41 / 80
第三章
博士の異常な愛情
しおりを挟む
~シナモン視点
会話は続く。
「で、その大天才様がなんでまた幽炉になんかなってんの? ひょっとして『永遠の命の探求』とかそんな感じなの?」
如何にも悪い博士が考えそうなパターンだよね、そういうの。
《ふむ… さてなぁ? 私も今の様に、はっきりとした意識を持って話せるようになったのは、つい最近なのだ。なんだかずっと悪い夢を見ているような感じでな…》
悪い夢… まどかちゃんも似たような事を言っていた。71くんは真柄ちゃんに誘われてすぐに覚醒したみたいだったね。
《とにかくずっと身動きも取れない、狭い所に閉じ込められている感覚でな、夢の中で私をそんな目に遭わせた奴に、どんな復讐をしようかと漠然と考えていたのだよ》
その捻くれ曲がって肥大化した復讐の念が周囲に漏れまくって、まどかちゃんや他の幽炉達、そして元々の『鎌付き』のパイロット氏に悪影響を与えてきた訳だね。
《そして先日、私の腹の中の男が死んでな。それが切っ掛けで完全にこの輝甲兵の体で蘇る事が出来た、という訳だ》
…この人、意外と話し好きなのかな? このまま大人しく生徒役を演じていれば、知っている事を何でもかんでも教えてえくれそうな気もする。
まぁ、目の前のシマノビッチ博士が、自己顕示欲が人一倍強い人だって事は理解した。
そりゃ天才だもんね、褒め称えられたいよね。その気持ちはボクにも分かるよ。ボクも天才の端くれだからね、うん。
《しかし、この体になってみて、『人間』という器から色々と解き放たれた感じがするのは確かだな。『不老不死』とやらは考えた事も無かったが、この体ならば成し遂げられそうではあるな》
あらら、これは要らん事を教えてしまったかな?
言外に『もしそうなれば永遠に子供を殺し続けるられるぞ』という愉悦の意識が読み取れて軽い吐き気を覚える。
ボク自身結構他の人から「頭おかしい」とか「倫理観が壊れている」とか、子供の頃から言われてきたけど、悪い意味で『上には上が居る』って事を思い知った気がするよ。
「シマノビッチ博士って、米連で事件を起こして服役中だったんじゃないの? 何がどうしてこんな形に…? そもそもどうやって米連に逃げ込めたのさ?」
《愚問だぞ娘。私の能力を使えば、数人で運用している船の占拠など造作もない。米連での事件とやらも運が悪かっただけなのだ。あの少年の親が私の『食事中』に訪れさえしなければ、こんな事にはならなかったのだからな》
猟奇殺人を犯しておいて、さもそれがおやつのつまみ食いが見つかった程度にしか認識されていない。これがサイコパスってやつなのかなぁ?
《ソ大連の記録を調べると、私はどうやら20年近く殺人鬼として『展示』されていたらしい。いかにも『我が祖国』がやりそうな事だ》
シマノビッチ博士は楽しそうに言うが、全く笑えないよね。と言うか、話が唐突過ぎて意味が分からない。
《これは私の推測に過ぎないが、私が寝ている間に米連からソ大連に身柄の引き渡しが行われ、私は自分の知らぬ間に見世物にされ、その後幽炉にされていた。私を幽炉にしたのが何者かは分からぬが、今となってはどちらでも構わん》
「いくら凶悪犯でも、見世物とか酷いね…」
少し、ほんの少しだけ目の前の狂気の天才が不憫に思えた。
《なぁに、国家の偉大な指導者の遺体は特殊加工されて国民に展示される事がある。単にそれの亜流なだけだな。最終的に『幽炉の開発者を幽炉にする』、この出来の悪い洒落を考えた奴はさぞご満悦だったろうな》
今の連合法では『死刑』は廃止されている。でも死刑にするしかないような極悪人がこの世から居なくなる事は無い。
これはあくまで私見だけど、そんな時に「殺しはしないけど幽炉にしてしまう」というのは手段としてはアリなのかも知れない。
重犯罪者と言えども生きる為には空気と水と食料が必要だ。でももし幽炉にしてしまえば、その全てが不要になるばかりか、社会に有力な動力源として用いる事が出来る。
それが倫理的に正しいかどうかと言えば、かなりグレーな判定になると思うけどさ……。
