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 ニヤニヤと笑いながら答えるフィリップだったが、その時一人の使用人が音もなくフィリップに近づき、そっと耳打ちした。
 なんと言われたのか、フィリップは驚いたように目を見開いたあと、チラリとゼクスに視線を移した。

「ザーム様に伝言を?」

 フィリップが受けた伝言は『ボスハウト家が長男ザーム様が姉君であるリアーヌに用があると、いらっしゃっております』だった。
 ザーム自身にそんな情報収集能力は無いと判断したフィリップは、オリバーかゼクスがなにかしらの伝言を残したからだろうと考えたのだ。
 ーーしかし、問いかけられたゼクスは軽く目を見開き、驚きの表情を浮かべていたため、フィリップは(オリバーが安全を確保するために送ったのだろうか?)と予測しながら、使用人に合図を送りザームを迎え入れる準備を始めさせた。


「ええと……サキブレ モ 出サズニ 失礼シマス。 ザーム デ ゴザイマス」

 サロンに入ってきたザームはウロウロと視線をうろつかせた後、キビキビとした様になっている動きを見せながら、カタコトの挨拶を披露する。

 思わず黙り込んでしまったサロンの面々を見回しながら、リアーヌは心の中で必死にザームに対するフォローの言葉を送っていた。

(……言葉は間違えてないし、動きは完璧だしーーそこまででもないのでは……? ザームには前世の記憶なんかないんだから、全然頑張ってるって!)

 動きはほぼ完璧、しかし喋ってしまうとカタコトになってしまうという、なんともチグハグなザームに、フィリップは苦笑を浮かべながらお茶を勧めると共に「どうぞ気楽にお喋りください。 本日は私的な会ですので……」と声をかけていた。

「アリガトウゴザイマス。 デハ、失礼してーー」

 そこまで言ったザームはふぅ……と息をつくと、椅子にドカッと倒れ込むように背中を預けると、リアーヌに向かって顔をしかめた。

「なぁ、なんかうっせぇ女が姉ちゃん出せって俺のクラスに来てウゼェんだけど?」
「うっせぇ……ーーとりあえず、背中は伸ばそう? 許されたのは言葉づかいだけだから……」
「ええー……」

 リアーヌの言葉にボヤきながらも、ザームはスッと姿勢を正した。
 そしてもう一度「なんとかしろよ」と文句を言った。

(姉ちゃんだってなんとかしてぇんだよ……ーーあれ?)

「……そのうるさい女に姉ちゃん出せって言われて、ここに来ちゃったの……?」

(お前それ……ーーこの扉の向こうに、そのうるさい人とその仲間たちが控えているってことなんじゃ……?)

 リアーヌが恐々とサロンの入り口ーーそしてその向こうにある部屋の入り口を見つめながらたずねた。
 
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