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「……え?」

 まさかそんな反応が帰ってくるとは思わず、頭を上げて首を傾げる私。

 しばらくそのまま無言で見つめ合っていると、「では明日からお願いできますかぁ?」と、伯爵の後ろの方にひっそりとたたずんでいた、バレージ家の執事が愛想よくニコニコと笑いながら、私たちの会話に加わった。

  明日からかぁ……引っ越しの荷物ーー……いや、イルメラの荷物そこまで多くないし……正直、私がいなくても平気だろうし……ーーヒマしてるより魔法使いたい!

「分かりましたーーあっ⁉︎」

 答えた瞬間に、肝心なことを聞いていないことに気が付き、淑女らしからぬ声が私の口から飛び出した。

「ーー何かございましたか?」

 そんな私の態度に、ピクリと少しの反応を見せつつも、笑顔を崩さずに執事がにこやかにたずねてくる。

「あの…………」

 私は伯爵や執事をチラチラと見つめつつ、モゴモゴと言葉を濁す。
 ……本当はご令嬢がこういう場で、お金のこととか口にするのは、大変よろしくないんだけど……今のイルメラには代わりに聞いてくれる侍女も使用人もいない……ーーつまりは自分で聞くしかないわけで……
 気がついてほしいなぁ……と、チラチラと伯爵たちを見つめてみるけど、二人とも首を傾げるばかりで、気がついてくれる様子はない……
 ーーこれ私が聞くしか無いやつや……

「その……わたくしのお給料とか……? あ、見習いって扱いですか? ーーそうしますと……無給ってこと、なんですかね?」

 チラチラと二人の反応をうかがいつつ、モジモジと指を動かしながらたずねる。

「ーー……では、月50Gでは?」

 私の言葉に納得したように、ふむ……と頷いた伯爵がそう聞いてくるが……
 ……ヤバい。 さらなる問題発覚だわ……

「50G……ですか?」

 ーーどうしよう。
 その金額が多いのか少ないのかイルメラ分かんない……
 イルメラは正真正銘のお嬢様だから、お買い物する時お金出した記憶とか、この体の中に全く無いんですけど⁉︎

 え、Gっていうのはゴールドってこと? ……それが50なんだから……ーーそこそこ……⁇

「……ご不満でしょうか?」

 伯爵の質問に答えずに、再び、チラチラ、モジモジとしだした私に、今度は執事が首を傾げつつたずねてきた。

「ーー……あの、ごめんなさいね?  そういうものの相場を知らなくって……」

 お金のこと言い出したの私なのに、そもそもの相場すら知らなくててごめんね⁉︎
 でもどれだけ記憶を探ってもお給料の話なんて聞いた事ないんだものっ!

「あー……兵の中には月25Gという者も……」

 私の答えを聞いた執事は、ヒクリと動いた顔をごまかすように、ポリポリと人差し指で頬をかきつつ、それでも笑顔で答えた。

 ーーつまり1Gって1万程度ってことにならない⁉︎
 それを50⁉︎
 私の力ってば弱々なのに⁉︎

「ーーえっ、私 そんなにもらえるんです⁉︎」
「ーー……働き次第では昇給も認めよう……」

 あまりの好待遇に驚き、身を乗り出して大声を出すという、淑女としてあるまじき態度をとった私にも動じず、さらなる増加の可能性までもを提示してくださる、太っ腹な伯爵様。
 
「ーーすっ末永くよろしくお願いしますっ‼︎」

 あまりの高待遇に、思わず立ち上がり、この喜びを少しでも伝えようと、腕を突き出しつつ握手を求めるため、駆け寄った私が見たものは……
 ギョッと目を見開きつつも咄嗟とっさに己を守ろうとサッと身を引いた伯爵の姿と、同じようにギョッと目を見開いた執事が、襲撃者から主人を守ろうと、私たちの間に無理矢理体を割り込ませる姿だった……

「ーーあの……ちがくて……」

 自分が何をしでかしたか理解した私が、オロオロと視線と指先を彷徨わせつつ、誤解だということを伝えようとするが、二人がその警戒心を解いてくれるには、しばらくの時間が必要なようだった……

 あの、驚かせて本当にごめんなさい……
 ーーイルメラ反省。
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