相手が無期囚ならば、幽炉残量はゼロまで使い切っても誰も文句は言わないだろうし、「服役中に獄中で刑死した」と発表しても嘘では無いから問題も起こらない。
輝甲兵の開発初期には、犯罪者や重病人の魂を幽炉に使用する、という行為も行われていたらしいから、「社会にとって有害、或いは重荷となる人間を極めて効率的に排除できるシステム」として捉えられていた側面も否めない。
後年、縞原重工が開発したとされる『超時空精神感応システム』が実用化された事によって、幽炉並びに輝甲兵が量産され始めた訳だけど、それはそれで71くんやまどかちゃんの様な被害者を無数に生み出す結果になってしまった。
ちなみに『超時空精神感応システム』というのも縞原重工社内トップシークレット事項だ。ボクも装置の名前と『そういうのが在る』って事しか知らない。
このシステムを掌握できれば、71くん達の帰還も含めて様々な事が可能になる。
まぁ、これの仕組みを探ろうとしてボクは真柄ちゃんを仕掛け、それが見つかって逮捕された訳だけどね……。
改めて考えさせられるけど、幽炉ってどえらく業の深い存在だよね……。
「それで、これからどこへ行って何をするつもりなの? 貴方を幽炉にした人達は恐らく全員が既に亡くなっているよ?」
…………。
結構長い沈黙。あの饒舌なオジサンがここまで考え込むのも少し珍しい。
《そうだな… 今の私は幽炉だ。わたしと『まどか』、そして彼女に聞いたが更に『ミャーモト』とか言う奴も居るそうじゃないか。ならばこの広い世界にはもっと多くの覚醒した幽炉が居るかも知れない。そうだろう?》
「多分ね。世界中の輝甲兵の配備数、ピュアワン幽炉の確率、幽炉が覚醒する確率はまるで分からないから仮に1%としてザックリ計算しても、4大国全体で両手に余るくらいの覚醒幽炉が居る可能性があるね」
《…なるほどな。まぁ、我々を含めて覚醒幽炉が10名ほど居るとして、私は彼らにもきちんと人としての権利を与え、平和と安住の地と提供したいと考えているのだよ》
え…?
まさか凶悪な殺人鬼からそんな事を言われるとは予想だにしていなかったから、ボクも呆気にとられて動きが止まってしまった。
『幽炉にも人権を与え、人間と共存していく世界』それはボクの願っていた世界でもある。
「ぼ、ボクもそんな世界に…」
《その上で全人類を隷属化して使役してやろう。今よりも産児制限を緩めれば私の『楽しみ』の幅も増えるだろうて…》
うわぁ、やっぱりそんなオチがついたか……。この手のサイコパスおじさんは絶対に改心しないから、最終的には滅しないとダメなパターンだね。
《ん? ボクも何だって?》
「何でもないよ! その野望と今現在ちまちまと基地を襲っているのと、どういう関係があるのさ?」
『鎌付き』とまどかちゃんが出かけて行った後、ボクは『はまゆり』に1人残される事になる。そこで船の制御系とかを弄って、彼らを出し抜いたり… 出来る技術がある訳もなく、手持ち無沙汰で待っている事が多い。
彼らがどうやっているのかは分からないけれど、毎回たくさんの幽炉や船の燃料、ボク用の食料等を持ってくる。
でも、こんな海賊まがいの事をし続けても、いつかは捕捉されて撃破されるに決まっている。
《今までの行動は全て練習と検証だ。…まどか》
シマノビッチ博士がまどかちゃんを呼ぶ。まどかちゃんはボクやアンジェラちゃんがどんなに声を掛けてもずっと聞こえないふりをして無視していた。
まどかちゃんが香奈ちゃんを殺した話は聞いている。そして香奈ちゃんとまどかちゃんが、どれだけ仲良しだったかも知っている。
まどかちゃんは、ボクらに香奈ちゃんの件で責められると思い、心を閉してしまっているのかも知れない。
「悪いのは研究と称して面白半分にまどかちゃんを覚醒させたボクであって、まどかちゃんは巻き込まれただけで何も悪くないんだよ」
そう言って上げたいのだが、そこまでのコミュニケーションすら取れていなかった。
《…なに? うっぴー》
