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「ーーでは、ザーム様はどうやってここに……?」

 ザームにそう問いかけたのはフィリップだった。
 不可解そうな顔つきでザームを見つめている。
 ーーオリバーから聞いていないのであれば、自力でたどり着いたということだが、教養学科でも目も耳も持っていないはずのザームがどうしてここまで辿り着けたのか、気になったようだった。

「どうって……いつも通り姉ちゃんの匂い追って来ただけだけど?」
「あー……?」

 フィリップはザームの答えに笑うか笑わないか迷うそぶりを見せながら、チラリとイザークに視線を向けるがーー
 イザークが表情を取り繕うことすら忘れ、驚愕の表情をザームに向けているのを見て、軽く咳払いをしながらザームにもう一度たずねる。

「……その、匂いかい? それはーーその、なにかの比喩なのかな?」
「ひゆ……? 普通に姉ちゃんの匂いがするほうに来ただけた」

 その言葉に今度はフィリップだけではなく、その隣のレジアンナやレオンとクラリーチェまでもがイザークに顔を向けるが、そこには呆然とザームを凝視しているだけだった。
 そんなイザークに、隣に座っていたラルフは小声で「……ちなみに僕は甘いものが嫌いなんだけどさ……?」と語りかけていた。
 その言葉を聞き頭を抱えてしまったイザークは混乱した様子でうわごとのように「ーー……いや、しかし……ーー肉体強化なら……?」と呟き続けていた。

「本当なのか……」

 そんなイザークの様子に気の毒そうな視線を向けながらフィリップが呟いた。
 そんな一同に内心では同意しながらも、リアーヌから多少はザームのことを聞いていたゼクスはリアーヌに説明を求めた。

「……そういえば弟くんは昔から鼻がいいんだったっけ?」
「そうですねー……ーー昼間にこっそり食べたお菓子の砂糖の匂いすら分かるヤツだったんで、私の匂いを辿るとか余裕だと思います……ーーあんたのそれギフト使ってたの?」
「……さぁ? かごうと思うと分かるようになるんだよ」

 その答えを聞いてリアーヌはゼクスに向き直りながら頷いた。

「ーーギフトの力だと思います!」
「……俺もずっとここに居なきゃダメなのか?」
「……桜餅にはまだ間に合うよ」
「それは食うけどーーもうすぐ試験だから練習してぇ……」

 シュン……と肩を落とす弟の様子にリアーヌはゼクスにたずねた。

「ーーザームはこの部屋の外に出ても大丈夫だったりしますか……?」
「いやいやいや、最悪の場合リアーヌの居場所が分かったって、大勢の生徒が押しかけてくることになるよ?」
「そ、れは……」

 ゼクスの言葉にリアーヌは口ごもりながら視線を落とした。
 
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