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「ーー明日は討伐日ですか……」
手渡したメモがわりの羊皮紙に視線を落としたジーノさんは、微かに眉間に皺を寄せながら、小さく呟いた。
ジーノさんは私を心配してくれていて、安全が確保されている場所で治癒するだけだと何度説明しても「それでも危険です」と言って、私が討伐隊に加わることにいい顔をしない。
「はい……なのでお弁当を多めに作って下さい」
私は渋い顔をしているジーノさんに苦笑いを浮かべつつそう答えた。
この討伐日というのは、ここバジーレ領に隣接している、ソラナス大森林と呼ばれる大きな森にいる魔物を討伐する日の事だ。
ここまでが自分たちの領土なのだから、これより先に入ってくるなという、警告だ。
つまりは、魔物と人間の縄張り争いをしているというわけだ。
それに、定期的に森に入り、魔物を間引いていかないと、繁殖力の強い魔物が大量発生してしまう危険があるんだそうだ。
ーーさらに言うならば、魔物にだって生態系がある。
その大繁殖した魔物をエサとする魔物がいれば、その豊富な食料につられてーーと魔物がどんどん増えていく計算になってしまうということだ。
だからこの討伐日は、この地を守るにあたりとっても重要な任務なのだがーー
「十分にお気をつけを……」
渋い顔のまま面白くなさそうに言ったジーノさんに、私は申し訳なく思うと同時に、少しでも安心してもらおうと、明るい声で説明する。
「もちろんです! 今回も護衛騎士の方々に付いてもらうので心配入りませんよ」
治癒師に護衛騎士が付くなんて、特例もいいところだけど、イルメラってば、再起不能とはいえ、いまだに侯爵令嬢だからね。
他領でケガなんてしちゃうと、めんどくさい事態にしかならないんだよねー。
……私が行かないと、差し入れのだし巻き卵がなくなって、パウロ爺のご機嫌が悪くなっちゃうしねー……
「そのようなことは、当然でございます! ーー多くの令嬢は自分の預かり知らぬことと、知らぬ存ぜぬを決め込むと言うのに……」
いいえ、人前で魔法を使うと周りから白い目で見られるから使わないってだけかと……
「ーーどう、なんですかね? もしかしたら私みたいに大っぴらに、ではなくても、こっそり力を貸している方もいたりして……?」
どこかには、私みたいに魔法使ってみたい勢がいるんじゃない?
大体、私が参加しているのだって、力を貸して欲しい! っていうよりは、美味しいご飯が食べたい! って本音が見え隠れしていると思うよ……?
これから先、ご飯の問題が解決したら「お前連れてくと、めんどいから、留守番で」って言われるような気がしてならない……
「ーーなんと……なんと謙虚なっ ご立派でございます、お嬢様っ!」
「えええ……?」
今のは、同志がいたら嬉しいのにな、っていう、私利私欲の呟きでしたが……謙遜に聞こえました……?
ーー……まぁ?
正直なところ、悪い気はしないんですけどね⁇
手渡したメモがわりの羊皮紙に視線を落としたジーノさんは、微かに眉間に皺を寄せながら、小さく呟いた。
ジーノさんは私を心配してくれていて、安全が確保されている場所で治癒するだけだと何度説明しても「それでも危険です」と言って、私が討伐隊に加わることにいい顔をしない。
「はい……なのでお弁当を多めに作って下さい」
私は渋い顔をしているジーノさんに苦笑いを浮かべつつそう答えた。
この討伐日というのは、ここバジーレ領に隣接している、ソラナス大森林と呼ばれる大きな森にいる魔物を討伐する日の事だ。
ここまでが自分たちの領土なのだから、これより先に入ってくるなという、警告だ。
つまりは、魔物と人間の縄張り争いをしているというわけだ。
それに、定期的に森に入り、魔物を間引いていかないと、繁殖力の強い魔物が大量発生してしまう危険があるんだそうだ。
ーーさらに言うならば、魔物にだって生態系がある。
その大繁殖した魔物をエサとする魔物がいれば、その豊富な食料につられてーーと魔物がどんどん増えていく計算になってしまうということだ。
だからこの討伐日は、この地を守るにあたりとっても重要な任務なのだがーー
「十分にお気をつけを……」
渋い顔のまま面白くなさそうに言ったジーノさんに、私は申し訳なく思うと同時に、少しでも安心してもらおうと、明るい声で説明する。
「もちろんです! 今回も護衛騎士の方々に付いてもらうので心配入りませんよ」
治癒師に護衛騎士が付くなんて、特例もいいところだけど、イルメラってば、再起不能とはいえ、いまだに侯爵令嬢だからね。
他領でケガなんてしちゃうと、めんどくさい事態にしかならないんだよねー。
……私が行かないと、差し入れのだし巻き卵がなくなって、パウロ爺のご機嫌が悪くなっちゃうしねー……
「そのようなことは、当然でございます! ーー多くの令嬢は自分の預かり知らぬことと、知らぬ存ぜぬを決め込むと言うのに……」
いいえ、人前で魔法を使うと周りから白い目で見られるから使わないってだけかと……
「ーーどう、なんですかね? もしかしたら私みたいに大っぴらに、ではなくても、こっそり力を貸している方もいたりして……?」
どこかには、私みたいに魔法使ってみたい勢がいるんじゃない?
大体、私が参加しているのだって、力を貸して欲しい! っていうよりは、美味しいご飯が食べたい! って本音が見え隠れしていると思うよ……?
これから先、ご飯の問題が解決したら「お前連れてくと、めんどいから、留守番で」って言われるような気がしてならない……
「ーーなんと……なんと謙虚なっ ご立派でございます、お嬢様っ!」
「えええ……?」
今のは、同志がいたら嬉しいのにな、っていう、私利私欲の呟きでしたが……謙遜に聞こえました……?
ーー……まぁ?
正直なところ、悪い気はしないんですけどね⁇
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