画面にまどかちゃんの物と思われる返答ログが現れる。まどかちゃんはシマノビッチ博士の事を『うっぴー』って呼んでいるんだね。まどかちゃんらしい可愛いネーミングだ。ボクも真似して『うっぴー』って呼んでみようかな…? 怒られそうだな……。
《遠隔操作のやり方は慣れたか? 現在幾つまで動かせるようになった?》
遠隔操作とか、何を言っているのかよく分からないけど、話に介入せずにこのまま見ていよう。その方が情報を集められそうな気がするよ。
《直接操作なら25か26体、数を減らせばもっと細かい動きも出来るよ。多分1体に集中すれば71より速く、正確に動かせると思う。計算上は、だけど…》
《なるほど。前に教えた条件で起動するやり方ならどうだ?》
《最終的に「反応」の操作は私がやらないとダメだけど、それ以外にただ数を置いて、近くに来た奴に抱きつくだけなら、多分1200は同時に出来ると思う》
まどかちゃんが他の輝甲兵を操って鈴代ちゃん達と戦ったのは、ボクもアンジェラちゃんから聞いている。
今の話を聞くに、シマノビッチ博士はまどかちゃんに輝甲兵部隊を指揮、いや操作させて何か軍事的な行動を取ろうとしているのだろう。
まどかちゃんも、少し学力が足りない系の女の子かと思っていたけど、いつの間にか具体的な数字を挙げて物が言える様になっていた。これは丙型の電算とまどかちゃんの思考がリンクしているからだろうな。
でもまどかちゃんは、こんな血の通わない、冷たい言葉を発する娘じゃなかったはずだ。そうなった原因がボクなのは分かるよ。だからこそ、何としてもまどかちゃんを元の明るい子に戻してあげたいと真剣に思う。
まどかちゃんの為にボクとアンジェラちゃんが出来る事って何だろう…?
『鎌付き』の幽炉交換をボイコット… しても、ボクが宇宙に捨てられて別の技術士が誘拐されてくるだけだろうしなぁ……。
何か打開策を考えないと、このままでは事態は悪い方へ悪い方へと流れていくのは目に見えている。
まぁとにかく、今になって彼らを放置するのは『極めて危険である』と認識したよ。「シマノビッチ博士の元で勉強したい」とか悠長な事を言っていられない状況だったんだね、これは……。
《そうか、まぁそれだけ出来れば上等だな。ではこれより我々は、米連の南米ブエノスアイレス上空にあるソウル&ブレイブス本社コロニーを占拠、要塞化して独立宣言を行う事にしよう。ふふふ、世界中がお祭り騒ぎになるぞ! 想像しただけでニッコリしてしまうな!》
想像しただけでゲッソリしてしまうよ……。
会話は続く。
「で、その大天才様がなんでまた幽炉になんかなってんの? ひょっとして『永遠の命の探求』とかそんな感じなの?」
如何にも悪い博士が考えそうなパターンだよね、そういうの。
《ふむ… さてなぁ? 私も今の様に、はっきりとした意識を持って話せるようになったのは、つい最近なのだ。なんだかずっと悪い夢を見ているような感じでな…》
悪い夢… まどかちゃんも似たような事を言っていた。71くんは真柄ちゃんに誘われてすぐに覚醒したみたいだったね。
《とにかくずっと身動きも取れない、狭い所に閉じ込められている感覚でな、夢の中で私をそんな目に遭わせた奴に、どんな復讐をしようかと漠然と考えていたのだよ》
その捻くれ曲がって肥大化した復讐の念が周囲に漏れまくって、まどかちゃんや他の幽炉達、そして元々の『鎌付き』のパイロット氏に悪影響を与えてきた訳だね。
《そして先日、私の腹の中の男が死んでな。それが切っ掛けで完全にこの輝甲兵の体で蘇る事が出来た、という訳だ》
…この人、意外と話し好きなのかな? このまま大人しく生徒役を演じていれば、知っている事を何でもかんでも教えてえくれそうな気もする。
まぁ、目の前のシマノビッチ博士が、自己顕示欲が人一倍強い人だって事は理解した。
そりゃ天才だもんね、褒め称えられたいよね。その気持ちはボクにも分かるよ。ボクも天才の端くれだからね、うん。
《しかし、この体になってみて、『人間』という器から色々と解き放たれた感じがするのは確かだな。『不老不死』とやらは考えた事も無かったが、この体ならば成し遂げられそうではあるな》
あらら、これは要らん事を教えてしまったかな?
