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「なんだよ、俺は政略結婚だって聞いてたぜ?」
「……政略結婚、ですよね?」

 リアーヌはゼクスに向かって首を傾げながらたずねる。
 しかし、ゼクスがリアーヌに言葉を返す前にシンイチが言いにくそうに言葉を続けた。

「イヤだから……その、そういう良い関係じゃ無くてだな……?」

(ーー政略結婚とは、良い関係だった……?)

 言葉を濁すシンイチと、訳が分からず首を傾げているリアーヌを見比べ、ゼクスは肩をすくめながら口を開いた。

「ーー彼女の持参金に目が眩んだ……もしくは、婚姻を足がかりに彼女の実家を乗っ取り、もしくは傀儡かいらいにしようとしているーーですか?」
「……その、うちの国の基準で考えちまうとな……? ーーもちろん、そうは見えねぇから言ってるんだぜ⁉︎」

 慌てて言葉を付け足すシンイチニに、ゼクスは困ったように笑って返す。

(……持参金? ーーそっか。 私が嫁ぐ側で、しかも貴族なんだから私が持参金持っていくのか……ーーえ、ラッフィナート商会相手に、うちが持参金持ってくんです……?)

 持参金とは、娘や息子が嫁ぎ先、婿入り先で不遇な扱いを受けないよう、子供達に持たせる現金や財産のことだ。
 ーー逆に、貰い受ける側が支度金を払う場合もあったのだが、この場合は金銭的な援助を見越した婚姻や身分が違いすぎる場合が多く……一般的には、あまり幸せになれないと言われていたーー

「ーーうちに、ラッフィナート商会が満足できるほどの持参金を用意できる気がしないんですけれど……?」
「……うち持参金なんか貰わなくても十分儲けてるよ……? ーー知らなかった?」
「それは……知ってる気がしますけど……ーーいや、待てよ……男爵家としては借金いっぱいなわけだから……⁉︎」
「ーーなにに閃いたか知らないけどまちがってるからね?」
「えっ⁉︎ ーー私の持参金で借金返済……」
「……リアーヌ、自分の持参金いくらか知ってる?」

 そんなゼクスの質問に、リアーヌは首を傾げながらオリバーたちを振り返った。

「えっと……金百ーーとか?」

 持参金は大金であるーーという知識だけはあったリアーヌは、自分にとっての大金を口にしたつもりだったが、ゼクスはモゴリ……と唇をすぼめ、シンイチは呆れたように小さく肩をすくめた。
 そんな中、アンナが軽く頭を下げながリアーヌの疑問に答えた。

「ーーラッフィナート家たっての希望で結ばれた婚約ですので、持参金は金五百ほどでございます」
「そんなに⁉︎」
「それっぽっちで⁉︎」
「それっぽっち⁉︎」

 アンナの言葉に驚きの声をあげたリアーヌだったが、同時に驚きの声を上げたシンイチの言葉に、今度はギョッとしながら振り返った。
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