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「そろそろお手を……」
馬車から見える景色が、見慣れた街並みに代わり、お屋敷に近づいてきた所で、私はいつものようにエド様に声をかけつつ手を伸ばした。
「いつもすまない」
「いえいえ」
そう答えつつ、私の方へと伸ばされたエド様の手をとって、丁寧に回復魔法をかけていった。
ーー血液が身体の隅々まで循環するように……筋肉のコリをほぐすして、老廃物は体の外に押し出すイメージ……
あと、毛根くんは元気でね? 活発に‼︎
お顔のシワもピンっと貼りますように……特に眉間! クマも消えますように……
「ーー……楽になった」
「良かったです」
よしっ! 今日もまたエド様のイケメン度を高めてしまったゼ……
「ーーではまた明日」
馬車から降りて、玄関先までエスコートしてもらうと、いつものようにエド様が軽く頭を下げた。
領主様なんだから、別に私ごときに頭なんか下げなくったって……とも思うけど、これはエスコートした女性に対する敬意だからやらないのはマナー違反。
ーー本当に貴族の決まり事やマナーってめんどくさいよねー。
「送ってくださりありがたく存じます」
「……ーーこれからも討伐の度に料理を?」
いつものやり取りを終えて、帰りかけていたエド様だったが、ふと気がついたように振り返ってたずねた。
「……おそらくは? 私も皆が喜んでくれると嬉しいですし」
「ーーではあとで、経理に精算を申し出てくれ」
「えっ⁉︎ ……でもあれは私のお弁当 兼、治癒師たちへの差し入れですよ?」
そんなん経費で落としてたら破産しちゃうよ⁉︎
「ーー最近ではパオロ翁たちだけでなく、我が騎士団の兵士たちも食べに行っていると聞いたが?」
「あー…… まあ、味見程度は⁇」
「……そうなればもはや個人の差し入れをの域を超えているだろう。 きちんとすべきだ」
ーー……これはー……
完全に私のせいだな……?
私がさっき、生活がカツカツだー! とか言っちゃったからでしょ?
うわー……完全に気を使われるじゃーん……
これはーー……悪いこと言ってしまったなぁ……
「あー……ええと……ーーでは、そうなったら、エド様のお好きな物作って行きますね!」
「……私の?」
「はいっ! セストさんがこの間ぼやいてましたよ? 「エド様は忙しいと、すーぐご飯を抜いちゃうんですよー」って。 騎士団の予算を割いて下さるなら、たーくさん作りますからエド様も絶対食べにきてくださいね⁇」
この辺りじゃ見慣れない料理で最初はびっくりしちゃうかもしれないけど、食べてみたら、皆気に入ってくれるんですよ!
騙されたと思って、一回食べてみましょ!
「う、うむ……」
……あれれ?
なんだかエド様、ものすごい気まずそう?
いや、恥ずかしそう⁇
そういえば、師匠がだし巻き卵の話出した時も、変な反応見せてたけど……ーーこれはまさかの……?
「ーーもしかして」
「な、なんだ……?」
私の言葉に、ギクリと顔がこわばるエド様。
……はっはーん?
これはやっぱりーー
「エド様、好き嫌いが激しいんですね?」
「ーー違う」
えー……そんな一気にスン……って表情を消さなくったって……
「……違うなら食べに来てくださいよー。 ……自分で言うのもなんですけど、結構好評なんですよ?」
「ーーその話は私も耳にしている。 ーー……そこまでいうのならば……その……甘めの卵焼きとやらを……リクエストしてもいいだろうか……?」
「甘めの……」
「ーーダメか?」
私の言葉に、ショボ……と見えるはずのない耳を伏せたエド様に、私は何も考えず「ダメじゃないです!」と答えていた。
いいじゃん別に! だし巻き卵と甘い卵焼き持っていったって‼︎
私、どっちも好きだよ!
それに最近、師匠のリクエストでだし巻き卵ばっかりだったし、卵焼きは甘い派のためにも今回は二種類持っていこう!
