【完結】異世界召喚されたらロボットの電池でした

ちありや

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第三章

追憶

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~まどか視点

 どうしてこんな事になっちゃったんだろう…?

 この世界に来てからそう思うのは何度目だろう? これからあと何回そう思うんだろう…?


 あーしは居間のソファで寝転がりながら、テレビの恋愛ドラマを見ていた。
 大して面白くもなかったし、主人公の女の真面目ぶった性格が合わなくて嫌いだった。

 でも見ておかないと友達との話題に乗れなかったし、さーちゃんなんていつも朝の挨拶が「まどか、昨日のドラマ見た?」から始まるんだよ。正直チョイウザ感じてた。

 でもまぁ、主人公の恋人役の男優が割とイケてて好みのタイプだったので、話は気にせずに男優さんの顔だけ見てたんだよね。

 んで、ついウトウトと寝落ちしてしまい、そこで変な夢を見た。

 夢の中ではちょっとデブったオバサンが似合ってないスーツで何かを説明していた。
 正直あの時の説明は何にも聞いていなかった。
 あーしは画面に映ったロボットをじっと見つめていた。

 あーしはひとりっ子だから、男の子向けのロボットアニメとか見た事が無い。だからロボットのデザインはぶっちゃけダサいと感じた。もっと可愛くすれば良いのにね。

 でもそのロボットの外側はキラキラと光ってて凄くキレイだったの。デコってるのとは少し違うけど、あーしの国語力では『デコってる』としか表現できないのが辛い。

 とにかくそのロボットがキラキラキレイで、あーしの心にググっと刺さった訳よ。どんなアクセやドレスよりも『あのロボットが欲しい』って思ったくらいに。

 オバサンは言った「巨大ロボットに乗ってみたくはありませんか?」と。

 あーしは「うん、いいよ!」と即答していた。
 あのキラキラロボットに乗って大空を飛び回れたら、どんなに楽しいだろう? と思いながら。

 そして真っ暗になって何も考えられなくなった。
 それからしばらく眠り続けていたらしい。

 一体何日眠っていたんだろう? 今の体に設置されてから、少なくとも2ヶ月かそれ以上はロボットの電池の中に居たらしい。
 設置されるまでの保管期間を考えたら更に何日? 何週間? 分からないくらい寝たまんまだった。

 元々のあーしの体ってどうなっちゃったのかな? ソファで寝たまま死んじゃった扱いになったかも知れない。

 さーちゃんと週末にららぽーとに遊びに行こうって約束もしてたけど、それどころじゃないよね。
 もう会えないのに、友達や両親にお別れも言えなかった……。


 そして目が覚めたら何も無い変な原っぱで、そこであーしをナンパしてきたのが『宮本 陽一みゃーもと』だった。

 それから色々あって、あーしは巨大ロボットの体になった。そして『仲村渠 香奈かなねー』と出会った。

 ずっとお姉ちゃんか妹が欲しいと思ってたから、かなねーに会えたのは凄く嬉しかった。

 かなねーはあーしを毎日連れ出して空を飛んでくれた。
 絶叫系の乗り物は元から好きだったけど、かなねーの飛行に比べたら、本当に子ども騙しだなって感じるくらい超スゴイ落下とかしてみせてくれた。
 
 …なんだか凄く昔に感じる。かなねーと仲良く空を飛んでいた頃からまだ何日も経っていないのに…。

 そう、あーしはかなねーを殺した。夏場の蚊くらいしか殺した事の無かったあーしが人を、それも大好きな人を殺した……。

 もちろんわざとやった訳じゃ無い。かなねーの事は大好きだったし、出来ることならずっと一緒に居たかった。

 でもあーしは、あの変な声に導かれるままにかなねーを『捨てた』んだ……。


 元々みんなが『虫』と呼ぶ物が、あーしには最初から虫に見えなかった。敵も味方も同じ形のロボットで、ロボット同士の戦いをやっていた。
 そのロボットの戦いの中で撃たれた人の『痛み』や『苦しみ』があーしに伝わってきたんだ。

 あーしは小さい頃から、そういう他の人と『共感』する部分があって、友達が喜んだり悲しんだりしている時は、本人と同じかそれ以上に、嬉しかったり悲しかったりな気持ちになって泣いたり笑ったりしていた。

「まどかは感受性が強いんだね」
 なんてよく言われた。あーしもそれだけの話だと思っていた。
 その頃は他人に共感しても、その場だけの感情で後に引きずることは無かった。

 でもロボットだとそれが消えないでずっと残る。それが重なって、他のロボットの苦しみの気持ちを受け取っているうちに、頭の片隅で『痛いよ』『苦しいよ』と助けを求めてくる声が聞こえる様になった。
 その声の集団に段々と頭が痛くなってきて耐えられなくなってきたんだ。

