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第22話 救出

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 俺から口を離したティリティアの潤んだ瞳は、完全に俺の事を信頼しきっている目をしていた。聖剣の魔力に囚われた時のクロニアやベルモと同じ顔だ。

 クロニアやベルモ、あとイメッタやアイトゥーシアもだが、俺と関係を持った女達はみな俺より年上のお姉さんだった。
 ティリティアは確か年齢14だか15だ。この世界では結婚適齢期とはいえ、俺の世界観で彼女と同じ歳の娘に死屍累々の中で、しかも負傷しているクロニアやベルモを放置して淫行に及ぶのは少々抵抗がある。

 ましてやティリティアは今、体中が傷だらけだ。手首は擦れたロープ痕で皮が抉れて出血しているし、太ももには前述の通り錐で刺された跡がある。ロープを切って落下した際にほとんど外れて落ちたが、まだ2本刺さったままの錐がある。
 いつ意識を失ってもおかしくない痛みだと思う。
 
 何よりゴブリン達に散々凌辱された鼠径部の傷口は裂けたままで、俺を受け入れる余裕なんて無いと思うのだけれども……。

 俺の戸惑いの表情を見たティリティアは、その理由を察したのか一度俺から離れて深呼吸し、息を整えた。
 次に己の胸に手を当てて俺には聞き取れない程の小声で何かを唱える。

 するとティリティアの胸に当てられた手が仄かな輝きを見せ、彼女の全身に刻まれていた数多くの傷跡が徐々に薄まり消えていった。初めて見るが、これが彼女の回復魔法なのだろう。
 ティリティアは今度は腹に手を当てて先程と同様に回復魔法で自分を癒やす。

 これは凄い… ゲームではよく見る光景だが、実際に目の当たりにすると本当に『魔法』という気がする。今見た事が信じられない気持ちだ。

 ティリティアは再度深呼吸をし、今度は恥ずかしそうに小振りな胸を手で隠して俺を上目遣いで見る。こんな時に上気して顔が赤くなったりしていると可愛く感じる(クロニアはそうだった)のだが、今のティリティアは赤は赤でもゴブリンどもの血の池から這い出てきた赤だ。サイコチックで少し怖い。

「自分の怪我は治しました。後はこの腹の中の邪気だけです。ゴブリンに辱められた女は汚らしくて抱けませんか…?」

 上目遣いの潤んだ目で美少女にそんな事を言われたら「そんな訳あるもんか」としか言えないじゃないか。
 俺は今度は自分からティリティアを抱き寄せ、彼女と唇を合わせた……。

 ☆

 そう言えばこの世界に来て初めてイメッタを抱いた時も、周りは血と死体だらけだった。俺としてはもう少し気分の盛り上がる場所を希望したいが、今回は事情が事情なので特別だ。
 この廃坑に着いた時点では処女だった(はずの)ティリティアだが、俺の腕の中の彼女は痛がるでもなく怖がるでもなく普通に『女』だった。
 
 俺はティリティアの望み通り、彼女の腹の中に俺の『気』を発射したが、それによって彼女が本当に『浄化』されたかどうかは確認の仕様が無い。ただ、俺がティリティアの中で果てた時、彼女はとても穏やかな顔で、静かに「ありがとうございます…」とだけ呟いたのが印象的だった……。

 ☆

 ティリティアの着ていた神官服は、ゴブリンの血で真っ赤に染まっていた上に所々破かれていたが、最低限『服』としての機能は残っていたので、ティリティアに着せる。

 ティリティアの身支度の間に俺はゴブリン達の耳を切って集めていた。討伐の証拠として提出する必要があるからだ。

 ティリティアとの愛の時間に邪魔をしてくるゴブリンは居なかったので、まだ奥を探る必要はあるが、この廃坑にはもうゴブリンは居ないのかも知れない。
 入り口に何匹か居たように、外に『出稼ぎ』していた奴らが居て、戻って来るかも知れないが、それでもこの場に戻ってきて惨劇の現状を見ればそのまま居座ろうとは考えまい。

 部屋を調べて、最初に妖術師シャーマンのいた辺りに落とし穴のスイッチを見つけた。かなり大掛かりな機械仕掛けで、床の開閉を行う仕組みだった。
 ゴブリンは侵入者排除も含めてゴミ捨て場として活用していた様だが、この世界の機構にしては複雑で大掛かりだと感じた。もしかして『先史文明』的な物があったのかも知れない。

 ☆

 ティリティアをスイッチ側に避難させて落とし穴のスイッチを入れる。床にあった多量のゴブリンの死体がバラバラと落ちていく。

「うぉっ?! 今度は何だ?!」

 下からクロニアの声が聞こえた。どうやら律儀に下で待っていてくれたらしい。

「おーいっ! 2人とも無事か?! 今助けるから待ってろよ!」

 冒険者道具を詰めた背嚢バックパックからロープを取り出し、頑丈そうな足場に括り付け下に垂らす。
 下の2人は共に重傷を負っているので自力で上がってくるのは不可能だろう。
 俺は無造作に穴に飛び込んだ。もちろんこの程度の高さで怪我などしない。

「ベルモが発熱している。『震え病』の前兆かも知れん…」

 クロニアの指し示した方向には川に濡れない場所までクロニアが運んだのだろう、苦しそうなベルモが横になっていた。

「済まないね… 足を引っ張っちまって…」

「こちらこそ待たせて済まない…」

 健気なベルモの言葉に俺はそれしか返せなかった。ティリティアと気持ちいい事をしていたせいで遅れたとは言えないもんな……。

 ベルモを肩に担ぎ、垂らしたロープを手繰りながら上階へと戻る。ベルモをティリティアに任せて再び下層へジャンプした。

「何やら大量に血が流れてきたから、多分お前がやってくれたのだと思っていたよ…」

 クロニアの安心して無防備な笑顔がとても眩しい。半分ツンデレみたいな属性のクロニア、レアな表情だけに笑うととても綺麗だ。

 俺は無言でクロニアを担いでベルモと同様に上階へと持ち上げた。

 その隙にベルモはティリティアの回復魔法を受けたらしくて、矢傷は塞がり呼吸も落ち着いていた。
 同様にクロニアにも回復魔法を掛けてもらい、クロニアの骨折は即座に回復した。
 やっぱりスゲェな回復魔法……。

「ありがとうございますティリティア様… ところでティリティア様はご無事で済んだのですか? ゴブリンどもにかどわかされて心配しておりましたが…」

 ティリティアの服装はゴブリンに破られ裂かれ、布地の面積が元の半分程になってしまっている。
 本人は元気だが、それは回復魔法のおかげであり、心に負った傷の深さは計り知れない。

「ええ、勇者様のおかげで大過なく済みましたわ…」
 
 ティリティアは俺の方をチラと一瞥し、薄い笑顔を浮かべてクロニアに返答した。
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