成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世

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「ひょ……」
「ーーっ ……やった」
「……――やったぁ」

 リアーヌがそう言い返すと、耳にゼクスの笑ったような吐息がかかると同時にキツく抱きしめられた。
 そのことでさらに身体を硬くするリアーヌだったが、ゼクスの言動から本当に喜んでいるのだと理解できたので、その背中にゆっくりとその手を添えたのだった。

「ーーくっそぉ……婚約者だからって見せつけやがってぇ……」
「そうだぞー! 少しは自重しやがれー!」

 少しの時間を置いて、恨めしそうな船員たちの声がそこかしこから聞こえて来る。
 その声で、周りに船員がいたことに気がついたのか、同時にリアーヌのーー自分たちのすぐそばには、アンナたちが立っていることに気がついたからなのか、ゆっくりと手を挙げるようにリアーヌから離れるたゼクスは、そのままゆっくりとした動作で、再びリアーヌの隣に腰掛けた。
 ーー同じ“隣”ではあっても、先ほどとは大分近い隣でリアーヌが元の位置に座れば肩が触れ合ってしまうほどの距離感だったがーーゼクスはその位置から船員たちに向かって口を開いた。

「可愛い婚約者がいてごめんねー?」

 その言葉に顔を赤くしているリアーヌは、ゼクスの座った位置には気がついていないのか、そのまま元の位置に座ったリアーヌはゼクスと肩が触れ合ったことにビクリと身体を震わせ、ギョッとゼクスを見つめるが、そのゼクスの顔が本当に楽しそうに笑っているのを見て、そのままなにも言わずに大人しくストンと下の位置に座り直した。
 その瞬間、そこかしこかの船員たちがゼクスに向かってヤジを飛ばし始める。

「尻に敷かれちまえー」
「すでに頭なんか上がってねーじゃねーかー」
「本当はヘタレのくせにー」
「流石に言い過ぎじゃ無い⁉︎ 俺、将来的にみんなのボスだからね⁉︎」
「なってから言いやがれー」
「そーだそーだー!」

 船員たちからのブーイングにゼクスは顔をしかめながらも、隣にいるリアーヌと目が合うと、ふにゃりと幸せそうに微笑みを浮かべた。

「ーーこの中で一番ひどいのはこの肩の態度ですわよねぇ……?」
「……周りにこれだけギャラリーがいる中であんな態度取られると……ねぇ?」

 その言葉はオリバーとしては、ゼクスに対する苦言に他ならなかったのだが、アンナはムッとしながらオリバーに食ってかかった。

「人前じゃ無ければ許すと言うの⁉︎」
「……ーー完全に遮断すると、うちのお嬢様が結婚後、パニックになりそうな気がしてるが……?」

 その言葉に、リアーヌは誰よりも先に心の中で同意する。

(ーーそれな⁉︎ パニックどころか私の心臓がどうにかなる危険性すらあるよ⁉︎)
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