50 / 55
50
しおりを挟む
◇
晩御飯を食べ終わりお風呂も済ませた春鈴を美羽蘭が自室へと呼んだ。
首をかしげながらも祖母の後についていく春鈴――そんな春鈴が美羽蘭の部屋で見たものは――
「私の稀布!」
春鈴の目の前には二反の布と、一着の外套がかけられていた。
きらめく白から淡い桃色に染まる色合いで、まるで内側から光を放っているかのように輝く布と、薄い青色から薄い紫色に変わっていく布でこちらは上品で落ち着いた輝きの布だった。
そして最後は紺色の布地にまるで星空のような輝きの入った外套で、裾や袖口、大きめの襟元には白い輝きを放つ糸で細かい刺繍が入っていた。
そんな沢山の稀布を前に、春鈴は瞳をこれでもかと輝かせていた。
「ふふふっ わたしゃあんまり色を変えるのは得意じゃないんだがねぇ……だが春鈴は好きだろう?」
「大好き! ……――あれ?」
春鈴は目の前の美しい稀布たちを見つめながら、かすかに感じる違和感に首を傾げる。
「どうしたい?」
「いや……ん……?」
春鈴は戸惑いながらも、しきりに首を傾げながら違和感の正体を探った。
(なんだ……? 稀布はすごく綺麗だし、キラッキラだし文句なんかない。 この刺繍だって私には絶対出来ないぐらい細かくて、ものすごく手も込んでる……――手が……込んでる……?)
「……なにか気に入らないのかい?」
美羽蘭は眉をひそめながらも少し不安そうに、首を傾げ続ける春鈴に声をかけた。
「……凄く可愛いんだけど――あのさ……?」
「なんだい?」
「――これ、数週間で作った?」
「……――ん?」
春鈴の問いかけに美羽蘭は顔色を隠すかのように頬に手を当てながら、少々わざとらしく聞き返した。
「いや……私へのご褒美で二反と外套……しかも刺繍付き――これ私が里に行ってる間に織ったってことでしょ?」
(そもそも行く前、ばっちゃは機織りなんてしてなかったし、だいたいうち布織り機は一台しかない。 ――その一台は私がずっと使ってて……)
「――なんだろうね……? 最近、物覚えが……」
春鈴の視線から逃れるように、美羽蘭はスーッとそしらぬ顔つきで視線を逸らした。
「――腰痛くなるんじゃなかったのー⁉︎」
ジタバタと駄々をこねるように足踏みしながら春鈴は祖母に抗議する。
「――いやー……耳もねぇ……?」
「ずっと嘘ついてたってことじゃん!」
「――ふん! こんな年寄りをこき使おううとするんじゃないよっ!」
「ずるぅー……」
ぶぅーっと、頬を目一杯膨らませながらジト目で美羽蘭を睨む春鈴。
「――そんなにムクれなさんな。 これからは頑張らせてもらうとも」
「ぇ……どういう……?」
「――これからはしっかり金になるんだろう?」
そう言ってニヤリと笑う祖母の瞳に、商売人としての本気を感じ取り春鈴はほほを引きつらせた。
「――さて明日から忙しくなるさね。なんたって二人分の糸を用意するところからだからね」
「! 明日から一緒に織るの⁉︎」
嬉しそうに聞き返す春鈴。
小さい頃は祖母の隣で同じ歌を歌いながら布を織る練習をしていた。
祖母の歌は心地よく、春鈴の歌すらも一段も二弾もうまくなったような気がした――そんな楽しかった記憶を覚えていたのだ。
「イヤかい?」
「――ううん! 楽しみっ!」
そう言うと春鈴は甘えるように抱きついた。
「まったく……まだまだ子供だねぇ……」
呆れたようにそう言いながらも、美羽蘭は春鈴の背中を叩きながら嬉しそうに微笑むのだった――
晩御飯を食べ終わりお風呂も済ませた春鈴を美羽蘭が自室へと呼んだ。
首をかしげながらも祖母の後についていく春鈴――そんな春鈴が美羽蘭の部屋で見たものは――
「私の稀布!」
春鈴の目の前には二反の布と、一着の外套がかけられていた。
きらめく白から淡い桃色に染まる色合いで、まるで内側から光を放っているかのように輝く布と、薄い青色から薄い紫色に変わっていく布でこちらは上品で落ち着いた輝きの布だった。
そして最後は紺色の布地にまるで星空のような輝きの入った外套で、裾や袖口、大きめの襟元には白い輝きを放つ糸で細かい刺繍が入っていた。
そんな沢山の稀布を前に、春鈴は瞳をこれでもかと輝かせていた。
「ふふふっ わたしゃあんまり色を変えるのは得意じゃないんだがねぇ……だが春鈴は好きだろう?」
「大好き! ……――あれ?」
春鈴は目の前の美しい稀布たちを見つめながら、かすかに感じる違和感に首を傾げる。
「どうしたい?」
「いや……ん……?」
春鈴は戸惑いながらも、しきりに首を傾げながら違和感の正体を探った。
(なんだ……? 稀布はすごく綺麗だし、キラッキラだし文句なんかない。 この刺繍だって私には絶対出来ないぐらい細かくて、ものすごく手も込んでる……――手が……込んでる……?)
