を、睦美の一本立てられた人差し指が遮る。
「魔法を信じないのかい? アンタは今朝、その目で魔法の奇跡を見たはずだよ?」
睦美の目が細められる。その冷たい光につばめが思い出したのは、交通事故直前のつばめを助けた『時間を止める魔法』… では無く、首に当てられた鋭利な刃物の感触だった。
「そぉだよぉ? 私だって魔法の力で強くなったんだから!」
睦美の横に立つ久子がガッツポーズをしながら、自慢げにつばめに言う。
「アタシ達が魔法を使って他人を助けると、その感謝の度合いに応じてその人から発せられた『感謝エナジー』がアタシの持つペンダントに蓄積されるの。アンタにはそれを手伝って欲しいのさ」
睦美の目がいつもの高圧的な態度から、少し柔らかくなってつばめに懇願する様な雰囲気を放つ。
「は、はぁ… でもそんな物を集めてどうするんですか…?」
やや落ち着きを取り戻したつばめが素朴な疑問を口にした。
睦美は少し冷笑した様な表情を見せて遠い目をする。
「その目的は今はまだちょっと言えないけど、間違いなく言えるのは『世界の為』って事かしら…?」
「そぉです。『世界の為』なんです!」
睦美の言葉に久子が被せてくる。
「…それで、わたしにどうしろって言うんですか? わたし魔法なんて使えませんよ?」
つばめの抗弁。当然である、魔法などと言うものは小説やマンガ、アニメの中だけの存在だ。…少なくともつばめの今までの人生の中では。
ここで言う魔法とは、定期的に女子児童や女子生徒の間で流行る様な「お呪い」とは全く違う、本当に『奇跡』を演出する不可思議な力の事だ。
『自分には神に与えられた特殊な力が眠っていて、何らかの切っ掛けでそれが目覚めて、冒険の人生に旅立つ』なんて考えは中学2年生で捨ててきた。
今のつばめは日々を生きる一般人でしかない。誰に言われずとも、そんな事はつばめ自身が一番良く分かっているのだ。
「それを調べる為に連れてきたんだよ。アタシの勘ではアンタにはトンデモない才能が眠っていると思ったんだ…」
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