言外に『もしそうなれば永遠に子供を殺し続けるられるぞ』という愉悦の意識が読み取れて軽い吐き気を覚える。
ボク自身結構他の人から「頭おかしい」とか「倫理観が壊れている」とか、子供の頃から言われてきたけど、悪い意味で『上には上が居る』って事を思い知った気がするよ。
「シマノビッチ博士って、米連で事件を起こして服役中だったんじゃないの? 何がどうしてこんな形に…? そもそもどうやって米連に逃げ込めたのさ?」
《愚問だぞ娘。私の能力を使えば、数人で運用している船の占拠など造作もない。米連での事件とやらも運が悪かっただけなのだ。あの少年の親が私の『食事中』に訪れさえしなければ、こんな事にはならなかったのだからな》
猟奇殺人を犯しておいて、さもそれがおやつのつまみ食いが見つかった程度にしか認識されていない。これがサイコパスってやつなのかなぁ?
《ソ大連の記録を調べると、私はどうやら20年近く殺人鬼として『展示』されていたらしい。いかにも『我が祖国』がやりそうな事だ》
シマノビッチ博士は楽しそうに言うが、全く笑えないよね。と言うか、話が唐突過ぎて意味が分からない。
《これは私の推測に過ぎないが、私が寝ている間に米連からソ大連に身柄の引き渡しが行われ、私は自分の知らぬ間に見世物にされ、その後幽炉にされていた。私を幽炉にしたのが何者かは分からぬが、今となってはどちらでも構わん》
「いくら凶悪犯でも、見世物とか酷いね…」
少し、ほんの少しだけ目の前の狂気の天才が不憫に思えた。
《なぁに、国家の偉大な指導者の遺体は特殊加工されて国民に展示される事がある。単にそれの亜流なだけだな。最終的に『幽炉の開発者を幽炉にする』、この出来の悪い洒落を考えた奴はさぞご満悦だったろうな》
今の連合法では『死刑』は廃止されている。でも死刑にするしかないような極悪人がこの世から居なくなる事は無い。
これはあくまで私見だけど、そんな時に「殺しはしないけど幽炉にしてしまう」というのは手段としてはアリなのかも知れない。
重犯罪者と言えども生きる為には空気と水と食料が必要だ。でももし幽炉にしてしまえば、その全てが不要になるばかりか、社会に有力な動力源として用いる事が出来る。
それが倫理的に正しいかどうかと言えば、かなりグレーな判定になると思うけどさ……。
相手が無期囚ならば、幽炉残量はゼロまで使い切っても誰も文句は言わないだろうし、「服役中に獄中で刑死した」と発表しても嘘では無いから問題も起こらない。
輝甲兵の開発初期には、犯罪者や重病人の魂を幽炉に使用する、という行為も行われていたらしいから、「社会にとって有害、或いは重荷となる人間を極めて効率的に排除できるシステム」として捉えられていた側面も否めない。
後年、縞原重工が開発したとされる『超時空精神感応システム』が実用化された事によって、幽炉並びに輝甲兵が量産され始めた訳だけど、それはそれで71くんやまどかちゃんの様な被害者を無数に生み出す結果になってしまった。
ちなみに『超時空精神感応システム』というのも縞原重工社内トップシークレット事項だ。ボクも装置の名前と『そういうのが在る』って事しか知らない。
このシステムを掌握できれば、71くん達の帰還も含めて様々な事が可能になる。
まぁ、これの仕組みを探ろうとしてボクは真柄ちゃんを仕掛け、それが見つかって逮捕された訳だけどね……。
改めて考えさせられるけど、幽炉ってどえらく業の深い存在だよね……。
「それで、これからどこへ行って何をするつもりなの? 貴方を幽炉にした人達は恐らく全員が既に亡くなっているよ?」
…………。
結構長い沈黙。あの饒舌なオジサンがここまで考え込むのも少し珍しい。
《そうだな… 今の私は幽炉だ。わたしと『まどか』、そして彼女に聞いたが更に『ミャーモト』とか言う奴も居るそうじゃないか。ならばこの広い世界にはもっと多くの覚醒した幽炉が居るかも知れない。そうだろう?》