 そして、あの『鎌付き』とか言うゴツいロボットの叫びに、あーしの頭は耐えられなかった。

『倒せ!』とか『殺せ!』とか言う声を受けて、周りのロボットがみんな山びこが反響する様に「倒せ…」「殺せ…」と繰り返す。
 その声もまとめてあーしの中に入り込んでくる。

 あーしは泣き叫んだ。誰かにこの声を止めてもらいたかった。かなねーに助けて欲しかった……。
 あーしの中でかなねーが何かを言っているのは分かる。でもその時の頭がパンクしていたあーしには、かなねーの必死の説得も外国語の様な意味を成さない音声にしか聞こえなかった。

 そんなあーしに、唯一聞こえた意味のある言葉が
《そんな物は『せーの』で捨ててしまえ…》
 だった。

 そしてあーしは壊れた。

 大好きなはずのかなねーを、『せーの』で捨ててしまった。あんな事言いたく無かった、あんな事したくなかった。それなのに……。

 かなねーを切り離した途端、頭の中で渦巻く声がパタリと止み、頭痛が治まって視界が一斉に開けた感じがした。もの凄くスッキリした。世界が変わって見えたんだ。

 そして理解したことが2つ、1つはあーしの手足がロボットの手足として自由に動かせるようになっていた事、そしてもう1つはかなねーがもう居ない事だ……。

 かなねーは最後の最後まであーしを助けようとしてくれた。手を差し伸べてくれていた。
 そしてあーしはその手を無惨にも振り払ってしまった… 償いきれない大きな罪を犯してしまった。

 ショックを受けて動けないあーしに、またさっきの声が聞こえた。

《やぁ『人殺し』。どうせお互いもう娑婆には戻れない身分なんだ。私もようやく自由になれた… 私について来い。お前の力は役に立つようだ…》

 とても怪しいオジサンの声、でも何故か逆らえない強圧的な雰囲気を感じる。
『他人を使い慣れている』、いや違う『他人を始めから人とも思っていない』それでいて『世界の王であるかの様に自信に溢れている』そんな感じ。

《アンタが… アンタが余計な事を言ったから、かなねーが死んじゃったじゃないか!》

 そう抗議しようとした。でも気持ちが萎縮してしまって口が動かない。何も言い返せない。

《まずはあそこの輸送船を頂いて宇宙に出る。お前はその辺の『人型飛行戦車』を動かしてみろ。「こっちについて来て」ってな》

 …何を言っているのこのオヤジ? 意味分かんないんですけど?

《お前には隠された能力ちからがあって、その機体は力を増幅させる。私にも同じ力があってな、その使い方を教えてやろう、『他者を支配する力』をな。やってみろ…》

 …逆らえない。
 頭ではこのオジサンが悪い人だって分かっているのに、心が凍ったみたいに動けなくなっている。本能が屈服している。

《…みんな、あーしについて来て…》

 言うだけ言ってみる。どうせ何も起こりはしないのに……。

 !!

 目に見えない何かが繋がった感じがした。たくさんのロボットがあーしを通じて1つになった。
 そしてそのロボットの1つ1つをあーしはラジコンみたいに動かせるようになっていた。これは一体…?


《やはりな。素晴らしいぞお嬢さん。ではそれらを連れてついて来い。えぇと、名は何と言ったかな…?》

《…まどかだよ。オジサンは?》

《私か? そうだな… 『ウプィーリ』とでも名乗っておくかな。ゆっくり話している暇は無いぞ? 追手が来た》

 追手…? あ、あの背中に腕の生えた変な機体はみゃーもとだ。みゃーもとはメチャクチャ強い、かなねーからも聞いてるし、この目でも見た。
 もしかしてかなねーを殺したあーしを、みゃーもとは殺しに来たのかな…?

 確かにあーしは死刑になっても仕方ないロクデナシだろう。
 でも、でもイヤだ… 死ぬのはイヤだ。
 ワガママなのは分かっている。でも死にたくない!

 内なる気持ちに急かされる様に輸送船に乗り込む、あーしと『鎌付き』と、あと何となく反応が軽かった3体を中に入れた。

《私が輸送船をハックして掌握するまで時間を稼げ》

 その命令に呼応するかの様に、あーしは5体のロボットをみゃーもとに向ける。彼らの目を通してみゃーもとが見える。
 5つの画面を同時に見ても普通に対応できるのは、この円盤頭のロボットのお陰なのだろう。

 この5体のロボット達は武器を持っている。この武器を使ってあーしはみゃーもとと戦うの? 殺し合うの…? イヤだよ、武器なんて触った事もないのに……。

《あいつを撃ち落とせ…》

 オジサンの冷たい声が頭に響く。本当はそんな事やりたくない。でも何故かオジサンに逆らえないあーしは、言われるがままにロボットの武器を撃つ。

 感覚は本当にラジコンみたいだ。5人がかりで1人を囲んで止めれば勝ち、みたいなゲームに近い。

 でも、みゃーもとは本当に強かった。あっという間に3体のロボットを落とされて、残りの2体もバランスを崩して大きく下に落ちる。

 その隙にみゃーもとは輸送船に突撃、輸送船のエンジンの1つを破壊した。

 なんとかバランスを崩した2体を持ち直させたけど、たった2体でみゃーもとに勝てる訳がない。このままこの輸送船ごと爆発して死んでしまうのかも知れない。
 …でもヤダ。死にたくないよ……。

