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「……でも私はお嫁さんになって、ちゃんと幸せになりたいです……」
幸せになれないような結婚は論外だけど、結婚はしておきたいのだ……
みんな覚えてないかもしれないけど、私、現在お嬢様だからね?
つまり、このまま結婚しないでずっと独身を貫いていた場合、五十を超えたとしてもお嬢様って呼ばれなきゃいけないのよ⁉︎
……キツすぎる……
ーーまぁ、イルメラだったら、その前にご令嬢卒業してそうだけどー。
そんなことを考えつつ、唇を尖らせながら師匠に答える。
その様子が面白かったのか、唐揚げを頬張っていた兵士さんたちが、クツクツと口元を抑えながら笑っていた。
ーー確かにご令嬢がするには不適切な表情でしたわね……?
「ーー……ほらお前たち、あんまりゆっくりしすぎて上司らと鉢合わせしても知らねーぞ」
私と結婚の話について話し合っていたはずの師匠が、露骨に私から身体ごと逸らして、その兵士さんたちに向かって言う。
え、イルメラの結婚って、そんな露骨にスルーしたくなる話題なの⁉︎
……ものすごい勢いで、話題変えるじゃん……
「おっ? もうそんな時間か⁇」
「あ、今回からこの差し入れ、騎士団の人なら誰でも食べられることになったんだよね」
キョトキョトと、周りを見回して時間を確認しようとしている兵士たちに、そう声をかける。
「ーー誰でも⁉︎」
「やべぇ、サボりがバレちまうっ!」
サボってたんだ……?
兵士たちはそう叫ぶように言うと、すぐさま立ち上がる。
そして二人ともが、唐揚げを口の中に放り込み、両手にサンドイッチを持ってから、駆け足で部屋を出て行った。
「ーーもしかして騎士団で出してる討伐日のご飯って、ものすごく少ないんですか……?」
肉体労働の人にはたくさん食べさせてあげないと……
私の言葉に師匠は肩をすくめると、
ため息混じりに口を開いた。
「お嬢の作る料理ほど 美味くはねぇって事だ」
「ーーやだぁ、師匠ってばお上手ぅー!」
私は師匠の言葉に機嫌を良くすると、クネクネと身体をくねらせながら師匠の腕をペシペシと叩いた。
ーー私は作ってないけど、作り方やレシピを教えたのは私だし、そもそも毎回「作ってくださいね」ってお願いしてるんだからなんだから、大きな括りで、私が作った料理だよ!
「ーーおべっかってわけじゃ無かったんだがな……?」
ついでに困ったような師匠の呟きまで、バッチリ聞こえて、私の頬はさらに緩んだのだった。
◇
お昼もすぎて、そろそろ怪我人も増え出す時間に差し掛かった頃。
サッとテントの入り口が開けられて、1人の強面の兵士がテントの中に入ってきた。
「お嬢……治癒をしてもらえんだろうか……」
ーー1人でここまで来られて、転んだような汚れも無く、調子が悪いそぶりもない……ーー加えて、どこかいたたまれないような雰囲気で私をご指名ってことは……あちらのお客様かなー?
「こちらへどうぞー」
私は兵士にそう声をかけると、テントの中、衝立と布で区切られた施術所の1つに入っていく。
ーー多分これ、厳密にいうと貴族令嬢にはご法度の“殿方と2人きり”に引っかかるっぽくって、私の中のイルメラちゃんがとっても嫌がってるのを感じるんだけど……
ーー大丈夫だよ。 ここにはそんなイジワル言って足を引っ張るような人、居ないからさ。
「本日はどうされましたかー?」
向かい合って椅子に座り合い、お決まりの質問を口にする。
明らか怪我してる人とかには言わないけどね。
「……疲労回復と……その……」
私の質問にキョドキョドと、せわしなく視線を泳がせつつ口ごもる兵士。
「ーー冬でも暖かく?」
私は自分のおでこ辺りを指差しながら言葉を濁しつつ質問を重ねた。
「そ、そちらを頼む……」
強面の兵士は少し頬を赤らめると、小さく頷きながらボソボソと答えた。
「了解でーす」
そう言いながら兵士の手を取ると、素早く回復魔法をかけていく。
頭皮を入念に回復させることはもちろんのこと、肩や腰、腕に腹筋もついでに回復させていく。
ーー念のため、もう一回頭皮の回復入れとこ……
頑張れ毛根! 負けるな頭皮‼︎ 目指せーフッサフサーッ‼︎
「ーーすまんな」
「こんなのどうってことありませんよ。 ……お名前は言えませんけど、他にもたくさん来ていらっしゃいますしーー」
私はそこで言葉を切ると、内緒話をするように兵士の方に身を乗り出して声をひそめた。
「ーー師匠なんか、練習だって言って毎日回復魔法かけさせるんですよ? 絶対マッサージ代わりにしてると思います……」
その言葉を聞いた兵士はプッと小さく吹き出すと、ニヤリと笑って口を開く。
「そうか。 ……そう言ってもらえると心が軽くなる」
「あ、それと、今日の差し入れから、きちんと予算が下りることになったんで、しっかり食べて行ってくださいね!」
「ほう! それはいいことを聞いた」
強面の兵士は、にこりと笑ってもやっぱり強面だったが、どこかスッキリしているように見えた。
ーー私の回復魔法が今日もいい仕事をしてしまったゼ……
幸せになれないような結婚は論外だけど、結婚はしておきたいのだ……
みんな覚えてないかもしれないけど、私、現在お嬢様だからね?