「多分ね。世界中の輝甲兵の配備数、ピュアワン幽炉の確率、幽炉が覚醒する確率はまるで分からないから仮に1%としてザックリ計算しても、4大国全体で両手に余るくらいの覚醒幽炉が居る可能性があるね」
《…なるほどな。まぁ、我々を含めて覚醒幽炉が10名ほど居るとして、私は彼らにもきちんと人としての権利を与え、平和と安住の地と提供したいと考えているのだよ》
え…?
まさか凶悪な殺人鬼からそんな事を言われるとは予想だにしていなかったから、ボクも呆気にとられて動きが止まってしまった。
『幽炉にも人権を与え、人間と共存していく世界』それはボクの願っていた世界でもある。
「ぼ、ボクもそんな世界に…」
《その上で全人類を隷属化して使役してやろう。今よりも産児制限を緩めれば私の『楽しみ』の幅も増えるだろうて…》
うわぁ、やっぱりそんなオチがついたか……。この手のサイコパスおじさんは絶対に改心しないから、最終的には滅しないとダメなパターンだね。
《ん? ボクも何だって?》
「何でもないよ! その野望と今現在ちまちまと基地を襲っているのと、どういう関係があるのさ?」
『鎌付き』とまどかちゃんが出かけて行った後、ボクは『はまゆり』に1人残される事になる。そこで船の制御系とかを弄って、彼らを出し抜いたり… 出来る技術がある訳もなく、手持ち無沙汰で待っている事が多い。
彼らがどうやっているのかは分からないけれど、毎回たくさんの幽炉や船の燃料、ボク用の食料等を持ってくる。
でも、こんな海賊まがいの事をし続けても、いつかは捕捉されて撃破されるに決まっている。
《今までの行動は全て練習と検証だ。…まどか》
シマノビッチ博士がまどかちゃんを呼ぶ。まどかちゃんはボクやアンジェラちゃんがどんなに声を掛けてもずっと聞こえないふりをして無視していた。
まどかちゃんが香奈ちゃんを殺した話は聞いている。そして香奈ちゃんとまどかちゃんが、どれだけ仲良しだったかも知っている。
まどかちゃんは、ボクらに香奈ちゃんの件で責められると思い、心を閉してしまっているのかも知れない。
「悪いのは研究と称して面白半分にまどかちゃんを覚醒させたボクであって、まどかちゃんは巻き込まれただけで何も悪くないんだよ」
そう言って上げたいのだが、そこまでのコミュニケーションすら取れていなかった。
《…なに? うっぴー》
画面にまどかちゃんの物と思われる返答ログが現れる。まどかちゃんはシマノビッチ博士の事を『うっぴー』って呼んでいるんだね。まどかちゃんらしい可愛いネーミングだ。ボクも真似して『うっぴー』って呼んでみようかな…? 怒られそうだな……。
《遠隔操作のやり方は慣れたか? 現在幾つまで動かせるようになった?》
遠隔操作とか、何を言っているのかよく分からないけど、話に介入せずにこのまま見ていよう。その方が情報を集められそうな気がするよ。
《直接操作なら25か26体、数を減らせばもっと細かい動きも出来るよ。多分1体に集中すれば71より速く、正確に動かせると思う。計算上は、だけど…》
《なるほど。前に教えた条件で起動するやり方ならどうだ?》
《最終的に「反応」の操作は私がやらないとダメだけど、それ以外にただ数を置いて、近くに来た奴に抱きつくだけなら、多分1200は同時に出来ると思う》
まどかちゃんが他の輝甲兵を操って鈴代ちゃん達と戦ったのは、ボクもアンジェラちゃんから聞いている。
今の話を聞くに、シマノビッチ博士はまどかちゃんに輝甲兵部隊を指揮、いや操作させて何か軍事的な行動を取ろうとしているのだろう。
まどかちゃんも、少し学力が足りない系の女の子かと思っていたけど、いつの間にか具体的な数字を挙げて物が言える様になっていた。これは丙型の電算とまどかちゃんの思考がリンクしているからだろうな。