《1機を破壊されたブースターの代わりに使え。もう1機を『開放』して敵に組み付かせろ。その後で『反応』とイメージしろ》

 もう何が何だか分からない。でも言われた通りに体が、思考が勝手に動いてしまう。

『開放』、1体の動きが格段に速くなるのを感じた。そのままそいつをみゃーもとに抱きつかせる。

『反応』、抱きついた奴の体の中が熱を帯びる。それが一気に解き放たれてロボットが爆発しそうだ。
 抱きついて自爆させようとしてるって事? 随分怖い事をしようと… いや、させようとするんだね…。

 みゃーもとは背中の腕を使ってあーしのロボットを振り払う。自爆からは逃げられたみたいだ。
 あーしのロボットは眩しいくらいに光を強めて、やがてパッと消え失せた。

《うーむ、虚空ヴォイド現象には巻き込めなかったか。だがこの戦術は使えるな。お前は大した逸材だ…》

 オジサンは1人でブツブツ納得している。
 このオジサンは間違いなく悪い人だ。それに何か雰囲気がキモい。
 普段なら絶対に一緒に居たくないタイプの人だけど、今この船にはあーし達2人しか居ない。

 輸送船が大きな振動を起こしながら発進する。輸送船の壊れたエンジンを支えているあーしの最後のロボットの目から、呆然と立ち尽くすみゃーもとが見えた。

《時間が無い… 幽炉の補充を… どこかで技術士を確保して…》

 オジサンは1人でブツブツ独り言を言っている。マジキモい。でも今のあーしにはこの変なオジサンしか頼れる人が居ない。

 オジサンの名前は何て言ったっけ? 確かウプ… ウピ… なんだっけ?

《この進路で行くならまずは東亜連邦の… この辺りの基地は… 》

《ねぇ、うっぴー…》

《この娘の力を使って… ん?『うっぴー』って何だ?》

《オジサンの名前。なんか言いにくかったし可愛くなかったから、可愛い名前にしてあげたの》

《『ウプィーリ』だバカ者。チャラけた呼び方をするな》

《いいじゃん別に。で、これからどうするの…?》

《まずは宇宙で技術士を1人確保する。我々のメンテナンス要員としてな。その後は手勢を増やし、力を手に入れ、奴らに復讐してやるのだ。お前にも頑張って働いてもらうぞ、まどかとやら…》


 うっぴーによれば、あーしにはたくさんのロボットを意のままに支配出来る能力があるらしい。

 相手に『共感』する力は、相手に『共感』させる力にもなるとか何とか、説明がフワフワしててよく分からない。
 超能力的なものでは無くて、暗示や催眠術に近いテクニックだと言っていた。

 そしてうっぴーも同じ事が出来る。支配出来る相手の数はあーしよりも全然少ないけど、そのぶん密度が濃いって言うのかな? 心のより深い部分まで入り込んで、心を鷲掴みにして来るような怖い感じがある。

 うっぴーがあーしを『支配』する事で、あーしが操るロボット全体を支配出来る。そうする事でうっぴーは何かやりたい事があるらしい。

 あーしとしては正直これ以上関わりたく無いんだけど、どこにも逃げ場が無いし、自由になっても行く所が無い。今しばらくはうっぴーと一緒に行動するしか無いみたいだ。

 以前は『DV男に尽くす女とかバカじゃん』とか思ってた。『痛い思い、苦しい思いするなら逃げればいいじゃん』とか思ってた。

 でも自分がそうなってみて初めて分かる。
 体が、いや心が縮こまって動かなくなっちゃうんだね。
『支配』される事のとてつもない恐怖感、そして同時に絶対的な強者の側にいる、という大きな安心感もある。

 すごく変な感じ。
 やっぱりあーしの心は壊れちゃったんだろうな。
 なんかもう『それでもいーや』って気持ちになっている。
 どの道あーしには選択肢なんて無いんだから…。

 こうしてあーしの新しい旅が始まった。優しくしてくれた人達に、とても酷い事をして、謝る事すらも許されないまま、さーちゃんやお母さんに出来なかった様に、別れの挨拶をする暇も無くサヨナラする羽目になった。

 もう戻れない……。

 かなねーに会いたい……。

 みゃーもとに会いたい……。

 誰かに助けてほしい……。


 はぁ… どうしてこんな事になっちゃったんだろう…?

 そして、これからあと何回そう思うんだろう…?
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