つまり、このまま結婚しないでずっと独身を貫いていた場合、五十を超えたとしてもお嬢様って呼ばれなきゃいけないのよ⁉︎
……キツすぎる……
ーーまぁ、イルメラだったら、その前にご令嬢卒業してそうだけどー。
そんなことを考えつつ、唇を尖らせながら師匠に答える。
その様子が面白かったのか、唐揚げを頬張っていた兵士さんたちが、クツクツと口元を抑えながら笑っていた。
ーー確かにご令嬢がするには不適切な表情でしたわね……?
「ーー……ほらお前たち、あんまりゆっくりしすぎて上司らと鉢合わせしても知らねーぞ」
私と結婚の話について話し合っていたはずの師匠が、露骨に私から身体ごと逸らして、その兵士さんたちに向かって言う。
え、イルメラの結婚って、そんな露骨にスルーしたくなる話題なの⁉︎
……ものすごい勢いで、話題変えるじゃん……
「おっ? もうそんな時間か⁇」
「あ、今回からこの差し入れ、騎士団の人なら誰でも食べられることになったんだよね」
キョトキョトと、周りを見回して時間を確認しようとしている兵士たちに、そう声をかける。
「ーー誰でも⁉︎」
「やべぇ、サボりがバレちまうっ!」
サボってたんだ……?
兵士たちはそう叫ぶように言うと、すぐさま立ち上がる。
そして二人ともが、唐揚げを口の中に放り込み、両手にサンドイッチを持ってから、駆け足で部屋を出て行った。
「ーーもしかして騎士団で出してる討伐日のご飯って、ものすごく少ないんですか……?」
肉体労働の人にはたくさん食べさせてあげないと……
私の言葉に師匠は肩をすくめると、
ため息混じりに口を開いた。
「お嬢の作る料理ほど 美味くはねぇって事だ」
「ーーやだぁ、師匠ってばお上手ぅー!」
私は師匠の言葉に機嫌を良くすると、クネクネと身体をくねらせながら師匠の腕をペシペシと叩いた。
ーー私は作ってないけど、作り方やレシピを教えたのは私だし、そもそも毎回「作ってくださいね」ってお願いしてるんだからなんだから、大きな括りで、私が作った料理だよ!
「ーーおべっかってわけじゃ無かったんだがな……?」
ついでに困ったような師匠の呟きまで、バッチリ聞こえて、私の頬はさらに緩んだのだった。
◇
お昼もすぎて、そろそろ怪我人も増え出す時間に差し掛かった頃。
サッとテントの入り口が開けられて、1人の強面の兵士がテントの中に入ってきた。
「お嬢……治癒をしてもらえんだろうか……」
ーー1人でここまで来られて、転んだような汚れも無く、調子が悪いそぶりもない……ーー加えて、どこかいたたまれないような雰囲気で私をご指名ってことは……あちらのお客様かなー?
「こちらへどうぞー」
私は兵士にそう声をかけると、テントの中、衝立と布で区切られた施術所の1つに入っていく。
ーー多分これ、厳密にいうと貴族令嬢にはご法度の“殿方と2人きり”に引っかかるっぽくって、私の中のイルメラちゃんがとっても嫌がってるのを感じるんだけど……
ーー大丈夫だよ。 ここにはそんなイジワル言って足を引っ張るような人、居ないからさ。
「本日はどうされましたかー?」
向かい合って椅子に座り合い、お決まりの質問を口にする。
明らか怪我してる人とかには言わないけどね。
「……疲労回復と……その……」
私の質問にキョドキョドと、せわしなく視線を泳がせつつ口ごもる兵士。
「ーー冬でも暖かく?」
私は自分のおでこ辺りを指差しながら言葉を濁しつつ質問を重ねた。
「そ、そちらを頼む……」
強面の兵士は少し頬を赤らめると、小さく頷きながらボソボソと答えた。
「了解でーす」
そう言いながら兵士の手を取ると、素早く回復魔法をかけていく。
頭皮を入念に回復させることはもちろんのこと、肩や腰、腕に腹筋もついでに回復させていく。
ーー念のため、もう一回頭皮の回復入れとこ……
頑張れ毛根! 負けるな頭皮‼︎ 目指せーフッサフサーッ‼︎
「ーーすまんな」
「こんなのどうってことありませんよ。 ……お名前は言えませんけど、他にもたくさん来ていらっしゃいますしーー」
私はそこで言葉を切ると、内緒話をするように兵士の方に身を乗り出して声をひそめた。
「ーー師匠なんか、練習だって言って毎日回復魔法かけさせるんですよ? 絶対マッサージ代わりにしてると思います……」
その言葉を聞いた兵士はプッと小さく吹き出すと、ニヤリと笑って口を開く。
「そうか。 ……そう言ってもらえると心が軽くなる」
「あ、それと、今日の差し入れから、きちんと予算が下りることになったんで、しっかり食べて行ってくださいね!」
「ほう! それはいいことを聞いた」
強面の兵士は、にこりと笑ってもやっぱり強面だったが、どこかスッキリしているように見えた。
ーー私の回復魔法が今日もいい仕事をしてしまったゼ……
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