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 その視線からゼクスの不機嫌さや怒りのようなものを感じ取ったリアーヌは、居心地が悪そうに視線を彷徨わせながら椅子に座り直す。
 部屋に残る誰もがゼクスの怒りを感じ取り、気まずげに視線を逸らしあっている。
 ーーそんな中、リエンヌだけがリアーヌを見つめ静かに口を開いた。

「……誰も悪くないわ?」
「……かな?」

 そう優しく言葉をかけたリエンヌだったが、辛そうに息を吐き出すとリアーヌの目を見つめ、一気に言い放つ。

「ーーでも……今のはあなたのせい。 忘れてはダメよ」
「え……」

 母からの言葉に困惑したような声を上げるリアーヌ。
 リエンヌはもう一度辛そうに息を吐き出すと、今度は独り言のようにポソリと言葉を漏らした。

「ーー本当に……誰も悪くは無いんだけれどね……?」

(なにそれ……? 誰も悪く無いのに私のせいなの……?)

 少しムッとしたリアーヌだったが、思い出したゼクスの硬く凍りついた横顔を思い出し、それにより急に襲ってきた罪悪感に胸が潰されそうなほど息苦しくなり、うつむくことしか出来なかったーー

 ーー本人たちが同意の言葉を口にしたことが決定打となったのか、その後の話し合いでリアーヌたちの婚約は当面の間ーー二学年終了時まで凍結されることが決定した。

 この話を聞きヴァルムは慌てふためいたが、サージュが「なんの問題もない! むしろラッフィナートにとっちゃいいことなんだ」と、太鼓判を押したことで、口を紡ぐことを決め、そして子爵夫妻にのみ、今回の伝言の詳しい説明をした。
 夫妻は「そんな簡単な伝言だったのか……」と目を丸くしていたが、そもそも相手方がこの会話の流れを把握していなかったのだから、同じような結果になっていたかもしれない……という結論に至っていた。

 その際、婚約凍結の説明も受けた。
 多くの場合、婚約の凍結が使われるのは、婚約を解消する場合の準備期間を設けるためなのだそうだ。
 ボスハウト家とラッフィナート家のように、婚約と同時に業務提携を行なってしまった家同士の間では、そう簡単に婚約の解消は成立しない。
 しかし婚約解消が内々に決まっているのであれば、次のお相手をすぐに見繕わなくてはならないし、婚約により優遇を受けている場合、それらの調整も行わなくてはならない。
 これらを婚約中にすることはほぼ不可能なので、婚約を一時凍結することでそれらを可能とするのだそうだ。

 ーーしかしこれは、あくまでも多く場合に使われているというだけであり、病気や怪我などで一時凍結する場合や、海外赴任などで一時凍結する場合もあり、凍結したからと言って必ず婚約が解消されたり破棄されるようなものでは無い、とのことだった。
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