「……なにか気に入らないのかい?」
美羽蘭は眉をひそめながらも少し不安そうに、首を傾げ続ける春鈴に声をかけた。
「……凄く可愛いんだけど――あのさ……?」
「なんだい?」
「――これ、数週間で作った?」
「……――ん?」
春鈴の問いかけに美羽蘭は顔色を隠すかのように頬に手を当てながら、少々わざとらしく聞き返した。
「いや……私へのご褒美で二反と外套……しかも刺繍付き――これ私が里に行ってる間に織ったってことでしょ?」
(そもそも行く前、ばっちゃは機織りなんてしてなかったし、だいたいうち布織り機は一台しかない。 ――その一台は私がずっと使ってて……)
「――なんだろうね……? 最近、物覚えが……」
春鈴の視線から逃れるように、美羽蘭はスーッとそしらぬ顔つきで視線を逸らした。
「――腰痛くなるんじゃなかったのー⁉︎」
ジタバタと駄々をこねるように足踏みしながら春鈴は祖母に抗議する。
「――いやー……耳もねぇ……?」
「ずっと嘘ついてたってことじゃん!」
「――ふん! こんな年寄りをこき使おううとするんじゃないよっ!」
「ずるぅー……」
ぶぅーっと、頬を目一杯膨らませながらジト目で美羽蘭を睨む春鈴。
「――そんなにムクれなさんな。 これからは頑張らせてもらうとも」
「ぇ……どういう……?」
「――これからはしっかり金になるんだろう?」
そう言ってニヤリと笑う祖母の瞳に、商売人としての本気を感じ取り春鈴はほほを引きつらせた。
「――さて明日から忙しくなるさね。なんたって二人分の糸を用意するところからだからね」
「! 明日から一緒に織るの⁉︎」
嬉しそうに聞き返す春鈴。
小さい頃は祖母の隣で同じ歌を歌いながら布を織る練習をしていた。
祖母の歌は心地よく、春鈴の歌すらも一段も二弾もうまくなったような気がした――そんな楽しかった記憶を覚えていたのだ。
「イヤかい?」
「――ううん! 楽しみっ!」
そう言うと春鈴は甘えるように抱きついた。
「まったく……まだまだ子供だねぇ……」
呆れたようにそう言いながらも、美羽蘭は春鈴の背中を叩きながら嬉しそうに微笑むのだった――
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~
白井
恋愛
イヴェット・オーダム男爵令嬢の幸せな結婚生活が始まる……はずだった。
父の死後、急に態度が変わった結婚相手にイヴェットは振り回されていた。
財産を食いつぶす義母、継いだ仕事を放棄して不貞を続ける夫。
それでも家族の形を維持しようと努力するイヴェットは、ついに殺されかける。
「もう我慢の限界。あなたたちにはこの家から出ていってもらいます」
覚悟を決めたら、なぜか騎士団長様が執着してきたけれど困ります!
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】元お飾り聖女はなぜか腹黒宰相様に溺愛されています!?
雨宮羽那
恋愛
元社畜聖女×笑顔の腹黒宰相のラブストーリー。
◇◇◇◇
名も無きお飾り聖女だった私は、過労で倒れたその日、思い出した。
自分が前世、疲れきった新卒社会人・花菱桔梗(はなびし ききょう)という日本人女性だったことに。
運良く婚約者の王子から婚約破棄を告げられたので、前世の教訓を活かし私は逃げることに決めました!
なのに、宰相閣下から求婚されて!? 何故か甘やかされているんですけど、何か裏があったりしますか!?
◇◇◇◇
お気に入り登録、エールありがとうございます♡
※ざまぁはゆっくりじわじわと進行します。
※「小説家になろう」「エブリスタ」様にも掲載しております(アルファポリス先行)。
※この作品はフィクションです。特定の政治思想を肯定または否定するものではありません(_ _*))
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる