上 下
13 / 48

13

しおりを挟む
「ーー明日は討伐日ですか……」

 手渡したメモがわりの羊皮紙に視線を落としたジーノさんは、微かに眉間に皺を寄せながら、小さく呟いた。
 ジーノさんは私を心配してくれていて、安全が確保されている場所で治癒するだけだと何度説明しても「それでも危険です」と言って、私が討伐隊に加わることにいい顔をしない。

「はい……なのでお弁当を多めに作って下さい」

 私は渋い顔をしているジーノさんに苦笑いを浮かべつつそう答えた。

 この討伐日というのは、ここバジーレ領に隣接している、ソラナス大森林と呼ばれる大きな森にいる魔物を討伐する日の事だ。

 ここまでが自分たちの領土なのだから、これより先に入ってくるなという、警告だ。
 つまりは、魔物と人間の縄張り争いをしているというわけだ。
 それに、定期的に森に入り、魔物を間引いていかないと、繁殖力の強い魔物が大量発生してしまう危険があるんだそうだ。
 ーーさらに言うならば、魔物にだって生態系がある。
 その大繁殖した魔物をエサとする魔物がいれば、その豊富な食料につられてーーと魔物がどんどん増えていく計算になってしまうということだ。
 だからこの討伐日は、この地を守るにあたりとっても重要な任務なのだがーー

「十分にお気をつけを……」

 渋い顔のまま面白くなさそうに言ったジーノさんに、私は申し訳なく思うと同時に、少しでも安心してもらおうと、明るい声で説明する。

「もちろんです! 今回も護衛騎士の方々に付いてもらうので心配入りませんよ」

 治癒師に護衛騎士が付くなんて、特例もいいところだけど、イルメラってば、再起不能とはいえ、いまだに侯爵令嬢だからね。
 他領でケガなんてしちゃうと、めんどくさい事態にしかならないんだよねー。

 ……私が行かないと、差し入れのだし巻き卵がなくなって、パウロ爺のご機嫌が悪くなっちゃうしねー……

「そのようなことは、当然でございます!  ーー多くの令嬢は自分の預かり知らぬことと、知らぬ存ぜぬを決め込むと言うのに……」

 いいえ、人前で魔法を使うと周りから白い目で見られるから使わないってだけかと……

「ーーどう、なんですかね? もしかしたら私みたいに大っぴらに、ではなくても、こっそり力を貸している方もいたりして……?」

 どこかには、私みたいに魔法使ってみたい勢がいるんじゃない?

 大体、私が参加しているのだって、力を貸して欲しい! っていうよりは、美味しいご飯が食べたい! って本音が見え隠れしていると思うよ……?

 これから先、ご飯の問題が解決したら「お前連れてくと、めんどいから、留守番で」って言われるような気がしてならない……

「ーーなんと……なんと謙虚なっ ご立派でございます、お嬢様っ!」
「えええ……?」

 今のは、同志がいたら嬉しいのにな、っていう、私利私欲の呟きでしたが……謙遜に聞こえました……?

 ーー……まぁ?
 正直なところ、悪い気はしないんですけどね⁇
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。

屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。) 私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。 婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。 レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。 一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。 話が弾み、つい地がでそうになるが…。 そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。 朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。 そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。 レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。 ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。 第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

リリィ=ブランシュはスローライフを満喫したい!~追放された悪役令嬢ですが、なぜか皇太子の胃袋をつかんでしまったようです~

汐埼ゆたか
恋愛
伯爵令嬢に転生したリリィ=ブランシュは第四王子の許嫁だったが、悪女の汚名を着せられて辺境へ追放された。 ――というのは表向きの話。 婚約破棄大成功! 追放万歳!!  辺境の地で、前世からの夢だったスローライフに胸躍らせるリリィに、新たな出会いが待っていた。 ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ リリィ=ブランシュ・ル・ベルナール(19) 第四王子の元許嫁で転生者。 悪女のうわさを流されて、王都から去る   × アル(24) 街でリリィを助けてくれたなぞの剣士 三食おやつ付きで臨時護衛を引き受ける ▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃┄▸◂┄▹◃ 「さすが稀代の悪女様だな」 「手玉に取ってもらおうか」 「お手並み拝見だな」 「あのうわさが本物だとしたら、アルはどうしますか?」 ********** ※他サイトからの転載。 ※表紙はイラストAC様からお借りした画像を加工しております。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【1/1取り下げ予定】本当の妹だと言われても、お義兄様は渡したくありません!

gacchi
恋愛
事情があって公爵家に養女として引き取られたシルフィーネ。生まれが子爵家ということで見下されることも多いが、公爵家には優しく迎え入れられている。特に義兄のジルバードがいるから公爵令嬢にふさわしくなろうと頑張ってこれた。学園に入学する日、お義兄様と一緒に馬車から降りると、実の妹だというミーナがあらわれた。「初めまして!お兄様!」その日からジルバードに大事にされるのは本当の妹の私のはずだ、どうして私の邪魔をするのと、何もしていないのにミーナに責められることになるのだが…。電子書籍化のため、1/1取り下げ予定です。

処理中です...