そうしよう‼︎
「そ、そうか……?」
ツン、と澄まし顔をしつつも、どこか嬉しそうに答えたエド様に、私の頬がだらしなく緩むのを感じた。
「たくさん作って行きますね!」
「ーー楽しみにしてる」
そう言ったエド様はふわりと笑うと、キュッと表情を引き締め、私に軽く礼をしてから、踵を返し馬車へと戻って行ったのだった。
ーーっくうぅぅっ‼︎
イケメンのふんわり笑顔っ‼︎
ごちそうさまですっ‼︎
綺麗属性、カッコいい属性だけじゃなく、可愛い属性まで持ってるとかエド様最高かよっ‼︎
「ーーイルメラお嬢様……?」
「はっ⁉︎ ーー……いっ今、戻りましたわ?」
気がつくと、いつの間にか私の隣には出迎えに出てくれたジーノさんが立っていた。
ーーこれ、最初から居たんだろうなぁ……
ジーノさん、いっつも馬車が門を越えたぐらいでお出迎えしてくれてるもんなぁ……
「……お帰りなさいませ」
いつも優しいはずのジーノさんのその言葉には、何やら含むところがあったような気がしてなりませんでした……
馬車から見える景色が、見慣れた街並みに代わり、お屋敷に近づいてきた所で、私はいつものようにエド様に声をかけつつ手を伸ばした。
「いつもすまない」
「いえいえ」
そう答えつつ、私の方へと伸ばされたエド様の手をとって、丁寧に回復魔法をかけていった。
ーー血液が身体の隅々まで循環するように……筋肉のコリをほぐすして、老廃物は体の外に押し出すイメージ……
あと、毛根くんは元気でね? 活発に‼︎
お顔のシワもピンっと貼りますように……特に眉間! クマも消えますように……
「ーー……楽になった」
「良かったです」
よしっ! 今日もまたエド様のイケメン度を高めてしまったゼ……
「ーーではまた明日」
馬車から降りて、玄関先までエスコートしてもらうと、いつものようにエド様が軽く頭を下げた。
領主様なんだから、別に私ごときに頭なんか下げなくったって……とも思うけど、これはエスコートした女性に対する敬意だからやらないのはマナー違反。
ーー本当に貴族の決まり事やマナーってめんどくさいよねー。
「送ってくださりありがたく存じます」
「……ーーこれからも討伐の度に料理を?」
いつものやり取りを終えて、帰りかけていたエド様だったが、ふと気がついたように振り返ってたずねた。
「……おそらくは? 私も皆が喜んでくれると嬉しいですし」
「ーーではあとで、経理に精算を申し出てくれ」
「えっ⁉︎ ……でもあれは私のお弁当 兼、治癒師たちへの差し入れですよ?」
そんなん経費で落としてたら破産しちゃうよ⁉︎
「ーー最近ではパオロ翁たちだけでなく、我が騎士団の兵士たちも食べに行っていると聞いたが?」
「あー…… まあ、味見程度は⁇」
「……そうなればもはや個人の差し入れをの域を超えているだろう。 きちんとすべきだ」
ーー……これはー……
完全に私のせいだな……?
私がさっき、生活がカツカツだー! とか言っちゃったからでしょ?
うわー……完全に気を使われるじゃーん……
これはーー……悪いこと言ってしまったなぁ……
「あー……ええと……ーーでは、そうなったら、エド様のお好きな物作って行きますね!」
「……私の?」
「はいっ! セストさんがこの間ぼやいてましたよ? 「エド様は忙しいと、すーぐご飯を抜いちゃうんですよー」って。 騎士団の予算を割いて下さるなら、たーくさん作りますからエド様も絶対食べにきてくださいね⁇」
この辺りじゃ見慣れない料理で最初はびっくりしちゃうかもしれないけど、食べてみたら、皆気に入ってくれるんですよ!
騙されたと思って、一回食べてみましょ!
「う、うむ……」
……あれれ?
なんだかエド様、ものすごい気まずそう?
いや、恥ずかしそう⁇
そういえば、師匠がだし巻き卵の話出した時も、変な反応見せてたけど……ーーこれはまさかの……?
「ーーもしかして」
「な、なんだ……?」
私の言葉に、ギクリと顔がこわばるエド様。
……はっはーん?
これはやっぱりーー
「エド様、好き嫌いが激しいんですね?」
「ーー違う」
えー……そんな一気にスン……って表情を消さなくったって……
「……違うなら食べに来てくださいよー。 ……自分で言うのもなんですけど、結構好評なんですよ?」
「ーーその話は私も耳にしている。 ーー……そこまでいうのならば……その……甘めの卵焼きとやらを……リクエストしてもいいだろうか……?」
「甘めの……」
「ーーダメか?」
私の言葉に、ショボ……と見えるはずのない耳を伏せたエド様に、私は何も考えず「ダメじゃないです!」と答えていた。
いいじゃん別に! だし巻き卵と甘い卵焼き持っていったって‼︎
私、どっちも好きだよ!
それに最近、師匠のリクエストでだし巻き卵ばっかりだったし、卵焼きは甘い派のためにも今回は二種類持っていこう!
そうしよう‼︎
「そ、そうか……?」
ツン、と澄まし顔をしつつも、どこか嬉しそうに答えたエド様に、私の頬がだらしなく緩むのを感じた。
「たくさん作って行きますね!」
「ーー楽しみにしてる」
そう言ったエド様はふわりと笑うと、キュッと表情を引き締め、私に軽く礼をしてから、踵を返し馬車へと戻って行ったのだった。
ーーっくうぅぅっ‼︎
イケメンのふんわり笑顔っ‼︎
ごちそうさまですっ‼︎
綺麗属性、カッコいい属性だけじゃなく、可愛い属性まで持ってるとかエド様最高かよっ‼︎
「ーーイルメラお嬢様……?」
「はっ⁉︎ ーー……いっ今、戻りましたわ?」
気がつくと、いつの間にか私の隣には出迎えに出てくれたジーノさんが立っていた。
ーーこれ、最初から居たんだろうなぁ……
ジーノさん、いっつも馬車が門を越えたぐらいでお出迎えしてくれてるもんなぁ……
「……お帰りなさいませ」
いつも優しいはずのジーノさんのその言葉には、何やら含むところがあったような気がしてなりませんでした……
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