成り上がり令嬢暴走日記！

893

「……いやムリだろ」

　その言葉に冷静に返すザームだったが、リアーヌは「なんでよ！」と面白くなさそうに言い返す。
　そんな二人にエドガーは「まぁまぁ……」と両手を前に出しながら宥め、リアーヌに向かって口を開いた。

「回復をかけてもらえるのは、あくまでも次に勝ち進んだ生徒のみです」
「ーーそーだ！　一回でも勝たなきゃダメなんだぞ？　姉ちゃんにはムリだね！」
「それは……戦闘系のギフトをコピーして……ーーあとは父さんの豪運で……」
「……むしろ治癒ギフトもっと育てて手伝うとか言ったほうがいいんじゃねぇか……？」
「それはーー……」

（ーー多分ムリなんだよなぁ……あの人人間不信気味だし、自分に言い寄ってくる女の人嫌いだし……ーーやっぱり一年の頃ころ嫌がらせ受ける度に先生の出現場所に通ってメソメソしとくべきだったかなぁ……？　ーー一年いちねん早くてもお知り合い程度にはなれていた説……？）

「……貴女、入学当時からミヒャエリス先生のファンよね？」

　アロイスとの話し合いにひと段落ついたのか、ビアンカがクスクスと笑いながら会話に加わる。

「ーーずっと健康だから全然救護室に行けない……」

　がくりと肩を落としながら泣き言をいうリアーヌだったが、背後から聞こえてきた面白くなさそうな「ふーん……？」というゼクスの声に、驚きながら振り返った。

「ゼクス様……あのーーごきげんよう……？」　
「あははー……ごきげんではなくなっちゃったかもよー？」
「あらぁー……？」
「ーーミヒャエリス先生ねー？　……ずいぶん儚げで線の細い方だけどーーリアーヌはああいう人が好みなんだ？」

（ーービジュアルも嫌いではないけど、私の性癖はその辺りじゃないんだけど……ーーでもここで“性癖”とか言い出したらハレンチ案件でとんでもないことになっちゃうでしょ……？　なんて説明すべきか……ーーいや、別に私の推しがどうのこうのとか、説明する必要は無い……？）

「なんと言いますか……こうーー憧れ、的な？」

　リアーヌは首を傾げながら返事を濁したのだったが、その言葉にザームがオエーっとなにかを吐き出すような仕草をしながら口を開く。

「姉ちゃん、あんなこえーヤツに憧れてんの⁉︎　趣味悪ぅ……」
「悪くないもん！」

　そんな姉弟の会話に部屋にいるほとんどの者たちが首を傾げ、その疑問を代弁するかのようにアロイスがザームにたずねた。

「ーー怖いって、ミヒャエリス先生が、かい？」
「おう。　あの人、ギフトはすげーけど、近づくとゾワゾワするんだ……ーーアロイス覚えとけ？　あれは敵に回しちゃダメなヤツだ」
「そ、そうなのか……」