でもまどかちゃんは、こんな血の通わない、冷たい言葉を発する娘じゃなかったはずだ。そうなった原因がボクなのは分かるよ。だからこそ、何としてもまどかちゃんを元の明るい子に戻してあげたいと真剣に思う。
まどかちゃんの為にボクとアンジェラちゃんが出来る事って何だろう…?
『鎌付き』の幽炉交換をボイコット… しても、ボクが宇宙に捨てられて別の技術士が誘拐されてくるだけだろうしなぁ……。
何か打開策を考えないと、このままでは事態は悪い方へ悪い方へと流れていくのは目に見えている。
まぁとにかく、今になって彼らを放置するのは『極めて危険である』と認識したよ。「シマノビッチ博士の元で勉強したい」とか悠長な事を言っていられない状況だったんだね、これは……。
《そうか、まぁそれだけ出来れば上等だな。ではこれより我々は、米連の南米ブエノスアイレス上空にあるソウル&ブレイブス本社コロニーを占拠、要塞化して独立宣言を行う事にしよう。ふふふ、世界中がお祭り騒ぎになるぞ! 想像しただけでニッコリしてしまうな!》
想像しただけでゲッソリしてしまうよ……。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません
野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、
婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、
話の流れから婚約を解消という話にまでなった。
ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、
絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ゲームで第二の人生を!~最強?チート?ユニークスキル無双で【最強の相棒】と一緒にのんびりまったりハチャメチャライフ!?~
俊郎
SF
『カスタムパートナーオンライン』。それは、唯一無二の相棒を自分好みにカスタマイズしていく、発表時点で大いに期待が寄せられた最新VRMMOだった。
が、リリース直前に運営会社は倒産。ゲームは秘密裏に、とある研究機関へ譲渡された。
現実世界に嫌気がさした松永雅夫はこのゲームを利用した実験へ誘われ、第二の人生を歩むべく参加を決めた。
しかし、雅夫の相棒は予期しないものになった。
相棒になった謎の物体にタマと名付け、第二の人生を開始した雅夫を待っていたのは、怒涛のようなユニークスキル無双。
チートとしか言えないような相乗効果を生み出すユニークスキルのお陰でステータスは異常な数値を突破して、スキルの倍率もおかしなことに。
強くなれば将来は安泰だと、困惑しながらも楽しくまったり暮らしていくお話。
この作品は小説家になろう様、ツギクル様、ノベルアップ様でも公開しています。
大体1話2000~3000字くらいでぼちぼち更新していきます。
初めてのVRMMOものなので応援よろしくお願いします。
基本コメディです。
あまり難しく考えずお読みください。
Twitterです。
更新情報等呟くと思います。良ければフォロー等宜しくお願いします。
https://twitter.com/shiroutotoshiro?s=09
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
Night Sky
九十九光
SF
20XX年、世界人口の96%が超能力ユニゾンを持っている世界。この物語は、一人の少年が、笑顔、幸せを追求する物語。すべてのボカロPに感謝。モバスペBOOKとの二重投稿。
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる